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2011年11月15日号 3面・社説 

第3次補正予算、TPPに見る
野田政権の現状と政局

 東日本大震災からの復旧・復興を中心目的とする第三次補正予算が十一月十日、民主、自民、公明など各党の賛成で衆議院を通過した。
 翌日、野田首相は環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を表明。
 一連の経過を通して、国民に犠牲を押しつけ、対米従属で多国籍大企業に奉仕するという野田政権の性格は、いちだんと明白になった。
 闘う側にとって、この間の経験はさまざまな教訓をはらんでいる。経験を踏まえ、労働者階級は引き続く闘いに備えなければならない。

増税で国民に犠牲押しつける予算
 野田首相は所信表明演説で、復興を「最大、かつ最優先の課題」などと述べた。
 十二兆一千億円規模の第三次補正予算中、大震災関連経費は「がれき処理費用」など九兆二千億円余。これまでも被災地住民の生活再建は後回しにされてきた。この程度の財政では、厳しい冬が到来し、福島第一原子力発電所事故の収束もメドが立たない中、被災地を早急に復興させるには到底不十分である。
 しかも、補正予算の項目にはどのようなものがあるのか。
 東京電力を救済するため、交付国債の発行限度額が二兆円から五兆円に拡大される。未曽有の原発事故を引き起こした極悪企業を、血税で支援するものである。
 また、被災地には「復興特区」が創設され、大企業に新たな儲(もう)け口が提供される。水産特区では大企業による参入が容易になるが、零細漁民は競争にさらされて経営が成り立たなくなる。農地の転用が規制緩和されれば、「コメどころ」の農業はいっそう疲弊する。
 復興対策以外では、住宅エコポイント制度の再開、「節電エコ補助金」の創設など。要は、住宅、電機メーカーへの補助金である。
 さらに「空洞化・円高対策」と称して、国内に立地する企業に五千億円を補助する。大企業の海外でのM&A(合併・買収)などを後押しするため、国際協力銀行の融資枠が約七兆七千億円から十兆円規模に拡大される。わが国多国籍大企業の国際競争力を強め、海外で稼ぐことを助けるもので、国内の産業空洞化に拍車をかけかねない。「空洞化対策」どころか「空洞化支援策」である。
 加えて、財源である復興債の償還を口実に、国民には所得税、個人住民税など八兆五千億円もの増税が押しつけられる。
 当初の政府案での十年間という増税期間は、二十五年へと大幅に延長された。単年度の増税幅は圧縮されたが、半面、国民は半永久的に搾り取られる。
 一方、大企業には減税である。法人実効税は約二・六%の減税で、三年後には減税幅が五%へと広がる。大企業全体で少なくても十兆円、業績次第ではそれ以上の減税となる。復興債の大部分を購入する大銀行には、二十五年間にわたって膨大な利子が転がり込む。
 野田首相は「連帯して負担を分かち合う」などと言うが、デタラメだ。野田政権の姿勢は、復興どころか国民に犠牲を押しつけ、大企業に多大な恩恵を与えるものである

売国・壊国のTPPに踏み込む
 野田首相はTPP参加に関して、あたかも国民や党内の反対・慎重論に「配慮」するかのように、会見を一日延期して「熟慮」を装った。結果、「参加に向けて、関係国との協議に入る」との表現で「参加表明」とは異なるかのようにとりつくろうという、姑息(こそく)な欺まんも弄した。
 TPPは、米国が危機打開のためにアジアへの参入を強め、併せて中国をけん制するためにわが国を引き込もうとしたもので、日米同盟「深化」の一環である。これに参加すれば、農業は壊滅的打撃を受け、国民皆保険制度なども危うくなる。
 これに対し、農業団体を中心に、漁業、医療などの諸団体、知識人、労働組合の一部が反対運動を展開した。北海道などの地方からも反対の声が相次いだ。「慎重に考える会」などの国会議員の動きは、闘争の発展に一定の役割を果たした。
 だが、支配層によるマスコミ総動員の世論誘導もあり、参加表明は阻止できなかった。
 野田政権の選択は、農業への壊滅的打撃をはじめ、わが国を亡国の道に引き込むことになる。引き続き、闘いを発展させなければならない。

難題山積の野田政権、反撃は必至
 補正予算は成立が確実になり、関連法案も民自公の合意で成立する見通しで、TPPもヤマを越したかのように見える。だが、野田政権の前途は、これまで以上に多難である。
 補正予算では被災地住民の生活と営業の困難は打開できないし、原発事故は先が見えない。TPPについても早速、米国は牛肉の輸入規制緩和や保険分野の開放を要求、野田政権は対応に大わらわである。関税撤廃の「例外品目を設ける」という政府の言い分も、野田首相の「全ての物品およびサービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せる」という発言で吹き飛ばされた。
 さらに野田政権は、来年の通常国会では、財界の要求する「財政再建」に本格的に踏み込もうとしている。「税と社会保障の一体改革」と称した、消費税の大増税である。
 国と地方の累積債務は国内総生産(GDP)の二倍に達し、支配層にとって、欧州の「ソブリン・リスク」は「対岸の火事」ではない。二十カ国・地域首脳会議(G20)の共同声明では、「二〇一〇年代半ばまでに消費税率を段階的に一〇%までに引き上げる」ことが明記され、日本国内での合意もないまま「国際公約」となった。野田政権は、公務員給与の削減など、増税への地ならしに奔走している。野田政権の言う、「経済成長と財政再建の両立」など、たわ言にすぎない。
 米国の要求にそった、安全保障面での日米同盟「深化」も進めている。沖縄県民の頑強な意思を無視し、普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を強行しようとしている。武器輸出三原則の緩和・撤廃、南スーダンなど海外派兵の拡大、自衛隊の南西諸島への重点配備など、米国の世界戦略を支え、台頭する中国へのけん制を強めることも進めている。

闘う側の課題は何か
 こんにち、米国は衰退を早め、国際的力関係は大きく変化している。各国は次の局面に備えた戦略的な動きを強めている。
 こうした中、野田政権は日米同盟「深化」一辺倒で危機を乗り切ろうとしている。
 野田政権の進む道では、自国の運命を他国にいっそう委ねることになる。国民諸階層の生活と営業はさらに危機的となり、アジアに緊張の種を振りまくことになる。
 野田政権を倒し、国の独立を闘い取ることが、きわめて重要である。
 この闘いを発展させる上で、最近のTPPに反対する闘いは教訓に富んでいる。
 国会議員の動きは与党の枠内で、野田政権を追いつめて政局にすることを恐れ、自ずと限界があった。
 闘いの主力となったのは農業団体だが、歴代売国農政によって衰退させられており、下部構成員まで含めた広がりに欠けざるを得なかった。支配層が振りまく「開国か農業保護か」という、農業・農民の孤立化を策した思想攻撃を十分に打ち破れたとは言えないし、闘いの方向性も、国会議員への「要請」という枠を超えるものではなかった。
 何より、国民運動の中心となるべき労働運動の合流は少数であった。フード連合、全農林、農団労などが反対し、「慎重」の立場を取った単産もあったのは重要だが、たぶんに自然発生的で、戦略性は十分ではなかった。IMF—JC(金属労協)など連合中枢は大企業経営者と肩を並べて「推進」論を吹聴し、野田政権を大いに助けた。
 労働運動は、民主党政権に追随してこれを支えるのではなく、幻想を捨てて国の命運を握らなければならない。対米従属政治を打ち破るために、独立・自主で国民大多数のための政権を担う中心勢力とならなければならない。


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