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2011年11月5日号 3面 

TPP参加は売国と亡国の政治
政府資料「協定交渉の分野別
状況」から何を読み取るべきか

対米従属脱し、「独立・自主、
アジアの共生」こそ道拓く

 環太平洋経済連携協定(TPP)参加表明に舵を切った野田政権は、十月十七日、国民的批判の広がりの前に、ようやく「協定交渉の分野別状況」と題する情報を開示した。
 それは、七十八ページに及び専門的用語が多く、わが国にとってのデメリットも少なく見積もられるなど不十分なものであるが、二十四部会で行われている二十一分野について、「交渉の現状」と「既存の協定の内容」、それに「交渉参加を検討する際にわが国として考慮すべき点」が書かれている。
 ここから何を読み取るべきか。与野党でつくる「TPPを慎重に考える会」による省庁ヒヤリングの中、農業を壊滅させるだけでなく、二十一分野のうちの多くで懸念があり、国民経済と国民生活に重大な影響が及ぶことが確認された。前原・民主党政調会長の「TPPお化け」なる反対派へのレッテル張りが、いかに悪意に満ちた中傷であるか、事実で反証された。
 だが、続いての仙石元官房長官の敵意に満ちた反対派への中傷、マスコミの参加推進の世論操作など、TPP参加が国民生活と国の進路に及ぼす重大な影響を塗りつぶし、国民の目をふさごうとする策動が続いている。
 そこで、あらためて経過や情勢を踏まえTPP参加の問題点を深彫りしてみたい。
 そのためにもっとも重視すべき観点は、TPP参加問題がなぜ昨年の秋突然に政治課題として浮上したか、その経過からも明らかなように、そもそもTPPは米国発であり、米国が成長するアジア市場に参入し、台頭する中国と対抗する狙いで提起された経済連携の枠組みであり、米国の対中戦略の一環であるという観点である。そしてわれわれが注意を喚起したいのは、リーマン・ショック後の世界の構造的変化の中で衰退著しい米国は、もはや日本抜きに対アジア・中国戦略を構築できなくなっている事情である。われわれがTPP参加は、中国をにらんだ日米同盟深化の一環として暴露するのは、そこを見ているからである。
 したがって、米国のTPP戦略による日本への要求と役割強要は、これまでにない過大なものになることを想定しておかねばならない。こうしたTPP戦略についての本質的理解なしに、TPP参加によって国内的にどんな影響が出るか、将来どんな苦難に当面させられるか正しく洞察することはできない。

国の形が変わり、二極化はさらに拡大
 オバマ大統領は、二〇〇九年十一月、TPPへ参画するに当たって、「われわれの生産品をより多くアジア太平洋地域に輸出することによって米国での雇用創出につながるのだ」と浮揚の頼みの綱としての狙いを述べた。今年一月の一般教書演説でも、「輸出倍増による雇用創出」を強調、「米国人の雇用を増やせるような貿易協定にしか署名しない」と述べた。
 例外を認めず関税を撤廃し、徹底した自由貿易、投資を進められる高いレベルの経済連携の枠組みをアジア太平洋地域につくることが米国の戦略となり、そのために日本を引き込むことが絶対条件となった。当面の米国の狙いはわが国である。
 わが国はこれまでも、とりわけ一九九〇年代になってからの日米構造協議以来、対日要求は関税撤廃と非関税障壁の撤廃を求め、日本の制度を米国企業が参入しやすいものに改変され、国の形は変わってきていた。戦後対米従属政治の中、農業もエネルギーも対米依存、独立国にあるまじき状況に変えられた上、とりわけ九〇年代以降、橋本改革、小泉改革の中で米国の「年次改革要望書」に沿った改革が加速された。大規模小売店舗法、保険の第三分野自由化、建築基準法、労働者派遣法、郵政民営化などが具体化され、米国企業の参入とともに多国籍大企業の独り勝ちと中小企業の淘汰(とうた)、非正規雇用の増大と二極化が進み、相当に国の形が変わったのである。
 そこを〇八年九月、リーマン・ショックが襲い、米国輸出が蒸発し、対米従属政治の限界か露呈した。公的資金の投入とリストラ、外需依存で大企業だけはV字型回復を遂げたものの、二極化と貧困が進む中、東日本大震災が襲ったのである。
 TPP参加によって、米国から関税撤廃さらなる非関税障壁撤廃という過激な要求が突きつけられれば、わが国の形がすっかり変わり、さらなる苦難が押し付けられて二極化と貧困がいちだんと進むことは明らかである。具体的な対日要求は、米国通商代表部(USTR)の「一一年外国貿易障壁報告書」に書かれている。

(1)関税の撤廃で農業に壊滅的打撃、いざという時食料を確保できない国へ
 米国の締結済みのFTAでは、「即時撤廃される」品目は、七九〜九八%(日本が結んだEPAでは七五・三%〜八〇・〇%)、「十年以内に撤廃される」品目は、九六〜一〇〇%(同八四・四〜八八・四%)となっている。
 また、関税の撤廃・削減の対象としない「除外」や、扱いを将来の交渉に先送りする「再協議」は認められない。
 したがって、コメ、小麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉、水産品などの農林水産品を含む九百四十品目について、関税撤廃が求められる。
 USTRの報告書には、貿易交渉でコメを除外するな、米国産牛肉の輸入制限を直ちに緩和せよ等の要求が書かれている。
 農水省の試算によれば、関税が撤廃されれば、これまでの自由化によって食料自給率が四〇%まで落ち込んでいたものが、最後の砦(とりで)であるコメも壊滅的打撃をうけ、食料自給率は一三%に急落する。農水産物は、四兆五千億円も減少する。世界的食糧危機が起これば、食料も確保できない深刻な事態に陥るのである。


(2)食品の安全も脅かされる
 世界貿易機関(WTO)の衛生植物検疫(SPS)協定では、科学的に正当な理由があれば、各国独自に厳しい基準を設けることができるが、これが撤廃される可能性がある。米国は、日本が実施している牛肉の輸入規制や残留農薬、食品添加物の規制について、国際基準より厳しいという理由で撤廃を求めている。
 また、貿易の技術的障壁(TBT)の分野において、米国は遺伝子組換え作物の表示に関する規制を緩和・撤廃することを求めている。

(3)医療に市場原理が導入され、国民皆保険制度が崩壊
 医療はサービス産業の花形で、米国は〇一年以来、日本の医療への市場原理導入を執拗(しつよう)に要求してきた。だが、政府資料によれば、公的医療保険制度について、TPP交渉では「議論の対象になっていない」としていた。しかし、USTRは九月にすでに「医薬品アクセス強化のためのTPPでの目標」で同制度の自由化を交渉参加国に要求する方針を打ち出していたのである。
 米国は、混合診療の全面解禁、株式会社の病院経営への参入、血液製剤の輸入規制の緩和を要求している。
 そうなれば、世界に誇る平等で公平な医療の提供ができなくなり、金持ちだけしかよい診療を受けられず、気付いたら保険の利く範囲がほとんどなくなる事態になる。国民の生きる権利を支えるセーフティネットが崩壊してしまう。

(4)郵政の完全民営化、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式処分
 金融サービス分野は、米国がもっとも関心をもつ分野である。とりわけ、郵政民営化が加速されることとかかわって、「日本の銀行、保険、宅配の各業市場において、日本郵政の各社と民間企業の間の対等な競争条件を達成するために必要な措置を確保するよう求めていく」としている。
 郵政だけでなく、共済についても「わが国との二国間の協議において提起されている事項について、追加的な約束を求められるおそれがある」としている。

(5)政府調達、中央、地方政府の公共事業への参入基準緩和
 中央政府機関の政府調達について、外国企業に開放しなければならない事業の入札公示金額をいくらにするかが焦点になる。現在の地方公共団体の基準額は二十三億円で、それ未満の場合は海外企業は参入できないが、これが三分の一の水準に引き下げられるおそれがある。そうなれば、地域の中小建設業は倒産の危機に瀕しよう。
 また米国は、米企業が高速道路、公共建築物、都市開発などの公共事業への参入に関心をもっている。

(6)投資家が政府を訴えられる「毒素条項」
 TPP交渉では、相手国の政府の協定違反等により、投資家に損失が発生した場合、国際仲裁機関に訴えることができる国家と投資家の間の紛争解決手続(ISD)条項、いわゆる毒素条項が採用される可能性がある。
 米国はTPPの先行モデルとする米韓FTAで採用、韓国だけに適用するとした。
 この条項を盛り込んでいた北米自由貿易協定(NAFTA)に基づいて米企業からカナダ政府が訴えられ、損害賠償した実績もある。世界一のたばこメーカー、フィリップモリス社は、たばこパッケージに規制を設ける豪政府を相手取って損害賠償請求を求めている。


(7)以上から明らかなように、TPP協定への参加は、わが国の形を変え、米国多国籍業を参入させ、わが国の一握りの多国籍企業の利潤を拡大する一方、中小企業、農漁業者、零細商工業者を破産の危機に追い込み、労働者にさらなる低賃金と失業の増大をもたらすことは明らかである。
 すでに世界経済の構造変化の中で自動車などの対米輸出は行き詰まり、二極化が進み、もはや対米従属政治の限界が明らかになっている。にもかかわらず、米国の危機打開策であるTPP戦略に従属し、国の形を変え、国民大多数の苦難を耐え難いまでに増大させる野田政権は、まさに売国政権といわねばならない。


アジアでの孤立を招き、共生の道断つ
 首相や推進論者は、「アジア太平洋地域はこれからの成長のエンジンになる。これを取り込まずして未来はない」と言ってTPP参加を正当化しているが、これは国民だましの詭弁である。
 前に述べたように、TPPは米国の浮揚の頼みの綱、対中戦略の一環である。世界経済の構造変化が進み、中国を中心にアジアの急速な成長と経済的統合が進み、新興国の政治的発言力は強まっている。この成長するアジア経済圏に何としても参入しておかねば、再生の柱である国家輸出戦略も成り立たず、台頭する中国の政治的軍事的動向もけん制しておかねばならない。TPPという経済連携の枠組みは、衰退する米国の対中軍事戦略と一体となった通商・通貨戦略というべきものである。
 最近クリントン国務長官は、「フォーリン・ポリシー」誌への寄稿文で、「アジアの経済成長はこれまでも今後も、在日、在韓米軍をはじめとする米軍事力が保障してきた安全、安定に依存している」と明けすけに述べている。
 アジアと結ぶことなしに、わが国の未来はない。われわれも、互恵の関係として共生するか否かで意見の違いがあるが、その基本に違いはない。だが問題は、なにゆえこうした米国の対中戦略の一環であるTPPに加わらなければならないのか。さらには、日米同盟深化、新防衛大綱や武器輸出三原則の緩和に踏み切らねばならないのか。それでは、中国やアジアと対立し、自ら孤立して、成長するアジアとともに共生する道を閉ざすことになるではないか。
 この台頭するアジア、中国と対抗して、わが国の未来は開けない。米国に追随せず、独立・自主でアジアと結ぶべきである。
 世界の構造変化を見据え、今こそ、戦後六十余年続き限界をさらしている対米従属の道をきっぱり転換し、独立・自主でアジアと互恵平等、平和の中で共生する道に転換すべきときである。それこそが時代の流れにそった、わが国の国民大多数が望む戦略的選択といえよう。
 そのための党派を超えての広範な共同と連携、労働者階級の政治的前進が求められている。(N)


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