ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2014年1月25日号 3面

声明
ビジョンなき政争は都民を愚弄する

一握りの財界と米国のための
都政の大転換をめざし、
広範な都民による戦略的な
闘争を準備しよう

日本労働党東京都委員会
常任委員会
2014年1月23日

 猪瀬都知事が徳洲会の資金供与問題で辞任し、この三年間で三回目となる東京都知事選挙が一月二十三日告示され、二月九日に投開票される。
 今回の都知事選の直接のきっかけは猪瀬都知事の辞任だが、東京を取り巻く内外情勢が激動する中、「わが国の首都である東京が今後どのような生き方、進路を選択するのか」が問われる重要な局面の真只中で行われる都知事選である。
 今回の都知事選には、これまで都政与党であった自民党都連と公明党が推す舛添元厚生労働相、小泉元首相や民主党などが「勝手連」として推す細川元首相、共産党や社民党が推す宇都宮前日弁連会長、そして石原元都知事が推す田母神元航空幕僚長らが立候補した。
 日本労働党東京都委員会は、この都知事選でどの候補者も支持しない。それは、どの候補者も「首都・東京の新しい生き方と進路」や「大多数の都民が豊かに暮らせる東京の将来像」について明確なビジョンを持たず、石原・猪瀬と続いた金融資本を頂点とする多国籍大企業のための都政と全く同じ政策か、あるいは、これを覆すに足る対抗軸として新たな都政の全体構想を都民に提示していないからである。こうした点から見れば、今回の都知事選の結果、どの候補者が都知事になっても都政の本質を変えることは期待できない。
 今回の知事選の背景には、東京オリンピックと安倍首相をトップとする「国家戦略特区」で巨大な利権が渦巻く東京を誰が押さえるのか、特別会計を含めて十二兆円にのぼる巨額の都財政を誰が握るのかの激しい争いがある。
 また、政治再編をにらんでさまざまな思惑が絡んだ候補者擁立が行われ、保守分裂、事実上の自民党分裂選挙の様相も呈してきた。選挙結果は安倍政権の今後と政治・政党再編に一定の影響を及ぼすことになろう。
 日本労働党東京都委員会は、残念ながら今回の知事選で、東京の中心勢力である労働者、中小・零細事業者など広範な都民の代表にふさわしい候補者を擁立することができなかった。わが党は、今回の知事選に際し、石原・猪瀬知事の下で続いた売国的で反都民的な都政の実態を暴露し、都知事選における真の争点を明らかにすることで、広範な都民各層の皆さんがこのような都政の継承を選択することなく都政の転換を進めるために闘うよう訴える。とりわけ、東京の労働運動が都政の転換に向けた先進的役割を担い、大多数の都民の手に都政を取り戻すために使命を果たすことを強く呼びかける。

内外情勢が激変する中での都知事選
 「百年に一度」と言われた二〇〇八年のリーマン・ショックから五年以上が経過した。世界資本主義は末期症状を呈し、戦争の危機を含む情勢の下で衰退する米国と台頭する中国が四つに組み、協調と対立をはらんだ複雑な情勢となった。とりわけアジアでは、諸国間の矛盾と対立があらわになっており、日本の進路が問われ、命運がかかる情勢だ。
 このような中、わが国は「強い日本を取り戻す」とする安倍政権の下で、衰退してなおアジアでの覇権死守を狙う米国の「アジアリバランス」戦略を積極的に補完する安保・外交政策を推進し、特定秘密保護法と国家安全保障会議(日本版NSC)の設置、靖国神社への参拝を強行、集団的自衛権の行使容認と憲法改悪など、この地域での緊張と対立をあおってきた。安倍政権によって、我が国は歴史的な岐路に立たされていると言っても過言ではない。
 我が国の諸階級・階層や大小の政党・政治勢力は厳しい選択を迫られており、知事選に臨む政党・候補者はそれに相応しい政治的態度を取るべきではないか。原発やオリンピックへの賛否にとどまらず、日米関係、日中関係と日本の進路について、また、巨額の財政出動に支えられ、世界金融危機の引き金を引きかねない「アベノミクス」の評価など、各候補者は安倍政権の路線と内外政策に対する態度を鮮明にすべきである。

知事選の真の争点は何か?
 以上のようなことを考慮し、わが党は以下を今都知事選の争点とすべきと考える。

(1)苦しくなる一方の都民生活をどう打開するのか
 こうした都政の下で、非正規雇用労働者は増え続け、都民の所得は減少を続けた。昨年までの六年間に五人以上の企業の月額給与は約三万円減り、公務員の年間給与は十年間で七十万円減少した。都民の大多数を占める労働者や中小企業、商店街に「アベノミクスの効果」はなく、後退した医療や福祉をどう立て直すのかなど、課題は山積している。
 都民の暮らしを苦しめる元凶は、歴代都政の対米追随と多国籍企業の利益のための東京づくりである。このために都民生活に直結する雇用、中小企業、医療・福祉、住宅などの予算は削減され続けた。内需中心の経済への転換を東京から進め、労働者の大幅賃上げで地域経済を生き返らせること、中小企業を再生し「アジアとともに豊かに成長する経済圏」を構築することが課題だ。

(2)安倍政権の日米同盟強化・中国対抗政策に呼応するのか。独立・自主でアジアの平和と共生を進めるのか
 石原元知事は、当選当初「横田基地返還」を掲げたが、米国に一蹴(いっしゅう)されるや「軍民共有化」に切り替えた。石原特有の欺まんである。首都・東京に今もって米軍の総司令部が存在し、首都圏の空を占領状態に置くことは、日本の独立の障壁である。横田基地の返還を求め、平和な空を取り戻すことを堂々と主張すべきだ。
 また、安倍の安保・外交政策に呼応せず、日本の首都・東京の知事として米国、中国いずれの干渉も認めぬき然とした立場を表明する必要がある。自治体外交によるイニシアティブでアジア諸国との関係正常化に知恵と力を尽くすことも首都の役割だ。都の財政力と経済力を生かして近隣アジア諸国・地域との信頼回復に努め、「成長するアジアと互恵平等に共生する平和都市」として東京を発展させる構想を描くことこそ、最も現実的で日本の進路に貢献する首都のあり方だ。
 石原元知事は暴言を繰り返し、地主に依頼された尖閣諸島を中国に対抗するポーズで国に高く売りつけ、日中関係の悪化に拍車をかけた。新たな知事には、こうした「負の遺産」を一掃する覚悟が求められる。
 また、首都で韓国・朝鮮人の排斥を叫ぶ行為を規制し、国際基準に反する朝鮮学校への補助金不支給取りやめを決断すべきだ。

(3)転換すべき石原・猪瀬都政の課題
A 売国的、反都民的な「国家戦略特区」と、オリンピックを口実とした都市開発、環境破壊に反対する。
 石原都政は巨額の都財政をつぎ込んで臨海部をはじめとする新都心開発などを推進し、銀行・証券、大手不動産・開発、ぜネコン、鉄鋼・セメントなどの多国籍企業の利益追求を後押した。三期目には野田政権の成長戦略に基づき、都の長期計画の中心に「アジアヘッドクォーター(司令部)構想」を位置づけ、欧米企業の対日直接投資を狙いに、減税や規制緩和で五百社の外国企業を誘致し、外国人ビジネスマンの生活環境支援を計画した。石原元知事は「中国、韓国に負けるな! 東京を日本再生の起爆剤にする」と息巻いたが、たった二件しか実績がなく失敗に終わった。「アジアに君臨する国際金融都市・東京」はアジアの国や地域との力関係から見て妄想に過ぎず、実現不可能な目標となった。
 石原構想の破たんを補完するため、猪瀬前知事はオリンピックを追い風にした「国家戦略特区」の推進を明言した。安倍首相をトップに、医療、雇用、教育、都市再生・町づくり、農業、歴史的建築物活用の各分野で特例的措置を講じて成長の起爆剤とする「国家戦略特区」は、「治外法権」の特区に外国企業を参入させ、外国人居留地をつくる計画だ。三井不動産、森ビル、鹿島、東急電鉄・不動産、フジテレビなど、東京を舞台に儲(もう)けようとする大企業が提案し、三メガバンク等の金融資本も事業に資金を貸し付けて大いに利益を得る仕組みだ。
 東京都は「世界で一番ビジネスのしやすい国際都市づくり特区」を提案、外国企業への減税、英語で受けられる医療・教育、地下鉄の運行時間拡大などを目玉に掲げた。
 「思いやり予算」の米軍住宅よろしく、首都・東京に米国人特権の「居留地」をつくる売国政策であり、一%に満たない特定大企業の要求に応えて都民の土地や都財政を提供し、都民大多数には何の利益ももたらさない反都民的政策にほかならない。今後を左右する争点である。
 また、オリンピックを口実に進められる東京の自然環境や住環境を破壊する開発計画を食い止めるため、開催を見直す必要がある。一千三百万都民の東京を、一%の連中の餌食(えじき)にしてはならない。


B 原発即時廃止と米国に依存したエネルギー政策の転換を国に求める
 今なお多くの人びとが避難生活を余儀なくされ、汚染の拡大で農林漁業者をはじめとする住民が生活苦にあえぐ中、収束しない福島原発事故に対する国民の怒りは大きい。自民党支持層の四四%が原発に反対との調査もある。名護市長選と同日投開票となった南相馬市長選では、「脱原発」を掲げる現職が再選した。
 東電の株主であり、最大の電力消費地としての東京において、原発の即時廃止を求める重要性は言うまでもない。安倍政権の原発再稼働を阻止し、国策の犠牲となった人びとと地域の復興を国の責任で早期に進めることは、第一級の国民的課題だ。
 東京は国に政策転換を強く求め、エネルギー、食料と労働力を供給して東京の繁栄を支えた東北と福島の復興のために都政が持てる総力を上げて支援すべきである。
 また、地熱など外国に依存しない代替エネルギーの研究開発や、再生可能なエネルギーの利用促進に都財政を積極活用し、原発に代わる自給エネルギー政策の確立に寄与する必要がある。エネルギーと食料の自給は独立の基礎だからである。

C 医療・福祉、教育、防災、都市計画などの転換すべき課題について
 石原都政が破壊した東京の医療・福祉の再構築、偏向し歪(ゆが)められた東京の教育の健全化、「首都機能の保持」にこだわり、都民の命は二の次で、財政力の弱い区市町村まかせの震災・防災対策など、都民に不利益を強いてきた政策は多く、是正は焦眉(しょうび)の課題だ。
 また、石原都政が進めた「新銀行東京」は清算されず、土壌汚染が拡大した豊洲への築地市場移転、外環道の建設などは都民の強い反対がある。候補者はこうした課題に答えを出し、解決の道を示すべきだ。

石原・猪瀬都政の亜流なのか。都政の対抗軸を示せない各候補
 都知事選に名乗りを上げた各候補者は、誰も都政の争点や課題となる問題について明確な対抗軸を打ち出していない。それどころか石原・猪瀬都政の継承や亜流ぶりが目立つ。
 自民党都連と公明党が推す舛添候補は安倍政権の「国家戦略特区」を称賛し、推進を公約に掲げた。オリンピックと結びつけ、歴代都政と同様の支配層の代理人であり、石原・猪瀬都政が進めた都政の継承・推進者にほかならない。
 あろうことか、連合東京はこの舛添候補と「政策協定」を結び、支持を表明した。石原・猪瀬都政の継承と安倍路線への支持が東京の労働組合を代表するナショナルセンターの決定とは見識を疑うほかない。企業利益に追随する以外に知恵を持たない指導部、都政与党となって攻撃を逃れる幻想を持つ指導部に対して現場組合員の怒りと反発は必至だ。
 小泉元首相が支持を表明し、民主党が「勝手連」として応援、結いの党、生活の党が支持する細川候補の政策発表は告示前日というお粗末さであった。いかにも急ごしらえの寄合所帯であり、東京都政に対する責任ある態度とは言い難い。細川氏は「脱原発」を主張する一方で「オリンピックまでに東京を変える」として「『国家戦略特区』も活用し、魅力的なビジネス拠点の形成に努めることで、グローバルな都市間競争に勝ち抜く」と発表した。これは石原・猪瀬都政の亜流にすぎない。都知事をめざす細川氏の政策に石原・猪瀬都政に代わる東京の将来構想、ビジョンを見出すことはできない。
 細川氏擁立には、かつての日本新党、さきがけ、自民党などの政治家たちが関係した。「脱原発」を唱える小泉氏のバックには東電などとは異なる企業グループがある。かれらが都政を舞台に政治・政党再編をめざしていることは明白だが、ほかならぬ一九九三年の細川連立政権や、〇九年の政権交代劇に見られた、政治・政党再編による「亜流政治」の再現であることは容易に想像がつく。
 共産党、社民党が支持する宇都宮候補は「世界一、働きやすく、くらしやすい希望のまち東京」を掲げるが、発表された基本政策に石原・猪瀬都政に対する本質的な批判は見当たらない。宇都宮氏の法定ビラは、石原・猪瀬都政の核心部分であり、現在も都政の中心政策である基本構想や「国家戦略特区」に全く触れておらず、ひと言の批判もない。
 また、石原都政の対米追随とアジア敵視をどのように転換するのかも描かれていない。前回に引き続き、宇都宮氏を応援する中心勢力である共産党が「ふつうの政党」になろうとして「世界は協調と平和に向かっている」と米国美化の認識を示したことを見れば無理からぬことだが、社民党や労働組合の良心的活動家は、都民の苦しみの根源である都政の核心問題に触れようとしないこの政策をどのように評価するのか。
 石原元知事が推す田母神候補は安倍政権の日米同盟強化・対中敵視策を右から支え、補完する役回りであり、「横田基地の返還」ではなく「日米共同使用」を掲げる。他の候補は同調するのか、反論するのか。


一握りの支配層から大多数の都民の手に都政を取り戻すため、広範な都民の政治的連合を構築して戦略的な闘いを進めよう
 今回の都知事選では、いずれの候補者も都政の課題に精通しておらず、石原・猪瀬都政の転換や都民各層が抱える深刻な問題への対応は期待できない。「真の争点」はあいまいにされ、対立軸は不明確だ。
 告示日の二十三日、猪瀬前知事は任意の事情聴取を受けた。徳州会マネーの大元は石原元知事である。石原・安倍は猪瀬自認の前日に「手打ち」し、この問題の「幕引き」を図り、真相は解明されないままだ。
 アベノミクスで薄氷を踏み、四月に消費税増税の試練を控える安倍首相にとって、国家財政の悪化は深刻な問題だ。特別会計を含めて十二兆円にのぼる巨額の都財政と権限を手に入れたい安倍政権にとって負けられない選挙だが、都政に対する都民の不信は思いのほか深い。
 わが党は国の独立とアジアの平和・共生をめざし、六百四十万余の労働者をはじめ中小企業経営者、農民・漁民・商店主等の自営業者など大多数の都民が連携して都政を覆し、一握りの支配層から都政を取り戻し、大多数の都民が豊かで平和に暮らせる東京を実現できるよう全力を尽くす。とりわけ、労働組合と労働者が都政を変える広範な都民運動の中心として役割を果たせる政治的実力をつけることを強く呼びかける。そのためにも、東京の労働者階級に深く根ざしたわが党自身の強化と拡大にいっそう努力することを表明する。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2014