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2012年11月25日号 6面 

都知事選に際しての声明

都政大転換に向けた闘いを
本格的に準備しよう

日本労働党東京都委員会委員長 秋山秀男

 石原慎太郎氏が任期一年で東京都政を投げ出し、辞任にともなう東京都知事選挙が十一月二十九日告示、十二月十六日投票で行われる。野田首相の突然の衆議院解散によって、都知事選・総選挙のダブル選挙となった。
 二〇〇八年秋以降の世界的な金融・経済危機が今後ますます深刻化すると予測される中で行われる今回の都知事選は、アジアの平和にとっても、広範な都民が石原都政の根本的な転換を闘い取る上でも、従来に増して重要な意義を持つ。
 しかし、事実上始まった都知事選の状況には、根本的な疑問を呈さざるを得ない。猪瀬副知事は「石原都政を受け継ぐ」と出馬を表明したが、これに対して他の陣営、候補者は首都東京知事選の「真の争点」を明らかにし、争っているのであろうか? われわれにはそうは思えない。これでは石原とその亜流を打ち破り、都政を抜本的に変えることはできないと考えざるを得ない。
 従って、わが党は今回の都知事選に際して、党としてどの候補者も支持あるいは支援することはできない。また、わが党は今回の都知事選で党の独自候補を立てて争うことを見送ることにした。今後はいっそう力を入れて都民の切実な要求を取り上げて闘いながら、東京の労働者を先頭に、中小企業経営者、自営業者などの広範な都民と団結して、都政の大転換に向けて戦略的に準備を進めることを表明する。

1、石原都政の抜本的な転換が求められている

 何はともあれ、「十三年間の石原都政をどのように評価するか」は、今回の都知事選の避けてはならない争点である。彼の政治を肯定的に評価して、それを継承するのか、それとも批判して大転換をめざすのか、すべての候補者は態度を鮮明にしなければならない。
 石原都政に特徴的なことの一つは、「対米自立」のふりをしながら対米従属の政治を地方政治の場で行ってきたことである。もう一つの特徴は、多国籍企業、金融独占資本が激化するグローバル競争に打ち勝つために、とりわけアジアの「都市間競争」に打ち勝つために、東京の財政など諸資源を動員して、都市再開発とインフラ建設(高速道路建設、羽田空港の国際化など)に力を入れて、東京の「世界都市化」を促進し、支配層の利益に奉仕してきたことである。逆に、大多数の都民の経営・くらしは石原都政では基本的には切り捨てられてきた。
 こうした石原都政の内外政治は米国に依存しながらわが国が「アジアの盟主」になるという戦略目標をめざすものであった。なんという時代錯誤だろうか! しかし、それは時代閉塞と「東アジアは波高し」という激動の情勢の中である種の存在感を持ち、一部の人たちをひきつけており、われわれは警戒心を持たなければならない。
 大多数の都民にとって対米従属で、多国籍企業・金融資本優先の石原的な政治は耐え難く、もはや限界にきている。それを継承するすべての候補者、「石原亜流」候補を打ち破ることなくして、大多数の都民の未来はないのである。


2、今都知事選の真の争点は何か?

 われわれは以下三点が「真の争点」として争われるべきと考える。
(1)石原都政をどう評価するのか。継承か、大転換をめざすのか。
 真正面から石原都政について明確な評価を下し、継承か大転換か態度を表明すべきである。
 大転換を主張する候補者は、どのようにして石原及びその亜流の都政と闘うのかを有権者に問わねばならない。
(2)日米同盟深化による中国に対峙(たいじ)して再びアジアの平和を乱すのか、それとも独立・自主でアジアの平和と共生を図るのか。
 石原前知事は、当初は「米軍横田基地返還」の旗を掲げたが、米国に一蹴(いっしゅう)されるや素早く「軍民共有化」に切り替えた。これは全くの欺まんであり、都民をたぶらかすものである。また、以前から隣国である中国や朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対する暴言で信頼関係を壊し、東京・日本の評判をおとしめた。今年四月に「尖閣列島を東京都が購入する」と騒ぎ出し、わざわざ米国まで行って購入プランを披露して、日中関係の悪化に拍車をかけた。
 石原氏の「外交」は、反中国、朝鮮敵視をあおり、わが国の核武装を含む軍備強化、集団自衛権行使、憲法改悪を進め、米国のアジア戦略の下で「アジアの盟主」を狙ったものである。
 彼が狡猾(こうかつ)なのは、「日本は米国のメカケ」などと言って「反米」や「愛国」のふりをし、また中国を「シナ」と呼んで国民・都民の敵がい心と排外主義をあおり、一部の支持を得ていることである。彼の政治の本質はデマゴギーである。彼の正体は「対米従属」「売国」であることを暴露しなければならない。その証拠に安保条約破棄や米軍基地撤去を決して言わないではないか。
 わが国がアジアで政治的に信頼され、またアジアと共に生きていくためには、まず対米従属を打ち破り、国の独立・自主を実現しなければならないことは自明である。東京都民にとって、首都・東京に外国軍隊の総司令部(米軍横田基地)の存在を許し続けることは、独立・自主の国の進路と真っ向から対立する。そのような国をアジア諸国は決して信頼することはないであろう。
 東京都政は日本の首都の地方自治体として、先頭に立ってアジアの平和と共生のために尽くすべきであろう。日中関係が悪化している現在、「アジアの平和」のために具体的に行動することが求められている。
(3)窮状に陥っている大多数の都民の暮らし・営業に救いの手を差しのべるのか?それとも多国籍企業や金融独占資本に奉仕するのか?
 都政がその目線を、東京の支配層である金融資本、多国籍企業ではなく、大多数の都民の暮らしと営業に向け、都民が食えているのか、何に困窮しているのかに関心を払い、応えようとする姿勢に転換することができるか否かがカギである。予定候補者は、「都市再開発や高速道路建設などに過剰な財政を注ぎ込むことを減らし、都民と暮らしのために財政を出動する」と都知事選ではっきり言うべきだろう。
 東京は中小製造業事業所が全国一多いし、技術でも優れた蓄積を有する「ものづくり」の町でもある。この強みを生かし、製造業の再生と発展を、財政支援や税制、金融面からも大胆に支援すべきであろう。
 東京の産業は情報サービス業や金融保険に特化しているが、長期的にはバランスのとれた産業構造を作ることがこの期間の世界的な金融恐慌を振り返ればその重大さが理解できる。また、自動車・電機など民間大企業の輸出依存は危険であることもこの間の世界的な金融・経済危機の中で実証されたが、そこから脱出し、中小企業、自営業も、大企業も長期に「安定的に」経営を続けるには、輸出依存を是正し、内需拡大の経済構造を構築していくことが必要である。そのためにも、労働者に対して、「生活できる賃金」を保証するように知恵を絞り、大企業や金融資本への必要な規制を強化する政治力を持たねばならない。日本経済の再建にとっても「アジアとの経済連携」が必要である。その最大の保障が日本がアジアに信頼される国になることである。
 最後に日米関係であるが、円高、また政府による米国債購入、さらにエネルギー政策やアジア経済圏の構築など、わが国政府・支配層の対米従属の政治はもはや限界にきているということである。東京都は石原前知事が進めた対米従属外交を清算し、独立・自主、平和、アジア共生のために尽くしてこそ、日本経済・東京経済の発展、従って国民経済を守ることができるのである


3、主な候補者たちは真の争点を明らかにし、選択肢を示して、東京の有権者の審判を仰ぐべきである

 石原が都知事「後継者」と指名し、自民党、日本維新の会、公明党、みんなの党が支援するのが猪瀬副知事である。彼が何を言おうと石原亜流であることは明らかであり、それだけで「都知事失格」とわれわれは考える。猪瀬副知事に対抗して、前日弁連会長の宇都宮健児弁護士、前神奈川県知事の松沢氏、元ネパール大使の吉田重信氏、元自民党国会議員で総務会長も担った笹川尭氏などいろいろな候補者が出てきている。最大の労働団体「連合」の支援を受ける民主党であるが、独自候補を立てて争わず、自主投票となった。東京における民主党の凋落(ちょうらく)は明白だ。共産党、社民党、国民の生活が第一、市民グループが知事候補に担ぎ、応援するのが宇都宮氏である。こうした候補者は石原とその亜流の政治を打ち破ることができるだろうか? われわれは難しいと考える。発表された政策では「真の争点」が隠され、あるいは不十分にしか触れられていないからである。
 石原都政に批判的と思われる宇都宮候補はどうであろうか? 彼が掲げる「都政で実現をめざす四つの柱」を検討した。「四つの柱」は「誰もが人らしく、自分らしく生きられるまち、東京をつくります」、脱原発、教育再建、護憲、である。われわれは、こうした「四つの柱」では、本当にアジアの平和を守ること、また大多数の都民の暮らしの悪化、経営の窮状の打開ができるとは思えない。まず、何よりも東京都政を牛耳る真の敵は誰なのか、またこの連中がどのようにして権力を維持しているかも暴露されていない。われわれは石原都政の背後にいる真の敵は一握りの金融独占資本、多国籍企業であると考えており、共産党のように「土建屋都政」とは考えていない。敵の正体が誤って把握されるなら闘いようがないし、闘い方でも間違うことになる。
 もう一つの問題は、石原、橋下、猪瀬(自民党の安倍も含めて)らの政治とどのように闘うかが鮮明でないことである。宇都宮氏は、都知事選の立候補表明で、尖閣諸島問題を機に憲法改悪や集団的自衛権の行使を声高に叫ぶ勢力が出ていることを批判し、「憲法改悪を許さないことを宣言し、平和で人権を守る首都をめざす」と述べている。また、共産党・志位委員長と宇都宮氏の対談でも、尖閣諸島問題を契機に排外主義的な動きが台頭しており、「冷静で平和的な外交」が重要だと語られている。しかし、平和や改憲反対のスローガンだけで、この危険な連中を打ち破ることができるのか? われわれははなはだ疑問である。
 この連中の台頭を許しているのはなぜだろうか? 戦後の「革新勢力」が担ってきた従来の護憲平和運動に問題はなかったのか検討すべきであろう。われわれは領土や国家主権の問題、あるいは外交・安全保障問題で「革新勢力」、左の勢力がほとんど闘えなかったことに弱点があったと考える。宇都宮陣営にこの問題意識はないか、あったとしても希薄である。こんにち、石原、橋下、安倍らは日米同盟「深化」に頼って中国に対峙し、日本の軍事大国化を進め、アジアでの発言力を高めようと策動している。この連中と闘うには対米従属政治を打破し、独立・自主を実現する以外にない。そうしてこそ日本はアジアで信頼され、アジアの平和と共生を実現できる。今都知事選挙でも「独立、アジアの平和」の旗を掲げて堂々と闘ってこそ、石原的な政治を打ち破ることができるのである。この点では「都政は険悪化した日中関係打開の音頭を取る」ことを公約に掲げる元ネパール大使の吉田重信氏のほうが、民族的な課題、国の進路の課題での都政の役割が明確でない宇都宮陣営に比べて注目に値する。
 また宇都宮陣営は、共産党、社民党、生活などが支持を表明し、基本政策が異なるいくつもの党の「相乗り」となった。総選挙で一議席でも多く獲得しようとする各党の離合集散と党利党略が連日報道される中、都民からはこの「相乗り」は「野合」ではないか、との厳しい政治不信の声がある。こうした批判にどのように応えるのだろうか。


4、一握りの支配層から都政を奪取し、都民大多数のための都政を打ち立てることを目標に、広範な都民の政治的連合を構築して戦略的に闘いを進めよう

 以上のように、都知事選の予定候補者は都民各層が抱える問題や都政の課題について把握、精通しているとは思えず、こんにちの都政の「真の争点」を明らかにしていないため、政策的な対立軸が不明確である。従って、わが党はどの予定候補も支持しない。
 このことは同時に、われわれ自身が石原都政の転換を訴えつつも、こうした「真の争点」について暴露し、浸透する活動がきわめて不十分であったことの証左でもある。
 今後わが党は、国の独立・自主、国民経済・国民生活擁護、アジアの平和と共生をめざして、労働者、中小商工業者・自営業者、中小企業経営者、農民・漁民など大多数の都民が団結して、都政を牛耳る一握りの支配層から大多数の都民の手に取り戻すために全力を尽くしていく。
 特に、労働組合・労働者が広範な都民運動の中心として大きな役割を果たせるように実力をつけることを期待したい。わが党はそのために戦略的努力を続けることを重ねて表明する。

二〇一二年十一月二十五日


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