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2011年9月5日号 2面・社説 

野田新政権の成立を評する

 菅政権が退陣し、民主党、国民新党の連立による野田新政権が九月二日、発足した。
 現時点では所信表明演説も行われておらず、新政権が行う政策について、全体像が示されているわけではない。
 それでも、支配層・財界は野田政権に期待を寄せ、さまざまな要求を行っている。
 だが、新政権を取り巻く内外環境はますます危機的である。
 新政権には、東日本大震災後、未曽有の生活と経営難に苦しむ国民の切実な要求を実現することは期待できない。
 労働者をはじめとする国民諸階層には、闘う以外に道はない。

新政権に期待し、要求する財界
 野田新政権の閣僚は安住財務相、鉢呂経産相、玄葉外相、藤村官房長官ら、党執行部は輿石幹事長、前原政調会長などとなった。マスコミは「挙党態勢」を意識した布陣と評している。
 この野田政権に対するわが国財界、支配層の期待は異常なほどに高い。
 米倉経団連会長は、野田首相を「税・財政・社会保障をはじめとする政策に通じ、かつ、安定感と行動力を持った政治リーダー」と持ち上げた。「読売新聞」も「民主党政権で初めて地に足のついた政策と手法を語ることができるリーダー」と、手放しの評価である。これは昨年の菅政権発足直後、「着実に成果を上げなければ、世論の支持も長続きしない」(読売新聞)とクギを刺していたことと比べ、雲泥の差である。
 民主党の最大の支持団体である労働組合・連合も、財界に追随し、相も変わらず政権への幻想をあおり、応援団となっている。
 野田政権の正式発足を待たずに、多国籍大企業、企業家で構成される経団連、経済同友会両団体は新政権への要求を発表した。
 それは、(1)規制改革や環太平洋経済連携協定(TPP)への参加など「成長戦略の実行」、(2)復興特区の創設など、大震災からの「復興」と原発事故対応、原発の再稼働、(3)税と社会保障制度の一体改革を中心とする財政再建である。
 外交面では、普天間基地(沖縄県宜野湾市)の県内移設、中国けん制のための自衛隊の再配置など、日米同盟のさらなる「深化」である。
 各商業新聞の論調も、この枠内にある。
 一九九〇年代後半以降、わが国支配層、財界が歴代政権に求め続けた最大の課題は、内政上は財政再建、外交面では対米従属下でのわが国の国際的発言力の強化である。こんにちの財界の要求は、これを引き継ぎいでもいる。
 野田新政権はこの「期待」に応えるべく、組閣に先んじて、米倉ら財界首脳に「協力」を要請した。菅前首相の「政権居座り」に業を煮やし、政府の会議をボイコットしていた米倉だが、野田首相の態度に「(政権とは)元通りの関係」と大喜びし、自ら政治決定に参画する意思を表明した。
 さらに野田首相は、財界人や日銀、労働界の首脳らを加えた首相直轄の「国家戦略会議(仮称)」を新設、経済財政運営の司令塔とする方針を固めた。事実上、奥田・経団連会長(当時)を筆頭に小泉政権下で改革政治を主導した、経済財政諮問会議の復活である。
 まだ何も行っていない野田政権に対する高評価とテコ入れの背景には、首相が松下政経塾出身で財界にとって「安心できる」人物であることや、民主党代表選で財界の念願である「財政再建」を掲げたこと、菅政権末期の一種の「政治不在」に対する反動という面もあろう。
 それだけではない。わが国支配を取り巻く危機がいちだんと深く、かれらが野田政権に期待を託さざるを得ないことが決定的理由である。財界は、課題解決に対するを焦りをますます深めているのである。

深まる帝国主義の危機
 リーマン・ショック後の危機から抜け出せぬ米国は、昨秋来、空前の量的緩和政策(QE2)に踏み切ったが、経済は好転しなかった。ここに、債務不履行(デフォルト)問題と米国債の格付け引き下げを契機とする新たな危機が発生した。
 この波は世界を襲い、先進諸国は金融不安の深刻化と、インフレと不況が同時進行するスタグフレーションの危機にある。諸国は、米国を筆頭に、自国通貨安による輸出拡大での経済再建をめざして「通貨戦争」「貿易戦争」を激化させている。
 新興国のインフレ、社会不安もやまず、中東・北アフリカではいくつかの政権が倒された上に、人民の激しい反政府闘争が続いている。中国経済も危うさを増し、政府・党は対応に大わらわである。
 米国を根源とする危機とその脱出策は、諸国内、諸国間の対立をますます激化させ、帝国主義の世界支配に危機をもたらしている。
 わが国を取り巻くのは、まさに不安定で大激動の世界である。

わが国にもいっそうの難題が
 リーマン・ショックによる打撃をもっとも受けたわが国経済は、三月の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故でさらに揺さぶられた。
 多国籍大企業は円高や電力不足を口実に、これまで以上に海外展開を強め、国民経済・国民生活を顧みない。中小零細企業の経営はいよいよ厳しく、地域経済の疲弊は深刻の度を増した。
 失業率は高止まりし、労働者の賃金は一向に上がらない。被災地住民の生活は、いまだ明日をも知れない危機にある。原発事故で農畜産物は広範に汚染され、「安い輸入作物」の流入もあって経営は成り立たない。
 他方、国内総生産(GDP)の二倍近い累積債務を抱え、政府がどんな政策を行おうとしても財政的余裕はない。日米同盟「深化」で、アジアでの孤立はさらに深い。
 国民は民主党政権への失望を深め、その怒りの意思は、四月の統一地方選挙に一定程度反映された。世論調査では「支持政党なし」層が、民主・自民の二大政党への支持率の合計を上回るほどになっている。
 ここに、米国発の新たな危機が襲いかかった。円高は史上空前の水準となり、政府・日銀には打つ手がない。
 野田政権は、こうした内外環境を引き継いだ。野田以外の人物が新政権を担っていたとしても、この危機的環境に変わりはない


国民の願いは実現できず反発は必至
 「国民生活が第一」などと幻想をあおり、政権についた民主党だが、鳩山・菅の両政権を経ていよいよその正体をあらわした。野田新政権は、「国家戦略会議」など政権の仕組みの上からも、自公政権と同様の対米従属で多国籍大企業のための政権であることが明白となった。
 危機を背景に、国民諸階層の政治への要求は強まっている。
 被災地住民、とりわけ政府と東京電力に賠償を求める福島県民の怒りと闘いは、八月十二日の総決起集会に見られたように、怒髪天を衝く勢いである。財界のための漁業特区やTPPに対しては、農漁民が断固たる抵抗の意思を示している。大企業の一方的な海外移転に対しても、賠償を求める運動がある。増税ともなれば、さらなる国民の反撃は不可避だ。基地の県内移設を許さぬ沖縄県民の闘いはもちろん、米軍再編に抗する全国の闘いも健在である。
 野田新政権には、これらの切実な要求を実現することはできない。
 国会運営さえ容易ではない。
 増税やTPPでは、与党内さえ一致が難しい。小沢元代表の「処分問題」もある。自民党など野党も総選挙を意識した行動を取らざるを得ず、大連立は困難で、「部分連合」さえすんなりとは進むまい。
 野田政権も前任者たち同様、遠からず行き詰まることは必至である。
 労働者をはじめとする国民諸階層にとっては闘う以外に道はなく、民主党政権を打ち倒し、新たな政権を樹立するしか解決策はない。
 とりわけ労働者階級が民主党への幻想を捨て、広範な戦線の組織者として闘うことが事態を決し得る。


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