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2014年5月15日号 2面・社説

日米首脳会談 
中国への対抗にいちだんと踏み込む

わが国の主権を危うくし、
戦争を招く策動を許すな

 来日したオバマ米大統領と安倍首相による日米首脳会談が四月二十四日、行われた。
 両首脳は、予定より一日遅れで「アジア太平洋及びこれを越えた地域の未来を形作る日本と米国」と題する共同声明を発表した。日米の共同声明は、二〇一二年の野田政権当時以来のことである。
 安倍政権は首脳会談について「日米同盟はかつてないほど盤石」などと喜んだ。財界も「同盟関係がよりいっそう強固なものとなった」(米倉経団連会長)などと持ち上げた。
 だがその内容は、中国への対抗をいちだんと強め、アジアでの戦争を招きかねない危険なものである。
 会談後の安倍首相の欧州歴訪、南シナ海での中国とベトナムなどのにらみ合いを見ても、アジア情勢はいちだんと「波高し」となった。
 労働者階級の戦略的な闘いが問われている。

同盟立て直し迫られた日米両国
 今回の日米首脳会談は、どのような環境の下で行われたのか。
 リーマン・ショック後の世界資本主義の危機は深く、末期症状を呈している。米帝国主義は衰退を早め、欧州の帝国主義だけでなく、中国なども台頭する「特殊な多極化」がいちだんと進んでいる。諸国内では階級闘争が激化、支配層は危機脱出をかけて世界中で争奪を激化させ、国家間の対立は激しい。米中の「新たな大国間関係」、さらにウクライナをめぐる動きもそうした中で起きている。「戦争を含む乱世」である。
 米国は、大規模な金融緩和を行っても、失業が長期化し賃金が伸び悩むなど国民生活は深刻である。膨大な財政赤字も解決できない。政権への不満は高まり、秋の中間選挙では民主党の敗北が必至とされている。
 この内政の困難に規定され、外交政策は思うに任せない。
 とくに、ウクライナへの干渉に対してロシアから予想を超える反撃を受けた。ロシア制裁は自国の被害を恐れて思うに任せず、新たな難題である。中国との間では、昨年「新たな大国間関係」で事実上合意し、アジアをめぐる争奪を激化させているが、対応は後手に回っている。
 米国は、中国がウクライナ問題でのオバマ政権の態度を「弱腰」と見、アジアで「力による現状変更」に訴えることを、従来以上に警戒せざるを得なくなった。また、米国は中国とロシアの同盟も恐れている。
 米国は、覇権維持のための巻き返し策として打ち出した「アジア・リバランス戦略」さえ、思うに任せない危機的状況にある。
 オバマ大統領が先に米日韓首脳会談を呼びかけ日韓の関係修復を取り持ったのも、米日韓同盟の再結束で中国への対応を急ぐためである。
 他方、わが国安倍政権は、高支持率を支えてきた「アベノミクス」の先行きが危うさを増している。黒田・日銀による緩和策に頼ってはいるが、消費税増税による景気の落ち込みがどの程度になるか見通せず、消費を支えた株高も頭打ちである。
 「地球儀俯瞰(ふかん)外交」も、重視していた対ロシア関係が躓(つまず)いた。中国、韓国とは、歴史認識や領土問題で単独の首脳会談が行えない状況が続いている。米国との関係でも、中国による防空識別圏設定への対応の違いや靖国神社参拝をめぐって「失望」を表明されるなど、ギクシャクした。
 安倍政権の中国に対抗する意思は、ウクライナ問題を契機にさらに深まった。だが、安倍政権は米国の助けなしに中国に対抗できない。
 その中国は、今回の日米首脳会談の「陰の主役」である。急速な経済大国化を背景とする軍備増強と海洋進出は著しいが、経済成長の減速、著しい格差、民族問題など国内の不満は高まっている。これは、指導部が対外強硬策をとる背景でもある。
 ウクライナ問題が危機をさらに深め、中国が強大化する世界で、内政・外交とも困難を抱えた日米双方は、同盟を立て直す必要があった。

中国への対抗強めた首脳会談
 首脳会談後に発表された日米共同声明は、分量だけでも前回の共同声明の三倍近い。多方面にわたって同盟強化を確認せざるを得ない、日米の事情が見て取れる。
 その最大の特徴は、「中国との間で生産的かつ建設的な関係を築く」などと言いつつ、中国による防空識別圏の設定や東シナ海、南シナ海での行動に「強い懸念」を表明するなど、米戦略の手先となってけん制を強め、アジア諸国を巻き込んで対抗することをうたったことである。
 内容は、大きく三つである。
 まず、尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲内にあることが初めて明記され、米国は「尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対」とした。
 こうした立場は、以前から米政府関係者が述べてきたことではある。だが、共同声明に初めて明記されたことで、外交文書として、以降の米政権を拘束するものとなった。安倍政権は中国に対抗して「米国に尖閣諸島を守ってもらおう」という態度で、独立国としての気概さえない。
 もう一つは、対アジア政策での連携で合意したことである。
 共同声明では、アジア諸国の「海洋安全保障」能力の向上のため、日米が連携して支援していくとした。これは、従来の日米共同声明には見られなかったものである。
 併せて、東南アジアの経済や安全保障に対応する仕組みとして、長年積み上げてきた「東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日本、中国、韓国)」ではなく、米国、オーストラリア、ロシアなども加えた東アジア首脳会議(EAS)を「主要」なものとした。
 安倍政権は、米国をアジアに引き込み、その手先として、アジア諸国の自主的な結束を妨げる役割を果たそうというのである。この狙いもまた、アジア諸国をひきつけて、台頭する中国に対抗することである。わが国は、アジアでの独自外交をますますできなくなった。
 第三に、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で譲歩した。
 日米交渉には、関税率やセーフカードなどの対立点が残ってはいる。だが、当初のマスコミ報道とは異なり、妥結に向けた「最終局面」(安倍首相)にあるという。
 安倍政権は、農産物の市場開放などで国民経済・国民生活を米国に売り渡す民族的裏切り役を演じた。成長するアジアを収奪し、日米で通商・投資ルールづくりの主導権を握り中国をけん制しようとしている。
 そのほか、安倍政権による集団的自衛権の行使への動きを「歓迎」、沖縄県名護市辺野古への基地新設、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視、原子力発電所を含む日本の「新エネルギー基本計画」を「歓迎」、ウクライナ問題でのロシアへの非難などがうたわれた。
 これらは、金融を頂点とするわが国多国籍大企業の要求でもある。
 安倍政権は今回の日米共同声明によって、中国に対抗し、アジアでの戦争を招きかねない危険な道にいちだんと踏み込んだ。わが国はますます米国の戦略に縛りつけられ、その先兵となることを約束させられた。

日米の危険な瀬戸際政策
 同盟立て直しを図った日米だが、たくらみは首尾良くは進まない。
 オバマは日本を訪問後、韓国、マレーシア、フィリピンを訪問した。
 韓国では、朝鮮への共同対処などで合意、オバマは武力行使までちらつかせて韓国の歓心を買おうとした。だが、貿易摩擦などで韓国内の対米不信は根強い。
 マレーシアではTPP問題などが話し合われた。米大統領としては五十年ぶりの訪問だったが、TPPで合意できなかった上に、野党勢力のデモの「洗礼」を受けた。
 フィリピンで二十二年ぶりに軍事拠点を確保したことは、オバマ政権にとって、日本と並ぶ「成果」かもしれない。だが、早くも労働組合などが抗議行動を開始し、アキノ政権は揺さぶられている。
 歴訪後、アジア情勢はいちだんと緊迫している。
 南シナ海では、海洋資源をめぐって中国とベトナムが対峙(たいじ)し、フィリピンは中国船を拿捕(だほ)した。中国は、米国の出方を「試した」のであろう。フィリピンなどは、米国の姿勢に「激励」された面もあるだろう。東シナ海でも同様のことが起こり得る。
 共同声明で強がった米国だが、中間選挙など内外の難題はさらに重く、声明でうたったような対応は困難である。
 尖閣諸島をめぐって安倍政権に「恩を売った」としても、具体的にどう行動するかは政治判断次第である。さんざん日本を利用して中国に対抗したあげく、中国との「新しい大国間関係」の下で「はしごを外す」可能性さえある。
 安倍政権は米国の「後ろ盾」を得たとばかりに「積極的平和主義」をさらに呼号し、アジアで大国として登場しようとしている。欧州歴訪でも中国へのけん制を鮮明にさせ、辺野古への基地建設の前倒し着工を検討し始めた。
 他方で、米国の「支持」が本物かどうか、不安にもなっている。あわれな限りだが、現時点では、中国との関係が決定的に悪化することも望んではいない。何より、経済の先行きと相まって、日本国内で政権への反発が広がることを恐れている。
 今国会での集団的自衛権の行使容認を断念する構えを見せたり、中国との関係改善を打診したりしているのは、そのためである。
 安倍は「強い日本を取り戻す」と言うなど、従来の自民党政権による対米従属とは異なった点がある。
 安倍政権は対米従属というだけでなく、世界に権益を有するわが国多国籍大企業の代理人である。多国籍大企業は、自らが激烈な国際競争に勝ち抜くための政治を欲している。
 それでも、安倍政権は日米基軸以外の進路をとれない。日米首脳会談で踏み込んだ道は、アジアで米国の手先として振る舞う道である。曲折はあれ、本質的にはアジアの緊張を激化させ、偶発的であれ、戦争の危険性を高めるものである。わが国がアジアで孤立する亡国の道である。

民族の前途が問われている
 心ある人びと、政治勢力は広範で強力な戦線をつくり、米戦略とそれに追随する安倍政権と闘い、独立・自主の政権を樹立しなければならない。独立した政権でこそ、アジアとともに繁栄し、平和に貢献できる。
 安倍政権は内外に難問山積で、決して強くない。TPP交渉一つとっても、その詳細を隠したのは、農漁民の反発、折からの衆議院鹿児島二区補選などへの影響を恐れたがゆえである。財界の中にさえ、安倍政権の進める外交・安全保障政策への懸念がある。戦略的に闘えば、安倍政権を打ち破ることができる。
 とくに、安倍政権と対峙する、沖縄県民と連帯して全国で闘うことは喫緊の課題である。アジアの緊張の最前線に立たされる県民が危機感を高めることは当然で、「オール沖縄」の陣形は、わが国の独立・自主をめざす闘いの不可欠な一翼となり得るからである。
 安倍政権と闘う上で、公明党に批判を集中することはきわめて重要である。集団的自衛権問題などで「慎重」ポーズを演じるが、裏切りは準備されており信用できない。
 安倍政権を非難しつつオバマ政権を批判しない共産党の態度は、米帝国主義を美化し、安倍の売国的性格を暴露しない犯罪的なものである。
 労働者・労働組合は、安倍政権に追随する議会内野党に頼らず、国民運動の先頭で闘い、その中心勢力にならなければならない。
 労働者が国の進路の課題で積極的に闘わない限り、広範な国民は、安倍らの掲げる欺まん的な「独立」のポーズにひきつけられかねない。安倍政権が、民族の前途を他国に委ねて恥じない政権であることを暴露しなければならない。
 安倍・売国政権との闘いを断固として前進させよう!


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