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2013年11月25日号 2面〜3面 社説

「防空識別圏」問題を機に
激動する東アジア

独立・自主、
戦略的外交だけが打開の道

 中国国防省は十一月二十三日、沖縄県・尖閣諸島を含む空域に「防空識別圏」(ADIZ)を設定したと発表した。安倍政権はこの撤回を要求、米国は批判しつつも異なる対応を見せてもいる。わが国の領土である尖閣諸島を含む空域に対するADIZの設定は、中国によるわが国への主権侵害で、断じて許されない。一連の事態を通して、東アジア情勢はいちだんと緊迫する半面、米中が「新しい大国関係」を進めるかのような動きもかいま見えている。わが国の独立・自主は、ますます差し迫った課題となった。


緊張高まる東アジア情勢
 ADIZを設定したと発表した中国は、同空域を通過する航空機に対して飛行計画書の提出などを求めた。従わない場合は武力による緊急措置を取る可能性にも言及し、既成事実化のために大型偵察機二機も飛行させている。
 これに対し、米国は「不必要な挑発」(アーネスト大統領副報道官)などと批判。わずか二日後、戦略爆撃機B52二機を中国への事前通報なしに空域内で飛行させたが、戦闘機の護衛はない、通常とは異なるものであった。
 安倍政権は「一切の措置の撤回を求める」(安倍首相)と非難。国内の航空各社に対し、中国に飛行計画を提出しないよう求めることと併せ、発足したばかりの国家安全保障会議(NSC)の議題とすることを決めた。自民党は、ADIZの即時撤回を求める国会決議を呼びかけている。
 韓国政府は「遺憾の意」を表明。オーストラリア、ベトナムなども批判した。二十八日には、韓国が中国側ADIZの修正を求めるも、物別れに終わった。
 中国は二十九日、米軍機と自衛隊機に対する緊急発進(スクランブル)を行ったと発表。日米は事実関係に否定的な見解を表明した。
 米国は同日、民間機の飛行計画提出を促す発言を行い、日米間で対応の違いが明確となった。米国に追随する諸国も増え、十三カ国・地域、約三十社が中国に計画を提出した。
 十二月三日、来日したバイデン米副大統領と安倍首相は、首脳会談で「(中国の)力による現状変更を認めない」ことを確認した。だが、バイデンは「中国にADIZの撤回を迫る」とは言明しなかった。
 事態はいまだ進行中で、各国間の交渉など明らかになっていないことも多い。それでも、東アジア情勢は緊迫すると同時に、米中による新たな現象もかいま見え、さらに複雑な情勢となっている。

わが国への主権侵害は許されない
 今回の措置について、中国は「防空上の安全を断固防衛する」「いかなる特定の国や目標を想定したものではない」などと主張している。
 ADIZは、自国領空への侵犯を防ぐため、各国がその外側に独自に設ける監視空域で、領土・領海・領空とは別の概念である。国際法上規定されたものでもない。
 日本、韓国などのADIZは、第二次世界大戦後、米国が設定したものを引き継いだものである。わが国のADIZに、北方領土や島根県・竹島が含まれず、逆に、中国と韓国が領有を争う暗礁(離於島)が含まれているのはこのためである。ADIZは、いわば米国主導の「戦後秩序」の一環である。米国は、自国の意に沿わない形で、こうした「秩序」が変更されることを断じて認めてこなかった。
 しかも、東シナ海全域は米軍の作戦・訓練区域で、中国が設定したADIZ内にも、三カ所の米軍訓練区域が含まれている。米軍はそれを使って、日常的に中国に対する偵察・挑発行動を繰り返している。十一月十六日からは、沖縄本島東方での自衛隊の演習に米空母が参加、中国をけん制した。
 それでも、尖閣諸島を含むADIZの設定は、わが国に対する重大な主権侵害である。わが国の民間航空機が日常的に通過する空域でもあり、中国軍機のスクランブルは、乗客の生命と安全にもかかわる。しかも、中国はわが国を含む周辺諸国との事前協議もなく、一方的に発表した。
 到底認めることはできず、わが国政府が受け入れないのは当然である。
 中国は以前から、わが国固有の領土尖閣諸島とその周辺地域に対し、漁船などによる接近・侵入、日本のADIZ内での航空機の飛行を続けてきた。二〇一二年度、自衛隊は中国機に約三百回のスクランブルを実施した。
 今回の中国によるADIZの設定は、尖閣諸島への実効支配をめざした不当なものであることは明らかである。中国による主権侵害に対して、き然とした対応が必要である。
 だが、尖閣諸島問題が日中関係の一部にすぎないように、この問題は、米中関係を中心に国際関係の全体、対米従属のわが国の国家主権、進路にかかわる重大な問題を含んでいる。


米中のつばぜり合いと力関係の変化
 今回のADIZ問題は、アジアをめぐる米中関係の変化が背景である。
 冷戦崩壊後の米国の世界戦略は、二度と、旧ソ連のような自らの覇権に挑戦する超大国の存在を許さないことであった。
 この下で、一九九五年に「東アジア戦略」が策定された。中国に対しては、アジアへの十万人の米軍配置を背景に、「コンゲージメント」(関与と封じ込め)と言われる二側面の戦術が採用された。
 以降、コンゲージメント戦術は一貫しつつも、二側面の重点の置き方では変化もあった。米国には、硬軟取り混ぜて中国を揺さぶる狙いもあったし、中国の台頭や情勢の変化を背景に、余儀なくされた面もある。
 〇〇年代半ば、アフガニスタン、イラクへの侵略と占領の行き詰まりと国際的威信の低下を背景に、ゼーリック米国務副長官は「責任あるステーク・ホルダー(利害共有者)」論を打ち出した。中国の「平和的台頭」を「歓迎」する代わりに米国主導の世界秩序を認め、その中で「国際的責任」を果たさせるという方向である。その後の「G2」論は、この延長上にあると言ってよい。
 〇八年のリーマン・ショックで米国の衰退は顕著になり、逆に、中国の台頭はさらに鮮明となった。米国による、単純な「中国抑え込み」はいよいよ困難になった。
 オバマ政権も、登場直後の〇九年、中国に「G2」のような提案を行ったり(当時の胡錦濤政権はこれに応じなかった)、一〇年には危機打開のために「アジアリバランス戦略」を打ち出して、アジア市場の確保と同時に、中国へのけん制を強める方向を打ち出したりなど、策動を続けている。
 この下で、人民元問題、市場開放要求、台湾問題、人権問題など、さまざまな手段で中国へのけん制が強められた。軍事面でも世界的な米軍再編を進め、日本、韓国、オーストラリアなどとの同盟強化に加え、フィリピンやベトナムなども取り込もうとしている。環太平洋経済連携協定(TPP)もこの一環で、とくに日本への協力要求が強まっている。
 他方、貿易・投資関係などに加え、米国債の購入を中国に依存するなど、米中の依存関係は深まっている。
 一方の中国は、トウ小平の「韜光養晦(とうこうようかい=能ある鷹は爪を隠す)」という指示の下、「力がつくまではひたすら能力を隠す」という戦略がとられた。国力を蓄え、米国との決定的な対立を避けつつ国際的台頭を慎重に進めるというものである。十九世紀以来の「侮(あなど)られた歴史」をもつ中国が、これを取り返そうとするのは当然のことである。
 中国は、リーマン・ショック後の世界資本主義の危機の中で、世界第二位の経済大国となるなどの自国の強大化に自信を深めている。独自の軍事拡大と、資源確保も狙った海洋進出、アフリカや中南米への外交、上海協力機構(SCO)の強化などで、米国の力を相対化させる動きを強めている。歴史問題などで、日米を分断する動きも強めている。
 東アジア・太平洋では、米軍の「接近阻止・領域拒否」を掲げ、米国の制海権・制空権に対抗し、その優位を切り崩そうとしている。
 これらには、国内矛盾を対外政策でそらす狙いもある。


米中首脳会談と「新しい大国関係」
 こうした下で、六月の米中首脳会談が開かれた。
 米中首脳会談で、習近平国家主席は「新しい大国関係」に言及、事実上、中国側から「G2」を持ち出すようになった。中国のいう「大国関係」とは、米国が中国を対等な存在とし、軍事を含む台頭を認めること、米中による一種の「世界の共同覇権」のようなものである。
 習主席の提案は、米国経済の深刻さ、財政をめぐる政治の混乱、シリア問題でロシアに主導権を奪われたことなど、米国の衰退がいちだんとあらわになったことを背景にしている。
 オバマ米大統領は首脳会談の場では明言を避けたが、十一月二十日、オバマの「腹心」とされるライス大統領補佐官(国家安全保障担当)が、「(中国とは)新たな大国関係を機能させようとしている」と、習主席の提唱を容認するかのような発言を行った。
 米中首脳会談から約半年、この間も、米国はイラン問題でも合意を焦って衰退をあらわにさせた。「アジアリバランス」も、それどころではくなっている。財政問題は依然として解決のあてはない。片や、中国も経済成長が鈍化し、民族問題など国内矛盾が激化する中、改革(リコノミクス)を進めなければならない。政権のかじ取りはいちだんと難しくなっている。
 これらの情勢の推移を受けてのライス発言であり、その三日後の中国によるADIZ設定である。
 そして米国は、自国の民間航空会社に対し、中国に飛行計画を提出することを促した。中国のADIZを「容認しない」としつつ、民間機の「安全」を理由に、事実上、中国に譲歩した。
 こうした中で来日したバイデン副大統領と安倍首相との首脳会談で、両首脳は中国のADIZを「黙認」せず、日米が「緊密に連携」することを約束した。だが、バイデンは中国側に「撤回」を要求せず、米国は「仲介者」とまで言って、「日中間の危機管理メカニズム」を提案した。
 ADIZ設定を契機とする一連の事態は、米中関係の力関係の変化の中で生まれた新しい現象、その「走り」と考えられる。中国は、米国がどこまでアジアに「居座る」つもりかを試しているし、米国もまた、中国が「米国の許可」なくどこまで振る舞うのかを試している。国内外に困難を抱えた米中両大国が、何らかの「戦略的調整」を行ったと推測することも可能である。
 ただ、仮に一種の「米中結託」が成立したとしても、長続きする保証はない。
 米中両国とも互いに抱える危機が深く、国際的争奪も激しい。米国が覇権国の地位を自ら降りることはない。比較優位にある軍事力を背景に冒険的策動を強めるだろう。中国の、経済力を背景にした軍事大国化も必然的である。尖閣諸島への実効支配をめざすこともあきらめない。両国とも、国内の階級矛盾の激化は、対外政策での安易な妥協を許さない。
 韓国など、米国の同盟国さえも、独自の戦略的動きを強めざるを得ない。
 東アジア情勢は複雑化し、ますます激動する。


 米国の対応に動揺深める支配層
 今回の事態を通して、わが国安倍政権の売国性はいちだんとあらわになった。
 安倍政権は米国の衰退を見越し、その世界戦略を積極的に支える「日米同盟強化」の策動を強めている。それは単純な対米追随というだけではなく、アジアで政治軍事大国として登場することを夢想したものである。集団的自衛権の行使容認に向けた策動、「防衛計画の大綱」の改定、普天間基地(沖縄県宜野湾市)の県内移設、国家安全保障会議(日本版NSC)の設置、特定秘密保護法、武器輸出三原則のなし崩し緩和など、急ピッチである。
 「日本を取り戻す」などと粋がる安倍政権だが、中国の主権侵害に「抗議」したものの、事実上、米軍がB52を飛行させるまで何もできなかった。支配層は、米国が自国の国益のために行ったにすぎない爆撃機投入を、鬼の首でも取ったように喜びもした。
 ところが、前述したような米国の態度である。
 国内航空会社に飛行計画書を提出しないよう指導していた安倍政権は「はしごを外された」格好で、「全く聞いていなかった」と醜態をさらしている。日米首脳会談後も、安倍首相は「(日米の態度に)後退はない」などと平静を装っている。だが、首脳会談での不一致である。心中穏やかではあるまい。
 元外務官僚の岡本行夫氏は「がく然とした」とまで述べている。御用マスコミもあわてふためき、バイデンが中国に「明確な姿勢を示すことを期待したい」(産経新聞)などと哀願した。
 安倍政権は結局は「米国頼み」で、米国の世界戦略の「手駒」にすぎない。まさに「虎の威を借る狐」で、かれらの言う「愛国」や「対等な日米関係」などはニセモノで、対米追随の枠内で粋がっているだけである。
 仮に、米中が尖閣諸島問題を「棚上げ」で収拾することで合意し、日本にその受け入れを迫ってきたら、安倍政権は抵抗できるだろうか。安倍政権、支配層は深刻なジレンマに陥る。
 日中国交正常化に抵抗したあげく、七一年のキッシンジャー訪中で「はしごを外された」、佐藤政権の二の舞にならないとは言い切れない。そんな事態すら、まったく想定されないわけではない事態が進んでいる。
 日本が米国から真に独立すること、アジアで独自に振る舞うことを、米国は決して許さない。それは、何度も米国につぶされてきた「東アジア共同体構想」の一例を見ても明白である。
 安倍政権は、そうした米国の意思の枠を一歩も出られない売国奴である。
 労働者をはじめとする国民諸階層は、安倍政権の売国的正体を見抜かなければならない。

独立・自主以外に解決できない
 米中、日中関係だけでなく、日韓関係などの変化も不可避で、国家関係はさらに複雑で厳しいものとなろう。
 わが国の独立をめぐり、二つの道が争われている。安倍政権が進める、対米従属の枠内での「ニセの独立」の道か、日米安保条約を破棄し、独立・自主、アジアと共生する道か、である。
 国民大多数に依拠した、独立・自主の政権を打ち立ててこそ、民族の尊厳と真の国益を守ることが可能である。
 米国に頼りながらニセの「独立」あおる安倍政権を打ち倒し、日米安保条約を破棄し、わが国から米軍基地を一掃しなければならない。領土主権を守りながら、日中関係を戦略的に発展させなくてはならない。
 中国が米国主導の「秩序」を戦略的に打ち破ろうとするのならば、アジアから米軍を一掃する点において共同できる可能性もあろう。
 国家主権の問題は、現実政治の第一級の課題となっている。国の進路をめぐり、わが国保守層の中での分岐も進まざるを得ない。
 安倍政権の進める集団的自衛権容認、普天間基地の県内移設などの「同盟強化」に反対し、断固たる大衆行動を巻き起こそう。沖縄県民と連帯し、独立・自主の旗を掲げ、民族の前途を切り開かなければならない。
 労働運動は国民運動の先頭で闘い、その中で指導的を役割を果たさなければならない。   


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