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2012年4月15日号 4面〜6面 

労働者・市民には「財政難」の
責任は一切ない!

銀行に食い物にされる横浜市財政

日本労働党 横浜市役所細胞

はじめに

 二月二十九日、国家公務員に対して二〇一一年度人事院勧告による〇・二三%の賃金引き下げを実施した上で、一二年度から二年間、平均七・八%の賃金をカットするという給与削減法が成立した。大阪市では非正規職員を含めて三〜九%の賃金カット、南足柄市では地域手当の全廃や三%の賃金カットなど、地方公務員に対する攻撃に広がっている。わが横浜市でも、みんなの党議員が市議会で、職員などの給与、諸手当の削減条例案を提出するなど攻撃が強まっている。隣の鎌倉市では、民主党議員が同様の条例案を提案し、攻撃に出ている。神奈川県黒岩知事は、財政危機を騒ぎ立て「神奈川臨調」なるものを設置し、行財政改革攻撃を始めている。
 こうした政府や自治体当局、与野党議員、マスコミなどによる公務員への攻撃に対して、闘いの準備を急がなくてはならない。その中心は、「公務員の賃金が高いので財政難に陥った」「このままでは夕張市のようなる」という宣伝攻撃へ対処である。この間、こうした「公務員攻撃」に、残念ながら自治体労働者はほとんど闘えず、屈している。
 私たちはこの状況を打開するために、横浜市の職員の状態や財政状況について調査し研究した。「財政難」の裏側には、その財政で儲(もう)けた一部大企業や銀行などがあり、対米従属の政府・国家が見えてきた。このカラクリがウソで塗り固められ隠されているのだ。
 初めての研究で分からないことが多く、不十分さや誤りがあるかもしれないので、率直に指摘していただきたい。小論が横浜市の自治体労働運動の前進に少しでも役に立てばと考える。労働運動の活動家の皆さんや、横浜市政にかかわる皆さんのご検討をお願いする。なお、党理論誌「労働党」一二年春号に、山本県委員長が「神奈川県での自治体労働者の生存条件悪化と『財政危機』、その分析」という論文を発表している。併せて読んでいただきたい。

横浜市の職員の状態

(1)政令指定都市の中で最少の職員数
 横浜市の人件費は、一九九七、八年までは人口に比例して上昇していくが、九九年からは人口が増えても人件費は減っている(図1)。
 職員数は、〇一年の三万四千六十四人から一二年の二万六千五百十二人と、十年間で七千五百五十二人も減っている。港湾病院の民営化、収集業務の民間委託化、保育園の民営化、学校給食業務の民間委託化、公的施設への指定管理者制度の導入、各職場での正規職員の削減などと、中田市長の時代に「小さな政府」「民の力が存分に発揮される社会」などと主張されて、大幅な人員削減が行われた。
 林市長の時代になってもこの民営化、民間委託化、非正規化の流れは変わっていない。その結果、当局の資料によれば、一〇年度の横浜市の職員数は人口千人あたり五・四九人と、政令指定都市の中で最少となってしまった。
 当局はそれを自慢しているようだが、それだけ住民サービスが低下していることで、それだけ職員の労働条件が悪化していることである。

(2)平均給与月額が10年間で3万円も下がった
 人事委員会の資料によれば、職員の賃金も、行政職賃金は〇一年の平均給与月額四十三万八百九十八円(資料では〇三年までは行政職と技能職の平均給与月額は区別されていない)から一一年の三十九万九千百三十六円と、十年間で三万一千七百六十二円下がっている。技能職の賃金も〇一年の平均給与月額四十三万八百九十八円から一一年の四十一万五千五百二十一円と、同一万五千三百七十七円下がった(図2)。
 この十年間には人事委員会による毎年のマイナス勧告があり、財政難を理由とした特殊勤務手当の全廃や人事考課による昇給制度の導入があった。図で見ると技能職の給与が〇六年に急に上がり、一般職より下がり方が少ないように見えるが、技能職は新規採用がなく平均年齢が高くなり、そのせいであろうか平均で見ると給与制度変更の影響を余り受けなかったようだ。
 一時金は、〇一年の四・七月から一一年の四・〇月と、十年で〇・七月削減された。
 民間の賃金も下がったが(賃金構造基本調査によれば、神奈川県の千人以上の規模の産業では平均年収は〇三年と一〇年を比較すると約四十七万円下落)、横浜市の職員の賃金も、平均給与と一時金を合計すると十年間で平均年収が約六十八万円下がっている。

(3)非正規は正規の4割の低賃金
 また人件費を削減するために正規職員が削減されて、職場には嘱託職員やアルバイトなど非正規職員が増やされた。職員定数に占める非常勤職員の割合を見ると、〇六年度の二万八千四百四十七人中五千二百五十人(一八・四五%)から、一一年度の二万六千五百十二人中六千六十四人(二二・八七%)と非正規の割合が増えている。
 嘱託職員の賃金は、区役所の事務補助が十六万三千四百円、総務課運転手が十六万六千六百円、訪問看護師が二十万五千四百円と、正規職員の約四割である。
 嘱託職員の懇談会では「正規職員と同じ仕事をしているのに、給与は四割で住宅手当も超勤手当も出ない」「一年毎の雇用で身分が安定しない。最近は五年の有期雇用も増えている」などの不満が出ている。
 民間では同じ仕事に従事する正規労働者と非正規労働者との賃金や待遇の格差を禁じる「パート労働法」があるが、公務員にはその法律がない。また、横浜市は法律を守るべき立場にあるにもかかわらず、多くの職場で二十六業務ではない通常業務に通年の派遣労働者を導入している。これは明らかに法律違反で、神奈川労働局から再三の是正勧告を受けている。

横浜市の財政状況

 一一年九月五日、林市長の名前で「来年度予算編成スタートにあたっての市政運営の基本的な考え方」が発表された。同日、財政局長・総務局長名で「収支不足額は(平成)二四年度二百七十億円、二五年度四百十億円となる。これに中期四カ年計画の取り組み事業に必要な追加額百五十億円を加えて、収支不足は六百八十億円となる」という一般会計の中期財政見通しが明らかにされ、「収支不足」が強調された。そして「職員定数を現水準以下に抑制し、効率的・効果的な執行体制を構築する」「業務の外部委託、PFIの導入に向けた検討など、可能なものから順次実施する」「コストや受益の程度に応じて、受益者に負担を求めてゆく」という事業見直し、行財政改革方針を示した。
 一二年二月一日、一二年度の予算案が発表された。この予算について当局からは「保育所運営費や生活保護費などの増大で扶助費の増加に加え、震災対策を早急に実施するために必要な経費を計上したことで予算規模が大きくなった。また、市税実収見込みは二三年度当初見込みより三十八億円の減収になっており(中略)依然として厳しい財政状況である」という説明がされている。
 年配の職員の皆さんは、「またか」と思ったであろう。何度も、「財政危機」という言いようで、市民と市職員にしわ寄せが転嫁されてきた歴史を思い起こさざるを得ないからである。市議会やマスコミは、「公務員の賃金は高い」「人数が多い、余分だ」「働かない」等々、執拗(しつよう)な攻撃をかけてきている。
 労働者側も、いわば「金縛り」である。考え方の上で、この公務員攻撃に対抗できないできた。中田市長時代はとりわけそうだったが、それ以前もそうだったし、林市長のこんにちもそれは変わらない。本当に闘おうとすると、この攻撃を打ち破らなくてはならない。
 横浜市の財政がひっ迫し、赤字=市債が大量に発行され、減らないのは事実である。しかし、市の言うように、扶助費の増加と市税収入の減が原因なのか。


1 財政のすう勢と問題点

 図3は、八一年以来の、歳出総額(借金返済=公債費とそれ以外の歳出)と歳入総額(実収入=返済しないでよい歳入と借金=市債)である。そのすう勢、特徴から、市財政はいくつかの段階に区分できる。
 九〇年ころまでは、歳入歳出の収支はほぼパラレル、並行に急増する、市債と公債費はほぼ同額で、借金は借金して返済する状況。
 その後、九七年までは公債費を除く歳出が、実収入を超えて急増し、市債発行で補い、それに伴って公債費も増加する。
 九八年からは、借金返済=公債費を除く歳出は、実収入の範囲内に収まる。ところが、借金返済の元利払いの負担は大きく、新たな借金=市債発行で返済をまかない、公債費負担(二つの線の間隔)は減らない。
後述するが、公債費のうちの利払い費が大きくなり、なかなか原本が減らない仕組みになっている。
 こうしてみると、九〇年代の歳出増とそれに伴う公債残高増がこんにちまで状況を規定していること、二〇〇〇年代は借金返済以外の歳出は抑制され、実収入のうちに収まっていて、この段階では歳入が問題ではなく、歳出の中の公債費=元利払いが基本問題であることが分かる。
 詳しく分析してみる。

2 歳入について

 市の主な収入(歳入)には、市税収入と地方交付税、国や県の負担金や補助金など支出金であり、それに市民が払う各種の使用料や手数料もある。これらが、返さなくてもよい収入である。それに借金、市債収入も主な収入源である。

(1)当局はここ2、3年の税収減を誇大に宣伝
 当局は、一二年度の市税収入見込が六千九百六十一億円と、一一年度の市税収入見込七千二十八億円と比べて三十八億円減少するので「厳しい財政状況」と説明する。それはそれで事実だが、もう少し長期に見ると、違って見える。
 図4のように、この一二年度の市税収入見込六千九百六十一億円は、十年前の〇二年度より七十七億円多く、〇六年度までの七年間のいずれよりも多い。横浜市税収は八〇年代と九〇年代は右肩上がりで増え九七年度に七千四百二十七億円とピークを迎える。以後、税収は減少に転ずる。しかし、〇五年度からはまた増え始め、〇八年度には七千二百九十四億円と二回目のピークを迎える。
 一二年度の市税収入見込は、この二回目の市税収入ピークである〇八年度の七千二百九十四億円よりは少ないかもしれないが、それはないものねだりである。
 しかも、この税収の増減は、人口や経済状況、すなわち個人、法人の市民所得の増減にもよるが、税率も影響する。税収が減少に転じた九七年以後も、個人や企業の所得の合計である「市民所得」は、〇五年まで、傾向としてそう増えはしないが、落ち込みもそう大きくはない。
 ところが税収は減少する。消費税増税のための定率減税や小泉改革での大企業や金持ち減税で減ってゆく。とくに市内の法人企業の所得は減らないどころか大きく増加したにもかかわらず、法人市民税は減少する(図5)。なお、個人では、雇用者所得が一貫して減少だが、配当所得が急増している。
 当局はここ数年の税収減を取り上げて騒いでいるが、〇〇年代後半の横浜市の税収の水準は高く、財政難の原因とはいえない。もしあるとすれば、大企業・金持ち減税の影響にほかならない。
 市長は、市民と職員に負担を強いるのではなく、政府に対して毅然と財源を要求して闘うべきである。

(2)小泉改革以後、市民負担と自治体負担が急増
 国庫支出金は増加している(図4)が、見かけにすぎない。九〇年代末の橋本首相の「六大改革」以来、〇〇年の介護保険制度導入や小泉政権の三位一体改革での健康保険制度改正、障がい者自立支援制度等々で、国の措置費など義務的負担が大幅に削られ、地方自治体への国庫支出金に替わったなどの影響にほかならない。児童手当や子ども手当、障がい者自立支援給付金などの新設、それに生活保護費の増加で国の負担金も増えている。
 その制度改悪変更で、地方自治体の負担が増加している。何よりも、保険料や利用料など直接の市民負担が増え、市民生活に重大な困難となっている。国民健康保険料が払えず、無保険者が急増している。窓口負担も大変で、病院もそうだが、デイサービスなど介護サービスを利用できない市民が急増している。
 しかも、たとえば、子ども手当は民主党のマニフェスト(政権公約)では国が全額負担するはずだったが、民主党政権の欺瞞政治で地方自治体にも負担が押しつけられたように自治体への押しつけがある。断じて許してはならない。
 これらの持ち出しの増加が横浜市の財政難の原因の一つになっている。市は、財政危機を騒ぎ立てるのではなく、ましてや生活苦にあえぐ市民からの保険料取り立て強化などではなく、政府と闘うべきである。
 また、地方交付税が三位一体改革でばっさり切られ、横浜市はゼロ近くになった。
 現在はこれを臨時財政対策債の発行で埋めているが、この赤字市債の発行がまた横浜市の財政難の原因の一つになっている。

(3)国の借金押しつけで市債発行増
 すでにふれたが、横浜市の市債発行は九〇年から急激に増える(図4)。
 さらに、〇一年からは地方交付税の肩代わりということで「臨時財政対策債」が発行され、市債発行は増えてゆく。国が地方交付税会計の財源不足を理由に、臨時財政対策債を押しつけているからである。償還について、国が地方交付税を交付するというが、何の保証もない。
 国の財政が窮屈なのは事実だが、鵜呑(うの)みにしてはならない。小泉政権は、バブルに狂って不良債権を積み上げた銀行支援のために数十兆円の国費をつぎ込み、「円高対策」と称して借金(短期国債発行)をして市場介入し、手にしたドルで米国債を購入し、イラク戦争で戦費・財政不足の米国に貢いだ。
 年々九十兆円もの予算がある国だが、問題はどこに使うかである。自公政権も、代わった民主党政権も、大銀行支援や米国のため、が優先で、地方、国民を犠牲にしている。そして地方自治体にそのツケ回しをおこなったのが、「臨時財政対策債」だ。〇一年に始まり〇三年までの臨時的な財政措置だったが、延長に延長を重ね、全国で四十兆円を超す規模となっている。
 一二年度の横浜市予算を見ると、一般会計の市債発行一千三百二十七億円のうち実に四九・七%は臨時財政対策債である。九〇年代までは公共事業のため市債が発行されたが、現在は財政難(実際は国の借金のつけ回しだが)を解決するために赤字市債が発行されている(図6)。
 今日市債が減らないのはこれ、すなわち大銀行の利益中心で対米追随の政府による、借金のつけ回しが原因である 。



3 歳出について

 義務的経費の人件費と扶助費が歳出を圧迫し、必要な市民サービスや投資的事業ができないと、とさかんに攻撃されている。事実はどうか。

(1)人件費は財政難の原因ではない
 人件費は九九年から減っている(図7)。人件費は人口が増えて仕事が増えているのに減少しているのである。当局やマスコミが「職員の賃金が高いので財政難に陥った」と主張するが、まったく事実と異なるのである。
 住民サービスを向上させ、予想される大震災に対応するためには、もっと職場の人員を増やし、賃金など労働条件を向上させるべきである。また、非正規職員を正規職員に替え、非正規職員の労働条件も向上させるべきである。

(2)扶助費についての当局のウソ
 図6のように扶助費が急増しているので、当局はこれも財政難の原因と主張する。本当だろうか。
 扶助費の最大部分は子ども手当の費用で、次に生活保護費や保育所運営費などである。
 子ども手当は「全額国費で」と約束して民主党政権が導入したが、民主党政権はその「全額国庫負担」の約束を守らず、一部、地方に負担を押しつけた。マニフェスト違反で断じて許されないが、それでも市の持ち出しは従来の児童手当相当分で、歳出の扶助費急増といってもその財源の大半は国費である。
 生活保護費や保育所運営費は、現在の社会情勢の中で増えるのは当然である。この生活保護費や保育所運営費も、財源の多くは国や県から負担金である。横浜市の場合、一般財源から出しているのは扶助費歳出の四三・五%である。
 この事実を市民や職員に見せず「扶助費が増えて財政難」と騒ぎ立てるのは、職員の人件費を下げるための口実でしかない。市民と職員をペテンにかけるものである。
 それにしても小泉改革以来、自治体の持ち出しが増えているのも事実である。指定都市市長会でも生活保護費の全額国庫負担を要求しているが、きちんと国に出させるべきである。こうしたことをやらず「扶助費が増えたので財政難」「財政難になったので受益者負担で保育料を上げる。職員の賃金を下げる」となどいうのは、全くの筋違いである。



(3)大企業のための産業基盤整備などに大量出費
 普通建設事業費は、九〇年から急激に上昇し、九二年から九六年にかけては毎年五千億円以上の支出になっていた(図6)。九七年からこの事業費は減ってゆくが、それでも今も多額の歳出が続いている。
 八九年に日米構造協議が行われ、日本政府は米国からの要求で国内の内需を増やすために海部政権時に四百三十兆円、村山政権はさらに二百兆円追加して公共事業を行うことを米国に約束した。政府は、この公共事業を地方自治体に地方債を発行させ、地方の単独事業として行わせた。対米従属政治の結果にほかならない。
 横浜市では三菱資本と組んで「みなとみらい」の開発が行われ、東急電鉄と組んで地下鉄の建設などが行われた。また地元の有力な企業と組んで大規模な駅前の再開発などが行われた。地域で支配的な大企業が対米従属政治の甘い汁を吸ったのだ。
 この公共事業のために年三千億円近い市債が発行された。この蓄積、ばく大な規模に達した借金残高、市債こそ、横浜市の財政困難の、直接の原因である。
 この投資で市民の働く場が増え、収入が増え、市税収入が増えたのならまだしもであろう。しかし、みなとみらい地区には企業は増えず、労働者の雇用も増えず、市税収入増に結びついていない。しかも、一部の企業だけは誰が見ても潤った。
 今年度予算でも、民間企業事業である相鉄・JR直通線と相鉄・東急直通線に二十四億円余をはじめ、「羽田空港の国際ハブ空港化を支える横浜環状道路」等の整備に百二十二億円余、港湾整備に百五十二億円余といった巨費が投じられている。「投資的事業」ということで、財源の大半を市債発行でまかない、借金を積み上げている。

(4)企業誘致に血税投入、市民は…
 しかも、開発は進めたが「企業誘致が進まない」と、横浜市では企業立地促進条例をつくり、補助金を出して企業を誘致する始末である。
 グローバル本社を移転した日産自動車に対して、横浜市だけで計五十億円もの、助成金や固定資産税五年間半額免除などで直接支援、また、本社の土地は簿価の半額で売り渡し、横浜駅から本社までは屋根つきの陸橋まで作った。日産には、別に神奈川県が百二十億円以上を助成している。林市長は日産出身だが、一企業に対してこんなに支援する必要があったのだろうか。
 日産自動車への支援は、みなとみらいの本社と併せて、神奈川区の横浜工場に税免除をのぞいた助成だけで二十四億円以上がつぎ込まれた。市の説明によれば、助成によって日産横浜工場は「生産機能強化・集約」で「生産技術開発の機能強化(マザー工場化)」を図ったという。そうであろう。労働者にとっては「合理化」、人減らしである!
 横浜工場の従業員数は、助成が始まった〇五年の三千八百人から一一年九月現在の二千八百六十九人と、実に四分の一強、約千人も削減されている(派遣労働者などは含まない)。横浜市は、こうした首切り事業に市民の血税をつぎ込んだのだ! 断じて許されることではない。
 さらに問題がある。助成で支援を受けた企業の、市内企業(本社がなくとも支店や営業所がある企業も含めて)への発注は、建設等は約八八%だが、原材料調達や物品購入、保守管理、清掃などでは、わずか一七%に過ぎない。ほとんど市外企業と取り引きしており、市内には仕事とゼニは回っていない!
 肝心の税収だが、単年度で税収が総支援額とほぼ均衡するのは一三年度の見込みであるという。しかも、税収増は年三十五億円程度にとどまる。法人市民税を増やすためと理由づけられた事業だが、法人市民税六百四十七億円(〇八年度実績)をわずか五・四%程度増加させるに過ぎない(以上、経済局「企業立地促進条例を活用した企業立地、誘致施策について」による)。
 こうした事業は市民への裏切りではないか。
 一二年四月からの企業立地促進条例改正では、多国籍企業を誘致を強化するための助成上限額を、今までの二十億円から三十億円にアップした。なぜ、外国企業なのか。
 助成すべきは、市内で奮闘している中小零細の業者たちではないだろうか。安定した職に就けずにいる若者をはじめ、不安定雇用労働者ではないだろうか。労働者や中小企業などまさに市民大多数が安定した暮らしができなくては、何が鉄道か、道路か、空港や港湾か!
 中田市政も、林市政も、「誰のための市政か」では大差がなく、市民大多数ではなく、ごく一握りの大企業のための市政である。


(5)公債費が財政を圧迫
 これら事業のため、とりわけ八〇年代〜九〇年代にかけて大量の市債を発行したので、それを返済するために公債費は右肩上がりで増えた。歳出変化の図で見たように、〇五年までは扶助費よりも多く、〇二年から〇五年までは人件費よりも多い。
 全会計の市債残高は〇三年度の五兆二百八十二億円を頂点に少しずつ減ってはいるが、それでも〇九年度四兆二千九十五億円の巨額となっている(固定負債合計は四兆八千六百七十七億円)。第三セクターなどを入れた連結貸借対照表の固定負債合計は実に五兆七千百九十三億円である(図7)。
 この元利払い、公債費が、市財政、すなわち市民に重くのしかかっている。
 歳出面で財政を圧迫し、財政困難をもたらしているのは、普通建設事業費など大企業のための産業基盤整備などに歳出され、そのために発行された市債の返済=公債費である。
 それは誰のために使われた借金なのか、この問題を考えるとどのように解決すべきかは明らかである。だが、もう少し検討が必要である。

4 財政は銀行の食い物に


(1)1年間で1千億円余の利払い
 すでにふれたが横浜市の本当の借金である市立大学や土地開発公社などを入れた連結決算の固定負債合計(〇九年度)は実に五兆七千百九十三億円である。その結果、横浜市は何と一千五十三億円の利子を銀行など金融機関に払っているのである。ふざけた話である。その年、横浜市歳出の教育費が約九百億円、全職員の給与費が一千四百四十六億円だから、利払いの大きさがわかる。
 市民の血税は、利払いとして銀行など金融機関に抜き取られているのである。
 市債など借金残高は、なかなか減らない。
 この原因は、一二年度の予算案で見ると分かるが、一般会計の一千八百二十四億円の公債費のうち、元金償還六百七億円、減債基金積立七百七十八億円、利子四百四十億円と、元金返済には返済費用の三分の一しか回っていない。そして、四分の一は利払いに消えているのである。
 利払いも大きすぎるが、とりわけ問題は減債基金積み立てである。住宅ローンなど普通の借金なら、余裕があれば早めに元金を返済して利子が増えないようにするが、横浜市はそんなことはしない。
 わざわざ返済のための資金を積み立てる「減債基金」をつくっている。一二年度末見込みで一千五百億円の巨額である。その市民の血税である基金を、市は、低利で銀行に預けるなどして、ここでも金融機関に利ざやを貢いでいる。
 銀行など金融機関は、何もしなくても低利で市から預け入れがあり、買った市債からは高額の利子が入ってくる。こんなことが、市民の知らない所で市民の血税を使って行われている。職員が減らされ、労働強化と低賃金労働で搾り取られている。
 市の幹部は、いまの仕組みではそれ以外にない、と言うだろう。確かに、市民の利益のために政府・総務省と闘わなければそうなる。


(2)銀行擁護に誘導する政府・総務省
 政府・総務省は、地方債発行を通じて、銀行が儲かるように「通知」などで自治体を縛り誘導している。〇〇年代に入って以後、それが露骨である。
 とくに、地方債発行の「許可制」が〇六年になくなって以後も、「臨時財政対策債」の発行枠を総務省が握っている。地方交付税の交付額を絞って、地方自治体が「対策債」を発行せざるを得ないように誘導している。こうして地方自治体は、いちだんと借金漬けになる。
 貸し倒れの心配のない安全な融資先がない銀行には、格好のお客様である。
 しかも総務省は、毎年元金と利息を均等に返済し、利払いが年々減る「元金均等償還」方式でなく、満期まで多額の利払いをする「満期一括償還」方式で地方自治体を縛っている。こうして貸し手=銀行にはより多くの利息が保証される。
 さらに総務省は、「繰り上げ償還」(早めの返済)をしないように通達を出し、自治体を縛っている。理由について「地方債の金融商品としての安定性を確保し、円滑な発行及び消化を図る観点から」と、地方自治体の金利負担軽減ではなく、地方債の買い手である金融機関の利益のためであることを隠さない。
 きわめつけは、「徹底した行政改革・経営改革の実施等を条件に」、金利六・〇%以上(一一年度)の地方向け財政融資資金について、補償金免除繰上償還を認めている。要するに、繰り上げ償還したければ予定される利子を補償金として全部払え、だが、特例として「徹底した行政改革」をやるのならば補償金はまけてやる、というのである。
 横浜市はこの措置で、一一年度百九十八億円の償還を「認めてもらい」、約四十億円の利払いを免れたのであった。「徹底した行政改革」で、何を約束したのか? そうではなく市長は、総務省のこの横暴と闘うべきである。総務省、政府は、大銀行のために、地方自治体、市民、労働者を搾り取る手先だ。

(3)市債に群がる銀行や外国投資家
 地方財政法は、「建設事業費に係る地方債の償還年限は、当該地方債を財源として建設した公共施設又は公用施設の耐用年数を超えないようにしなければならない。当該地方債を借り換える場合においても、同様とする。」と規定する。だから自治体は、地方債償還の満期がきても全額を返済せず、一部だけを返し、「耐用年数」いっぱい借り換えを繰り返す。そのために元金は余り減らず、高額の利子を延々と払い続けることになる。「財政需要を均す」とか「世代間の公平負担」とかの屁理屈がついているが、儲かるのは貸し倒れの心配なく多額の利払いを長期に受けられる銀行である。特に、昨今のように銀行がカネ余りになると、その恩恵は大きい。
 横浜市は、その借り換えの際に、利率五%(一部は七%)以上の市債をより低利率の市債に借り換えることで、〇七年から〇九年の三年間で利子削減効果が四百四十二億円あった、さらにその後の三年間で二百四十六億円の削減効果を上げる方針だという(横浜市IR資料、資料編)。何年もの間、五%や七%の高利子で銀行などに貢いでいたのだ。これは市民への背任ではないか。
 市債発行を見てゆくとさらに驚く事実がある。自治体も銀行など金融機関の顔を見て自治体運営を行うようになっている。一一年八月、横浜市はIR(投資家向け広報活動)を行い、林市長はこの中で「過去十年間で職員を七千二十一人(二一%)削減し、人口千人あたりの職員数は全政令指定都市の中で最少となった」と自慢し、市債を売り込んだ。職員の合理化を約束して市債を売り込んでいるのである。
 しかも最近は、地方債に外国金融機関も群がっている。横浜市では機関投資家向けの市債はすべて横浜銀行が募集の受託会社となり、クレディ・スイス証券、ゴールドマン・サックス証券、ドイツ証券、メリルリンチ日本証券などの外国金融機関に販売されている。
 つまり、最近の国債と同様に、市債の引受先の多くは外国の機関投資家であり、高利の市債の発行で、横浜市民の血税が外国の金融機関に吸いとられている。職員の労働の成果が、国内銀行だけでなく、外国の銀行にまで搾り取られている。

まとめー市政のカラクリを暴き出すことがカギ

(1)財政難の原因と責任は、市民と職員には一切ない
 以上、職員の人件費は横浜市の財政難の原因ではない。また、税収減も財政難の基本的原因ではない。扶助費の増加も違う。
 横浜市の財政難の最大の原因は、対米従属政治の結果、地方に押しつけられ、地域の経済的支配勢力が甘い汁を吸った開発事業のために八〇年代や九〇年代に発行して現在まで残っている膨大な市債である。さらに二〇〇〇年代の臨時財政対策債で借金は膨れあがった。この膨大な借金残高が財政の硬直化をもたらしている。しかし、銀行など金融機関はそのおかげでしこたま儲けている。外国の金融機関まで群がっている。
 このカラクリを知って、「毎年二千億円近く返済している」ことになっているのにどうして市債残高が減らないのか、そして林市長になってどうして市債発行が増えてきたのか、やっと理解することができた。怒りを高めざるを得ない。
 しかも、総務省がそれを「指導」している。考えてみれば、政府は一千兆の国債発行で大規模に銀行を儲けさせてきた。裏には米国がいる。
 しかし、銀行などの利益と米国のために国債や地方債をあまりに大量に発行しすぎて、これ以上は破たんという限界となって、連中を脅かしている。まさに、「財政危機」である。しこたま儲けた連中の危機、これは反撃のチャンスである。

(2)暴露し真実を知らせることが肝心
 この全カラクリを、全職員が、市民の多くが知ることが、そして怒ることが、まず第一に何よりも重要なことである。
 職員や市民の八割である労働者の利益と、三菱や東急など地域で支配的な一握りの大企業や、何よりも横浜銀行など金融機関などとの利益が、根本的に対立している。職員の労働と市民の血税が搾り取られ、連中が肥え太っている。総務省など政府、そして市長と地方自治体当局もそれを一体となって推進している、国家金融独占体なのだ。これこそわれわれ労働者・市民の敵だ。この本当のこと、真の利害対立が、ウソで塗り隠されている。
 みなとみらいにそびえ立ち繁栄するこれら企業を見てみよ! 林立するビルは、その企業の労働者の血と汗の結晶だが、同時に、市民の血税と職員の労働が搾り取られ、つぎ込まれてできているのだ!
 労働者と市民の側に立とうとする政党は、労働組合の指導部、活動家は、この「本当のこと」を知らなくてはならない。そして、労働者市民に知らせ、カラクリを打ち破らなくてはならない。それができれば、怒りは闘いとなって広がるであろう。それないしは、市長とマスコミにこれからも踊らされるだけだ。

(3)連携し、政治を変えるため闘おう
 労働組合は腹を据えて闘わなければならない。職員の賃下げ攻撃に対して断固として反対する。
 財政難の責任は、みなとみらいの開発や地下鉄の建設で儲けた大企業にあり、また高利の市債を引き受けて儲けている銀行など金融機関を優遇した市長、市当局にある。それを導き、押しつけた対米従属の政府、総務省である。大企業に対して行っている助成を中止させ、銀行など金融機関には市債返済の猶予や利子の引き下げを求めて当然である。何よりも、全国の自治体、労働者、市民とともに大銀行の利益中心で対米従属の政府と闘わなくてはならない。
 民営化や民間委託化を進めた結果、住民サービスが低下し市民からの不満が強まっている。保育園も待機児童対策で数は増えたが、増えている施設は全て民間保育園で、今年は「受益者負担の見直し」で保育料の値上げも予定されている。直営の特別養護老人ホームや市営住宅は増えず、貧乏な市民が入る施設がなくなっている。生活困難が進む中、国保や介護や後期高齢者医療制度の保険料を安くすべきだが、今年は逆にそれぞれ保険料の引き上げが予定されている。
 自治体労働者は自らの賃金闘争を闘うと同時に、これら市政に対する闘いと連携して闘わなければならない。
 中田市長から林市長に替わり、あたりは柔らかくなったが、やっていることは今までと同様、大企業や金融機関のための市政である。
 自治体労働者はこのような市政を支持してはならない。市政を変える旗を鮮明にしなくてはならない。そうではなく自分たちだけの小さい利益のためにこのような市政を支持したら、その時は鹿児島県阿久根市や大阪市のように、公務員と労働組合を敵として攻撃し、市民大多数をひきつける反動派の攻撃を打ち破れないであろう。

 事実に立脚したしっかりとした考え方、支配層の考え方と異なる別の路線がなくては、支配勢力と闘えない。そのような党、労働者の強固な政党なしには闘えない。わが党はまだ弱いが、学習も強め、先進的労働者の協力も得ながら、政治や経済の、あらゆるカラクリを暴き出し、労働者の団結を実現するため奮闘する。労働党に結集し、ともに闘うよう呼びかける。


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