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2013年1月1日号 1面〜6面・新春インタビュー 

大隈議長、新春に語る

 世界資本主義が末期症状を呈する中、二〇一三年が明けた。「労働新聞」編集部は、日本労働党中央委員会議長である大隈鉄二同志に新春インタビューを行った。議長は、年末に行われた総選挙や、その結果として成立した安倍政権の掲げる政策とその先行き、日本を取り巻く世界の危機や米国のアジア戦略など、さまざまに語った。紙面の都合で一部を割愛せざるを得なかったが、以下、掲載する。(聞き手、本紙・大嶋和広編集長)。


大嶋 明けまして、おめでとうございます。

大隈議長 おめでとうございます。

大嶋 さて、昨年末には総選挙がありました。読者の皆さんも、この評価や、新たに登場した安倍政権との闘いの展望などについて、関心があろうかと思います。
 わが党は昨年の総選挙に先立って、「労働新聞」社説(十一月二十五日号)で、日本を取り巻く内外環境は危機的で、この理解なしには、総選挙の争点も、結果の評価も、以降の展望と闘いの課題や打開の方向も明らかにできないだろうと提起し訴えました。
 ですから、その問題。日本を取り巻く環境というか、アジア情勢を大きく条件付けている米国の対アジア戦略の最近の特徴など、ざっくばらんに話していただいて、できればその流れで、国内情勢の特徴や総選挙の結果の評価なども、と思っています。

最近の内外情勢の特徴など

大嶋 早速ですが、尖閣諸島問題やTPP(環太平洋経済連携協定)、総選挙の最中には朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)による人工衛星打ち上げなど、昨年も、アジアはいっそう騒がしかったですね。これらも米国の対アジア戦略と大きく関係しています。こんにちの時点で、米国の対アジア戦略、特に対中国政策の特徴について、思うところをお聞かせください。

大隈議長 最近の米国のアジア戦略、特に対中政策などを述べるにしても、若干は前史というか経過にふれないとね。大ざっぱな話をね。
 第二次大戦に勝利した米国が、社会主義の広がりを恐れ、阻止するために、いうところの冷戦を始めたんですが、資本主義、社会主義の両体制間では資本主義、米国が優位には立っていたんです。
 にもかかわらず、他の先進諸国が立ち上がってきたこと、ベトナム戦争などで米国経済の衰退は著しく、一九八五年にはついに債務国に転落したんですね。プラザ合意ですよ。
 米国が債権国から債務国へと転落、九〇年代のはじめにはポンド危機、九五年にはメキシコ危機等々、ドル安や金融システムの動揺が続いたんですね。九七年はご存じのアジア通貨危機。
 九五年の米国の「東アジア戦略構想」を考えるとき、見逃してならんのは、二度と冷戦時代のような強敵、挑戦国を出現させないという米国の決意でしょうね。
 米国にしてみれば、さんざんに苦労し、レーガン大統領はいわば軍拡競争に引き入れて、やっとソ連に勝利した。随分と苦労したんですね。
 それ以前の一時期、「対象国はドイツ」という報道もあったようですが、最後的にはやっぱり中国に。先進諸国とりわけ米国は、人口十数億の巨大な中国市場の形成を狙って、近代化を進めるトウ小平路線を支持しつつ、挑戦者になることを恐れていたんですね。
 それが九五年の東アジア戦略構想。ジョセフ・ナイ(国防次官補)が立案者といわれているんです。
 私は当時、「米国には世界戦略のいくつかのペーパーがある。これはその一つだ」と言ったんです。当時、資料を見ると米国の戦略が読み取れたんです。ジョセフ・ナイのペーパー発表以前から進められていた。特に冷戦の終わった九二、九三年から、米国を中心にした先進諸国からの中国への投資、直接投資ですね、それがぐんと増えるんです。こうした流れで、中国経済は二十一世紀に入ると飛躍的に前進し、昨年はわが国をも抜いて米国に次ぐ二番目の経済大国になったんですね。
 米国はといえば、九五年のメキシコ危機を前後して、ルービン(財務長官)によるドル高政策、ドル還流システムでしのぎ、やがてIT(情報技術)産業とそのバブルで、二十一世紀はじめまで食いつなぐ。ITバブルが崩壊するとグリーンスパン(FRB=連邦準備理事会議長)の住宅バブル。その崩壊が現在進行中の「百年に一度」といわれる危機の発端となった。
 最近の世界経済の描写は、昨年十月のIMF(国際通貨基金)や世銀総会、その後のG20(二十カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)での報道に出ていますので、それを参照するか、このインタビューでも話すでしょうから、そこで。

衰退する米国とアジア戦略
 二〇〇八年のリーマン・ショック、その後の危機から米国は立ち直れずにいる。そうはいっても、米国は依然として強国。基軸通貨は米ドル。GDP(国内総生産)は約十五兆ドル、飛び抜けた経済規模。それに軍事大国。そのオバマ政権、昨年暮れの大統領選挙で、共和党のロムニーと激しく争って勝利し、再選が確定したので二期目に入るが、〇九年に登場して一期目の後半に、世界戦略の重点を特にアジアに移す戦略修正を行ったので、アジアでは昨一年だけ見ても大きな変化があった。
 背景は、打開の妙案もなく出口も見えない、先進諸国の深刻な金融や経済危機の継続と、とりわけ中国の強大化やBRICS諸国の興隆、中東情勢の激変、世界政治のいっそうの構造変化としての多極化ですが、しかし主要には米国の限界、選択としての資源の再配置。アジアだけ見れば、見ようによっては、ジョセフ・ナイ・ペーパーの本格的な見直し、強化でもあるんですね。
 少し具体的にーー。オバマは登場してすぐ、イラク占領の後始末と、アフガニスタンもブッシュ時代の泥沼から年月を区切っての撤収。米国には今までのような冒険的政策をとる力もない。こういうことで出発したんですね。だが、やっぱりズルズルとなっている。
 イラクは米国の思惑と違って、いうところの「民主的な政権」もできず、米国の自由にもならないですね。米国の願望とは違った情勢があらわれ、アフガンでは引くに引けず、いまだに展望が見えない。期限を切って引き揚げるとしたので、引き揚げるでしょうが、これまた望む結果は得られない。
 中東、アラブ情勢。一昨年のはじめからの中東やアラブ諸国の激動、これで中東情勢は大きく変わりましたね。結局、行きつ戻りつしていますが、米国の中東支配は、一方にイスラエルがあって、他方にエジプト、あの地域では大国ですから、この両国があって成り立っていた。
 ですが、結局、エジプトも米国寄りのムバラク政権が倒れて、新しい政権ができ、米国は軍事支援したものの、結局のところ従来のような中東での米国の番頭役のような役割は果たせなくなって、それが中東での大きな力関係の変化となった。  だから米国は引き続き中東に影響力は持っているものの、一連の政変の結果、支配力は大きく衰えた。
 中国は、国力の増加、強大化というか、経済力の強大化と併せて軍事力も急速に伸びてる。米国は、インドそれからオーストラリア、日本、韓国などで、ASEAN(東南アジア諸国連合)もそうでしょうが、対中包囲網ですね。政治的にもですが、安全保障面でも、それから経済問題でも、中国をけん制し、米国への挑戦者になることを抑えようとしてるんですね。
 ただ経済面から見ると、中国も米国なしではなかなかやっていけない。引き続き基軸通貨国なんですよね。そういう点で、しばらくは中国が明確に米国に対抗する戦略をとらない限り、またとってもいないですが、力関係で全体としてはどちらも国際的な現状を大きく変えるようなことがなければ、しばらくはこの状態が続くだろうという気がするんですね。
 ただ、米国が中国に対して圧力を加えるにしても、一方で日本なしにはやっていけないところまできているし、それからインドも当てにしているし、オーストラリアとかもね。ASEANでは、中国とベトナム、中国とフィリピンとの矛盾を利用している。
 米国はこの矛盾ーー日本では尖閣諸島問題、ベトナムとフィリピンのようなところでの中国とのもめごとーーこれをある程度は必要とはしているんですよ。にもかかわらず、それが戦争になって米国が現実に軍事力を動かすというか、支出が増えることは喜ばないというか。つまりアジアの内側にある、たとえば日本と中国の尖閣諸島問題とかベトナムとフィリピンとの領土問題をめぐって、そういうことが十分二国間で解決されることを、米国は必ずしも望んでいない。けれども米国がそこに引きずり込まれる、そういう小競り合いが起きたときに、そこに軍事介入、引きずり込まれることは避けたいんですね。
 つまり、米国のアジア政策には、アジア内部の矛盾を利用したり、日本やオーストラリア等々というそれらの同盟国の協力なしに、アジアで引き続き介入を続けるというか、影響力を残しておくというか、そういう力はもはやないんですね。以前のような国力もないので、綱渡りのようなもろい、内部に弱さを含んだ外交戦略ですね。
 それぞれの国も利口ですから、インドだって米国のそういう事情を知っており、したがって、米国に「うんと頼って」という道を歩まないですね。それはベトナムだって同じだと思いますね。フィリピンだってこの間、安倍の軍事面の選挙公約を喜んだというけれど、安全保障がどういう状況で保たれているか知ってる。もちろんそれぞれの国には親米派もおるでしょうが、しかしそれらを警戒する人びともおって、もう小国といえども利口ですよね。米国の衰退は知ってるわけですから。
 そういう中で、たとえば中国は引き続き経済を成長させるためにいろんなことをやるわけですよね。資源もあさってますよね、アフリカに対する投資を見ても分かります。それから東南アジアとの関係、つまりASEANとの関係でも中国は相当に食い込んでますよね。中国は内政上いろいろな困難を抱えているけれども、国際的な規模でいうと中国なりにもっと経済の強い、もっと軍事力もある、そういう道を歩いていますね。それは中国が言うように、中国自身が覇権国家とか軍事大国になるつもりはないかもしれない。それはそうだと思うんですね。
 それはそうだけれど、現実に影響力が広がっていくということは、世界政治の中で、それに遭遇する他の国は危機感をもつ、それは当たり前でしょう。

リスクが多いアジア
 まあそういうことの中で、特に尖閣問題などでは、私も繰り返し言ってきたんだけども、中国は長い間、前史ではいじめられ、だから経済も苦心惨憺(さんたん)して、ある意味で独立を達成し、近代化の道に入ったわけですよね。そして強国になった。勢いが出ている。 航空母艦まで持ってますからね。そういうことを考えると、日本のような国、あるいはアジアのそれぞれの国は、勢いづいた中国の力を、戦略外交的に、ときには適度に軍事的にコントロールしながら、対処する必要があるかもしれませんね。
 下手をすると、現に領土問題で見ると、たとえばベトナムだって軍事的にやり合っているしね。フィリピンは撃ち合いだって少ししてますから。日本にだって中国は、尖閣上空に飛行機を飛ばしてきましたからね。
 安倍政権の登場も、事態をいっそう先鋭化させるかもね。短期はともかく、基本的には厳しくなると見ておくべきでしょうね。BSフジでやっていたんだが、そこで田中均(元外交官)が、「一歩間違えれば戦争になる」と、こう言ってましたね。まあそういう情勢。非常に大ざっぱに言えば、安倍政権が登場し、そして尖閣諸島問題が怪しくなってくる。
 選挙の直後ですか、米国が直接中国に、「尖閣は安保条約の適用範囲、それは変わっていない」と、意向を伝えた。議会も議決したんだね。だが戦火がぼっ発することを望んでいるわけではない。米国にとっては困った情勢。
 領土紛争で(日中どちらが主権を有するか)どちらとも言わんというのは、それで今まで進んできたし、それで良かったからでしょうが、今は中国側から実効支配を崩すという流れですから。崩すということになれば、米国も「どちらの立場もとらない」というわけにはいかない。
 年初、安倍首相は訪米するんだろうが、日米関係の強化としかるべき役割も果たすと約束することになる。軍事力も強化する。
 結局、尖閣で衝突でもあれば、米国も中国に対して強硬な措置をとらざるを得ない。でなければ日本の国論は、支配層も含めて、核武装問題もあり得る。まあこれから五〜十年の流れは大変だと思いますよ。そういうことで、経済問題も軍事問題もTPPも考えていかなきゃならん。
 米国のこのアジア戦略の中心が、確かに強大化する中国を念頭において、東アジア構想の延長という意味からすると、中国を再び挑戦者にさせないという、そういう流れで抑え込みたいところでしょう。しかし、そのために米国はアジアの全局を見て、いわばインドのところからずっと見て、オーストラリアやASEAN、韓国まで。その流れで行くと、たとえばロシアね。中ロの矛盾も利用したいところでしょう。
 そういう米国の一連のアジア政策があるはずですから、米国の狭い意味での対中戦略、あるいは対中外交はどうだろうか、こんな視点だけでわれわれが判断すると、見誤ることになる。
 それは同時に、たとえば朝鮮に対する米国の政策、その外交戦略も、実はそういう中国を主としてにらんだアジア戦略の一部としてやっているわけですよね。だから、われわれが朝鮮にどういう態度を取るかも、米国の朝鮮政策に、狭義な意味では表現されているにしても、少し長いスパンで、米国の対朝鮮政策のいろいろな起伏、変化も織り込んでの考察が必要ですね。
 朝鮮政策は、もっと広い要因から割り出されていると見にゃならん。たとえば中国と米国の関係がどうなるかによっても対朝鮮政策は変わってくるわけですから。同様なことは、米国の対中政策、これがアジア戦略の中で中心であるとはいえ、ですね。たとえば日本との関係が米国とうまくいっているかどうかで対中政策が変わる。あるいはインドに対する政策もですよね。そういう意味ではみな関連してるんですね。
 さて、この項のまとめのようですが、日本はそういう米国の政策をよく理解して、対中国関係もやっていかなきゃならん。対朝鮮問題もやっていかなきゃならん、と思います。対フィリピンも対ベトナムもね。
 ただ、その場合に、わが国、日本にとっての利害がきちんと自覚されておるというか、それがないと、米国に従って受動的に動く。これではダメなんですね。こういう波乱に富んだ、相互に作用し合う二国間も全部見なきゃならん複雑な情勢の変化、米国がどうするかで、その情報に視点に置く前に、日本の意思はどうなんですか、あなたは何をしたいんですかという問題がある。これが明確でなくて、周りが動いたので受動的に動かざるを得ないということだと自国の戦略は実践できない。
 そういう点では、これから特に、一般的に言うとアジアはとてもリスクが多い、他の地域あるいは世界もそうですが、リスクが多い。しかも大国である米国や、中国もそうですが、自国の戦略をもって生き残りをかけて闘う国際政治の中で、主導的に振る舞って生き抜くのは容易ではないことを、政党、政治指導者は自覚しておくことが必要なんですね。
 このことについては、適当な機会があれば、またということにして下さい。

有益な書籍を参考のために

大嶋 そのような情勢を理解する上で、有益な書籍があったら、紹介していただけますか。

大隈議長 一冊目。そうですね。実は昨年の十二月のはじめから一週間、幹部の党学校をやったんです。ポール・クルーグマン(米プリンストン大学教授)の「さっさと不況を終わらせろ」(早川書房)。昨年七月二十日初版の本ですが、これをテキストに使ったのは理由があるんです。総選挙の争点で、安倍・自民党総裁が「大胆な金融緩和と財政出動」でデフレ脱却、経済再建を短期間に実現すると発言し、注目を集めていました。これは論争になるし、登場する安倍政権の先行きを研究するにも役立つはずですから、選んだんです。
 クルーグマンは、ケインズの理論というか、その言い分を根拠にして、タイトル通り、不況はさっさと終わらせられると主張しています。
 慎重に読んでみると、あんまり説得力はないね。でも、彼が状況を分析する方法、問題によっては「具体的な事情の具体的分析」で、学ぶことも多くあったんで、みんな喜んでくれました。
 さて、オバマが行った景気刺激策、七千八百七十億ドルについても、「あまりにも少なかったから効果がなかったがなかった。もっと大量に支出をすべきだった」とも書いているんです。ちょっとだけ、これを円に換算し、GDPで比較もしながら、安倍政権はどんな大型補正予算を組むんだろうかなど、楽しかったですよ。お薦めします。
 クルーグマンによれば、彼一人でなく多くの経済学者たちも、第二次大戦の原因になった一九三〇年代のような恐慌になったとき、「どうすればよかったか」という知識はすでにある、というんです。
 当時の恐慌は結局、戦争によって、世界の経済、生産力が大きく破壊され、数十年分も後退したことによって、また動き出したわけです。戦後、その恐慌の研究が積み重ねられ、解明されてきたと。
 リーマン・ショックと言われる世界的な金融システムの動揺、あるいは破たんに際して、実際にも、素早く金融緩和や財政出動がやられたんです。そして、現に三〇年代のような恐慌には突入していないわけですから、「研究の成果」ですかね。でも不況、それに経済のいっそうの後退に見舞われていますから、学者も大変だね。
 二冊目。安倍首相とも関係があるエール大学の浜田宏一教授の最近の著作「アメリカは日本経済の復活を知っている」(講談社)。二〇一三年一月八日発行となっています。これはすごいですよ。提案通りやってくれれば、「日本経済はすぐに危機を脱する」ことができると、言っいてるんです。悪いのは金融では日銀の白川総裁だ!
 この教授がどう主張しようと勝手でしょうが、安倍政権のブレーンであれば、読んで研究するのも必要なこと、ですかね。
 三冊目とは言いませんが、ケインズ理論では、資本主義の金融危機,恐慌は、内在する本質的なものではなく、政策の誤りから引き起こされたもので、そこを正し、手当てをすれば、再び復活できると言って、景気刺激策を提案しているんです。
 クルーグマンは、実際に十九世紀後半、二十世紀初頭の危機は第一次大戦、二十世紀の三〇年代の危機は第二次大戦でしか片付かなかったとも述べていますが、「それでも手はある」と主張します。「財政」を大幅に拡大支出する覚悟があれば解決できるのに、このケインズ「理論」を「受け入れないから」片付かないのだ、との主張ですよ。面白いことに、勉強になるのは、どういう勢力が受け入れないかも丹念に暴露していることですね。理論は正しいのだから「受け入れてくれさえすれば……」ということですよ。
 打開策がないから戦争になったんでしょ。ケインズはそれでも、資本主義の本質的危機ではないと言い張りたいんですよ。
 昨年、総選挙を前にして、安倍の発言を日本経団連会長の米倉が「無鉄砲だ」と発言、その後陳謝したんだが、自民党総裁、現首相がそうした「無鉄砲」なことを言い出した。政治の複雑さ、危機が深いとはいえ、現局面の深刻さを反映しているんですね。
 反対もますます高まっているので、この種の論争、にぎやかになるのは必定ですね。「ケインズかハイエクか」(新潮社)という本も出版されていますから、参考までに。

総選挙の結果やその評価について

大嶋 議長が述べたようなアジア情勢、米中関係を前提に行われた総選挙でした。わが党は候補者を擁立しませんでしたが、「国の独立と経済再建が重大な争点」と主張し、中でも「諸政党は、国の独立をめぐる根本問題であいまいであってはならない」と呼びかけました。
 そうした点から見て、今回の総選挙の結果やその評価について、お聞かせください。

世界の危機はより深刻に
大隈議長 現下の世界の資本主義は、きわめて末期的な症状を呈しています。もちろん、一般論からいって「景気・不景気」という話ではなくて、「百年に一度」と言われ、一九三〇年代と比較されています。
 戦後の長い間は、不景気のときには金融を緩めたり財政出動をしたりして、景気回復を待つということだった。
 三〇年代の危機はそういう循環的なことと違い、金融が破たんし諸国は深刻な景気後退、恐慌に陥った。その打開策、結局は戦争、第二次大戦だったんですね。
 その前の第一次大戦も、十九世紀の一八七〇年代以降、資本主義強国が次第に独占段階に達した後の長期の不況というか、「大恐慌の時代」という言い方もありますが、その時期は労働運動も大発展、激化していたわけですよね。これも結局、先進諸国間の争奪で大戦が起こった。
 その中でロシア革命が起きたわけです。ですから、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけての恐慌も戦争で、そしてドイツの敗戦で終わった。二十世紀の三〇年代の恐慌、これは第二次大戦となって、ドイツ、イタリア、日本の敗北で終わったんですね。
 そんなわけで、金融危機そして破たん、深刻な景気後退、いうところの恐慌、そして結局、歴史の事実として、戦争によってしか解決されなかった。そういう危機に今回の危機はたとえられ、あるいは比較されているんですね。
 ですからそれはともかく、わが党の第六回中央委員会総会決議(二〇〇九年九月)の中で、その状況を「今回の危機は崖っぷちを転落しながらも、まだ途中で木の枝にひっかかっている」と記述したんだね。
 その後、「出口論」が欧州でもちょっと議論されたかどうかという時期に、確か〇九年十月だったか、ギリシャでの政権交代時に国家財政の粉飾が暴露された。そこから「ソブリン(国家債務)危機」と言われ、それが波及し、再び金融システムが動揺する。ヨーロッパの動揺は世界につながるわけですから。それで行きつ戻りつ危機は続いてる。
 さらに、昨年後半、十月のIMF・世銀総会、その後のG20によると、世界経済はさらに後退し始めたんですね。

IMF・世銀総会、G20と最近の世界経済
 金融システムも依然として安定的ではないんですね。今のところ「欧州次第」でしょうがね。特に経済・景気は深刻で、先進諸国は総じて大変、差はあるんですが落ち込んできましたね。財政が厳しいので金融緩和策だけ。要するに妙手、策がないんですね。
 米国の大統領選はオバマ再選で片付きましたが僅差だし、共和・民主の対立も容易でない。ヨーロッパは危機を抱え、ドイツとかフランス、特にドイツはそれでもうまく切り抜けているんだけれど、全体としてヨーロッパは財政再建に入ったということもあって、政治的結束の維持も大変なんですね。
 先進諸国が金融緩和を繰り返し、結局、行き場のない資金は発展途上国に殺到する。発展途上国では金融、財政、景気対策など、かじ取りがますます難しくなってる。直接投資での外資流入はともかく、通貨高も困るんでしょうが、過度の介入も副作用があるんですね。
 ですが、世界情勢の底流にある最近の世界経済の状況は、昨年十月以降のIMF・世銀総会やその後のG20の討議内容や状況、そこで採択された情勢認識、確認事項や内容に、読み方にもよるんですが、おおかたは反映されてますよ。
 結局、世界経済が全体として後退局面にあること、全体的にね。だから財政再建は当面急がず、経済成長に力を注ごうよ、となったんですね。それに、為替変動を市場に任せて、とも呼びかけましたね。
 ここで使われた資料、発言記録、さまざまな報道、採択された文書などを使えば、こんにちの時点での米欧日の、それぞれの国内矛盾を他国との比較でつかめるし、相互関係での矛盾もつかめるんですね。同様に、こんにちあるいは現局面での、先進国と途上国との矛盾の研究にも役立つんです。やってみませんか。

危機の中での総選挙
 経済不況、生産の海外移転と空洞化、倒産や失業での生活苦、その継続と、いっそう深刻なんですね。世相も深刻。世界経済も全体として後退局面となったが、日本も総選挙前ですよね、内閣府が七〜九月期の実質成長率がマイナス三・五%だったと発表したのは。そういう中での総選挙だった。
 だから「労働新聞」社説にも書いてあるんだが、日本が当面している経済危機は、その相当の部分が、日本を取り巻く国際環境、世界経済と深く関わっており、その世界がどう変転するかと無関係ではない。普通に言っても、日本が世界でできることは限られている。リスクがいっぱいの世界で、見えない世界で、わが国は生き抜かなければならない。
 それにしてもそれぞれの国は、自国の戦略、国益に基づいて手を打ち、精いっぱいの努力で生き抜こうとしている。そんな世界なんですね。他国に気兼ねしたり運命を任せたりでは、国として生存できる世界ではないんです。

独立の課題、経済再建が争点だった
 そうした困難で狭い道でも、自国の運命を自国でしっかりと握り、運転しつつ国として生き抜かねばならん。だから、われわれは総選挙の争点の第一にこれを掲げ、諸政党がどんな主張をするかに注目していた。
 支持率が地に落ちての野田政権の「近いうち」解散・総選挙。野田首相(当時)は、国の存亡より、もっと些細(ささい)な目標で生き残りをかけていたんではと、ふとそう思ったんですが。「次の四年も民主党政権にやらせて下さい」と呼びかけていましたね。その可能性がまったくないことは分かっていながら、ですね。心中、むなしかろうに。
 野田はともかく、国政に関わる政党であるならば、独立の課題を掲げないで、対米従属のまま、あるいはそれを「深化」させるなどで、今の難しい局面、やれるだろうか。
 リスクが途中にいっぱい待ち伏せしている中で、急ハンドルも切らねばならないときもあるはず。いうところのリスクを避けつつ、狭い道でも、手の届かない範囲でも、国運をかけて選択が求められる。この問題を民主党や自民党、他の諸党も、どう考えているんだろうか。
 もう一つは、経済や雇用、国民生活というか暮らしの問題ですね。これが独立の課題に次いでの、二番目の争点でなければならない。
 「消費税増税反対」、これ自体は正しい主張でも、反対するだけで経済が何とかなる状況ではない。問題は、この経済、暮らしの危機をどう脱却するのかでしょう。そのことが問われていると言ったんです。

北方領土、竹島、尖閣などの問題
 領土問題でも、大きな流れとしては、どういう国際関係の中で解決するのか。とくに日本が、安保条約の下で従属的な政治を続けているわけですから。
 日本の国力の低下も手伝ってでしょうが、北方領土だってもう数年間ね、メドベージェフ首相が何回も「返さない」というか、面当てのように訪問して揺さぶられている。本当は日本との関係を改善したいんでしょうが、揺さぶりをかけている。
 竹島ですが、これはもう少し違って、あそこは李明博前大統領がなかなか苦しい状況にあって、身内がいろいろあって、与党が名前を変えて(ハンナラ党がセヌリ党と改称)大統領選に備えるという状況もあったんですが、きわめて突然、竹島に上陸してね。韓国の内側でも支持されていないようですが、そういう状況ですね。それにしても実効支配を強めたというか。ああなってくると、日本も、その現状にちょっかいをかけるのは難しいですね。
 中国は、日本が尖閣諸島をきちんと実効支配していたのを……。これは最近に始まったわけではないですね。ずっと前、排他的経済水域の境界線でガス田を開発し始め、それに抗議したら中国も立ち止まり、向こうが「共同で開発して」と言ったこともありますね。その話はいつの間にか吹っ飛んで、日本の実効支配を試すような雰囲気で、選挙のさなかにさえ艦(官)船、民間船ではないですね。それに飛行機。それで来たわけで。
 総選挙で尖閣諸島を「中国に返すべきだ」という主張はなかったですが、多くは「日米関係をきちんとして」と。そういう基本的な点が選挙で争われるべきということですね。

政権をめざす党は包括的戦略が必要
 このような厳しい状況の下で生きていくときに、政権をめざす党ならば、本来、そういう政策、内外政治についての包括的な戦略をもつべきです。中でも、われわれが言う二つの問題は重要だと。特に独立の課題はとても重要だと。これについてあまり掲げていない、と批判をしたわけですね。
 政権を握れば、良くも悪くも、自分の支持基盤以外の人びともいるわけですから、それらも含め国をどう経営していくか、他国との関係をどうするかが必要なのに、それがない、と。
 それから、特に労働運動についてだけれども、戦後何十回も選挙をやったんですから「どうなんですか?」と。何を掲げても政権を取れそうにないんだけれども、「そろそろ考えたらどうですか?」と。今回は辛らつに書いたわけですね。
 そういう点から見て、今回は「左」の人びとからすれば深刻な問題です。負けてみればね。各中間機関の同志が回ると、社民もあっけらかんとしている。これだけ負けると、中途半端でなくて、言い訳もできなくなる状況なんですよね。

以上の観点から見た総選挙の結果
 今回の総選挙結果の評価ですがね、当然ながら、いろんな評価、総括があってよい。商業新聞各社の解説記事もあれば社説もある。与野諸政党の総括、政党でなくても諸階級、階層を基盤にした業界や諸団体、財界や中小のいろいろな団体、労働組合、農民、さまざまな評価があると思うんですね。階級社会ですから、公平で「客観的な」評価なんてあり得ないんです。この事実は、分析・評価する人びとが、そのことを自覚していようがいまいが関わりのないこと、その評価に自ずと本性は出るもの、また観られるものだと思いますよ。
 われわれは、わが党の戦略に基づいて、総選挙を総括すべきですよね。われわれの戦略は、当面、国の独立を前面に掲げて、一握りの支配層に反対しながら、労働者階級、農・商工業者、零細あるいは小中資本の経営者など、また、それらの青年男女、学者や知識人など、勤労諸国民の大多数のための政権の樹立をめざしているんですから、その道行きでの利害、損得と言ってもよいんでしょうが、そうした観点、立場から今回の選挙結果も分析、評価するんです。当然ですから隠す必要もないんですがね。
 資本主義は末期的症状を呈し、破局が迫っている状況下にあって、情勢は相当に煮詰まっているのですから、選挙結果も大局的、戦略的観点で、敵をべっ視しながら分析、評価しませんか。
 議席を大幅に増やして勢いづいてる安倍自民党の弱さも見え、社民党や共産党の惨敗も悪いことよりよいことが多々ある、そんな拾い物もあるというか、勇気もわくんじゃないですか。もちろん落選した議員さん、あるいは敗北した政党向けではなく、破局が迫るわが国の存亡をかけての闘いにとっての損得の観点での話ですが。

理屈っぽい話を少しだけ
 社会的に条件の違ういろいろな階級がおって、その人たちが暮らし向きに困ったり「いい湯だな」と思ったり。大企業と中小企業も違いますよね。したがって、史的唯物論からいうと、経済が緊迫したり、経済の変動期についていける人、いけない人がいる。企業社会は競争が厳しいですから。最後的に「食い物の恨み」じゃないが、諸階級の相互関係は厳しくなる。だから、「経済の集中的表現は階級闘争だ」と言うんですね。
 政治が合法主義の政治か、あるいは武器を持って政権を争うための政治かは別にして、一般的に、経済が悪化したりその変動期には、諸階級の多くが困難に直面し、経済社会における、つまり食い物のところで諸階級の相互間の争奪が激化する。その打開を求めて政治を争う。政治闘争が激化する。これを「階級闘争の集中的表現は政治権力をめぐる政治闘争だ」と言ったりもするんです。
 さて、自民党政治で格差は広がったんだが、〇一年に小泉が政権に就いて、有権者の自民党への不満を「自民党をぶっ壊す」と言って選挙で大勝利し、その政治で格差をいっそう拡大した。
 やがて不満が再び広がって、小泉は政権を去った。自公の短命政権が続いた後、政権は自公から民主党へと移った。その民主党政権も、鳩山、菅、野田首相と短命だったが、三年余で惨敗して政権を去った。
 今回は、十数党がにわか結成で登場し、けっこう異常な総選挙でもあった。党も多くがにわか仕立てだが、掲げる政策も「票目当て」。だから、有権者の投票意識の評価、細かくは難しい。それに、特に、政党議席の消長とその意味の分析は、ほどほどでよいのでは……。
 それより、有権者、各階級、社会層の意識の動向です。投票率の低下、支持動向での大量的な移動、政治・政党不信の増大など、いまだに労働者階級の多くがダマされているにしても、出口を求め不信を募らせあるいはワラをもつかんで生きようとする、そんな状況は確実に増大している。破局時にはこの動向をつかんで闘えるようでなければ勝利できないですからね。

オバマの再選にたとえると…
 こういう問題があると思うんですよ。最近で見ると、オバマの選挙があったでしょう。
 あそこも「格差社会」と言われ、いっそう広がったとね。オバマはそれへの不満を背景に当選し、リーマン・ショック後の危機への対応に追われた。初期の頃は、茶会党が「国家財政が借金ばかりになった」とオバマを批判し、そこで力を持った。
 今回の大統領選挙では、ロムニーも最後的には、つまり最初は右として登場してくるんだけれども、最後はやはり「経済」で、「雇用」などを訴えた。実業家なので、はじめは調子が悪かったでしょう。ところが、「実業家だから経済をうまくやるかもしれない」という風潮になった。むしろ、貧しい人の中で、ロムニーに投票した人が相当にいるに違いない。オバマの一期目と二期目の票を比べてみると、票差が接近しているんですね。つまり、いっそう苦しくなったのに、ロムニー、共和党のほうが票を増やしたわけね。オバマは減ったわけですよ。少し似ているでしょう、自民党と民主党の関係に。選挙で前は圧勝して、今度は負けたわけだから。
 韓国の大統領選挙、これも李明博政権のときには経済成長をしているんですよ。しかし「格差社会が広がった」と批判された。日本は経済成長をしないでも格差が広がった、米国もそう。しかし、李明博は盧武鉉のときよりも伸びたんですね。にもかかわらず「格差社会」。したがって、その不満を受けて、今度の大統領選挙は党の名前を変えて、朴槿恵か、これはそうやって選挙をした。「成長だけを追求しては格差が広がりよくない、それを修正する」と言っているわけですね。「それに応える」と言って。片方(文在寅候補)は、財界に対して「規制する」ということで、修正をやや過激に主張した。
 順序を追って、こんな話もしましたが。たとえば、米国で一%、あるいは〇・一%に富の相当部分が集中したと言う。「格差社会」というのは、持てる者がさらに持ち、持たない者はますます持たず、貧富の差が広がったというわけですね、とりあえずはね。
 さてそこで、誰が富を増やしたのか、誰がいっそう苦しくなったのか、ここまではいいですが、そこで分析をやめ、思考を止めたら、今の問題に答えられるだろうかと。「格差社会」と言っているだけなんですよ。持つ者で、どの部分が持ったのか。これをまた二つに分けて。一般的に言うと、米国では「中間層が分かれた」と言っているんですよ。だけど、その配列がどう変わったのか。つまり、零落させられたのも、わずかしか零落しない者からずっと零落した者までいる。ここまで分析をしないと、われわれの政策を立てられるだろうかと思うものだから。

階級分析が一般的すぎる
 われわれは経済分析から入って階級分析をやっているようだけれども、ここでは一般的になっているんですよ。経済の問題ではやや具体的な分析もあるんだけど、諸階級がどうなったんだろうかというところ、諸階級の状態とその上部構造の意識の面ね。先ほどの米国の例では、いっそう苦しくなりながら右側に投票行動をするという部分が出ているわけですよね。日本はどうなんだろうかと。
 たとえば、出口調査では年齢を書いたり、性別も書いたりしていますよ。職業を書いているかどうか。いろんな調査があるはずですよ。そのことをやらないと、本当の階級分析じゃないんじゃないかと。この時期における、諸階級が合法的な選挙で、どういう政治行動をとったのか、もっと単純化すると、どこに投票したんだろうか。よく「農民がどこに入れたか」「中小企業が……」というのはあるよ。労働者の中にもさまざまな状況があるわけでしょう。
 おそらくね、もっとも貧乏で職がない人たちは、安倍に入れたかもしれないと思うんだ。もっとも貧乏な意識分子は、安倍に入れなかったと思うよ。だけど、そういう人たちに限って焼酎を飲んで寝るわけだから。そこのところは何かないかなって。NHKなんかでも調べていますが、そこまでのものがあるかどうかね。
 つまり、体はすでに「現状打開」で安倍にダマされてついていったってろくなことはなくても、たとえば農村の失業者ね、前は公共事業があって土建屋さんに雇われていた。今は農村でもほとんどないですから。かつては数人を雇って、何とか建設会社といって四〜五人を雇い、忙しいときには十人も雇っていた建設会社が、だーっとつぶれた。今度は雨後の筍(たけのこ)のように出てくると思いますね。そういう期待を込めて、あるいは震災のあの地域とか、どこかでは部分的に人が足りなくなると思いますよ。今度、十兆円とかかけてやるとすればね。
 そういうことで、どういう社会層がどういう投票行動をとったんだろうかと。だから、自民党に行ったその人たちが、金持ちであるわけはないんですよ。金持ちは本当に人数が少ないですから。選挙に勝つかどうかは、「支持政党なし」だったり意識的でない人もいっぱいいて、それらがゾロゾロと動いてということですから。まだ、政党にダマされて後ろにくっつくわけですよね。
 それから、危機のときに敵側が中小企業の動向に注意する理由は、商工も含めてね、その後ろに広範な労働者がいるんですよ。その後ろに従っている。そこに労働組合が組織されているならともかく、それらは組織されていないですからね。帰るときに、社長の奥さんが「あの候補に入れてよ」と言うと、「うちはその人に入れにゃならん」と、みんな入れると。
 「格差が広がった」で思考を止めないこと。おそらく敵側は研究しているんだろうけれども。今は総選挙のときに開票前から「当確」はほとんど正確でしょう。何千も何万も違わないですよ。それは、かれらが蓄積しているからなんですよ。  腹の減り具合がそのまま脳みそに反映するなら、あいつらは政権を握れないもの。少数ですから。前は「一%」、近頃は「〇・一%」。そのかれらが政治を握っているわけですから。

安倍政権のデフレ脱却策

大嶋 ところで、安倍は選挙前にかなり大胆な経済・金融政策を打ち出しました。「労働新聞」社説ではこの問題にも言及していますが、以降の推移を含めて、どうでしょうか?

大隈議長 安倍はデフレ脱却のために「金融緩和を大胆にやる」と。「インフレ目標」を二%、しかもそれを日銀との間で文書で確認して、うまくいかないときは「説明責任がある」という言い方でやっているわけね。
 それと併せて、政府が国債を発行するときに日銀が引き受けるというようなことも含めて言っています。もちろん、国債市場に日銀が直接に登場するということもあるが、いずれにしろ「日銀が最後は引き受ける」と言えば、国債は「売れないことはない」わけですから。
 そうすると、政府は比較的低コストで、財政でさまざまやるためのカネを手に入れられる。それを補正予算の裏付けにするわけです。行う程度はともかく、そういうことですね。その安倍の、比較的短期間にデフレを脱却して経済再建を図るという方策だが、うまくやっていけるだろうか。
 何しろ、四月頃までの非常に短期間で効果を出すということが条件になっているんです。四〜六月のデータが、二〇一四年四月に消費税を上げるときの条件になっている。そのときにGDPの成長率がクリアできていないと、消費税を上げにくいわけですよね。そこでうまくいっていなければ、「上げるべきでない」という意見も出る。それから、データはともかくとして、参議院選挙では「街角景気」でも感触が出ていないとね。タクシーの運ちゃんが「なかなかいい」とか、飲み屋も繁盛しているということでないと、ということがあるわけね。

安倍の政策には反対も強い
 安倍は財政支出もやるというわけですから、当然、反対も根強い。野田は「禁じ手」と批判して、逆に、一定の人たちは「当然の主張だ」と思った。「財政出動をしないでデフレの局面を変える方法があるのか?」ということになると、完全には否定できないですね。
 安倍は野田の批判に対して、「民主党は三年間、何もできなかったではないか」と。白川・日銀総裁が「(インフレ目標は)一%」と言っても、「それさえ達成できなかったではないか」「私は、今までと違うやり方で大胆にやる」と。こう言うと、株が上がる。株が上がるということは買い手が増えたということで、国内だけでなく、外国人のヘッジファンドなども買い始めた。資本は出ていくよりも入超。入ってきているということは、次の局面で「やばい」ということになれば、パッと逃げるということなんでしょうが、それにしても「他に打つ手があるのか?」ということなんでしょう。
 その論争は、どの国でもずっと続いているんですね。投票の少し前ですが、榊原英資(元財務官、青山学院大学客員教授)と伊藤元重(東大教授)の二人がテレビ番組に出ていました。伊藤氏はどちらかというと財政再建派、サプライサイド・エコノミーで、純粋にレーガンと同じではないにしても、似たような主張です。「なるべく民に大きな力を」「財政出動で市場に影響を与えることは好ましくない」とか。
 榊原は「デフレを脱却するためには、当面は財政政策以外にないんじゃないか」と。ただ、「先はともかく」と付けていて。みな、これはあるんですよ。どちらに重点を置くか、そんな議論があったですね。
 それと、円安になれば、当然にも輸出製造業は円に換算すると収益が増すわけですね。各社「一円安で何百億」とか。小さいところも小さいところなりに。そうすると、それを見越して株も上がる。というのは、「企業収益が良くなるだろう」と買い手も増える。

安倍が言う前から円安傾向だった
 その話なんだけれども、データを見てみると、安倍が言う前から円安傾向だった。その傾向を条件付けているのは、貿易収支の赤字です。中国への輸出が落ちたでしょう。輸出が減るのとは逆に、資源などの輸入はあまり減らなかったとかね。
 経常黒字というのは貿易収支が大きな内容ですよね。それに所得収支とかね。その黒字で補っているんだけれども、それでも貿易収支は赤字。それで、経常収支の黒字が山を越して、だんだん伸び率が小さくなってきたとか、減ってきたとか、それが背景になって円安になってきていたと。円安になれば株高になってくると。
 安倍発言はその途中で出た。だから、円安・株高は二段構えできていると。
 年末の数日間を見ると、内容的にもハッキリしている。建設・土木関係、製造業ね。ますます「安倍カラー」が出てきているわけですね、この変化は。
 基礎的な要因を条件付けている貿易収支は最大の赤字ですよ。以前は株価が下がったこともあったんだけど、今では「安倍カラー」が出てきたのでかき消されている。けれども、安倍が政策を進めているうちに途中で息切れしたり一服したり、効果が少し出た頃に、最も基礎的な貿易収支の赤字拡大とかが大きな位置を占めるようになると、そちらが顔を出すわけですね。そういう問題も、これから先の問題を見る上で重要だと思う。
 日本に対する評価で、経常黒字国だから外資が入ってきて円高を支える面もあった。それが、貿易収支の赤字とか経常収支の黒字がだんだん減っていくことでどう推移するかを見ておくことで、安倍が成功するかどうか、それらの深い、いくつかの要因を見逃さずに、あるいはときに予見できるわけですよね。

即効性はあるか
 いずれにしても、安倍が実行しようとするときに、大型の補正予算を組むとしても、即効性のあるもので、少なくても四月頃までに効果が出ないといけない。
 実際に効果が出るのは、公共事業以外にはないといわれている。東日本大震災が起きたところでは、まだゼニが滞留しているので、早急に態勢を整えて使うとか。それから、昨年末に崩落したようなトンネルね。落ちそうなものだけで膨大。
 全体として見ると、日本の高度成長期にじゃんじゃんつくったものが期限が来ている。安倍もそれを狙っている。不景気のときには人件費も資材費も安くて、結果的に、「今使うのは、非常に効率的で悪いことではない」と。ものは言いようというか。だから、民主党が「コンクリートから人へ」とか言ったような雰囲気を打ち消すのにそうやっている。
 だけど、そのときにどれぐらいの金額、補正予算の財政規模か、これが一つ、論争になると思うんですよ。財務省は「少ないほうがいい」と思っているから。その次に、中身の使いよう。これは直接かつ具体的で、「どういう使い方をすると誰に行くか」なんですよ。公共事業なんていうのは、多国籍大企業で世界で展開している連中にはゼニは大していかない。それより「国際競争力を高めるために税金をまけてくれ」と言うわけだろう。マスコミも、支配階級、銀行とか多国籍大企業の意を受けて、枠についても内容についても言うわけだ。逆に、土建業者は飛びついて喜ぶ。使い道についても論争になると思うんです。
 安倍は、そういう抵抗を押し切っていかなければならない。
 クルーグマンの本に出てくるが、オバマは最初は七千億ドル余を投入した。クルーグマンは「少なかったから効果が出なかった」と。そこで「足りないのでまたやる」となったら、「この間やったのに効果がないではないか」と反対が強まり、政治のリスクになるわけですよ。たとえば、補正予算が効果がないということで安倍政権が次の手を打とうとすると、政治的リスクが蓄積するわけね。それを打ち破るためには、もっとエネルギーが要るわけですよ。
 そうこうする間に下手をしてつまずくと、内輪もめが始まる。マスコミがたたく。財政をできるだけ引き締めたい財政再建派、財務省も手を回す。米倉・経団連会長は「無鉄砲だ」と言ったが、そういう勢力が潜んでいますから。かれらが「安倍を抑え込めない」という状況を安倍が切り開くか、逆に抑え込む力が増えるか。それは政治の蓄積になる。

成功は容易ではない
 だから、ここは容易ではないと思いますね。狭い道であることを知った上でのことですから。「選挙に勝った勢いで」というんだけど、この前、白川総裁に会ったとき、白川は返事をしないで帰ったという。ある程度は協力しないといけないと思いますけれども、あまり色よい返事もしないわけです。緩和は継続するでしょう。ただ問題は「どの程度」というので、相当に開きがある可能性がありますね。そこで、人事の問題が出てくる可能性があります。
 安倍を支持しているのは浜田宏一(エール大学教授)、それと岩田規久男(学習院大学教授)あたり。他の人びとと論争があって、この問題はケインズとハイエクの関係ではないが、第一次大戦頃から論争があるわけです。「財政出動は百害あって一利なし」とか言っているわけで、そこは認めたとしても、銀行なども一国の付加価値が分散するのは避けたいわけです。「大きな政府よりは小さな政府」となる。
 経済学的には、浮き沈みとか波乱の中で、ある程度市場を管理せねばならない。「自由な市場」なんてあり得ないですから。これで市場原理主義みたいなところにいくと、ソロス(投資家)も「これが資本主義を滅ぼす」と。市場が危機に耐え得るように、ある程度、権力や財政の管理が必要だということを認めない者はもういないものの、原理的に顔を出すということね。米国の茶会党もそういう流れで、宗教みたいなものです。だからハイエクも、途中は相手にされなかったですね。
 だから、第一次大戦時頃とは変形したものが、しょっちゅう顔を出すわけです。銀行や金持ちが支配している現状では、ケインズのように財政支出をすると、しかも「少しでは足りない」というわけですから、その問題が出てくる。安倍がやっても出てくる。結局、政権を握ったやつは、やはり財政支出をやりますよ。だから「今までとは違う」と非常事態みたいなことを言っているわけで、相当な覚悟でやっている。したがって、相当な覚悟で反対するやつも出てくるに違いないんです。
 最初はともかく、世界経済の推移とかでつまずけば、フラフラになる可能性がある。
 だから、際どいことをやっている。あるいは、際どいことをやらなければ、この局面は切り抜けられないということでしょう。
 今の資本主義は末期症状で、需給ギャップは膨大だが、資金は膨大にある。そういう中だから容易ではない。つまり、これで解決するということはあり得ないですよ。安倍は数カ月とか数年もつだろうか、ということです。
 それともう一つは、国際関係です。つまり一国の経済の具体的条件から見て、ある時期に金利を下げるとか介入政策ね、これはその国にとって必要なことであっても、国際協調としてやっていけるかどうかという問題があるんです。強国、先進国の中で意見の相違というのはあり得る。日米関係だって、その問題に直面するはずです。安全保障上でもそうですね。安倍の朝鮮や中国に対する強硬策に「米国の都合の悪いときにやってもらっては困る」という圧力がかかっても、「日本にとってはせにゃならん」と安倍が判断すれば、その問題が起きるわけですよ。
 独立の課題というのは、安全保障だけはないですよ。政治とか金融に、全部含めてあり得るわけです。

選挙制度、二大政党制の問題
大嶋
 選挙後、商業新聞では小選挙区制度の改正を求める声が目立ちます。これと絡んで、保守二大政党制の問題はどうでしょうか?

大隈議長 「小選挙区の弊害が出た」という意見があるが、中選挙区に戻そうとした加藤紘一が落選して、この動きは少し停滞するか。しかし、今のような小選挙区比例代表併立制は、何らかの形で変わるのでは。議員定数をどうするかという話とは別でしょうが。
 当面、民主党が二大政党の一方の軸として復活できるかというと、あまりにも衆議院段階の勢力に差がありますよね。次の参議院選挙を経た後でも、民主党が軸になるということは、なかなか難しいんじゃないか。それに、日本維新の会が第三党ということですけれども、実質的にはバラバラですから。
 だから、もとのような二大政党は復活しないでしょう。衆参の「ねじれ」が片付くかどうかというのが一つの見どころだけれども、参議院選挙が終わると、用心していた自民党も、憲法や安全保障のようなことにも手を付ける。憲法改正手続きの「三分の二条項」から入って、集団的自衛権も憲法でもきちんとする、というようなね。
 それは別な面から見ると、衆参の「ねじれ」ではなく政策上の「ねじれ」、長い間続いていた、それぞれの党の中に基本政策で違いがある者が含まれている状態の変更、政治再編、政党再編になるでしょうよ。それでも、まだ相当に時間がかかる。
 それともう一つは、危機の影響ですね、これが片付くメドはなく、経済も国際関係も矛盾が拡大すると思いますね。
 民心が揺れている状況は、危機を反映していると思いますよ。ちょっとした政治的デマゴーグが出てくると、民衆はダマされてそっちに行く可能性もある。そのぐらいに不安で出口を探しているという、そういう状況がこの政治をなしているわけですから。
 二大政党が登場した時期というのは、資本主義の相対的な安定期なんですよ。英国や米国ですが、大陸側の欧州はそこまでいかなかったんですね。だから今回の危機では、ギリシャやイタリアでは政党はみな退いて、銀行家が権力を握った。商業紙が「民主主義は敗北した」と言ったほどだから。
 そうすると、二大政党の政策軸を立てるのは、時期的にも難しいんじゃないか。以前は「アジア派と国際派で分ける」とかいう意見があったが、もう、そうはならないんじゃないか。
 欺まんで二大政党に分けて、支配層からすれば「どちらに転んでもよい」という政治、議会制のゲームに参加させる、ということにはならないと思う。投票に行かない人もだんだん増えるし、過激派も出てくる。
 その意味で、安定した二大政党制というのは、時期が過ぎたと思う。

安倍政権といかに闘うか、わが党の態度などについて

大嶋 最後に、安倍政権といかに闘うか、わが党の態度についてお話し下さい。

大隈議長 総選挙の結果として、自民党、安倍政権が成立しましたが、総選挙の直前、あるいは最中にも、彼はその政策でいろんなことを述べました。中でも特徴の一つとして、安全保障問題だけでなく、経済問題でデフレからの脱却を強調して、金融緩和や積極財政の始動を明確にしたんですね。
 その問題がどうなるかはさっき縷々(るる)述べましたが、結局のところ、そう簡単に片付く問題じゃないんですね。
 そういう点で、彼が順調に政権を維持して国の経済を立て直し、参議院選挙を切り抜けて、その後、彼が掲げておる憲法や日本の軍備増強等々を順調に切り抜けられるかというと簡単ではないと思いますね。
 そこで、そういう安倍政権とわれわれはどう闘うかです。

対中国、アジア外交について
 第一番目にですね、総選挙では尖閣諸島問題が非常に先鋭的に取り上げられ、対中国関係をどうするかということが問題になりました。野田も、安倍自民党も、日本維新の会も、それからみんなの党など、みな日米同盟を「深化」させ、それをバックにして強硬に中国と対処するというようなことを言ってる。中国は、選挙の後半には艦船だけでなく航空機も飛ばし、日本の尖閣諸島の実効支配を揺さぶる強硬策に出ているわけですから、これは下手をすると、多くの人が心配しているように戦争になりかねない。そうならんように、この問題は解決せにゃならんわけですね。
 今、尖閣諸島問題が先鋭化していますが、この問題は全体の日中関係の中でいうと、一つ、あるいは一部の問題なんですね。したがってもう少し広い範囲から対中政策を考えにゃならん。中国は歴史から見て、百年も帝国主義諸国からいじめられたり侮られたりした中で、自力で独立を闘い取り、こんにちのように急速に経済を前進させ、併せて経済力に見合う軍事力というか、そういう点で強国になっている。強国になったが故に、中国の周辺の状況をかれらなりに見直す、そういう状況があるんですね。対中問題でそういう、尖閣のような問題を抱えているのは日本だけじゃないんです。ベトナム、フィリピンとの間にも争いがある。そういう状況の全体を考える必要があるわけですね。
 経済面から見ると、すでにアジアは相当に相互依存関係というか、域内関係は緊密になっておるわけです。それから特に一九九七年のアジア通貨危機以降、危機にも備えにゃならんということもあって、実務者の間ではいろんな危機対策がやられています。
 そういう状況を本当は経済の上部構造、政治の面でも、きちんと域内が平和に共存、共栄するというか、そういうことがなされにゃならんわけです。そして域外からちょっかいを出され、域外国がアジア域内の矛盾を利用することで一定の権益を獲得する、そういう状況を許さないようにですね。特に、米国がアジア域内で中国に反対する戦線をつくるとかですね。TPPもそういう問題の一つでしょう。何も米国と事を構えにゃならんということではないですが、アジアは相互管理、広い連携をつくるというか、そういう生き方が必要だと思います。そういう点でわれわれは、尖閣や中国との問題を、アジア全体の中で包括的に対処するということですね。それから短期だけではなく、長期的な戦略的関係の構築を図ることで、日中問題ももちろん解決したいと思いますね。

朝鮮との国交正常化
 同様に、その一部に第二次大戦の戦後処理というか、そのことで非常に大きな問題があるんです。つまり朝鮮。朝鮮との関係では、依然として、朝鮮を孤立させるような政策をとっているわけですね。選挙中、人工衛星というのに「ミサイル」「事実上の大陸間弾道弾」なんてことさらに騒ぐ。これはマスコミも悪いですが、さらに朝鮮を追い込むようなことをやってるわけですね。
 アジアの平和を確保する、あるいは尖閣や中国問題等々を考えるときに、その一部として、朝鮮との国交の即時樹立ということが重要だと思うんですね。問題を全体として考えるようなこと。そうでないと、「尖閣をどう」とか「対中政策をどう」というような狭い観点だと片付かないと思いますね。
 そういう点で、尖閣問題とか朝鮮との関係とかを危ぐする人たちは日本にいっぱいいるわけです。そういう人たちと連携して、どうアジアの平和を獲得するか。係争問題になっている領土問題のようなことも、いかに当面の危機を緩和しつつ、長期的には冷静な判断が、両国だけでなく両国民間もね。そういうようなことで進められるようなこと。
 中国には中国の事情があるんでしょうが、われわれは日本の内側から国民世論を形成して、打開の道を積極的に取るような運動を、今年は特に重視して進めたいというふうに思うんです。

米軍基地、沖縄問題
 二番目に沖縄問題ね。「朝日新聞」に那覇市長の翁長さんですか、彼のインタビューを載せてましたね。これは沖縄の人の切実な、赤裸々な気持ちというか、彼の願いというか、それが率直に出ているわけでね、沖縄では大きな共感を得ているのでしょう。本土の多くの人たちにとっても、沖縄の人たちにああいう叫びをさせて、われわれはのほほんとしておられるのかね。身につまされる気持ちでおられる人が多いと思いますね。だからわが党は、昨年、県議会の玉城前副議長にも会っていろいろと状況を聞きましたが、われわれも「なんとかせにゃならん」という思いがあったのでね。
 早々から、今年はこの問題に積極的に取り組みたいというふうに思うんですね。それで全国的に世論を盛り上げる。沖縄の状況はそれ以前とは政治が一変しているというか、そのことをインタビューでも紹介したいと思うんですね。彼らはこう言っているというふうにね。

労働運動の発展について
 三番目はですね、われわれは一昨年の後半から始め、昨年のインタビューでも申し上げたし、それから新春講演でも申し上げたんですが、全体ではないにしても、労働運動を打開する上で手がかりというか、その点についてわれわれは非常に確信をもちました。
 内容的には二つあるんですが、一つは地方公務員の問題で若干経験を積んで、それはその後、「労働運動の変革をめざす全国討論集会」もやったりいろいろして、まだ全体ではありませんが、全国の地方公務員の先進的な人たちの共鳴を得て、一定の前進があったんです。
 もう一つはある県ですが、民間の零細企業での闘争ですね。これにも一定の前進というか経験が見られて、この闘争は続いているんです。
 中小零細企業は大企業との間に矛盾があります。しかしもう一面から見ると、企業家は良くも悪くも資本家ですよね。やっぱり、時に苦しくなって労働者を過酷に収奪するようなことはあります。もう一つ、時に労働者が闘い始めると、偽装倒産だって平気でやるわけですよね。まあ私は冗談で、「大きいカラスも小さいカラスも、カラスはみな頭が黒い」と言ったことがありますが。闘うことによってしか、この問題は片付きませんしね。
 闘争が長期になるとね、時に周りの労働者たちの共感を呼んで共同闘争が大きく進みますが、別な面から見ると「中小企業でああいう闘争をやるからだ」というような「批判」も出てくるわけですよね。この問題で勝利したわけではなく、目下闘争中なので最後的には言えませんが、非常に重要な経験をしています。今年は、もっとこの種のことを発展させたいんですね。
 いずれにしても労働運動の全局にはまだ及んでいませんが、一角から経験を積んできたので、もっと思い切って中小企業での闘いも横に広げたいし、官公労の人たちも大阪のように敵からまだ攻撃されっ放しのところもあります。われわれは官公労を中心にやりましたけども、そこでの一連の経験に共鳴するような、そういう人たちも出てきていますので、この戦線を広げて闘います。
 考えてみると、民主党政権は連合に支えられながらですが、これらを人員削減したり給料を減らしたりね。まあ考えてみりゃ散々ですが。できれば連合の民間も含んで闘う。もちろん民間も一様ではなくてね、中小は十分闘っているわけではないにしても、大企業と比べるとはるかに困難な中で抵抗を続けている労働者の人たちもいるしね。
 しかもこれからかなり長期にわたって危機が続くような状況ですから、労働運動を大きく発展させる仕事に大きな力を注ぎたいと。

労働者が国の進路の問題で闘うこと
 その場合、われわれが労働者の先進的な人たちに特に訴えたいのは、さっきも申し上げたように、国の進路のようなこと。下手をすると、日本の軍事化はもっと進みますし、アジアで戦火が起こるかもしれないしですね。そういう中で国の平和を守るということはとても大事なことですから。そういう点で、労働者階級はやっぱり、社会的に一番数が多くて、組織されておれば、本来、これほど強大な力はないんですね。武器こそ持っていませんが、数では圧倒的に強いわけですから。
 これらが立ち上がれば、本当に国を動かすことは可能なんですね。そのことに気付いてほしいと思うんですね。沖縄の問題についてもそうですが、これらのことについても、やっぱり労働者階級がきちんとした態度をとるべきでね。

大企業以外、農・商工業者の課題
 併せて、大企業以外の商工業者ね。これらの人たちも、一面では、今度の総選挙で安倍自民党に投票した人が相当おるわけですね。それからもう一つ、格差が非常に広がった中で苦しくなればなるほど、みんな自民党に反対する、あるいは民主党に反対するかというと、必ずしもそうでないですね。民主党を離れて社共に行ったわけではないですから。民主党を離れて自民党に行っとるわけですよね。歴代自民党政治、そして最近の三年間の民主党政権の中で救われなかった人たちが、ワラをもつかむような気持ちで支持した。思い出すと、小泉政権ですら「自民党をぶっ倒す」と言って票をかすめ取ったんですね。
 似たようなことがね、「左」の政党、たとえば社共のような政党がね、実際に本当に包括的な国を救うための戦略、あるいはそれに基づく選挙政策等々をもっていたかというと、あれもご存じのように、みな「消費税反対」「原発反対」「TPP反対」。みんな同じことを言うわけですよね。それじゃあ皆さん、消費税が上がらなくても苦しくなかったんだろうかというふうに思うね。「消費税反対」はもちろんやらにゃならんのですが、にもかかわらず、労働者など、この国のごく一部の銀行や大企業、資産家たち以外の人たちがこの苦しみからどう脱却するか、少なくともそういうことについての明確な方向を、出さにゃならなかったんですよ。出してないですね。

国の進路、経済で包括的政策が必要
 険しい国際状況の中で、日本が危機から脱却する選択肢というのは非常に少ないんです。今度安倍内閣がとる政策だって、狭い困難な道を行くわけです。
 やはり独立の課題は、単に安全保障の問題等々だけではなくて、経済についても同じですね。したがって、われわれは今回の選挙で重要な争点は二つだと言って、国の自主や独立についてどういう道を選ぶか、この世界の中、独立を闘い取ることが非常に重要だと。これが一番大事だと。
 次にあるのは、諸階級の生存の諸条件としての経済ですよね。この点についてもやはり包括的な政策が必要です。特に国際的な環境は厳しいですから、そういう中で暮らさにゃならん日本について、どう経済を考えるのかね。この二つを挙げたんですね。
 むしろ、包括的なことを言っているのは自民党だったんですね。野田はそれに対して批判はしたが、打開の道を示せなかった。おそらく、困った人たちの多くが自民党に期待して、それで自民党が勝利した面もあるわけですよ。まあ実際の票がどうだったというのもありますが、全体として困った人たち、あるいは中小業者の多くがね、投票に行かなかった人もあるんですが、にもかかわらずそういう人たちが自民党を政権に復帰させたことは間違いない。さらに、維新の会などの動向を考えますと、そういうことですね。

労働者階級は闘いの中心に
 労働者階級に、少なくともこの国の全局にかかわるような国の進路、あるいは外交問題、こういうようなことで訴える。それから沖縄のようなことですね。あるいは現状で苦しんでいて、今回はやむを得ず自民党に投票したかもしれないですが、そういう零細な商工業者や、小中の資本ですね、かれらの課題を労働者階級が積極的に取り上げて闘う。自分たちの課題で闘うだけじゃなく、その諸階層の要求に同情を示し、共同の闘い、あるいはかれらの闘いを支援するというような積極策がとられる必要があるわけですね。われわれはそういうようなことを、闘い方の中で重視してやりたい、と。

労働党の党建設
 次に、それと不可分ですが、「他党にそう言うなら、堂々と自分たちで闘ったらどうだ」と言われるのは当然ですよね。言い訳のような申し訳ないことですが、本来、労働党はそう闘います。最も有利な点、われわれが登場できる条件の中でないと、下手に国政に手を出して力を分散させるというか、消耗させるというようなことではいけないと、今回も闘いませんでした。
 きわめて重要な情勢なので、労働党はこの数カ年、インタビューとか新春講演で繰り返し先進的な労働者に訴えてきましたが、今回も党建設を訴えたい。そうでなければ、この党を強固にしなければ、今言ったような課題、特に労働者、先進的な皆さんに状況を繰り返し説明する仕事だって大変なんですよ。
 そういう点でわれわれは、党の強化に相当の力を注ぎたいというふうに思うんです。したがってわれわれの願いは、単に労働党自身の問題というだけでなく、今の全局で、とりわけ労働者階級が積極的に国の進路に大きな影響を及ぼして前進するために、このわれわれのような党に積極的に参加していただくことを、この場を借りて訴えたいというふうに思うんですね。

最後に「迫り来る破局」の問題
 今日はインタビューの場を借りて、党の考えていることをいろいろな方面から話してみましたが、しかしこの困難さは、考えてみると、われわれは〇九年頃から積極的に言ってきたんですが、迫り来る破局といかに闘うかということです。その迫り来る破局というのは、資本主義が末期的な症状というか、昔と違って、世界に広い未発達の国があるような状況と違いましてね、資本が、もうアフリカやどこも、世界の隅々まで行っている。資本がどっと入りさえずれば、そこは瞬く間に「天国」になるんですよね。「やばい」ということになれば、瞬く間に地獄になるんですよ。そういうわけで、もう行き渡っているんですよね。そういうわけで、需給ギャップが一兆ドルなんて言いますよね。
 そういうふうにして、大きな資本が有り余っていて、それはグリーンスパンの言う通りですよ。彼が〇一年以降も、つまりITバブルが崩壊して〇一年以降の、この経済の成長期というか再編期にね、切り抜けようがないので金融緩和をやり、どんどんやって住宅バブルになって、そして〇六年頃にはすでにはじける兆候が出ていたんですね。だから「根拠なき熱狂」とか言ったわけでしょ。それにもかかわらず、米国自身が暮らしていくために、カネをロクに払わず、輪転機を回してメシを食ってきたわけでしょ。輪転機を回して紙幣を世界に払っているということを知っていながらも、先進諸国の製造業者たちはそこを当てにしてとりあえずは生きてきたわけですよね。それが行き詰まったわけでしょ。そしてバブルが崩壊した。
 非難されたときに彼がどう言ったか。それまでは「金融の神様」と言われていた。非難され始めると「また起こる」と。「問題は資金がこれほど有り余っていて行き場がないことだ」「経済が停滞したとき、他にどういう手があるんだ」と。資本の行き場をつくってやっただけですよね、彼は。そう言ったわけですよ。
 そして今は、なんで末期症状かということの一つに、相対的な安定期が来るような状況じゃなくて、金融が落ち着かない、どんどん注入しても落ち着かない。そしてそういう中で他方では新たにバブルが発生する、というようなことが起こっているわけですよ。以前は、バブルが出て、つまり長期金利が下がって、儲(もう)けが少なくなると、結局資本はどこに持っていくかで騒ぐわけですよね。生き血をすすろうとして騒ぐわけですよ。そうするとそれに見合う「旦那、いい儲け口がありますよ」というようなことができるわけですよ。それで、不動産なども証券化したわけですから。金融の技術が盛んになったということは、そういう資本の行き場のないものを、あれこれあれこれ投資家たちが、有り余る資金の中でバクチをし、勝った負けたで弱いやつが崩壊し、ということで、だんだんその資金は最後的には銀行に集まるというような、あるいは投資家に集まるというような。
 先は続かないのに、これを「金融技術が発展したから」と言った。途中では「ニューエコノミー」(景気循環が消滅するという理論)とか。〇三年に言ったという話があるが、もはや一九三〇年代のような危機は防げると、そこまで経済学が発展してきた、と言ったわけでしょ。その三年後には、バブルがはじけるさまざまな兆候が出た。
 日本で水野和夫(三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト)の話も考えるとね、彼が〇六年に「金融が決定的だ」と書いたようなときでも、もうそのときには崩壊の予兆が出ていたんですよ。だから彼は若干、その計算もしてたんですよ。けれども、「もう先進国は製造業の時代ではない」と言った。で、今度は米国がどうなっているかというと、社会問題が解決できないわけです。金融でメシを食ったって、そこに住む人たちがどうなるかという問題があるわけですよ。製造業がみな中国やその他に移っていくということであればね。だから米国がいうところの、水野さんが褒(ほ)めたあの米国モデル、「先進諸国は金融で」というね、そして発展途上国が製造業という、そのモデル、先進諸国モデルというのは、米国でもう破たんしたんですよ。つまりこの問題は社会的危機を救えないということです。失業を解決できない、ということですよ。だからそういう時代、もう末期にきているんですよ、これはね。
 それから、発展途上国、ここにもいろいろ言うけれど、垂れ流された資金がそこに行くわけでしょう。そうするとそこも、製造業を発展させたり、確かに市場も少し広がったり、そこの民度も、賃金も上がったりするわけですが、全体としてそこが発展する機動力、本質は、そこででつくった商品が先進国に受け入れられるということが前提でしてね。だからデカップリング論というのは全然成り立たなくて、今ではそれはもう皆知ってると思うんですよ。したがって、最近では先進国が垂れ流すと、G20でも「迷惑千万」と開き直られるわけですよ、みんな。ところが先進国は「通貨であまり責めないでくれ、市場に任せてくれ」と言って。そんなことできないですよ。したがって国際関係は厳しくなってくるわけですよね。それでそれは先進国と発展途上国の矛盾だけでなく、先進国同士の「通貨戦争」「貿易戦争」といわれるのはそういうことですよね。
 最後ですが、私が〇九年頃から言っている「迫り来る破局」というのは、資本主義が末期症状に来て、戦争を含む乱世の時代でですね、それをどういう形で脱却するか、ですね。再び戦争で、生産力を打ち壊して、そしてまた何十年か世界を後戻りさせて再建を始めるのか、これね。そうしたって資産は膨大にあるわけですから、たちどころまたくるわけですよね。それは労働者階級が事の真相を知らなればそうなるんですが、しかし知れば、それぞれの国でまず、一国の中で労働者階級が政権を奪う、そういう勝利。そしてそれが一国また一国と広がっていくということで、まあ一九一七年に始まって、一連の前進をして、そして社会主義がまた冷戦の崩壊で大幅な後退をしましたが、またその再現というか、一歩一歩利口になる可能性もあるわけです。今やや信用をなくしていますがね。
 だからそういう点から見ると、われわれは楽観主義であってよろしいと思うんですよ。
 ちょっぴり負けたり、今度の総選挙で大負けしたりしたのも、考えてみればわれわれが十分に経験に学んでいなかったり、何より労働者の最大の組織であるナショナルセンターの連合が資本家の後ろにヨチヨチついていくということがあります。社会民主主義者はそれを何とも言わず、というような状況だから。だけど、客観的にはわれわれには楽観すべき根拠があるんですよ。これぐらいにしましょう。

大嶋 ありがとうございました。


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