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2012年9月5日号 1面〜2面・社説 

独立・自主の国の進路を確立し

戦略的日中関係の発展で
アジアの安定へ

 国交正常化から四十年を迎える日中関係が、尖閣諸島問題を焦点にして、またも緊迫している。
 直接のきっかけは、石原都知事による尖閣諸島「購入」発言である。それに反発した香港の「活動家」が同魚釣島に上陸して逮捕され、さらに中国各地で反日デモが発生、丹羽・中国大使の乗る公用車が撃われた。日本の国会では実効支配のため「警備体制の強化」を求める決議を採択。東京都は同諸島の沿岸調査を実施した。
 尖閣諸島はわが国の領土であり、実効支配を強めることは当然である。
 だが、米国の対中戦略に利用されてはならない。
 「二つの道」が争われている。対米従属で中国に対抗する道か、独立・自主で中国との戦略的な関係を構築する道か。米帝国主義がアジアへの干渉を強める中、独立・自主でこそ、安定したアジアを自主的につくることが可能になる。これこそが、わが国の展望を切り開く道である。
 領土・主権を守るとともに、独立・自主で中国との戦略的関係、アジアの共生をめざして壮大な国民運動を発展させる必要がある。
 労働運動は、こうした国の独立の課題で先頭に立ち、独立・自主の広範な戦線の形成のため奮闘しなければならない。

わが国領土への実効支配強化は当然
 尖閣諸島がわが国の領土であることは明白である。
 わが国は一八九五年、十年間もの調査確認の上、尖閣諸島の領有を宣言した。清国も含め、異議を唱えた国はなかった。これは、国際法の「先占原則」にそった正当な行為である。日清戦争の結果、同年に結ばれた下関条約で、日本は清国から台湾と澎湖(ほうこ)諸島を奪ったが、清国の定義でも、これに尖閣諸島は含まれない。
 中国側も、当然にも日本の領土として対応した。一九二〇年に中華民国が沖縄・石垣島の住民にあてた感謝状にも、あるいは解放後の五三年の中国共産党機関紙「人民日報」社説や中国政府発行の地図などにも尖閣諸島が日本領であることが明記されていた。
 第二次世界大戦の結果、日本がそれまでに奪った植民地を放棄したのは当然だったが、そこに尖閣諸島は含まれなかった。しかし、自民党政権は五一年のサンフランシスコ条約で沖縄を米国に売り渡し、尖閣諸島は米国施政下で射爆場として使われた。
 七二年の沖縄返還で、尖閣諸島はわが国の主権下となった。
 ところが、国連が尖閣諸島海域に原油が埋蔵されている可能性を報告すると、七一年、突如、中国は同諸島への領有権を主張するようになった。台湾当局もならった。古い文献の記載や同島が中国の大陸棚の上にあることが「根拠」だが、まったくの後付けである。周恩来首相が七二年の田中首相との国交正常化の際の会談で「石油が出るからこれ(尖閣諸島)が問題になった」と率直に述べていることでも、意図は明白である。しかも、周首相は交渉でそれ以上には問題にしなかった。
 七八年の日中平和友好条約締結の際も、尖閣諸島はいっさい問題にならなかった。
 だが、来日したトウ小平・共産党副主席(当時)が「棚上げ」「解決を将来世代に委ねる」と述べた。これが日中間での「合意」であるかのように言われる向きもあるが、両国間で「棚上げ」を合意したわけではない。トウ小平氏と中国政府が一方的に希望を「述べた」にすぎないのである。トウ小平氏らは、自国に力がつくまでの問題「棚上げ」を狙ったのであろうが、わが国がそれに縛られるものでない。
 なお、李登輝「総統」以前の台湾も、尖閣諸島が日本領であることを認めている。
 経過はこうしたことである。わが国の領有宣言以来、尖閣諸島が両国間の公式関係の中で領土の係争問題となったことは、ただの一度もない。
 わが国の領土であることは明白で、実効支配の強化は当然である


中国の発展と矛盾、わが国の対応
 その後、中国の経済発展は急速で、政治面でも台頭は著しい。国内総生産(GDP)では世界第二位になり、軍事力も増強、国際的地位を著しく高めている。成長に伴い、資源など海洋権益確保の重要性も増している。米国への対抗も強めている。国家としては普通のことだが、経済発展に伴って軍事力も強大化している。
 それにともなって、尖閣諸島と周辺海域をめぐって、日中間で何度か問題が起きた。ガス田開発問題では両国間で交渉が繰り返されてきたが、交渉は二〇一〇年七月に中断したままである。〇〇年に発効した日中漁業協定でも、尖閣諸島周辺海域(北緯二七度以南)は「新たな規制措置を導入しない」という形で、一般の公海上の原則適用で妥協した。それでも中国側は、それ以前同様、尖閣諸島周辺海域を日本領海として扱ってきた。
 しかし、日本政府は実効支配を強化するなど、国家主権にかかわる問題にきちんと対応してこなかった。靖国神社への参拝で対中関係を悪化させた小泉政権でさえ、尖閣諸島に不法上陸した中国人を入管法に基づく強制送還処分としただけであった。日中経済関係で財界の利益に迎合し、国家主権をあいまいにしたもので、きわめて売国的である。
 こうした中で一〇年九月、尖閣諸島周辺の領海内に侵入した中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件が起きた。最初、菅政権は強硬路線で粋がった。
 これに対し、中国政府はガス田交渉を含む閣僚級の交流をすべて停止したほか、レアアース(希土類)の対日輸出を一方的に停止し、ゼネコン社員の身柄を拘束するなど、理不尽な「報復」を行った。
 民主党政権はこの圧力になすすべがなく、すぐに腰くだけになった。石垣地裁は暴力行為の容疑で逮捕した船長の拘置期間を二回にわたって延長したが、結局、菅政権は「政治判断」で釈放した。その後も、民主党政権は独立・自主で実効支配の措置などはとらなかった。むしろ、米軍依存の日米同盟「深化」にいちだんと傾斜した。
 他方、こんにちの中国も「強さ」ばかりでない。欧州をはじめとする世界的経済危機を背景に、経済的困難が増している。沿岸部を中心に雇用問題が深刻さを増し、労働者や内陸部住民は貧富の格差への不満を高めている。しかも、数年に一度の権力移行期で、政府は対応を迫られている。反日デモなど急速に高まって暴動となったり、政府がある程度許容する背景には、こうした国内の不満がある。
 だが、中国には尖閣諸島を武力で奪うだけの力はないし、そうした冒険主義に走るほど愚かではない。まして、米国との戦争や極度の関係悪化は望んでいない。かつて毛沢東は鋭く覇権主義に反対したし、トウ小平も「長期に頭を低くする」ことを原則とした。現政権も、欲しているのは長期の周辺環境と国内の安定、経済発展で、他国と同様に政権の持続である。
 一連の事態には、こうした中国の「弱さ」も反映している。
 中国は戦略展望の中で、尖閣諸島の領有権を迫ってくるだろう。わが国はそうしたものとして対処しなければならないが、それは可能である。
 だが、日本の反動派はことさらに騒ぎ立てている。それには別の意図がある


米国の危機、同盟「深化」に踏み込む野田政権
 〇八年のリーマン・ショックを機に危機はいちだんと深まり、資本主義は末期症状を呈している。国内対立が激化し、諸国は自らの国益をかけた動きを強め、国際協調は崩れ、米国の衰退も著しく、国家間の紛争も絶え間ない「乱世」となった。
 とくに実質一五%以上とされる失業率など、米経済は深刻である。度重なる金融緩和も効果はなく、来年には軍事費を含む強制的な財政削減(財政の崖)が迫り打開策はない。
 衰退著しい米国は、アジア市場の確保に血道を上げている。米国にとって、アジアへの関与は、九五年の「東アジア戦略」以来の戦略でもある。その狙いは、中国を米国主導の「秩序」に取り込んで、旧ソ連のような対抗を許さず帝国主義にとって無害な国にすることである。
 米国は、アジア域内での「再均衡」政策を進めようとしている。それは、日本や韓国、オーストラリアなどアジア太平洋諸国を巻き込んで中国に対抗しようとするものである。在日米軍再編、環太平洋経済連携協定(TPP)によるアジア分断、「航行の自由」を掲げての南シナ海問題への干渉、ミャンマーとの関係正常化など、中国へのけん制をいちだんと強めている。米国の超党派の対日政策立案責任者のアーミテージ元国務副長官らは、日本に集団的自衛権行使の明確化、軍備増強、憲法改悪などを露骨に要求し「覚悟」を迫っている。
 こうした米国にとって、尖閣諸島問題は、日中間の不和をあおり対立させることで自らのプレゼンスを高めるための格好の材料である。
 むろん、米国は国債購入など中国の助けなしには財政が保たないし、中国の巨大市場で儲(もう)けたい。すべては、米国の国益からの判断である。
 この米国の策略を見抜き、闘って、独立・自主の展望を切り開かなくてはならない。危険なときでもあるが、米国が衰退するこんにち、本来チャンスでもある。
 ところが、わが国民主党政権は米国の戦略に徹底して追随し、日米同盟「深化」による中国へのけん制強化と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視を強めている。まさに時代錯誤である。
 「新防衛大綱」の策定、南西諸島での自衛隊増強、武器輸出三原則の事実上の撤廃、普天間基地(沖縄県宜野湾市)の県内移設、垂直離着陸輸送機オスプレイの配備、原発再稼働、TPP参加など、米国の言うがままである。これは米国の対中戦略の先頭に立たされる、危険きわまりない動きである。
 民主党政権は国家主権を守るのではなく、財界の願う経済実利優先で、動揺的で最悪である。一〇年の腰くだけもそうだったが、今回も中国に対しても領土・領海を守る措置をとらず「活動家」の上陸をやすやすと許し「国外退去」という名目で早々に釈放した。これらはむしろ、中国につけいられるスキをつくった。胡錦濤主席に送った「親書」の内容は明らかではないが、野田政権の態度からして「推して知るべし」である。
 国民生活はさらに悪化し、国内矛盾は激化している。政党、党派間の闘争も激しさを増し、しかも総選挙も近い。こうした中での尖閣諸島問題である。安倍元首相、橋下・大阪市長らはこの問題を最大限に利用しようとしている。
 したがって、尖閣諸島の領土主権を守りつつ、同時に、対中関係、対アジア諸国関係を発展させる路線闘争が厳しく問われている。

戦略的日中関係の構築を
 「二つの道」が争われている。米国に追随し中国に対抗する道か、独立・自主で中国と戦略的に対応する道か、である。
 野田政権がとっているのは米国の戦略に縛られて中国に対抗する道で、わが国を中国やアジアと敵対させる亡国の道である。他国に頼る奴隷根性では、激動の国際情勢に対応できない。他国と対等に渡り合おうとすれば、まず、自らが自立しなくてはならない。そもそも、米国が自国の国益を犠牲にして他国を守るはずはない。
 また、領土問題は重要だが、日中関係における問題の一部にすぎない。
 中国は一八四〇年のアヘン戦争以来、収奪・抑圧され続けてきた。実力をつけたこんにち、中国が国際政治において、従来以上に「自由に」振る舞いたいと思うのは自然な流れで、とりわけ侵略した立場のわが国は理解もしなくてはならない。だから、日本の国益を犯されれば毅(き)然とした態度が必要だが、それをセーブしつつ戦略的に複雑な闘いをしなければならない。
 すでに述べたが、米国は中国を「包囲」するかのように戦争の危険性を含む関与政策を強めている。中国は圧力を感じているであろう。米国の圧迫が強まるとすれば、それは、日米同盟「深化」路線反対、わが国の独立のための闘いにとって「敵は共通」ということになる。
 われわれが自国の力に依拠すれば、尖閣諸島問題など意見の違いはあったとしても、アジアから米軍を一掃する上で中国と共同できる可能性は十分にある。
 ベトナム、フィリピン、マレーシアなど中国との領土問題を抱え、アジアをめぐる米中の争いの影響を受けるアジア諸国も、日本の態度を注視している。韓国や朝鮮も同様であろう。
 米国から完全独立し、中国と戦略的な関係を構築してこそ、アジア諸国の尊敬を受け、平等・互恵の関係を築くことができる。日中経済関係は双方にとっての利益であり、東アジアの経済連携はわが国の展望である。これこそ、展望ある道である。

国の独立を掲げた壮大な戦線を
 独立・自主の日本国民大多数に依拠した政権だけが、断固とした態度で民族の尊厳と真の国益を守ることができる。独立・自主で、尖閣諸島への実効支配を強め領土主権を守りながら、日中関係を戦略的に発展させなくてはならない。
 米国に追随すれば国を守れるかのような態度を取る野田・売国政権を打ち倒し、独立・自主の政権を樹立しなければならない。自国人民に頼った安全保障政策を打ち立てなければならない。
 安倍、橋下、石原らがあおる「実効支配」「国家主権」の主張も、対米従属を一歩も出ない欺まんである。石原が「尖閣購入」を都庁ではなく、わざわざ米国に出向いて発表したことでも、その性格は明らかである。粋がってはいるが、この連中は対米従属の枠を一歩も出られない売国奴で、アジア敵視でわが国の進路をいっそう誤らせる、きわめて危険な存在であることを自己暴露している。
 歴代自民党政権が続け、民主党政権も受け継いだ対米従属政治は各方面で限界に達している。わが国の進路をめぐり、保守層の中での分岐も進まざるを得ない。
 独立・自主のための壮大な国民的戦線を形成して闘うべきときである。


労働運動は国民運動で指導的役割を
 労働運動は、壮大な戦線の中心的組織者として奮闘しなければならない。
 「脱原発」「消費増税反対」などに熱中している一部勢力にも言わなくてはならない。その要求や運動は当然だとしても、国家主権、国の存立に関わる問題での確固とした方向なしに、長期にわたり、一貫して国民諸階級を率いることはできない。
 戦後長く対米従属の自民党政治が続いたにもかかわらず、かつての社会党や共産党が自民党の売国政治を打ち破れず、少数派に甘んじた経験を想起しなくてはならない。日中国交回復でも沖縄返還でも、戦後の対米従属からの独立の課題は、最後的に自民党政権に指導権を奪われ、かれらが国民的支持をひきつけ、労働運動と野党は孤立させられた。今なぜ、石原や橋下らに対抗できず、野党勢力と労働運動が現状にとどまっているのか、真剣に考えなくてはならない。
 他方、沖縄で「革新勢力」が今も一定の影響力を保っているのには根拠がある。復帰と基地撤去の県民的な文字通りの「島ぐるみ」の闘いを労働運動が一貫して主導的に闘い、こんにちも堅持しているからにほかならない。
 領土問題、国家主権の問題が現実政治の第一級の課題となった今こそ、独立・自主の旗を掲げ、民族の前途を切り開かなければならない。労働運動が、全国民の中で指導的を役割を果たさなければならない。労働運動が飛躍を遂げる時である。そうでなければ、この旗を反動的勢力が掲げて台頭し、危険な役割を果たすだろう。これは歴史的経験でもある。
 わが党は、そのような戦略的展望をもって闘う決意である。


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