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2012年1月25日号 1面〜5面・新春講演 

労働党中央委 講演・旗開き

大隈議長が熱烈な訴え
断固たる闘いと団結呼びかける

 労働党中央委員会主催の二〇一二年新春講演会・旗開きが一月八日、盛大に開かれた。各界の来賓、諸団体、党員、党友などが多数参加、激動の新年に共同した闘いを誓い合った(来賓のあいさつなどは6面〜8面)。新春講演では、大隈鉄二・党中央委員会議長が講演を行った。講演の要旨を、編集部の責任において掲載する。なお、紙面の関係で、一部を割愛せざるを得なかった。


 おめでとうございます。
 今日はたくさんの先輩の方、それから友党の方、地方の同志たち、たくさん来ていただいて、年頭の党を代表しての所信を述べさせていただくことを感謝しております。ありがとうございます。
 さっそくですが、何を話すかということで、毎年、若い諸君からメモの催促をされまして、メモを配布してあります。それでも、一度もメモ通りに話したことはないんです。大きな課題ですので、それなりに、広い範囲の問題に触れなければなりませんし、講演と名がついてはいても、新年のあいさつという程度の時間ですから、制約もあって、書いてはおきましたが、その辺の事情で、飛ばし飛ばし触れながら進めますので、ご了承願いたいと思います。

話したい内容は6つ
 さて、内容は六つに分けて話してみたいと思います。
 一つは、世界情勢の若干といくつかの問題という点で話してみたい。
 二番目に、わが国の進路と課題、いわばわが国がそういう国際関係の下で、どうすべきか、どんな課題があるだろうかというのが二番目です。
 三番目が「彼我」と書いてありますが、支配層が取っておる国の進路だとか、つまり内政、外交ですね。そういうこととわれわれとの間には明確な対立軸があって、二つの道があるわけですから、どう闘うかという問題に触れたい。
 四番目に、労働運動が何せこの状態ですね。連合が支持している野田政権が、自民党以上に自民党の政治を継続、深化させている。日米同盟「深化」と言っておりますので、労働運動がきちんとしなければ進路は開けないという問題で、労働運動について全体的ではなく、若干、われわれの最近の経験についてお話ししたい。
 五番目に、わが党の現状と問題点と書いてありますが、こここはレジュメの中身はなくてですね、何せ自分の党のことをざっくばらんに話すといってもですね、内輪のことなので、今日は内外向けなので、しゃべりにくくで。だけれども、ざっくばらんに。「わが党は強いぞ」などと言っても、誰も信用しないので、ざっくばらんに話して、四苦八苦している状態を述べたいと思います。
 六番目に、これは当面の、比較的短い情勢ですとか政局の中で、どんなふうにやろうかということで、とくに今、激動で、さっき述べたように、支配層は日米同盟「深化」などと言っているんですね。それで、政治・政党再編で揺れているわけですが、そういう大きな国の政治の変動期に、「左」の諸君はですね。ほとんどのこの大きな流れに何か影響を与えて、それにかかわって国の進路に、政党の責任として役割を果たせるだろうかという問題について、どうしたらいいのか、相談かたがた、わが党の考え方を述べたい。それを結びにしたいというふうに思います。

世界情勢の若干の問題

 世界情勢と若干の問題については、四点に分け、その順に、述べたいと思います。(1)昨一年、危機がいちだんと深まったということ、そして、(2)危機についてのさまざまな理論や展望の問題、(3)ギリシャやイタリアでの政権と議会制民主主義の問題、(4)今回の危機は資本主義にとってはどんな意味を持つ危機なんだろうか。こんなことを述べられればと思っています。
 それに世界情勢は当然、下部構造としての金融とか債務、実体経済等の危機が、先進国だけでなく発展途上国を含んでの全世界で、見通す限り、危機以前に回復する可能性について、誰も予見できないという状況で、つまり厳しいわけですから、したがって、上部構造としての国際関係、政治や外交、軍事情勢など、当然厳しくなってるんです。
 国際関係、諸国間の厳しさと関連して、当然ながら、諸国の内部での階級矛盾も激化する方向にあるんです。われわれの考えでは、戦争を含む乱世となる。これは相当長期間にわたる状況であろうと思います。
 ですから主要諸国は、見通しはともかく、それなりに「どうやって生きていくか」という戦略を模索しているということ、こんなことにも触れて、世界情勢の結びにすればと、思っています。


昨一年、危機のいちだんの深まり

 今は債務危機などと言われている。これはどこでも、国家の借金が増えているということですね。この債務危機と金融危機の関係ですが、ある国の借金、国債の評判が悪くなると、その価格が下がる。金利は高くなる。
 いま、銀行にはなかなかうまい儲(もう)け口がないので、ときに株式や先物市場に資金が行くわけですが、不安でしょうがないというときには、結局国債に行くんですね。だから、銀行が持っている資産の中では国債が大きな比重を占めている。
 従って、ある国の国債の評判が悪くなる、価格が下がると、それを抱えた銀行の資産内容が悪くなる。銀行経営は、資産と負債の釣り合いが取れているかどうかが問題で、「つぶれるかもしれない」となると、その銀行の株価がさらに落ち込む。そういうことで、たくさんの銀行の資産内容が悪くなって、銀行の経営が怪しくなるので、「金融不安」「金融システム危機」と言うわけです。
 そして、金融機関が揺れ始めると、実体経済に影響する。これは、中小企業の方はすぐ分かると思うんです。危機前は、ちょっと信用のある業者ならば、銀行の支店に融資を頼みに行くと、愛嬌良く決済される。ところが、銀行が不安になって金融危機になると、貸し渋る。さらに「貸していたあのカネ、返してくれや」と催促される。そうすると、企業はなかなか経営が難しいですよね。そういう心配がないのは大企業だけです。
 というわけで、国家の債務と金融、それから実体経済、この危機はみなお互いにつながっている。相互に影響し合っているんですね。
 こんなこと、常識といえば常識でしょうが、経済、とくに金融の話は苦手というわが同志もいましたので、そして最近の情勢議論ではこの理解、避けて通れませんので、そして、ごく一部とはいえ大切な同志たちですので、そんな話をしました。

・リーマン・ショック後の処方と経過、危機の広がり
 二〇〇七年にサブプライム・ローン問題というのが起きた。住宅関係のさまざまなローンが証券化され、さらに証券を寄せ集めて、二次、三次と別の証券をつくるなど盛んにやってきたものがはじけた。はじけた理由は、大元の米国でそのローンを払えない人が出てきたということ。さっきの国債と銀行の関係と同じで、そういう債券が儲かると思ってたくさん買っていた世界の銀行やヘッジファンドその他が、やにわに不安になって、〇八年にはリーマン・ブラザーズという投資銀行が破たんし、「リーマン・ショック」となった。
 今はグローバル世界ですから、たちどころに、全世界に金融危機が広がった。少し遅れて、全世界の実体経済、これも先ほど話したのと同じで、落ち込みが始まったわけですね。そういうわけで、リーマン・ショック以降、世界に金融危機と実体経済の大きな後退が広がった。
 そのリーマン・ショックに、主要国はどう対処したんだろうか。皆さんもご存じの通り、米国を中心に主要国、あるいはG20(二十カ国・地域首脳会合、金融サミット)なんていう国々がですね、一九三〇年代の経験も踏まえて対処したんです。つまり三〇年代は諸国が対立し、戦争になった。今度は「協調」によって対処しよう、となった。
 しかも、そういうときにどうしたらいいかという方法は、おおかたは分かっていた。米国も他の先進諸国も、印刷所で輪転機を回して大量に札を刷ったんです。そしてそれを銀行に渡したんです。
 金融危機の現象は、「流動性の不足」なんですね。危機が来たからといって、市場にある、あるいは銀行のカネが、その日からなくなったわけではないんです。お互いに始終、やりとりをしているわけです、銀行は。ところが危機下では、ある金融機関が「貸してくれ」と言えば言うほど、「資産内容が悪いんじゃないか?」と疑われ、自分のところに災いが来るかもしれないと、誰も融通しなくなる。これを、新聞では「市場が凍りついた」と言う。そこで、金融危機対応の最初の仕事では、中央銀行がドッと大量の紙幣を印刷して、各国が協調しながら、世界中にドルを中心に札をばらまいたんですね。
 同様に、品物が売れなくなる、工場が操業できなくなるというようなことを前提にして、政府が国債を発行して財政を投入し、救済した。
 日本でも〇八年の秋から自動車が売れないということになって、非正規雇用の人たちが大量に街頭に放り出された。自動車や電機を中心に。「企業が大変だから」と、政府は企業の言うことはすぐ聞く。国債を発行して、補助金をつけて自動車を買いやすいようにした。また、「あの企業だけ助けるのか」ということになると、建築の断熱材とか少し電気を節約できるテレビも、ということで、膨大な支出をやる。こうして全世界の先進諸国は、借金がずっと増えた。さらに日銀など中央銀行が、民間企業のリスク資産をぜんぶ買い取る。それで「銀行のカネの回りが良くなった」とか、実体経済も「当座の倒産を免れた」とかになった。
 垂れ流しはしているし、借金は増えているので、〇九年ぐらいになると、「落ち着いたので、やがてここから抜け出さないといけない」ということで、「出口論」というのが言われた。昨年は、われわれと他の勢力には、これの見方について大きな違いがあった。われわれは「危機はいっそう進行している」「迫り来る破局と闘う必要がある」と言った。資本主義がまた危機以前に戻ってぼちぼちと、あるいは相対的安定期と言ってもよいが、そういう状況になるなどというのは幻想だと。われわれは、危機の進行、頻度や広がりというのを、九七年のアジア通貨危機、その前の九五年のメキシコ危機、さらに三〇年代とも比較した。わが党だけが厳しい見方をして、「二番底もあり得る」と、議論を展開した

・危機への処方せんが危機を拡大再生産させた
 そういうわけで、わが党はこんにちを予測していた。〇九年、一〇年と、各国の政府と中央銀行が危機対策を行った結果として、こんにちの危機が拡大再生産されているということなんです。たとえば先進国では、銀行が中央銀行から大量のカネを低利で手に入れた。中小企業とは違って、銀行はカネがあり余っている。使い道がないので、さし当たって国債をいっぱい買った。あるいは、いろいろな情報を集めて、「あの国」「この国」と、発展途上国で資金の運用を始めた。リーマン・ショック直後の危機打開策では、中国が最初に四兆元、日本円で五十七兆円の対策をとった。そこで中国が「世界の救世主」のように映ったが、発展途上国が成長を継続したのには、先進国の資金が一定の役割を演じたんですね。
 しかし、発展途上国に資金が大量に入ってくるので、バブルになった。インフレも。資源価格も上がり、食料も上がる等々でですね、次の局面では、発展途上国もかじ取りが難しくなった。そういう局面を見ながら、昨年の私の講演では、「危機が深まっている」「破局が迫っている」と言った。
 つまり、住宅バブルが〇七年に破裂したわけですが、危機をつくり出したのと同じ手法を使って、危機対策をやったわけです。世界はさらに、危機が拡大して深まったんですね。

・北アフリカ、中東諸国人民の闘い
 それで昨年の旗開きの直後に起こったのが、チュニジアから始まって、エジプト等々の動乱です。リビア、こんにちではシリアも。初期の民衆の蜂起は、インフレ、とくに食料品の高騰が原因です。つまり独裁反対の政治的闘いが先行したのではなく、食えなくなったから、みな命がけで闘ったわけです。もちろん、それらの国が独裁政権であったことには違いない。しかし、民主勢力が政治意識で闘ったわけではなく、体がもてなくなったから、腹が減ったから闘ったんです。だから、自然発生的で、政治計画もなければ何もない。
 リビアなんて失業率が三〇%。そこに物価高。ところがサウジアラビア、ああいう独裁政権は石油資源を人民には分け与えず、王様が勝手に使って膨大な資金を持っている。失業者もいたんですが、あそこの王様は外国で入院していたが突如帰ってきて、失業者たちに公務員並みの給料を保証した。カネを持っているから。だから、サウジではデモは小刻みに起こるが、政権は安泰……。
 中東では、それぞれの国のおかれている状況が違うんですね。
 しかも、石油のある国がどうなるかという問題もある。リビアは典型ですが、あそこは歴史的に、わりとイタリアと結びついていたんです。もちろん、中国も結びついていた。ところがそういう民衆の蜂起が始まったら、英国とフランス、とくにフランスが率先して支持することによって、政変が成功し新政権ができれば、今度は自分たちが石油資源に食い込める、と。つまり、あの辺の先進諸国の支配層の利害対立もあったんですね。典型的な話は、ブッシュ米政権が〇三年にイラクに攻め込んだときに、ヨーロッパはどちらかというと、米国が十分に勝ち石油を独り占めされては困ると、ほどほどに対応した。米国は四苦八苦してやがて抜け出せなくなった。欧州にはこれを「悪くもない」という考えもあるわけで、あの地域をめぐり、帝国主義諸国間の争奪がある。

・「特殊な多極化」の世界
 わが党は、こんにちの世界を「特殊な多極化」と申し上げてきました。ずっと以前、社会主義が崩壊して以降、そう言ってきた。中国、ロシアなどは、社会主義を放棄しても帝国主義の側ではないんです。国際的な広い戦線で、われわれが左だとするといちばん右の端っこぐらい。かれらは人民のことにもかかわるが、有利ならば、国益中心で帝国主義者とも取引をする。ロシアのプーチンも中国も、同じ大国主義ですね。そういうことで、私は、かつての帝国主義諸国間の中心的な国が弱まって、基軸通貨国の力が相対化して、そして世界が多極になった、というようなこととは区別して、「特殊な多極化」という把握をしたんです。そういうことで世界政治は動いているわけですね。
 「特殊な多極化」の下、さっき申し上げた、北アフリカあるいは中東人民の闘い、その利害の対立も、それぞれの国の特徴もさることながら、複雑な展開を見せておるわけですね。だから、あれを単純に、それぞれの国の違いや複雑さを抜きにして論じることはできない。


・北アフリカ諸国の政変の位置づけ
 ただ二つだけ、私たちの見解で申し上げますと、はっきりしたことがある。
 それぞれ複雑なことはあるだろうが、人民が立ち上がって、以後の世界の展開の中で、民衆の力を無視できなくなった。そういう意味では、民衆の力が強くなってきた。もう少しあの地域を広く考えてみると、石油資源をめぐる帝国主義者の力、とりわけ米帝国主義の中東支配は弱まった。それが典型的には、米国はイスラエルに対しアラブあるいはパレスチナとの間で、いかにも中立・公平に「話し合ってくれ」なんていうポーズを取らざるを得ない、等々にあらわれている。これが一つ。
 もう一つは否定面ですが、ブルジョア的な選挙をやって、政治の近代化というか民主化というか、そういう方向に一挙に進むのは、容易ではなかろうと。帝国主義者は、長い間、古い制度である王様たちを残すことであの地域を支配してきた。したがって、いわゆる民主主義、先進諸国のような考え方はなかなか馴染んでいない。そういうわけで、あれらが一挙に普通の先進国のような国にはならないであろうと。しかし、その結果として、いろんな政党ができあがってくるに違いない。あの地域には労働者がいっぱいいるわけですが、十分組織されていないし、ましてや一つの階級として自らの利害を考慮できるような、政権をめざすような状況にはまだ程遠い。
 いつだったか、ソ連があの地域、中東やアフリカで、「段階を飛び越えて社会主義ができるのではないか」と言ったことがあるんですが、みなうまく行かなかった。
 そういうわけで、以降の動乱の世界では、いずれにしても先進諸国がどうなるか、先進諸国の労働者階級がどうなるかということにつきるのではないか、ということですね。

・欧州債務危機と金融不安
 今度はヨーロッパについて。一昨年あたりから、ギリシャを中心に国家財政の危機があって、「ソブリン危機」と言われ、二度、三度危機が叫ばれてきたんです。この欧州諸国の危機も単純ではない。
 よく「経済法則を無視して欧州の統合が進んでおる」とか「ユーロができた」とか言われます。しかし、欧州は危機のたびに自分の体制を整備して、というようなことで、体制は強まってきたわけでね。昨年の十二月まで、成り行きを見ますと、二度、三度と危機を乗り越えてきたことは間違いない。ユーロ圏が十七カ国、もう一つは二十七カ国の欧州連合(EU)がありますが、ここの首脳でいろいろと対策をやって、ごく最近の結論でいうと、それぞれ国の財政の管理、これをEU圏の会議でコントロールするようなところまで「法的につくろう」ということで、いま進んでいるわけです。
 そういう意味で、EUは打開に向けての支配層の合意はできた。しかし危機を最終的に乗り切るには財政改革をせにゃならん。借金を減らさにゃならん。今回の合意は「そういう道に入るべきだ」という結論ですから。支配層が合意したにしても、それに基いて財政負担を労働者を中心とする人民に押し付けきれるかどうか、という問題があるんです。
 ギリシャとかイタリアなどはとても大変なんですね。ギリシャは国債の金利が二〇〜三〇%なんです。ここに投資すれば大儲かりなんですよね、銀行は。危険を冒して買い、うまくいけば大儲かり。だが、投資家たちは不安でしょうがない。そこでもう、議会政党の政府では「有権者を気にして、負担を押し付けきれんだろう」と、さっき申し上げた通りのパパデモス政権。イタリアも、投資家たちが信用する者ですね、これが直接政権を握る。そうやって押し付ける。しかし、どう政府が押し付けようが、犠牲を転嫁される人民が納得するかどうか、という問題に焦点は移っているんです。
 欧州の危機打開の問題は、欧州の支配層がお互い「これで行こうよ」ということで、ドイツやフランスが強力に推進しているんです。英国は反対して抜けた。ある意味でドイツのメルケル首相はすっきりしたんじゃないか。いつも画策するのは英国ですから。英国ロンドンのシティに、米国の銀行もみんなあり、その意向を受けているんですよ。
 われわれの見どころは、欧州が不安定になり、労働者階級、各国の人民が合理化をのむだろうか。のまないとすれば、その国の国債はまた値下げになる。つまり金利は上がる。金融危機になる。欧州が金融危機になれば、日本は比較的関わりが少ないようだけれども、影響はあるんです。米国もそう。

・米日を含む先進国の債務問題
 米国も、どうにもならんところまで来てるんですね。九五年にも起きましたが、ほんのこの間、米国の政府はゼニが回らず、国家公務員にも給料が払えず等々で、機能停止になる寸前に合意した。ヒヤヒヤものです。
 昨日あたりの新聞でも、米国の失業率がちょっと下がった、何だかんだ言ってますね。しかしそうやって「下がった」「上がった」って言っていると、世界情勢は分からなくなる。世界が基本的にどこにあるかということで、大局的な見方をしない限り、理解できない。

・先進諸国の経済停滞あるいは後退
 これと関係がありますが、バブルのときの統計などを見ますとね、〇五年一年間に一二%以上住宅価格が上がったという記録がある。その時期の国民一人当たり実質GDP(国内総生産)の伸びの六倍。住宅資産を持ったやつは普通の米国人の六倍も資産を増やした、と。まあ、それは住宅を買うはずですよ。持てば、価格が何倍にも上がるわけですから。歴史上比較にならないほど、巨大な住宅バブルが起こった。それは米国だけではなく、スペインなど欧州にも六〜七カ国あります。そういうものが崩壊したわけです。
 さっきちょっと申し上げたんですが、行天豊雄(元大蔵省財務官)さんの最近の本(「世界経済は通貨が動かす」)によると、世界のGDPは五十兆ドル、大ざっぱにです。世界の貿易の総額は十三兆ドル。その時資産の総額は三百兆ドルと。それほど膨大な資産がある。
 そして、危機後の指標は「三つの特徴がある」と言う。まず、資産が下落すると。たとえば半分に下がるとすると、さっきの三百兆ドルが百五十兆になる。その資産、株、国債もそうですねが、ましてや怪しげな証券などはタダ同然になる可能性だってある。その資産が下がるのをなるべく抑えようとして、中央銀行が買っているから、どの中央銀行もいま資産規模が大きくなっています。世界の借金を、全部肩代わりしているようなものです。いつかは精算せにゃならん。まず、資産の下落が一つ。
 二番目は、生産高と就業人口、これが激減すると。さっき、金融危機と実体経済との関係で申し上げたんですが、経営が思わしくなくなって生産高が下がる。
 三番目に、これもさっき申し上げた、いろいろな形で国家はその危機を切り抜けるために借金を増やしたんですね。したがって数カ年経つと、特徴的に見られるのは、国家財政の赤字が危機以前と比べると大きく増えておる。国家債務が増えた。その三つが特徴。
 リーマン・ショック後、いろいろな手を打ってきたものが、いま歴然と残っておるので、そこのすう勢がどうなるかをきちんと押さえておかなければいけない。株屋さんは別です、上がっても下がっても儲かる。だけれども、政治家、あるいは五年、十年先を見て仕事をせにゃならん人たちは、世界がどの位置にあるかということを考えるためには、そういう細かなことではなく、大局を見ておく必要がある。

・世界は下部構造の厳しさを反映して乱世に。諸国は戦略を摸索
 いずれにしても世界はそこまで来ている。そこでこの結びは、さっき申し上げたように、世界情勢は、それぞれの国も生きるか死ぬかでやっているということです。
 米国だって大変なんです。危機打開の展望はないから、「アジア回帰をする」とかいろいろ言っておる。ゼニがないのでアジアに集中する。TPP(環太平洋経済連携協定)もそういうことですよ。これは私が昨年から申し上げている。あれは単なる経済政策ではない。米国が衰退してきた下で、どう打開するかの一つの策。したがって、安全保障などがみな結び付いている。昨日の新聞あたりでは、明確に軍事戦略も変えたと言っている。
 世界情勢はそういう下部構造を背景にして、一国の範囲でも、国際政治でも、だんだん崩れてはきていましたが、これまでが「協調」だったとすれば、以後は国際関係は対立の側面が非常に大きなウェートを占める。したがって乱世ということになるかと思う。諸国は、この世界にどう生きるかという問題になる。

今回の危機の理論と展望

 まず行天さんが最近出した本で、以降の世界は「予測不能だ」と言っている。正直と言えば正直ですが、薄々は知ってるんですね、資本主義は行き詰っていると。
 「日経新聞」元旦の社説で、資本主義はこのままでは良くないが、さりとて他に変わるものは見つからんので、修正、進化させて、そして資本主義の中で暮らす必要があると、言ってる。今の資本主義はこのままではやっていけないという白状でもあるし、さりとてどこに行くかとも言えるわけでもない。したがって、修正して生きていかねばならんと言っている。
 クルーグマン(米プリンストン大学教授)については昨年も取り上げたんですが、今度のような大きな危機を三〇年代と比較して考えると、金融市場は通貨不足に見舞われるから、輪転機を回して大量の紙幣を印刷して、資金が回るようにする必要がある。だが、それでは片付かない。しばらくすると、また流さにゃならんようになると言ってる。数カ年、その通り進んでいるですね。「これで打ち止め」という先進諸国はどこもない。欧州の金融政策、手堅たかったんですが、「大胆」にそういう道に入ったんですね。
 金融にはともかく、実体経済は片付かない。これもクルーグマンは言っている。「国家が需要をつくり出す必要がある」と言って、「武器を」とは言っていませんが、公共事業とかいろいろ言っていましたね。その通り進んでおるようです。
 日本も、この間から武器輸出三原則を緩和し、軍需産業を発展させようとしている。これは、自国では少し倉庫にも貯めるってこともあるでしょうが、外国に売るってことですよね。買わされる側は、不安だから買うんでしょう。なけなしのカネを払って買ってるようですが、それはもう、武器を持てば使ってみたくもなる。だから世界の動乱の一つの状況を形成しているんでしょう。
 浜矩子(同志社大学大学院教授)さんは売れっ子ですよね、本がどっさり出ている。彼女は、ここまで来れば「分配以外にない」と言っている。ですが、稼いだ者、金持ちになった人たちに「分配しろ」って言ったって、容易ではないでしょう。「おれのカネだ」って言う。「私有財産」は憲法で保障されているから、裁判沙汰になる。われわれのように単刀直入に、暴力的に分配するという考えもある。まあ、浜さんはやさしい方ですから、「法律をつくって」という。それは憲法論争になりますよね。持ったやつにうんと税金をかけるとかいろんなことがあるんでしょうが、私有財産が必ずしも安全でないような不安にさいなまれるかもしれん、支配層はね。まあそういう時代に来てるんですね。

・いつ危機前に戻るか「予測不能」
 さっき申し上げた資料の中で、昨年の春に出た「国家は破綻する」という本があります。金融危機の八百年の歴史を調べ、統計を使って詳細にやっている。三〇年代と比較するだけでなく、戦後のさまざまな金融危機とも比較しています。私が思うに、三〇年代と今度の危機は、いずれも全世界に広がった危機なんですね。グローバル時代の危機です。資産が収縮するとか、生産高つまりGDPが下がるとか、失業者の増加、それから国家債務が激増したというような指標をあげて、一国の危機、それから、たとえば九七年のアジア危機のような、地域的な広がりの危機とグローバルな危機と、比べた研究です。さっきも申し上げたんですが、崩壊する寸前の資産バブルは「三〇年代の比ではない」と。
 それでこう言ってる。グローバル時代の危機というのはなかなか回復しない、と。一国の危機では、そこが金融危機でバブルが崩壊して落ち込めば、借金も増える、生産も下がる等々で信用をなくす。そうすると通貨価値も下がる。すると再びその国は競争力を高めるんです。要するに安売りできるから。したがって一国での危機は、危機前の状況に戻るに、「早くて二年、遅くて四年」と言っている。たちどころに競争力を回復すると。今、欧州では通貨が下がっているでしょ。ドイツなどはもうホクホクですよ、フル操業。競争力で優位なわけですから、安売りできる。ところが、技術を持たない、あるいは輸出産業のない国は、通貨が下がれば、外国から輸入する物価が上がって悪いことばかり。ドイツは悪いこと、つまり外国からの輸入品は高いですが、良いことが相当あるんです。だから、くたばらない。
 そういうわけで、今度のグローバル危機は、こうなると思うんです。
 一国の危機とは違って、しばらく食いつなぐには、自国も借金が多いし、他国もカネ貸す余裕がないので、「借りて」というわけにはいかない、と。国家財政がうんと借金があるのに他国が貸すはずがない。したがって打つ手がない。
 もう一つ、それじゃ輸出を伸ばすかということになるが、世界中で生産高が落ちて、GDPが下がっているんですね。これは別のいい方をすれば、経済活況がないということです。品物が動かない、売れない、つくらない。したがって、他国に何かを売り込もうにもうまくいかない。三〇年代の時も、結局のところ第二次大戦でしか片付かなかった。あの第二次大戦の直前の三八年の時に、米国は失業率はまだ一六%以上。戦争がなければ片付かなかった。今度はご存知のように、〇七年から始まって、まだ六年目ですよね。したがって、三〇年代の危機と比べてもまだたっぷり期間はあって、それも、次に戦争が起きて片付くかどうか、という問題があって「予測が付かない」というのは当然です。

投資家層による国家権力の直接掌握

 ギリシャはパパデモス首相、イタリアはモンティ氏が首相になった。デフォルト(債務不履行)になるかもしれない、と恐れた世界の投資家たち、金持ちたちが直接政治に乗り出し、「きちんと借金を始末して、ぜいたくをせず、利子を払い続ける保証をしろ」と迫った。一国を「生かすも殺すも」投資家次第になっているんですね。
 新聞は、選挙で選ばれた政党政治、民主政治、その政府が、投資家たちに「敗北した瞬間であった」と書いた。「民主主義の危機」とも書いた。投資家の手先が政府を握って、以後国民から取り立てをやるわけですね。イタリアも大胆な財政改革をやり、ギリシャもやっておる。

 これに歯止めをかけられるのは、それでは「身がもたん」と、闘う人たち。少々、資本主義社会のことを理解したり、議会政治を理解したり、等々の少々の知識を持った、それは「下らん理性」だと思いますが、そういう「下らん理性」を持ったやつは闘えない。屈服する。「しょうがない」「国がもたないんだ」と。だけれども、まだ「下らん理性」を身に着けず、右も左も分からんけれども、「腹が減ったら手を出しても食う」という健全な思想を持った何百万の大衆が、これに立ちはだかるかどうか。欧州は、そこまで来ているんですね。
 チュニジアで始まったような自然発生的なもの、あるいは宗教を信じる者も信じない者も、腹の減り方はいっしょなんです。一日ぐらいの断食はともかく(笑)。

 さて、この続きがあるんです。
 白川総裁が民主主義の問題と日銀の役割について、〇九年の五月と十月に発言しています。「非伝統的な政策」……つまりこれまでの日銀の役割は通貨を安定させたり、決済、それから金融システムの安定等々です。国の財政運用は本来政府がやる仕事。ここにまで踏み込んだもの。これに対して、これは中央銀行が一部の富裕層、民間銀行などを直接助けるわけですから、「民主主義社会では本来、考えものだけれども、この危機下では納得してくれるのでは」と言い訳をしてるんですよ。私は昨年の講演でも、「かれらも気になってるのだ」と申し上げた。
 つまり国家の存亡にかかわるような経済政策、金融政策で、議会を除外して、きわめて少数の日銀「政策決定会合」で決めるわけですよ。民主的な政府、ここで実際の政治がやられているというのは真っ赤なウソでしょう。本当に大事なこと、国の存亡にかかわること、その金融や経済政策では、選挙で選ばれたわけでもない、日銀のトップ何人かが決定権を持っている。
 民衆が自然発生的に闘ったとすると、議会政治はどんな立場、態度を表明するだろうか。民衆の役には立たない。その時、支配層にとって、役に立つのは軍隊と警察なんですよ。いつだったか、桜田武・日経連会長(当時)が、そういうことを言ったことがある。「それで社会がもつんだ」と。
 議会制民主主義を信じておられる人たちは、この危機の進行の中で、ギリシャとかイタリアの政府が、投資家に「敗北」したこと、あるいは各国の中央銀行が、非伝統的な政策で誰を助けているか、このようなこと等々をどう思うのか。このような「民主主義の敗北」に議会は無力でしょ。
 イタリアでは、共産党のなれの果ての民主党、まだ有力な党ですが、それも含めて政府を投資家たちに明け渡し、投資家の政府が大胆に進める改革に対して、何の抵抗もしてないんですよ。議会制民主主義は死んだということですね。
 本当のことを言えば、何も今回のようなギリシャ、イタリアでなくとも、白川総裁が言うように素っ裸で丸見えか、おおっているかの違いにすぎないんじゃないですか。市場次第でしょ。
 議会制民主主義の実質とは何か。共産主義者にとっては、ずっと昔から自明のこと。レーニンは「国家と革命」とか「プロレタリア革命と背教者カウツキー」という本で、資本主義の下では「たとえ最も進んだ民主的共和制においてさえ、結局、ブルジョワ独裁にほかならない」と書いた。
 危機の時代には、形式上の民主主義もジャマなんでしょう、素っ裸になったギリシャ、イタリア別にしても、みな丸見えというわけです。投資家たちは、自分たちの財産が不安でたまらない。それで直接権力を握った。そういう時代なんです。
 議会制民主主義を宣伝し労働者階級をたぶらかしてきた種々の日和見主義者諸党は、なんと答えるだろうか。

今回の危機はどんな危機か

 国際情勢の最後の部分ですが、今回の危機はどんな危機だろうかということや、若干の関連する問題にも触れてみます。
 いろんな見解がありますが、わが党の見解は「資本主義は末期症状を呈している」ということです。揺れ動く時代ですから、労働者がもちろん大変ですが、他の諸階級、農業、商業、職人、都市市民層などの小所有者、零細・小・中資本の企業家等も大変な危機下にあるんですね。
 労働者がもし、本当に敵側の抵抗を最小限に抑え込んで、勝利しようと思えば、国の存亡に関心を持つ多くの他の諸階級と、それらを基盤とする諸政党との連携が必要ですよね。しなきゃならんですよね。
 資本主義の末期症状ですから、いくらか長期的には当然ながら、根本的打開策は必要だとしても、当面「どういう道を通って」ということになれば、「広範な人びとを結集して国を運営するような、そういう強力な政権、権力を打ち立てる」というのがわが党の考え方です。
 危機の時代は、赤裸々に、世界の動向を決めるのが金持ちであるか、貧乏人であるかが問題になる。
 金持ちは権力を持っている。政府、国家機関、軍隊や警察を持っているんです。本当は社会的には、人数からみると労働組合がもっとも組織されている。組織率が一八%以下になっているような日本でさえ、まだ約一千万人の労働者が労働組合に組織されている。だって軍隊は二、三十万人でしょう。労働組合は数的には強大な組織になっているんです。ただ惜しむらくは、脳ミソに「常識」があるんですね。ブルジョワジーに育成され、未だに議会制民主主義を信じている。戦後、六十回も七十回も選挙をやってるじゃないですか。「疲れた」と言ってるようだけど、今度は国会議員の定数を減らす話にもなっているのに。
 以降の世界、資本主義が末期症状で乱世、戦争を含む乱世となると思って間違いないと思う。中東などの動乱やさまざまなこともあります。だが今回の危機は、すぐれて、世界の先進諸国の労働者階級が決然と歴史的任務を果たすかどうか、です。資本主義は命脈が尽きている。そういうことを認識し、労働者階級がそれに代わる生産様式を切り拓くことが可能かどうか、でしょ。
 しかし、ただ「やみ雲に闘う」のではなく、戦略をもってです。こんにちの危機に対抗し、たとえ資本主義に幻想をもちながらでも、激動の世界の中、一国として生きる術(すべ)で、心が共にできる、そういう人びとの一致点を見つけ、上手に闘うことです。政治権力さえ握れば、後は一歩一歩共同できる人びとの意見を取り入れながら進んだらよい。
 ただし、この危機のさ中、直ちにやらなければならないのは、日本の独立の課題です。日米同盟「深化」ではなく、戦後政治を転換して独立の政治をやる必要がある。自国の運命を握らなければ、他国に翻弄(ほんろう)される。
 そうでなければ、日本はアジアで軍事力も含め、経済も財政も米国に利用されっぱなしです。米国は変わり身が早い。中国の国内がどうなるかということはありますが、利用されたあげくに頭越し外交だってありうる。複雑に動くと思うんです。「特殊な多極化」で、いつ何時、中国と若干の期間手を結ぶか分からない。中国だってしたたか。戦略をもっている。「孫子の兵法」以来の国ですから。

わが国の進路と課題

 次は、わが国の情勢について、です。
 わが国は激動する世界で国家主権を保持し、国民経済と国民生活を維持し発展させなければなければなりませんが、そのためには国内産業の発展に留意するだけではなく、平和な国際環境の中で資源や市場を確保し、貿易を発展させなければなりません。これが事実だと思うんです。
 第二次大戦で敗北したわが国の戦後政治は、国益、国民生活重視の政治ではなく、米国に支配され追従する財界、大企業の政治でした。アジアに敵対する政治でもあった。この戦後政治は今も継続され、わが国の経済にも政治にも、文化や教育、思想にも国土にも、痕跡といびつなひずみを色濃く残している、こう最初に申し上げておきたいんです。

戦後対米従属政治の痕跡とひずみ

 たとえば戦後、吉田政権が米国との間で国交回復を図ろうとするが、その時だって、台湾との関係が問題になる。当時の保守政治家、とくに吉田は外交官出身ですから、国際感覚があったのでしょう、将来の中国本土との関係を考えて悩んでいますよ。当時でさえ、官僚に研究をやらせています。文書にも残っていますね。彼は経済優先で米国に当面は追随しながら経済発展させようとしてきたんでしょう。それを受け継いで、時たま、保守政治家の中にも国のことを考える人がいた。
 最近はどうですか。私は以前、奥田(前トヨタ自動車会長、元経団連会長)が登場し、小泉政治になった頃、財界の中できわめて一部のトップクラスが「勝ち組」として国内を握ったと言ったことがあります。
 日本経団連への財界再編のときですが、「戦後の財界の再編を思い出す」と書いたことがある。ますます一部の財界、多国籍企業は、九〇年代から、特に二〇〇〇年代以降に資産を急速に増やし、生産の集積をやっているんです。売上も増えた。
 もう一つ特徴があるのは、かれらの主要な株主に、外国勢、米国の資本が相当に入っている。私は、今も継続されている対米従属の背景に、この問題がある思うんですね。
 一昨日、オバマが「アジアに軍事力を集中する」と言った。ゼニがないからですね。すると昨日、マスコミはいっせいに、たとえば「日経新聞」は「米国のアジア重視に日本は呼応しなければならない」と。「読売」も似たようなことを言った。反応の素早いこと。
 日本の政治、政党、マスコミ、論客等々が歩調を合わせる背景には、間違いなく、多国籍企業が今、世界の中で膨大な資産を増やしつつ、しかも他国の資本がますます大きなウエートを占めていることがある。日米同盟「深化」等々は、そうした背景があるんです。そうした実態が反映しておる。
 したがって、野田政権が倒れてどんな政権になろうと、財界の意向を無視できないという意味で、日米同盟「深化」路線は継続されていくと見なければならない。アジアでもTPPやその他、経済や外交でも、それから安全保障等々でそういう状況が継続される。
 この間、野田首相がインドに行った。その内容について、外交官僚出身の山口外務副大臣がテレビに出てましてね。一貫して保守政治の論客であった森本敏(拓殖大学大学院教授)といっしょに出ていたが、いま彼は民主党政権による同盟「深化」を応援している。そして、野田がインドと約束した内容を暴露した。議論になった時に、キャスターの反町氏が、日印の外交文書、協定書の中に米国も含めていろいろ書いてあるのを指して、「二国間なのに米国が入っているというのはどういうことだ」と言った。さらに「中国包囲網ではないですか」と、しつこく聞いた。山口は「そうではない」とニヤっとしながら、「中国がどう受け止めるかは知りませんが」と言う。そうしたら、森本がズバッと、「中国としては、それは快くは思わないでしょう。これから外交上のさまざまな反撃を始めるでしょう」「基本的にはそういうことと理解しています。意見の相違はありません」と、こんなやり取りをしてましたね。
 経済も外交も安全保障も、すべて米国の望んでおることについて、その一部を担うということを、「調整しながら進めている」とも言ってましたね。昨日ですか、山口は米国に行って、キャンベル国務次官補と会って「完全に一致した」と、新聞記事になってましたね。
 以降の乱世の中で、中国だって戦争しようとは思っていないし、する力はないでしょうが、にもかかわず、中国は簡単には引き下がらない。米国の足元を見ていますから。米中は互いに相手に依存している面があり、たとえば、中国が米国の財務省債を「手放すよ」となれば米国は困るわけですから。しかし、米国へは輸出しなければならず、弱みもあるわけですね。
 中国は、今の国際環境の中で、経済の見通しは七〜八%ほどに下方修正ですね。どうなるか、しばらくは難しいでしょう。複雑な米中関係の中で、日本は米国の側に立って、アジアで振る舞うということですね。
 しかし、榊原英資氏(元財務官)がTPPについて言っていましたが、「米国との交渉は容易ではない」。彼が言うには、「何か日本の国益のためにやろうとすると後ろから弾が飛んでくる」と。つまり、日本が米国との協調を外れようとすると、それをマスコミがたたく。では、日本は米国のマスコミの中に力があるかと言えばまったくない。それで彼が言ったことが、「ご存知のように、CIA(米国中央情報部)もありますし、米国はマスコミも含めて食い込んでいる」と。私が言った痕跡の一つでしょう。外務官僚の中にもあるし、知識人、論客の中にもある、経済の中にもあるんです。
 石油資源等々についてもそうで、戦後政治の中で「体質」として形成されてきた。教育もそうですし、思想もです。日本で見る世界の姿は、欧州から見る世界の姿とはずいぶんと違っていますよ。したがって、戦略的に日本が生きていくのは大変なことなんです。それを覚悟でやらないといけない。

戦後最大の危機、国民のための勢力結集を

 日本はさっきも言ったようにバブル崩壊後で生産が落ち込み、円高と生産の海外移転や空洞化があり、失業者が激増している。債務危機は、先進国でずば抜けて大変です。だから、不景気のさ中に増税しようと言っている。とんでもない話です。
 それに加えて、東北の大震災です。世界経済は「百年に一度」と言われているが、これは千年に一度か何百年に一度かというものですね。しかも、これまでの震災は自然災害だが、今度は、何十年も故郷に帰れない福島第一原子力発電所事故の問題があるんです。だから、東電の国有化なんていう話が出る。国有化するなら、これまでの東電の役員たちを監獄に入れたらよい。二度と再び娑婆(しゃば)に出さない。だって、何十万人という人びとを路頭に迷わせているわけですから。しかもかれらは銀行と同じで、高い月給をもらっている。
 内政、外交も、これまでと反対に、国民大多数の利益ために押し進めなくてはならない。そのためには、それを希求する政治勢力を結集しなくてはならない。

彼我「2つの路線」、どう闘うか

 もう時間がありませんが、二つ。
 支配層のいわば日米同盟「深化」路線、われわれは同盟「深化」に反対。「米国なしでアジアでやっていけるのか?」等の意見があります。しかし、歯を食いしばって、「国の独立こそ尊いもの」という観点で勢力を結集し、政権を打ち立てる。
 われわれのこの路線は、日本が米国の国益の手先にされ、アジアで、米国を中心とする勢力の一つの駒として動かされるのとは、正反対です。米軍はアジアに介入し、諸国間、日中関係ももませながら、これまでの帝国主義的支配を継続あるいは再編しようとしている。
 したがって、われわれはそれに反対し、米軍を全アジアから撤退させる闘いが重要です。
 アジアは複雑で、中国は強国になりつつあります。この国は百数十年間に渡って帝国主義者にバカにされ、蹂躙(じゅうりん)されてきた国です。実力をもったので「しばらく思い通りにやりたい」という気を起すのは自然でしょう。したがって、あまり日本の国益を犯されても困りますが、それをセーブしつつ複雑な闘いをやらなければならない。
 問題は、中国が米国の圧迫に抗する限り、われわれの同盟「深化」路線反対と独立のための闘いは、共通の敵を持つことになる。自国の力に十分依拠しつつ、日中は共同できる可能性が十分ある。アジア人民は連携できる。そう思っています。
 それから、沖縄県民の闘いとの連帯はずっとやってきていますが、沖縄は再び重要な戦略地域として登場したんですね。したがってわれわれは、本気でかれらの闘いを支持し、連帯して、日本の国内で闘う必要がある、ということを申し上げたい。
 それから、日朝の国交即時樹立のために世論を形成したい。日朝交流などをやったり、そのための組織化を実現したい。野田政権は反対のことをやっている。
 社会主義問題では、われわれと中国共産党とは意見が異なっています。かれらは自国を「社会主義国」と言っていますが、われわれはそう思っていません。この点では意見が違います。しかし、米国を頂点に世界帝国主義諸国が現存し、最後のあがきをやって、とりわけアジアをかく乱しながら命脈を保とうとしているのですから、その米国と闘うために、意見の相違や、尖閣諸島のような対立はあっても、連携できることはあると、ずっと言ってきました。
 世界、アジア情勢の厳しさが増す情勢がやってきたので、闘いの前進のため、中国問題についても、もう少し踏み込んで研究しなければと思っています。今年はまた、自主・平和・民主のための広範な国民連合の皆さんが訪中されると聞いていますので、これは、槇枝先生(元総評議長)の遺志を受け継いでの交流だろうと思い、われわれはそれを積極的に支持するつもりです。


労働者、労働運動についての最近の経験

 さて、労働運動について。
 本来、日本の労働者階級が財界の後ろにくっつくようではどうにもならない。国の独立と労働者階級の解放のために、まず労働者階級が、現在の世界とわが国の情勢を理解し、労働者階級の歴史的任務を自覚できるようでなければなりません。
 けれどこれは、わが党の問題でもあるんです。われわれは、労働者階級のこの現状を打破できず、労働者のなかにわずかな党しか組織できず、友人もまだわずかです。


現状打開の若干の経験


 ですが最近、われわれは現状を打開する上で若干の経験をもちました。これまで、わが党が労働者の中に党を組織する運動で、きまって総括時にあげる理由、なぜ進まないのかという理由、それは常に二つだったんですね。一つは、オルグするにしても、何せ労働党は労働者との結びつきが少ない。なぜ労働者との結びつきが弱いのだろうかということになれば、それは、労働者の要求を闘うことが弱いと言ってきた。しかし、そこ止まりで十数年、あるいは二十年も前進できなかった。若干のところで前進した例もありますが、おおかたは前進できなかった。

 そこで、われわれは最近、労働運動あるいは労働者の意識を規定している諸条件を研究し、労働者の認識は何に規定されているのだろうか、労働者はどうなったら闘うのだろうか、ということで研究を始めた。労働者の意識を規定している諸条件、具体的にはいくつかの自治体労働者の賃金とか身分、労働条件が、何によって規定されているかの分析を始めた。人事委員会やその他、地域の政治のことなどを分析し、今まで分からなかったことがずいぶんと分かった。
 たとえば、人事委員会は「公平な第三者」などと言われるが、これは真っ赤なウソですね。日銀ではないが、知事が推薦し、議会が承認したもの。いわば少数の有識者めいたものが人事委員会を構成している。それが地方の公務員の賃金を決め、誰を昇格させるかを決め、労働条件を決める。それから最近、公務員が合理化されて、賃金が下がり、人員が削減される。理由は「財政が厳しくなった」という。だが、財政が厳しくなったのは別のところに理由があったりする。地域の開発だとか、地域経済にかかわる支配者は、引き続きたんまりとカネを使っている。足りないカネは地方債を発行し、銀行にたんまり金利を払っている。金利が低い時に借り換えればいいかというと、銀行は「困る」と言う。だって、中小企業に貸したら倒産されるかもしれないが、「自治体に貸せば万全」、取り損ないはない等々ということがある。
 どういう政治的、あるいは地域社会の階級的な利害、制約下で、公務員労働者に危機をしわ寄せすることで乗り切ってきたのか。もう少しさかのぼると、九〇年代の日米構造協議から、米国を助けるために日本の財政を使って公共事業などさまざまなことをやらされた。あれは六百三十兆円。それは地方にも借金となって残っている。そうした事実を知っただけでも、公務員が「何だ!」と思う。ところが、公務員労働組合の指導部は何となく「財政が厳しいから」と、しょっちゅう労働者に言って聞かせ、闘わない。こうやって調べれば、怒りを組織できるし、闘い方も分かる。それから、民間の零細企業でも若干、研究が進みました。

経験の理論的な整理

 これを理論的に整理してみますとねーー
・唯物論、労働者の意識とそれを規定している生存の諸条件、あるいはその相互関係。何よりもまず運動。人間が運動をやるわけですから、その運動に参加している諸階級の生存の諸条件こそ、その諸階級の認識、あるいは行動を規定しているということ。考えてみれば当たり前のことですが、そのことを、われわれはきちんと整理することによって、具体的につかむことができた。
・もう一つは弁証法です。さっき言ったように、それらの意識を規定している諸条件と合わせて、いろいろな方面がある。それらの相互作用をどうやって分析したらよいかということも、一歩一歩、つかむことができた。それによって、労働者の怒りを組織し、闘う方向も見えるようになった。


自治体労働者と民間労働者での若干の成果

 だから、自治体労働者と民間労働者での今回の若干の成果を、押し広げなけれなりません。われわれの経験は、まだ全国の県党の一部の同志がつかんだにすぎません。労働運動ではあるが、公務員という、労働運動の一部にしかすぎません。とりあえず、党員のいる地域でこの経験に学ばせ、この水準を身につけさせ、労働運動に接近させて労働者の怒りを組織して、闘争が起きるようにしなくてはなりません。
 また、今回の経験は労働運動だけでなく、諸階級の運動の研究にも役立ちます。広範な国民連合の課題、弱点の克服にも役立つでしょう。

この経験を団結できるすべても党派と共有する

 もう一つ、この経験を、団結できるすべても党派と共有したい。詳しく報告できる機会があれば、あるいは労働運動の討論集会でもあれば報告したい。日本の労働運動をどうやって転換していくのかという初歩的、しかし、貴重な経験であると思うようになりました。そういう意味では、以降の進め方に確信をもち、この歴史的時代に対応できるように前進を始めようとしています。

わが党の現状と問題点

 わが党の現状と問題点を若干、ざっくばらんにということで、さっきの労働運動もそうですし、国の政治でもそうですが、わが党は壮大な仕事をしたい。だけれども、県的な仕事は十県ほどで行っているにすぎない。もちろん、専従体制がない地域はもう少し多い。点在も含めて言うと、三十数県で活動しているでしょうか。このぐらいの組織では、大局がわれわれに要求していることには応えられない。この問題を全国の心ある人びとに実情を知っていただいて、われわれに何らかの「助太刀」をしていただければ助かります。先進的な労働者がわが党に参加していただければ、わが党は大きな仕事ができるようになります。
 党歴は三十八年ですが、さっき言ったように労働運動で「初歩的な経験を積んだ」と言ったが、本来もっと早い時期にすべきだった。今は激動期でしょう。古い先輩の共産主義者の皆さんはあっちに転んだ、こっちに転んだでしくじった。したがって、今は共産主義者の理論に信用がない。しかし、マルクスやエンゲルスが登場した時期はブルジョア・イデオロギーが支配していた。経済学は英国、哲学ではフランスが唯物論、ドイツが観念論。そういう中でマルクスとエンゲルス、彼らは青年ヘーゲル派でしたが、「ドイツ・イデオロギー」など彼らの古典を見ますとね、私が非常に感心するのは、唯物論的な確固たる理論をもっていた。主観ではなく、具体的な事情を研究した。たとえば資本主義の経済学は英国から発展してきているんですが、当時の先進的なブルジョワ経済学者が乗り越えられないものを、マルクスは乗り越えた。資本主義を徹底的に研究して、前途を予測している。
 そういうわけで、われわれは一から始めたい、唯物論を。唯物論を徹底していくこと。昨年の旗開きで、私は「唯物論を身に付ける、と口で言うのはたやすいが、一貫していくことは難しい」と言った。また、世界の複雑な状況についての、客観的な相互関係を知らない。たとえば金融機関がどうやって動いているかなどの事実を知らない同志が、党内にも多いんです。したがって、今年はいっそう、理論的にもきちんとした前進をしたい

 わが党はマルクス主義を掲げていますが、マルクス主義者に十分なりきっているかと言えば、まだ程遠い状況にあります。申し訳ないが。
 少なくともこの危機の時代にあって、しかも歴史の経験から「資本主義の末期症状だから社会主義だ」とはわれわれは思っていない。複雑な階級闘争への対応、友を見つける知恵等々を受け継いで、非常に具体的に、きっちりとした政党を建設したいと思う。
 われわれはまだ力がありません。どうぞ引き続き、私がしゃべったようなことを頭に入れてお付き合いいただきたい。いずれ、われわれは成果をあげるようになると確信しています。

むすび(当面の情勢、政局と団結の問題)

 むすびですが、政局で、まず橋下氏(大阪維新の会)が選挙で自由自在というか、知事選挙に当選し、大阪府で辣腕(らつわん)を振るってきたが、辞めて大阪市長に。昨年の暮れ、みんなの党がテレビで言うには、驚くなかれ、大阪の動きなどをさして「来年にかけて革命が起こる」と。もちろん「全国政治も動かさねばならないが、みんなの党が政権を取ると二年でデフレを脱却します」と、べらぼうなウソをつく。
 ところで伝統ある政治家たち、自民党や間にいる「細切れ党」、保守政党は動揺しているんだね。橋下を敵に回したら大変だと。信念がないのか。だって橋下が大阪で合理化やっても、いったいいくらゼニができるんですか? 国の全体の経済や世界の経済がこうした中で、大阪だけ豊かになりますか?
 ウソだってことは非常にはっきりしている。ところが選挙を前にして、確信がないものだから、みな動揺している。日本には政治家がいないということですよ。保守系の政治家でも、この国難に「体を張ってでも」という、昔風の政治家がいない。残念なことですが。
 それはそれ。さて、総選挙をめぐってですが、政治再編が避けがたい。政党再編も避けられない。もう動いているし、選挙前には避けられないし、選挙になれば避けられない。そこでわれわれはこれに影響を与えられるでしょうか。それ程の力はないでしょう。社民勢力の人は、今度の国政選挙はどうするのか。
 まず、社民党。ある地方の幹部に聞くと、比例区定数が八十減らされるという問題ね。「もうバンザイ(お手上げ)だ」と。福島みずほ(党首)さんが「反対」と言っても影響はないですよね。二、三の党が取り引きすれば、決まりますから。社民党議員は何人残るか、消滅するか。消滅しても復活するメドはないので、新社会党の皆さんと協力するとかどうでしょう。前回の参院選では、新社会党の人が社民党に入って大騒動になった。今年、総選挙があるかもしれませんよね。同じことはやりにくいですね。では、単独で立つかとなると、ゼニがない。他に、元外交官の人や、知識人なども出る可能性がある。そうしたところと手を結ぼうかとなる。なるべく見えるように、どこかに政治的な動きをしているように見せたいのでしょうが、展望はないですよね。
 左翼は、団結しなければ進まないのに、諦めもできない。大変だと思う。明治維新のころは、あっちに付いたりこっちに付いたりですが、体をかけた豪傑がおったですよ。今はそんな政治家がいない。したがって、少し協力を進めませんか、というお願いです。わが党は、それを願っています。
 われわれは数カ年前、あの当時は社民勢力でも何でも大きく結集することを「手伝う」と言ってきた。「団結して大きな党をつくれ」、選挙でも「百人ぐらい立てて」と言った。われわれもゼニはありませんが、ずっと前ですが、以前は三十人も候補を立てて闘った。大胆にやったが、まあ借金を負ったので苦心惨憺(さんたん)、未だに苦しんでいる。懲(こ)りてもいますが、しかしここ一番なら、体を張ってもいいじゃないですか。
 そういうことで、なるべくならば手を結びたい。心ある人と話し始めていますが、大規模にやりたい。
 これで終わります。いずれにしても大きな展望を切り開くために闘いたい。この局面は、金持ちが国家を押さえたにしても、人民は押さえられないので、ここにしわ寄せしようとしている。ここから反撃が始まれば、この乱世、いずれは一部の富裕者に対して、持たない者の勝利は疑いないと思う。中東に限定してみても、右往左往していますが、それでも人民の力は前進している。
 三〇年代と比較しても、経済規模ははるかに大きいでしょう。人口はあの時二十億人、今は七十億人いますよ。しかも隅々まで資本の網、金融の網でおおわれている。ですから、今度行き詰まれば大騒動になる。長年の乱世になる。
 われわれには、私はともかく、十分な時間がありますよ。急いで勉強したほうがいいですが、少々遅れても間に合う。したがって団結してですね、そして今回は先進諸国の労働者、ここに希望がある。私はそれを願っています。
 今日はありがとうございました。


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