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2012年1月1日号 1面〜6面・新春インタビュー 

大隈議長、熱く語る

 内外情勢の大激動のうちに、二〇一二年が明けた。「労働新聞」編集部は、日本労働党中央委員会議長である大隈鉄二同志に新春インタビューを行った。議長は、リーマン・ショック後の危機をはじめとする国際情勢の現状評価と展望、野田・民主党政権の抱える課題とわが国の進路、わが党の課題と闘いなど、多方面の話題を縦横に語った。紙面の都合で一部を割愛せざるを得なかったが、以下、掲載する。(聞き手、本紙・大嶋和広編集長)。


大嶋 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

大隈議長 おめでとうございます。

大嶋 さて、恒例の新春インタビューです。昨年を振り返ると、国際情勢も国内情勢も大激動でした。二〇〇八年のリーマン・ショック後、わが党が言った「谷底に落ちる途中の木に引っかかっている」というような状態から、さらに危機が進んだように思えます。大隈議長は昨年の新春講演で「破局」の問題を提起しました。米国などの金融政策は効果がなく、南欧を中心にソブリン(国家債務)危機が浮上しました。新興国経済も曲がり角。こんにちの世界の危機がどこまで来たのか、特徴づけると、どのように言えるのでしょうか。

激動する国際情勢、危機の現状について

最近の情勢認識を振り返って

大隈議長 国際情勢の特徴ですか、冒頭から大変ですね。昨年のインタビューも、言ってみれば似たような質問でしたね。
 あなたがさっきちょっと言ってくれたんですが、昨年の新春講演のタイトルを何にするかで迷いに迷ってね、「迫り来る破局」という言い方をしたんですね。
 ただ私は、そこでも少し言い訳をしたんですが、ロシア革命の指導者であるレーニンも「迫り来る破局、いかに闘うべきか」、そんなタイトルの文書を書いてましてね、ですから、「迫り来る……」なんて言葉を使うと、われわれは具体的な世界や日本の情勢下で論じているのに、スッとレーニンのそれを連想して受け取られかねない。必ずしも言いたいことが伝わらない。そう思いながらも、結局、危機が迫ってきているという現実を、何とかして伝えたくてね。
 さて、現局面についての「情勢の特徴づけは?」というあなたの質問に答える前に、確認しておきたいのですが、私が昨年の新春講演で述べた情勢認識、その特徴把握は、リーマン・ショック、世界的金融危機、その広がりと深刻な経済危機、そしてそれへの応急措置それ自体が、その後の若干の経過はあったものの、ギリシャなど欧州南域での債務危機の発生と広がり、金融システムの不安と動揺、発展途上諸国でのバブルとインフレ等々、新たな危機を生むことになった。
 だから、全体として、「より深刻な危機へと情勢は発展しつつある」。展望するに、破局はますます差し迫っており、避けられない情勢となったな、と思っていた。
 さて、あなたの質問だが……。中央での旗開きが終わって間もなく、チュニジア、エジプトなど、北アフリカと中東諸国で人民が立ち上がった。状況は諸国、みな異なってる。そして複雑。だが、闘いは今も続いている。
 財政問題。先進諸国は一様ではないものの、みないっそう深刻化した。ギリシャや南欧、欧州諸国ばかりではない。米国や日本も含めて、リーマン・ショック以降の不況対策で深みにはまった。
 ユーロ圏、南欧の一部諸国の債務危機が、いつなんどき金融危機に転化しないとも限らない。そんな不安も過ぎた一年、度々あった。
 BRICS、発展途上国もかじ取りが難しくなった。
 あなたの質問、簡単に言ってしまえばですね、欧州、ユーロ圏だけでなく、米国も日本も、どの先進諸国も、そして新興・発展途上諸国も、経済、財政、金融がいっそう悪くなってきた。かじ取りが難しく、妙策もない。
 「より深刻な危機へと情勢は発展しつつある」と昨年は言ったんですが、「発展しつつある」ではなく、昨一年を通じて「より深刻な危機へと情勢は発展した」と明確に断定したいと思うんです。
 その内容ですが、先進諸国の不況からの脱出、そして成長は容易ではないと思うからです。一般的な理由は、第六回中央委員会総会決議(〇九年)でも述べてあります。需要が回復するには相当の年月を要するはずです。加えて、多くの先進国、経済は芳しくないのに、財政再建が不可避的な課題となってきたからです。
 一国の政治分野でも、国際政治の分野でも、経済、財政、金融の厳しさが反映するはずで、協調より争奪が目立ってくるのは必定だと思いますよ。経済と政治分野の相互作用も一つの側面でしょうが、内政と国際関係あるいは国内の階級矛盾と諸国間の矛盾、要するに、乱世となるんじゃないですか。
 さて、ちょっと戻るようですが、さっきいろいろ述べた昨年のわが党の情勢認識は、他党派とは明確に異なっていました。
 ですから、社民党系の一つのグループ、その理論誌に書かれてあった論文を取り上げて批判したんです。
 それ以外のグループもそうですが、何となく、危機という理解ではなくて、相対的に安定しているとか、リーマン・ショック、金融危機、実体経済の一時期後退は認めてはいるものの、一一年になる頃にはね、いろいろな手立てが打たれているので、「出口」が見つかって何とかなるのではないか、そんな意見がにじんでいましたね。
 そういう幻想というか、それと結びついてるんでしょうが、「これから福祉社会に向かうんだ」なんてね。民主党に対する幻想も少しは残っていたでしょうがね。
 私は、新春講演で、さまざまな月並みな認識、評価と対置して意識的に話を進めたんです。その後の経過は正しかったと確信しております。
 振り返ると、そういう観点はわが党内では非常にはっきりしていて、六中総では詳細に分析し、明確な見解、見通しを打ち立てることができたんです。
 その前の年の〇八年の五中総、リーマン・ショック以前ですが、その時でさえ、〇七年に始まったこの危機は容易ではないとの認識はあったんです。通貨や金融危機の頻度とかいろんな点から分析し、気づいてはいました。
 六中総では非常にはっきりとした認識を確立したんです。株価、失業率、GDP(国内総生産)の後退だとか、なぜ一九三〇年代のようにならなかったんだろうかと、さまざまに分析した。
 各国中央銀行がとりあえず金融を緩和する。米国はドルだが、主要な先進国の中央銀行がいっせいに輪転機を回して、当時の言葉で言うと「凍りついてる金融市場」を溶かすために、資金を流す。危機が破局に至らないようにしたこと。実体経済についても、米国のGM(ゼネラルモーターズ)を例にとれば分かるが、政府が資金を大量に投入して救った。他の先進諸国でも同じだが、自動車が売れないと、それを買えるように、さまざまな支援をやった。
 われわれは、三〇年代のような劇的な恐慌に至らなかった理由、あるいは現状にとどまっている理由は、FRB(米連邦準備理事会)や各国の中央銀行や政府の、いわば公的資金、それらによって。もう一つは、まだ米国を頂点として、弱ったとはいえ、先進諸国が協調体制下で、いち早く共同行動が取れたということ。この応急措置。これによって、一挙に地獄の谷底に落ちずに済んだ。途中の木に引っかかって助かった。公的資金でね。
 したがって「出口論」が言われたりもしてるけれど、上がるに上がられず、さりとて公的資金で引っかかっておるので、下りるにも下りられず、というような具合ではないか。そんなふうに言ったんです。
 そういうことだから、中央銀行による垂れ流し、金融緩和政策で銀行を救う、政府の国債で景気支え、企業を救う、いわば応急措置では、実体経済も世界の深刻な問題も、何一つ解決しないと主張して、もう一度世界経済が立ち直るについてはね、相当の時間がかかると、党の決議の中で書いた。

米国が震源地であることは常識

大隈議長 さて、今回の〇七年以降始まった危機、あるいはサブプライム・ローンからリーマン・ショックへと発展してきたんですから、誰でも、最近一、二年、南欧のソブリン危機等々が問題にされ、新聞はよく「欧州危機で世界が大変な状況になっている」と書くんですが、もとをただせば、米国が震源地というのは常識だろうと思うんですよ。
 ですから、危機の現状をどう見るか考える場合、その震源地である米国抜きにできませんよね。ですが短期的な一つの局面、たとえば欧州。最近二度ぐらい、世界が固唾(かたず)をのんだ。ありましたね、包括的な欧州の解決策。十月、それから十一月の時にもね。
 欧州連合(EU)と、ユーロ圏十七カ国の首脳が集まって、長時間、喧々囂々(けんけんごうごう)。世界の投資家、金融関係者、政府、マスコミ等々が固唾をのむ。
 その欧州の問題を、〇七年に始まった一連の問題の中で見ていくと、資本主義世界の基軸通貨国、最大の経済大国、一国としてはね(EUは二十七カ国で、人口は欧州のほうが大きい等々ですが、厳密に一国では米国が最大の経済大国)、それが戦後六十数年を経て、ずっと衰え、米国自身と世界を巻き込んでの世界危機に陥った。リーマン・ショック後の世界を瞬く間に巻き込んだ危機も、現在のEUやユーロ圏の問題も、その一部というか、その続きなんですね。
 米国発の今回の危機、どんな世界で荒れ狂っているか。三〇年代の人口は二十億ぐらいですかね。今は七十億だね。経済規模もケタ違い。世界の隅々まで、資本主義の、金融と言ってもいいが、そういう網で捕らえられている、そういう世界。
 三〇年代とは比較しようもないのが情報化の時代。瞬時に世界に情報が伝わるし、ゼニのやり取りもできる。現在の危機、破局に至れば、三〇年代とは比較にならないほどの規模、あるいは深刻なもの。世界のどの片隅も、この危機、破局の圏外に立てない。
 その震源地米国の危機、まだ広がっており収束の方途も見つかってさえいない。行天豊雄氏(元財務官)ふうに言えば「現時点で言えば全く予見不能である」となろうが、危機の広がりは、まだこれから。
 世界史という範囲で見るなら、長い闘い、一つの時代なんだろうが、どの階級の勝利になるかは、裕福な少数者でないことは確かなんですよ。人民が勝つ。先進諸国の一部での、労働者階級の勝利が始まること、その早い到来を願ってやまない

欧州危機の問題について

大嶋 「欧州の危機」についてもう少しお願いできますか。

大隈議長 欧州危機の現状をどう見るか。確かにこの十一月の末に欧州は手を打った。通貨が統合されて以後、ユーロ圏十七カ国の一つの構造的矛盾、「だいたい経済法則に合わない」とか書き立てられ、欧州の不安をあおる風潮もあった。日本にもある。英国にも。
 そういう流れがあるんですが、今度の対策の中ではユーロ圏十七カ国とプラスアルファというか、実際は英国を除く二十六カ国がこの問題を解決しようと決定した。中央銀行が一つのユーロ圏が十七カ国あって、それに周りの諸国がみな、財政でも将来は統合しようと、一歩大きく踏み出した。
 各国の財政の監督機関をつくって、予算の段階からそういうEU機関の監督下に置きながら運営する。それから全体として債務危機に対処したり、財政収支を均衡予算にしたりしてゆく。従来、単年の財政赤字をGDPの三%までに抑え込むとなってはいたが、守られなかった。監督機関がなかったこともあるでしょう。今回は監督機関を設けた上で均衡予算、ゼロにまでもっていくようなことを含めてですね、包括的な合意に達したわけでね。それ自体は、欧州が危機を経験し、困難を克服してより強化された。全体としては、ユーロ圏、欧州連合の支配層から見ると、正しい方向への前進だったんでしょう。ただ、投資家たちは不安がっている。そんなわけで、問題はまだ残っている。
 年が明けてからすぐ具体的な、総合的な対策のための手を打つということにはなっているものの、短期的にはもたないのではないかといって、現に南欧のイタリアやフランス等々も含めて、国債金利が上がってる。価格は下がっている。
 そういう状態があって、ドイツ、フランスを中心として十一月末に行われたユーロ圏あるいはプラスEUの、前と同じ、英国が外れたからそれと同じ枠組みじゃないですが、似たような枠組みをきちんとつくった。英国が外れたので枠組みは変わったが、似たような枠組みはできた。
 協調はしやすくなったのでは。ただ、当然ながら、血に飢えた投資家たちの不安は残っているんでしょう。カネを持ちすぎるのも大変ですかね。そこから債務危機が金融危機に転化して、全世界に及ぶのではないかとの不安。これは一つの問題として、ある。

 確実なことは、仮に先進諸国が債務危機を乗り越えたにしても、この〇七年からリーマン・ショックの直前まで、あるいはリーマン・ショックを経てとりわけ大きく、中央銀行は、大量の流動性、金融緩和政策を実施した。政府も、実体経済に対する手立てとして国債を発行した。先進諸国はみな、もはや債務危機を放置できない水準に引き上げた。これら債務の重荷は、長期にわたっての経済回復の重荷となるんじゃないか。

米国の累積債務、ドル・信用不安、不均衡問題

大隈議長 もう一つ重要なことは米国の債務危機。財務省のさまざまな国債ですが、それが九兆あるいは十兆ドルになってる。その半分以上ぐらいを外国人が持ってる。外国人が、それだけの米国債を所有している以上、その外国人が米国を信用するかしないかで、米国の側から見ると信用されるかされないかで、米国の死活問題にまでなってきたわけですよね。
 それがリーマン・ショックから最近の状況なんですよ。そしてこの二、三年、毎年一兆ドル以上の赤字をつくって、そしてそのことによってドルが信用されなくなって価格が下がっている。
 オバマ政権は国内で、財政政策を自由にできないところまで法律で抑えられている。手を打てない。
 軍事予算を減らすとか、いろいろ。最近の新聞だったか、やっと政府の機能が止まらないで済んだなんて記事があったですね。首が回らんのでしょ。そこまでもう来てるんですよ。これ、九五年の時もあったんですよ。ルービンが財務長官をやっていた時ね。メキシコ危機の頃でしたね。だから米国の立場はこれで決定的になった。リーマン・ショック時以上に大変なんですよ。

現時点で、危機の要点をいくつか

大隈議長 要点を整理してみますか。
 (1)米国。そこまで危機が来ていますから、たとえば欧州の債務危機が金融危機に転化する、そうなればそれこそ世界は破局。仮にそうでなくても、もはや身動きできないところまで米国は来てるんですよ。したがって米国は、世界からの信認の維持が、自分たちが生きていける条件だと意識せざるを得ないし、するようにもなってる。だから狡猾(こうかつ)でもある。軍事とか世界の波乱が起こってくれば米国の出番。出番は欲しい、だが財政は苦しいので他国を利用する。したがってわれわれは、米国が、支配を維持しようともがく末期の帝国主義であることを忘れてはならんということになる。
 ちょっと話を変えましょう。この間、スワップ協定で、基軸通貨国としての米国がドルを提供するという問題がありましたね。そういう意味では、世界の資本主義が米国を抜きにはまだやっていけない。軍事以外でも、米国の強さはあるんですね。しかし何回も言ったことですが、米国もそれ自身では成り立っていかなくなった。だから国家予算も、特に軍事予算等々、みんな減らしてる。国内の景気はさっぱりですが、財政措置では手が打てない。国内需要を復活させるのも難しい。それが理由での、TPP(環太平洋経済連携協定)でもあるんです。だが、これとて成功する保証はない。
 (2)財政問題。現状を維持するにしても、破たんするにしても、展望はともかく、一般的に非常にはっきりしていることは、これ以上継続できないし、債務問題に手をつけなきゃならんところまで来た、こうなんですね。債務問題は〇七年以降、リーマン・ショック、金融破たんを抑えるためにやったこと、実体経済に対して国債を発行しての手当て等々、公的資金での応急措置費用なんです。率直に言えば投資家たちの破産を救い、資本主義体制を維持する費用なんです。
 財政が破たんしないように、債務危機が再び金融危機に発展して、資産家の財産を脅かさないように、この費用を人民に負担させる、そういう段階。最後的には膨大な債務処理が必要となる。この経済が立ち直るというようなことになれば、相当の時間がかかるということですよね。
 先進諸国、差はあれどの国も財政再建、増税、別様に言えば新たな追加的収奪を始めるんですね。そうすると、たとえば買い替え時期が来て若干の需要が戻るにしても、それが大規模に新たな需要、投資を誘うような、景気回復のきっかけにはならんでしょう。
 一方で膨大な大量の資金が、投資家、富裕層の手にある。他方では、安月給やまっとうな生命維持さえできぬ非正規労働者、街頭に放り出されて職にありつけない失業者。こうした状況の中で、財政再建という口実での新たな収奪が、「国家の仕組み・法」権力で強制される。
 どの諸国も、経済見通しを次々と下方修正。成長と財政再建の両立ではなく両にらみなどといいかげんなことを言ってるが、相当長期の不況、それも展望があるわけではない。覚悟が必要。耐える覚悟ではないですよ。私が言いたいのは、腹を据えての闘いの覚悟。
 (3)世界の資本主義。最近、どの本を見ても、これから五年、十年、あるいはもっと長く世界は不透明で、そして経済は停滞するであろうと書いてますね。こんなふうに多くは一致しているんですね。その先、危機を乗り越えられるかどうかでは「分からない」というのが、みな言ってることなんですよ。
 われわれの見方からすれば、前途はこうなる。つまり有り余っていることが貧困の理由になっているわけですから、地球上の人間の生存条件としての、富や資源や知識、それに健康で働きたがっている人間がわんさといるのだから、前途に悩むことない。
 一方では貧困が、他方では資金が有り余っている、こんなこと、常識ですよ。ただ、学者たちは巨万の富を持った富裕層に気兼ねしているか、自分もけっこう資産を持ってるか、それとも支配層を恐れているんでしょう。本当のことを言わない。
 クルーグマン(米プリンストン大学教授)も、どうしたらよいか「分からない」が、客観的には打開のための物質的というか経済的というか、条件は揃っている、という意味のことは言ってますよ。浜矩子(同志社大学教授)さんですか、売れっ子の学者さんも、結局のところ「再分配せにゃならん」と言ってましたね。再分配ね。再分配ということは私的所有の財産を、暴力で奪い取るか、似たようなものですが法律をつくって取り上げるかでしょうが、大変ですよ。
 個人の財産、憲法で保障しているから、これを法あるいは権力によって分配し直すということですから、その瞬間、私的所有は揺らぐか侵されますよね、十分保障しないということですよね。
 これは非常に広い意味で資本の社会化でしょ。われわれから見ると、社会主義革命は不可避だ、とね。レーニンは、帝国主義というのは「資本主義の最後の段階だ」と、第二次大戦前から言ってるんですよ。でもポンド帝国は最後ではなかった。ドル帝国の資本主義は最後になるんでしょうか。現在の危機の進行は、この疑問に回答を与えられるか。これは理論問題ではなく実践の問題ですよ。

 私は、危機の段階をどう見るかというあなたの質問に対して、質問への最初のほうでは、情勢発展のさまざまな局面での見解として、昨年の見解、「発展しつつある」ではなく、昨一年を通じて「より深刻な危機へと情勢は発展した、と明確に断定したいと思うんです」と申し上げた。
 だが、本質的観点で言えば、二十一世紀現在の米帝国主義を頂点とする資本主義が、今回の危機を通じて、レーニンが言う「帝国主義は資本主義の最後の段階である」という「この仮説が、実証されるかどうか、そうした段階」に入った、と回答しておきます。
 レーニンは帝国主義を「戦争とプロレタリア革命の時代」と規定していますが、戦争を含んでの動乱の時代ではなかろうかと見ています。必ずしも戦争が前提でなくても、労働者階級が政権を奪い取ることは可能だと思っています。

中東など人民の闘いの前進

大嶋 少し触れられましたが、中東・北アフリカの激動、欧州での労働者の闘い、米国の「ウォール街占拠運動」などの闘いや政治面での変化もありました。そのあたりはどう見ておられますか?

大隈議長 昨年の旗開きの直後ですかね、チュニジアから始まってエジプトとか、瞬く間にね。最後とは言いませんが、まだ継続していますので、たとえばリビアとかイエメンとか、シリアなどとか、イランでもまだ。後半になるに従って、誰が画策しているのかがはっきりしてきた。私がどっかで言っているんですが……。
 一つは、きっかけははっきりしていると思うんです。今回の〇七年に始まった危機。これと関わっているんですね。特に、そういう国々はインフレね、米国や先進国が金融危機と関係して資金を垂れ流して、それが先物市場とか資源国とか、いろいろなルートを通じて、それらの国でインフレなどとしてあらわれているんですね。
 経路はいろいろあると思うんです。インフレでとりわけ所得の低い人たちには耐え難い状況になってきた。新聞でよく「独裁政治への反乱だ」と言うんですが、独裁政治はずっとあって、「独裁政治への反乱」というだけでは正確ではないし理解できない。
 リビアでは失業率三〇%、サウジアラビアも失業率は高い。それにもかかわらず、独裁体制はこれまで維持されてきたわけです。端的に言って、一一年の一月からさっき申し上げた一連の国々の民衆が独裁政治に対して闘って、一部は倒れるということが起こった等々の説明が、一つの理由、たとえば「独裁」というだけではうまくいきませんね。
 状況から見ると、今回の危機の一部としてあの地域では民衆が蜂起した。しかも発展の経過を見るとね、あの立ち上がったところは、言うところの親米諸国ですね、権力が。また比較的反米諸国もあるわけです。したがって、それぞれの国のインフレ、独裁政治等々というのが、この時期立ち上がった共通項ではあるんです。しかし、具体的な発展はさまざまですよね。だから、たとえばサウジアラビアはまだ政権を維持してるわけでしょう。他は倒れたわけですよね。チュニジアはすぐ倒れた。あとは、逃げ隠れしてやっと倒れた国もある。どこだったかな?

大嶋 イエメンのサーレハ大統領ですね。

大隈議長 イエメンか。そういう国もある。エジプトも倒れたといえば倒れたんだが、何て言うんだっけ、大統領……。

大嶋 ムバラク政権。

大隈議長 ムバラクは確かに追われたんだが、それを支えていた勢力はすべて残っておる。それからリビアなども失業率三〇%で産油国で、それでも政治が続いていた。しかし、あそこは民衆が蜂起しなかったわけではないが、倒した力の源泉は英国やフランスが中心で、最後のほうでは米国も。あそこと関わりが深かったのはイタリア。よく考えてみると帝国主義、米国や欧州の先進資本主義国と言ってもよいが、帝国主義のさまざまな利害が交錯している。
 もう一つは共通項で言ったほうがよいのですが、立ち上がった側。先ほどは条件のようなことを言いましたが、多分に自然発生的、ある一つの党が指導しているのとは少し違う。十分に力があったのはエジプト。あそこは……。

大嶋 ムスリム同胞団ですね。

大隈議長 これは比較的組織されている。しかし、権力側は宗教支配ではないんです。イラクもそうだったし、シリアもそう。したがって、立ち上がったものの十分な発展過程で成果を上げているのかとなると、これまでとは違った政権がーー独裁ということを形而上学的に取り上げて、それに対抗するものを民主主義と仮に言えばーーそういうきちんとした政権はできてないですよ、どこも。したがってですね、あれらの国に確かに民衆の中に不満があって、それが大きなエネルギーなんですが、さまざまに複雑であることを理解しておかなければならん。
 あの動きを「アラブの春」とか言い、さまざまな形をとっているんですが、一般的に言うと私は二つあると思うんです、成果が。一つは民衆が立ち上がったということによって、支配層、独裁が継続されようが、たとえば独裁も宗教的な意味でのイランと違って、シリアとかエジプトとか、これは何と言うんだっけ?

大嶋 世俗政権ですね。

大隈議長 それらがあったにしても、二つあるうち一つは、より民衆の力が強まって、十分不十分、成果はともかく、このことによって今までのようなきわめて独裁的な政治は続かないということが明らかになったのではないか。そういう意味で民衆の側に力が、政治の軸が移ってきた。具体的な成果がまだ固定されていないし、さまざまだが、民衆の力が強まった。彼らが一定の困難な中で政治的な発言力が強まったというのがあるのではないか。
 もう一つ、資源問題等々を考えてみますとね、民衆が自覚を高めることで、一部の王族だとか、最後には帝国主義者が握っていた資源やその他の権利に目覚めて、帝国主義者には不利になったことは間違いない。ずるい帝国主義もあって、中東における「反米」の空気、米帝国主義は集中的にはパレスチナ問題やイスラエルを見ると分かりますが、ここが孤立してきている。しかも米国がここをきちっと支持して、そこを軸というより、見かけ上、中間的な立場を取らなければならないのは、私は帝国主義者の中東支配は、まだ途中ですが不利に動いていると。歴史的な時間と言ってもよいが、それは少し長い目で見ればという意味。これは確実というふうに思うんです。
 しかもそれらの地域は資源に頼っている国が多いにしても、労働者は多くいる。しかし、かれらが組織されていない。問題はそれらの地域で人民に影響力のある、労働者階級の政党がないということです。だから中東がある日、世界の政治の一角に突然、顔を出すのはなかなかまだ難しかろうと、私は思う。
 歴史的な時間から見ると人民の力が増大した。政治的自覚を促す契機となったこと。それから帝国主義、とりわけ米国等々の帝国主義者がなかなか一致団結できないのは、この中東に利害があるからですね。イラク戦争の時もそうですが、今度のリビアとか見ると、それぞれの国に自分たちの権益があり、フランスとか英国はずるいんですね、まあそんなことが言えると思うんです。これが一つの問題。
 遅かれ早かれ、この経験を通じてそれらの地域には、エジプトなどはイスラム教のような党もできるかもしれませんし、世俗的な党も乱立し、そういう政党が登場するきっかけにはなるでしょう。しかし、いわば欧州型の選挙がやられて等々というのは簡単ではないですね。つまり帝国主義者たちが資源を収奪する上で時に古い王制とかを利用してきたわけですから、社会構造から見て、とても立ち遅れた状況にあるわけです。立ち上がった民衆は何らかの意味で西側諸国の影響を受けているわけですから、これが一つの方面。緩やかに国際政治に登場するのは間違いない。これが一つの方面。

国際情勢の展望について何点か

大隈議長 もう一つです。米国が今、先ほど申し上げましたように、確かに経済が弱まり軍事力でもっているような面があるんですね。したがって、もう一つの焦点は、米国が第二次世界大戦後、全世界で中東に大きな重きを置いたようですが、最近の危機を通じてあらわれた米国の力の限界もあるでしょう。そういうこともあって、アジアに重点を移してきたわけですよね。そして、重点を移したことについて言うと米中が非常に問題になる。これがどうなっていくだろうか、というのが、世界の一つの大きな問題でしょう。
 さりとて、たとえばEUが「危機だ、危機だ」と言われているんですが、ある程度乗り切ってですね、世界の危機がどのように発展するかというのがあるんです。
 確かに米国がアジアに重点を移したことがあるので、米中がどうなるかは米国サイドが全世界からアジアへ、あるいは中東からアジアへと、とかくこれが焦点のように言われています。確かに世界情勢の一つの見どころというか焦点ですが、さりとてそれは、欧州を無視してよいとはならないんです。だから、そういう点で単純化して「米中が焦点」と言って悪いことではありませんが、しかしあまり単純化して言うとね……。たとえば欧州諸国の態度から見るに、ロシアや中国との連携には非常に用心している。基軸通貨がまだドルで、スワップ協定でも分かるように危機を切り抜けるのに米国に頼る面があるんです。米国の不均衡の問題にしても、米国が金融だけに特化して、最近のソブリン危機にしても、あるいは金融規制にしても震源地は米国だと知っており、迷惑もしているんだが、そうかといって米国を無視できず長期戦を構えている。そういう中で今度の危機が起きた。米国がいわば中国に焦点を合わせて、軟化させて、これはやや手遅れだと思うんだが、米国がまだ国際政治あるいは金融市場である程度力のあるうちに国際的な枠組みをつくって、そこの中に中国を引き込む。われわれは何年も前、チャールズ・カプチャンが書いた「アメリカ時代の終わり」を紹介した中でも申し上げたことがあるんですが、そういう点で今度の〇七年あるいはリーマン・ショック後、米国の衰退ぶりは大変だったわけです。そうした中で中東から引き揚げたり、中国に焦点を合わせたり、どちらかというと中国のアジアに対する影響力が拡大しないように、それからアジアでの米国の力が相対化し、単なる一国としてではなく、アジアのリーダーとしてとどまる最後の機会。だから私はTPPは米国の強さではないと。従来もずっと前にも「東アジア戦略構想」で、何と言ったか……。

大嶋 ジョセフ・ナイ元国防次官補ですね。

大隈議長 ナイか。あの頃とはずいぶんと違うと思いますよ。あの当時は冷戦終了から間もなくで米国はまだ力があって、「二度と米国への対抗勢力をつくらせない」ということだった。ですが、米国が急激に力が弱まったことで中東の立ち上がりもそうですし、今度の危機もそうですが、急激に米国が衰えてきている。そういう下で、国内では共和党に押されている。だから弱さのあらわれだと言ったわけです。中国はその足元を見ているわけです。さっき経済のところで申し上げたように、他国からの黒字が還流しない限り米国はやっていけないわけですから。暴落につながるわけで、だから中国は足元を見ている。
 したがって、カプチャンが言ったあの頃と比べても立場が相当に弱まっている。そういう中ですので、中国は米国の要求に簡単には応じないと思うんです。簡単に譲歩しない。米国は、いわば中国とベトナムだとか、中国とフィリピンだとか、中国との矛盾や中国に不安をもっている力を結集しようとして、それで日本は得がたい巾着(きんちゃく)というか、これは単なる巾着ではないです。経済的な巾着でもあるが、武力の源泉としての巾着でもある。そういうことに必死になっている。ミャンマーにしてもインドにしても露骨でしょう。ですが、そうやって中国に対抗しようとやっているんですが、中国も米国の足元を見ながらやっている。だから欧州から見て、スワップ協定でドルを供給してもらわなくてはならない弱みはもっていながら、欧州を助けるのは輪転機ではない。中国は輪転機ではなく印刷したものを持っている。かれらは外貨準備が三兆ドルですか、その一部でも回れば、欧州の問題はたちどころに解決するわけです。ですが、世界経済全体が不安ですから、温家宝首相はこの前言ったことからやや後退というか、駆け引きか、中国の政権自身が不安定なことがありましてね、複雑なことがあるんです。
 私は米中が一つの焦点として、すう勢を絶えず見ておかなければならない、さりとてこれだけで世界情勢を見るようではどうか、もう少し複雑な情勢として見ておく必要があろうと。それぞれ欧州は欧州の矛盾がある。中国は中国としての政権の弱さがある。米国もそう。仮に米国、中国、欧州と単純化して見ても、それぞれ三カ所の相互関係があるが、彼らの内部でどうなっているのかは、外すことができない。
 もう一つ、これは抽象的に言ったほうがよいのだが、国際情勢を見るときに、これまで何度も言ってきたし、昨年の旗開きでも世界の危機が深まっているときの二つ方面。一つは国際関係で矛盾がある。もう一つはそれぞれの国の内部矛盾。これは相互に関連している。
 今度の危機の時にはとかく国と国との国際関係が険しくなった。そこで協調関係が保たれたがゆえに、いわばリーマン・ショックからしばらくの間はもてたわけですよね。三〇年代の危機のようにスパッとは落ちなかった。途中の木に引っかかっている。だから私は〇八年の時に、応急措置だと。では、なぜここに引っかかっているのか。戦後の米国を見れば、本来なら三〇年代の危機に匹敵する状況です。グリーンスパン(前FRB議長)は「百年に一度の大津波」と言ったが、想定して言えば三〇年代の危機と同じである。しかも彼らは資金が有り余っている。別の言い方をすれば、彼らには使い道がない。投資するところがない。それは需要がないから。クルーグマンが言っているのと同じなんです。本質的に需要と供給の問題です。だから、金融措置をいくらやっても需要は解決しない。
 この二つのうち、われわれはとりわけ内部矛盾に関心があって、なぜならこれだけがそれぞれの国の政変、革命となるからだと言ってきたわけです。さて、欧州を見て、したがって欧州の一連のEUあるいはユーロ圏での危機だと言われて、そのたびに会議をやって、そして乗り越え乗り越えして、いまだに危機だと言われるが、今回は通貨だけでなく財政も統合しようという道行きを示したわけですね。そういう合意に達した。英国は離れたけれども。それは別の言い方をすれば、その話し合いに登場したのは、それぞれの国の支配層なんですよ。したがって支配層が決めた中身を実行できるかどうかは、それぞれの国が約束を守るかどうかなんですよ。約束を守るということは、別の面から見ると、それぞれの国の多数の納税者、労働者や中小業者、小所有者等々に財政危機を負担してもらえるかどうかということなんですよ。したがって、それぞれの国の支配層が国際会議の場で話し合って統一し、以降の関心事はこれが実行されるかどうかということですが、この内部に隠された国内矛盾が激化していくことですよね。つまり上層部では話がついたと、それぞれの国が自国人民に危機を押しつけられるかどうか、というところに来ているんですよ。
 したがって、以降のすう勢の見どころ。支配層は毎日、国際会議をしておればよいのではなく、協定ができればそれぞれの国が実行するかどうかを固唾をのんで見ているんです。そうすると見どころは、それぞれの国では労働者がいちばん組織されているわけですから、かれらが合法主義、直接政権にありつくか近くの野党であるかは別にしても、政党の影響下にある。現状はそうだろうが、身がもたんとなる。そこに問題が移っている。われわれが注意しなければならないのは、欧州の困難なところは、最終的には階級闘争として、内側に隠されていた、一国で言えば支配的でない被支配的な階級が国際政治に顔をあらわすほど、自国の政権を揺さぶって政変が起こったり、与野党の力関係が多少変わっただけでなく、ゼネストを指導したり、主導権がそちらへ移ったり、そんなことだって起こりうる。そこが見どころ、カギなんですよ。
 それは欧州が典型で分かりやすいので私は申し上げたんですが、先進国のさまざまな国際関係における矛盾に被支配階級が登場するかどうかが、ここがいくらか長期的な問題です。ところがほとんどの予測は静止の観点の予測なんです。動的でない観点、つまりそれぞれの国の現状の支配階級、現状の政治を前提にして予測を立てているんです。したがって歴史の経過の中で階級矛盾が変わってくるわけですから、これを計算に入れて動的な見方をしておく。歴史のすう勢を見るのは静的な観点では正しい見通しは立たないということですよ。今度のような深い危機においては、きわめて大事な観点ですよ。とりわけ、展望をなくしている野党の人たちや労働組合に近い労働者の政党はこうした観点をもてるかどうか、ここに展望があるんです。すでに、分配以外にないと著名な経済学者が言っているんですから。しかし、持ったやつは応じないですよ。持たないやつは賛成するか、賛成しなくても体がもたないですから要求しますよ。だから少し長期的な見通しを立てるならそこですよ。世界情勢はそういう勢力が登場するかどうかにかかっている。大事な観点です。
 もちろん細かな政治で、たとえば中国という言い方をしましたが、BRICSの国々、中国も成長戦略に変わった。容易でないと思いますよ。成長戦略の中で中国の失業者や農民に配慮できるかどうかですよね。それは後でちょっと。したがって世界の以降のすう勢は支配層の間の相互関係、欧州では話がついたと言うが、すう勢としては内部矛盾と国際関係は関連があるんです。国内がもめると支配層それ自身が国際協定を守れず、また交渉するわけですよ。したがって一般論で言うと国際関係は協調がさらに崩れる。あるいは対立が表面化するであろう。それと関連して国内矛盾もまた激化するであろう。さて非常に具体的に見ると、それぞれの具体的に置かれた条件で、ある国ではそれが国際関係となって問題を提起するようになる。別な国では国内矛盾が表面化する。それはそれぞれの国の基礎が違うからです。
 そうすると国際関係は戦争になる可能性がある。あるいは他国に目を向けさせるために。だからどの国も軍拡を行っている。あるいは国内矛盾が激化すると政変や革命になる恐れがある。ただただ、先進国の前途で言うとマルクス主義的な革命政党が登場できるかどうか。危機が迫っていているが、ある意味で危機が長引く続く、というのは十分時間があるということだ。支配層、帝国主義者をべっ視できる理由があるんです。
 楽しい話にしなくてはね。

情勢を理解する上でお薦めの書籍

大嶋 少し中休みといきましょう。言われたような激動の情勢を理解する上で、大隈議長お薦めの本があれば、教えて下さい。

大隈議長 そうですね。どんな問題を理解するのに参考になるとか、有益な本、そんなことで言ってみれば、いいんですかね。私はたくさん読むんですが、目次に目を通して興味のある部分しか読まないんで、薦めるとなると、さてね。党内向けではない。読者の皆さんへのお薦めですよね。
 現在の危機、世界全体と日本の情勢、そんな現状を理解する上で役に立つ本ですね。そう、財政や金融危機を扱っている本にしますか。新聞・テレビで毎日騒いでるんですから。
 経済の中でも財政と金融、案外、分かりにくいんですよね。そして人びとの暮らしや情勢の全体を条件づけているというか、このいわば下部構造を理解しないと、世界の政治状況もわが国のそれも、本当には理解できないんですよね。
 まず、国の借金、国債を論じた本の薦め、ここから話しますか。
 国の借金、国債残高、いま日本は一千兆円あるとよく言われる。だから、どれほど国民が負担しなくてはならないか、国民一人あたりではいくらになるか、こんな計算までして脅す。国家の借金がたまってくると、普通の人びとはそれは大変で、あまりよい話でないと思ってる。政府や学者が騒いで国民を脅かすときには決まって増税とか社会保障の打ち切りとか、要するに国民負担が増加、ろくなことはない。
 でも、国債があるから助かってる人びともいるんです。つまり、証券市場ですね、国債も社債もあるんですが。
 市場。株式とか先物市場とか、覚えきれないほどの市場がある。投資市場が不安定になると投資家は国債市場に逃げ込む。このあと紹介しますが、「国債と金利をめぐる300年史」の中で、英国でも米国の場合でも、日本の例でも、国家の債務が経常的に巨額になってくると、結局投資家のニーズに合わせて、国債の管理政策に変化が起こる。政府と投資家が「相互に依存し合って」運営する。組織もできる。
 「300年史」の第十六章を読めば分かるんですが、銀行や機関投資家から見ると、リスク・フリー、流動性、額の巨大さ、その評価の高いこと、驚きかもですね。国民の血税に食らいついてる様子が分かると思いますよ。
 国家財政の全体像や階級的・政治的把握はともかく、こんなことの一部あるいは事実は、国会議員、県会議員や市会議員だって知っているんですね。知る機会はあったはずですよ。自治体、東京都とか府、県や市は、近場の金融機関から地方債を発行してゼニを借りてるんでしょ。金利が安いとき、何かのときに返そうとすると、銀行は「困る」と言うんだね。そこはよくしたもので、権力側というか都とか府、県の行政側は銀行となれ合っていましてね、今でも利子払ってるんじゃないですか。中小企業へ貸すよりもはるかに安定しており、よい儲(もう)け口ですからね。
 ところが、誰も不思議がらん。政治として暴露し、闘おうとしない。前口上はこのくらいにして。
 国債の発生、発展の歴史。国債が今、それぞれの国、資本主義の金融の流れの中で、どんな役割を演じているかを知ることが大事ですね。


国債、財政危機を理解するために

大隈議長 最初に、国債や財政危機を理解するのに役立つと思われる本、二冊。
 一つは「国債と金利をめぐる300年史」。〇五年発刊でやや古い本ですが、国家財政、特に国債の歴史を中世ヨーロッパから説き起こし、英国の国債管理政策三百年史、米国の二百年史、日本については戦前、戦後から〇三年までで、現状での危機は扱ってはいませんが、国債の基礎的な理解を得るのには、読んでおく価値はあると思いますね。発行は東洋経済新報社。
 第八章の中の一節「膨大な累積債務と調達管理」に出てくるんですが、政府の累積債務が巨額になり、経常的現象となってくると、予算管理の自由度が奪われる中で、調達管理に軸足を移すことで巨額の赤字を円滑に埋め合わせするしかないとなってくる。投資家のニーズに合わせる以外にない。
 市場との対話を重視する中で、相互に依存することになってきた。日本も同じですよ。十六章〜十八章に述べてあるんだが、巨額の国債、金融資産としての評価がきわめて高いんですね。なにせ信用リスク・フリー、高い流動性、巨額だから。
 もう一冊は、「国家債務危機」(ジャック・アタリ著、一一年一月)。目次を見ただけでも、読まずにはいられなかった。
 「人類史から見た、金融市場と公的債務の誕生ーー主権と債務」から説き起こしているが、第一章から十章までで、けっこう面白い。第二章のタイトルは「公的債務が、戦争、革命、そして歴史をつくってきた」。こんな調子。一章から三章までが歴史部分。第四章が「世界史の分岐点となった2008年ーー途上国から借金する先進国」となっている。この章を境に、現在を多方面にわたって分析し、歴史の教訓、最悪のシナリオ、債務危機に脅かされるヨーロッパ、いま世界は何をなすべきか、などを述べている。
 この本、一冊目の「300年史」と異なって一一年発行だから、現在世界の債務危機が身近に伝わってくる。得難い資料的価値もあると思いましたよ。


金融・経済を含む世界資本主義の現状理解のために

大隈議長 次に、金融を含む世界資本主義の現状理解に役立ちそうな幾冊かを薦めておきますよ。何でもそうですが鵜呑(うの)みにせず、批判的に読めればきっと得ることがある。敵側の本でも。
 一冊目。著者はやはり、ジャック・アタリの「金融危機後の世界」(〇九年八月)です。序文のタイトルは「金融危機後、世界はどうなるのか?ーー安易な楽観論では21世紀の歴史を見通すことはできない」で、第一章は「資本主義の歴史は、金融危機の歴史である」から始まり、第七章「『21世紀の歴史』と金融危機」で終わる。
 第三章は「資本主義が消滅しそうになった日」となって、ドキュメント風に〇八年九月末頃から〇九年四月二十四日まで、克明に記している部分がある。ここでは、リーマン・ショック以降のFRBによる銀行救済、金融機関の破綻、サブプライム・ローンの保有者に対する税制優遇措置など、状況を克明に跡づけながら、危機が一向に改善しなかったこと、投資家、ファンド、銀行、企業がどんな行動をとったかを暴露している。〇八年九月頃、「米経済は、世界中を道連れにして窒息寸前であった」とも述べてもいる。
 〇九年四月のG20(二十カ国・地域首脳会合、金融サミット)の合意内容についても批判的論評を加えている。「こうしたすべての努力は、彼方にハリケーンを巻き起こす暗雲を蓄積していくことになるのではないかと懸念している。なぜなら、金融危機を解決するにあたって、金融危機をつくり出したのと同じ手段を用いようとしているからである」と述べ、そしてその例を幾つか列挙している。
 ジャック・アタリには〇八年八月発行の「21世紀の歴史ーー未来の人類から見た世界」というのがありますが、今回薦めた本はそれより分かりやすいのでは。何せこの著者は欧州きっての知識人、読みこなすのも大変。
 二冊目は、「世界経済は通貨が動かす」(行天豊雄著、一一年十一月)。この本、私は最初の序文から面白かった。「言うまでもなく世界経済は、無数の因果関係の網の目の中で動いている……云々」と観点、方法論で始まっている。また現象の底流をなす「三つのマグマ」、成長パターンの変化、金融と情報のグローバリゼーション、世界経済の重心の移動、その相互の複雑な作用、なんて出てくると、めっぽう興味がそそられ、あらも見つけたくなったりして。
 それでもこの本、けっこう読みがいがあった。序文の一節で、三つの構造変化にどう対応するか、その努力が実って、世界経済が新しい秩序を見いだし、安定した発展を続けることができるか、それとも混乱と不安定が待っているのか「現時点では全く予見不能である」と述べている。
 「しかし、まずはこの三つの変化とは何であるかを考えてみる必要がある」と続く……。データが最近のもの。それにわりと読みやすいですから。いいんじゃないですか。
 章立てぐらいは記しておきましょう。序章・パワー・シフトで変貌(へんぼう)する国際金融の世界、第一章・激動する国際金融環境と日本の選択、第二章・二十一世紀型のアジア通貨危機と人民元の台頭、第三章・米国に始まった「百年に一度」の世界金融危機、第四章・ユーロ誕生と直面する試練、第五章・中南米債務危機の教訓、第六章・戦後の国際通貨制度の変遷と二十一世紀の展望。
 それに、「補論」と「おわりに」の部分が若干。この補論も、行天氏が理事長を務める「国際通貨研究所」の世界の現状、特にその金融や経済についての知見、問題意識、観点や方法論の一端を知るに役立つ。
 これで合計四冊。批判的に読めば有益な本、いくらもあるんでしょうが、こんな程度で。


若干の追加、頭の体操

大隈議長 これまでの四冊は、読めば有益ですが、わが党内でも「弱い方面」の一つです。さりとて、債務危機、金融危機、経済不況への理解が進んだからといって、現在の国際情勢とわが国情勢を十分理解できるわけではない。現情勢への理解が一歩進むと言ったらよいですかね。
 国際・国内政治の全体は、もっと包括的で多面的かつ複雑ですから。それで、頭の体操になると思って、国際政治、米帝国主義の末路のあがきをのぞけそうな本を薦めておきますよ。
 「激動予測」(ジョージ・フリードマン著、一一年六月)。この本を読めば、最近のオバマ政権の国際政治の背景や、狙いが「透け透け」に見えそうですよ。用心深く読めば優れて有益な本だと思います。ブッシュの政策を「失敗」と断じ、「これからの十年」が米国にとっては「決定的に重要な時期」だと内外政治、とりわけ国際政治を論じています。
 重大な時期、事項では、「大統領は決して本当のことを口にしてはいけない」と、米国の歴史上の大統領とその政治を総括しながら述べていますよ。オバマにも勧めてる。
 この著者は、学者とか言うところの評論家ではなく、米国国家の重要機関、CIA(中央情報局)その他とか大企業に、情報や政策を提供するコンサルタント。同じ著者で「100年予測」(〇九年十月)がある。この本は地政学的観点で、若い人にはなじめない読者もあるかと思いますが、現在の国際情勢を考えるとき、幾つものヒントが得られるかも、ですね。

国内情勢について

大嶋 さて、国内情勢に入りましょう。実は、大隈議長は年末に沖縄を訪れたと聞きました。そこでお感じになられたことから、普天間基地(沖縄県宜野湾市)の移設問題、さらに野田政権の性格などについてお聞きしたいと思います。

大隈議長 時間がなくなったね。どうせ新春講演で言いますので、簡単にしましょう。

沖縄を訪れて、普天間基地移設問題


大隈議長 沖縄の話が出ましたけど、私は先月も沖縄に来ていたわけですよね。それで今の野田政権はですね、これまでの、民主党政権以前の自民党や公明党ですね、自民党政権と言ってもいいんですが、それ以上に自民党らしい政治をやっているという話がよく出るんです。言ってみれば、これまでの自民党政権、あるいは自公政権以上にね、財界の言うことそのまま、それから米国の言うことそのままね。というようなね、そういうことを指して、「これまでの自民党政権以上に自民党」と。これは、自民党の議員がテレビに出たときも、そういうことを言うですよね。そんな具合ですのでね、たとえばオバマ大統領と会ったときに、TPPもそうですが、基地問題ね。さんざんなことがあった後ですが、「約束を守る」ということだから。
 さて、私は沖縄に再々行く理由にですね、沖縄の人たちはこの辺野古移転ね、これを受け入れるだろうか。あるいは、仲井真知事はいわば保守政治家でね、自民党も彼を支持しているわけです。保守政治家ですから、もつんだろうか、というようなね。それから、年末には例の環境……。

大嶋 環境アセスメントですね。

大隈議長 それを出したということなので、結局のところ、知事が動くかどうかは、県民の感情と深く関わりがあってね。そういう関心があって、沖縄の、いわば新聞に載るような公式の意見だけでなく、県民感情めいたもの。つかみどころはないんですが、そんなのを知れればな、と。それがいちばん、沖縄の人たちの深部の力というか。そういうつもりで先月も行ったわけですが。
 そこで私は、よくタクシーの運転手さんに聞くんですよ。ちょうどその頃、交通事故で、米兵が、あれは軍属?

大嶋 軍属の酔っ払い運転ですね。

大隈議長 それで現地では不満が高まって、日米地位協定との関係があったんでしょうが、それを「運用」で日本の警察に渡すということになったので、それを「どう受け取っているのかな」と。外から見ても、本来、きちんとそういうこと、当たり前のことをですね、今までずっと無視してきたわけですから。日本の権力側もそうですよね。そういう不満と重なってですね、いかにも運用の面で、沖縄の人の不満をくみ取る形で外務省が動いたわけですよ。翌日に玄葉外相が来た。そういう時期に行ったものですから、これをどう受け取っているんだろうなと思って、タクシーの運転手さんに「あれ、運用でやることになったんですが、どんな具合ですか?」と聞いてみた。そうしたら開口一番、「バカにしている」と言ったですよ。「バカにしている」と。
 もっと話してみたいと思って、例のコザ暴動(七〇年)、あのときは青年が米国兵の対応に怒り、暴動になったわけですよね。私は闘っていたものですから、そのコザ暴動を取り上げて、米領事館に押しかけたことがあったんです。そんなこともあって、「あなた、コザ暴動を知っていますか?」と聞いたら、「体験はしていないけど、話は聞いています」と。こう言って、「ただ、私はどちらかというと米国に対して悪い感情をもたなかったんです。だけど、最近はもう、米国のことをいろいろ聞くとむしずが走る」と言ったですね、これは。そうしたら、話の途中からね、「ヤンキー」と言った。それで、日本で軍属が酔っ払って罪を犯せば、裁判をするのは当たり前じゃないかと。それをですね、「運用」で、いかにも政府がやったことによって沖縄の人びとの感情が変わるというか、「もう、見え見えだ」と言うんですね。「だから、バカにしていると思った」と。「ヤンキー」という言葉は、沖縄でも言わないし、本土でも言わないですよね、ふつう。だから「大変だな」って思いましたね。
 それから、帰りがけに別の運転手に聞いた。「今度、『運用』でやったと日本政府が来て、仲井真さんにもそんな話をしたようだけれど」と言ったら、彼は「ヤンキー」とは言わなかったけれども、「バカにして。当たり前のことではないか」とね。「それを恩着せがましく。どうせ見え見えの普天間問題だろう」と。
 この期間、何回かタクシーの運転手に聞く機会があったけれども、私はハッと「雰囲気が変わってきたな」と思った。それで、それから玄葉外相に対する仲井真さんの対応もテレビで見たしね。そうしたらその翌日だったかな、日本の青年が米国の高校生を刺したんですね。それが直接、さっきの「バカにしている」という話と結びつくかどうかは別にして、日本の青年が刺したことによって、「不満が高まっているんだな」と思いましたね。
 そんなことで、私は、一つとして例の辺野古、普天間基地問題というのは、野田政権がいろいろ言っても、そしてかれらも必死になるかもしれないけれども、かれらにとってとても難問だろうなというふうに思いました。

野田政権とその環境について

大隈議長 それからですね、それと関連して、野田政権を全体として見ますとね、ご存じのように〇九年の総選挙の後、鳩山政権が成立してですね、そのときにわが党はきちんと、民主党にあつらえ向きの日本があるわけではなくてね、歴代の自民党政権、自公政権がやってきた流れの中であるわけだから、民主党政権が選挙のためのマニフェスト(政権公約)で言ったようなことが実現できるはずがないということを、たとえばアジア外交についても批判した。あのときは、小沢も中国に行くとか。小沢と鳩山と両方ですが、米国との関係をやや相対化してアジアに重点を置くとか、今までは米国に傾きすぎたとか。小沢は総選挙では勝ったものの、参議院選挙が残っているのでそれに備えていたんだけれども、「われわれはそれに勝てば、日中関係を大きく進める」とか、いろいろなことを言っていたわけですけれども、きちんと批判をしたんですよね。国内で「国民生活が第一」とか「成長戦略」も、財政危機との関係で暴露したわけで。
 その点では、わが党だけが、民主党政権には何ができるのか。かれらにはマニフェストで書いたようなことを本当にやれる条件もないし、突き詰めて問題を提起したわけではなくて、選挙目当てでやっているわけですから。かれらに幻想をもつことはできない、ということで、かれらはこれまでの自民党政治と変わらずですね、より深い危機の下でうまくいかない、というようなことを暴露したわけですね。
 ところが、すぐ基地問題等々で行き詰まったわけですね。「国外、少なくても県外」と言ったわけですから。かれらにはそういう用意がなかったんですよ。にもかかわらず、そう言った。
 代わった菅政権、これまた……。
 鳩山と菅の違いは、流れから見ると従来の政治と変わらないんだけれども、鳩山と菅の違いは、鳩山はどちらかというと、財界についていうとべったりというか、鳩山は金持ち出身ということもあるのかどうか、「金持ちが偉い」とは思っていないわけですよね。自分も金持ちだから。菅はそこへいくと大金持ち出身ではないですから。だから対米関係もそうですが、もう菅政権になったら、財界との関係を一気に改善しようとしたんですね。しかしまあ、東日本大震災が起こり等々ですよね。
 そして今度は野田政権になって、さっきいうように、自民党以上に自民党政権というか、端的にいって、対米関係と財界べったりということですよね。だからそういう点で、震災が起こった後も例の官僚たちをうまく。野田政権になると官僚のいう通りにも動いているんですが、菅の時には鳩山の「政治優先」の、どちらかというと官僚とあまりね。菅は転換せねばならないと言ったものの、その中間ですね。ということで、震災でさまざまな弱点を示したわけですが、野田政権で自民党政権以上に自民党というわけですね。
 しかし、第三次補正予算までようやくやったものの、私は今度、野田政権は一つはTPP。TPPを、やっと反対派を抑えて。しかも、これも手の込んだもので。あれは輿石か?


大嶋 輿石幹事長ですね。

大隈議長 輿石が知恵をつけたという話もあるんだけれども、だって、総選挙でいずれにしたってそう長くない時期にあるとすれば、農村から票をもらっていた人たちはたまらないですよね。だから一生懸命反対していたんですが、それでも米国とのつじつまを合わせないといけない。ということで、最後に輿石が知恵をつけて「参加ではない、参加のため各国との条件を調整する」という言い方をして、ハワイに行って表明した。そうすると、今度はすぐに、重点は消費税に移った、と本人も言っていて。そういうことで、次の四次はともかく、一二年度の予算に入っているわけです。そこで「社会保障と税の一体改革」とか。予算を組むにも、社会保障制度が続きそうにないですから。予算も組めそうにないわけですから。そこで消費税をやっているんですが、これとて、野党との間はうまくいかないですよね。なぜかというと、三次補正が済んで、国会はいつ打ち切った?

大嶋 十二月九日の閉会ですね。

大隈議長 延長しなかったわけですね。そのギリギリのところで、一川防衛相と山岡消費者担当相の問責をやった。だから、どう考えても、もはや野田政権というのは年が明けて続くだろうかっていうのがおおかた言われているところですね。当の小沢ね、これも「もたないだろう」と。政党の体をなしていないですよね、これは。だからそういう点で、野田政権が続くのかどうかというようなことは、われわれにとって興味がないわけではない。「総選挙がいつになるか」等々は興味がないわけではないし、ある程度、具体的な見通しについても議論をしなければならないと思うんです。
 ただ問題はね、そうではなくて、さっきから申し上げているような世界の動き、この中でどだい日本はどうやっていくんですかという、この問題ね。たとえば債務危機。GDPとの割合だとか、総額とかはギリシャ以上でしょう? 先進大国でいっても、飛び抜けて危機ですよ。だから、消費税何%というのを「社会保障制度が成り立っていかないので消費税を増やす」とか言っても、もう日本の財政は成り立たなくなっている。景気の上がり下がりからすると、消費税はわりと景気に左右されないんです。そういう意味で消費税、という理屈を言っているわけですね。
 しかも、非常にはっきりしたのは、「これから十年、あるいは十五年先は分からない」と皆が言うほど、先進諸国を中心にして、経済成長は低成長、あるいはマイナスに。そして破局が来る、あるいは全体としては破局に至らないにしても、危機がところによって違ったにしても、世界経済はどうにもならない。日本はこれまでのところ、たとえばリーマン・ショック後、特に輸出が「少しばかりよくなった」というのでさえ、中国に依存してきたわけです。ところが、ほんのこの間まで、中国はどちらかというとインフレをセーブしてきたので、日本はたちどころに影響を受けた。今度は緩めるということですよね。しかし、条件は違うと思いますね。それは日本が十分中国をあてにして、日本の経済を支える一角、部分、条件としても、それで日本が落ち着くわけではないですね。ヨーロッパもマイナスになるかもしれないということですね。そのほかに、円高があるでしょう。
 だから、輸出環境はきわめて悪いので、この間のように、かなり輸出に依存して、成長率の何%かを依存するという部分は、ますます不安定かあてにならないことになる。それから、円高と関連して、日本の国内の製造業は空洞化する。他国に移っていく、というようなことですね。
 そういう意味で、日本の国内経済が、少なくとも稼いでいたGDPの大部分は外国に依存していくことになるわけですよ。つまり、国内製造業は円高や空洞化等々で、成長率の下げ要因です。それを穴埋めできる仕事場を見つけられるかということです。日本の労働者が働いてそこで付加価値をつくって、資本主義経済が回るかどうか。そこで財政が得られるかどうか。私は民主党政権のマニフェストを暴露したときに「先立つのはカネですよ」と言ったことがある。だから、容易でなかろうということです。その意味で、野田政権が直面しているのは、成長を維持できるかということですよ。
 もう一つは、当面の社会保障制度その他もそうですし、財政再建に軌道を移すにしても税収があるかどうかということですが、これも成長に依存しなければならないですね。ところが、成長を促すような見通しがないので、失業者は増えると思いますね、これから。そういう中での財政再建。
 よく、こういう議論があるんですね。経済がある程度好転するまで、財政再建は、つまり増税はすべきでない、という意見がある。しかしね、経済が好転する条件は、どう考えてもないんですよ。ますます落ち込むと。消費税だけではないですからね、所得税とかを入れると。結局のところ、全体として税収を増やそうという狙いが、この時期に増税することによってかえって悪くなりはせんかと、一九九〇年代末の橋本政権の時期のことを挙げているんですよ。
 この点だけれども、どちらも一理あるわけです。そこまで来ているということですから、財政再建をやろうにも出どころはないんです。結局、消費税。財政再建の問題というのは、「うまい手がない」という意味で言えば、しかも成長が保証されていないという意味で言えば、国民生活を切り下げる以外に道がないんですよ。つまり、国民に一定の経済成長の中でのパイを分け与えてではなくて、パイはないままですよね。国民生活の水準は下がる。下がる以外にない。それをやらない限り、これまでの社会保障制度などが崩壊するところに来ているわけで、容易ではない事態ですよね。つまり、もっと一般化して言えば、成長が停滞するか、生産の空洞化も含めて言えば後退するか、その中で財政再建をやらないといけないということですね。
 したがって当然、国民生活はとても苦しくなる。その道を取ろうと言っているわけですから。あるいは、取らざるを得ないと言っているわけで、敵側にとって選択の余地がないんです。そういう点で、階級闘争が激化せざるを得ないということですよね。
 TPPも結局のところ、こういうことでしょう。さっきのように、野田は「成長と財政再建を両立させる」と言う。このTPP問題は、農民がやってけるような状況とTPP、これを「両立させる」と言う。農民には急激ではなくて、なだらかでも、農業経営を維持させつつ、そのために財政措置を取ると言う。他方でTPPに参入して、これは農産物を自由化する等々ですよね。そういう両立ができるだろうか。中心になっているのは、「小さい農業ではやっていけないから」と、二〇〜三〇ヘクタールにする、この問題ですよ。これだと、そこの十九人か二十九人、これまで細々とでも自立して農業をやっていた人たちが失業してくるわけですよ。これも両立できないですよ。それから、TPPも国内政治という観点から見ると、非常な困難がやってくることであって、TPPの前途に、日本の農業や経済全体に社会的危機を激化させないで外国との関係で決着がつくということはあり得ない。私は、TPPもうまくいかないと思います。これは米国がうまくいかないというだけでなく、日本も耐えられないと私は思う。
 そして全体として米国が、今オバマが狙っているようなことがアジアで成功できるだろうか、という点です。模様を見ているじゃない。韓国ももちろんそうですし、中国も。インドもベトナムにしてもそう。新聞はベトナムも「対中依存から脱却」なんて書き立てているけど、どだい、米国は力不足だと思う。つまり、米国が狙っているように、TPPで包括的に、アジアで米国が主導権を維持しながらアジアを「団結」させ、中国をけん制していくというような道ができるだろうか、ということです。中国の対応も考えなければいけないですよ。私は、TPPは簡単にはいくまいと。それなのに日本が乗っていくというのは、日本の国内政治を難しくするだろうと、私は思います。
 そういう点で、野田政権、あるいはこの次がどういう政権になるか。もちろん、政治再編は避け難くなっている。そういう点から見て、ここで締めくくって見通しを言わねばならないとしたら、野田政権がやっている一二年度の予算を成立させる上でも、消費税問題は容易ではなかろうということ。それからTPPですね。これは日本には困難をもたらすし、TPPに参加することでアジアで日本が一定の、孤立しないで地位を占めるというのが焦点になっていて、それで「ある程度までの犠牲はやむを得ないが、農民の不満については財政手当てをする」とか言っているんだけれども、日本に困難をもたらすことと併せて、TPPそのものが、オバマ政権がめざしているような、アジアでの中心的な流れになるという保証はないと言っていいと思います。
 それから基地問題。これは米国議会が予算措置を凍結した。これは、日本に対するプレッシャーでしょうが、そのプレッシャーに日本の政府が耐えられるという保証はないですね。だからプレッシャーをかけたからといって、あるいは野田政権が決断したからといって、すでに解決できる話ではなくなっていると、私は思う。
 そういう政権が揺らいで、民主党内がもめるということと総選挙の関係で言うと、政治再編はその前にあるわけですよ。その過程で。だから、任期いっぱいで総選挙というよりは前倒しですね。よくいわれる選挙制度、一票の格差ね、この改正を「しなくてよい」という話もあれば、「しなければならない」という話もある。自民党はそこで「定数を減らして……」とやっているじゃない。大きな改革は、私はできないと思う。そういう点で、政治再編も避け難いと。選挙が早まる可能性は十分にあると見ているところです。
 ただ大事な点は、むしろ基本的な、どういう政変があろうと何党が勝とうが、あつらえ向きの日本があるわけではない。たとえば自公政権から民主党に代わった。その後、はるかに困難を抱えたわけですよ。世界情勢も困難。国内では大震災、特に原発事故ね。
 それから、円高で急速に産業が空洞化している。日本の多国籍企業、金融、こういう連中は賃金の安いところで利潤を稼ごうとするんですよ。つまり、日本の資本と他国の労働の結合で付加価値を収奪している。国内はほったらかしにされるんですよ。これにどう対処するかということ。失業と重税にどう対抗するかということなんですよ。労働者からすると、それ以外にないですよ。企業にいる、失業していない人からすると賃上げですよね。
 野田政権の「自民党以上に……」というのは、考えてみると、対米追随と財界のための政治。したがって、国の進路という意味で、きちんと独立する課題、これなしに、以後の国際関係で、日本が確固として進むことはできない。選択の自由がないわけですから、独立の課題が最大の課題だと。国内政治では、今言ったように、重税、失業ですね。それから労働者の賃上げだとか、そういう問題がある。

闘う課題、そのための問題

大嶋 最後に、今年の課題について、短めにお願いします。

大隈議長 さて、情勢と関連して、どのような闘いの課題が重要になるか、ですよね。独立のための強力な政権をつくらなければならないんだが、カギは何といっても労働運動だね。労働運動が確固として国の独立、あるいは統一戦線の中核をなすような、そういう指導階級として育つことですね。それなしに、困難さに対抗して政権を樹立することは不可能。
 こんにちの労働運動に影響を与えている政党、たとえば連合というのは、結局のところ民主党だし、財界の影響下にあるんですよ。民主党政権も本質的に親米、財界の走狗(そうく)ですよ。
 自公のような野党、細切れの保守政党、他の政党、社民党、これらの野党は、国の進路だとか国民生活、国民経済で根本的に問題を提起していない、
 労働者階級に訴えること。敵のこんにちの政治や経済のうちに潜む、政治や階級利害について、暴露できる水準の獲得、これはわが党の問題であって、これを解決しないと前には進めない。
 これ以降の部分は大事なので、それに時間もないので、新春講演で。どうですか。これでおしまいにします。
 読者の皆さん。党員同志の皆さん。編集部の大嶋同志のお勧めにそって、思いつくままに放談しました。目を通していただいて、誠にありがとうございました。引き続き今年もよろしく願います。


大嶋 ありがとうございました。


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