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2011年8月25日号 2面・社説 

世界を襲う米国発の新たな危機

戦略的対応強める各国、
日本の独立・自主は喫緊の課題

 米大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は八月五日、米国債の格付けを最高位の「AAA」から「AA+」に引き下げた。
 これを引き金に、新たな危機が世界経済をおおっている。諸国は対応策に大わらわである。
 中でも、震源地となった米国の危機は深刻である。米国はドル安による経済再建を図っているが、成功のあてはない。戦後のドル基軸体制はいよいよ末期である。
 欧州諸国も中国も、世界の諸国は国益をかけた戦略的対応を強めている。
 対米従属を続けるわが国は、世界のすう勢からますます取り残されている。

「格下げ」機に危機が波及
 格付け引き下げの影響が世界に及ぶことを恐れた先進国首脳会議(G7)は八日、財務相・中央銀行総裁による緊急電話会談で対応を協議した。共同声明には「流動性を確保し、金融市場の機能や金融の安定、経済成長を支えるため協調行動を取る」と明記されたが、具体策はなかった。
 「国際協調」の無力さが露呈したことで、それ以前から下落傾向であった世界の株式市場は急落した。膨大なマネーは、比較的「安全な資産」として日本円やスイスフラン、さらに金へと流れ込み、最高値を更新させている。
 金融面の混乱は実体経済にも及び始めた。世界各国の成長率予測は軒並み引き下げられ、景気の「二番底」、しかも、不況とインフレが同時並行するスタグフレーションの危機にある。
 各国支配層は焦りに駆られて対応策を急ぎ、スイスは八月だけで三回も量的緩和を拡充、日本も円売り介入と金融緩和策を講じた。これまで、インフレ抑制のために金利を引き上げ続けてきた新興国も、一部は金利引き下げに転じた。月一〇%を超える食料品の価格高騰に悩む中国でさえ、利上げの中止を求める声が強まっている。
 世界経済が危機がますます頻発するきわめて不安定なものとなる中、各国は対応に大わらわである。

危機の震源地は米国
 二〇〇七年夏のサブプライムローン問題の顕在化はもちろん、こんにちも、危機の震源地は米国である。
 国債格下げの直接の原因は米国の財政赤字削減に対する「市場の懸念」だが、米国経済はいよいよ深刻な危機にある。
 六月末までの量的緩和策(QE2)にもかかわらず、経済成長率は低迷。住宅価格は下がり続け、国内総生産(GDP)の七割以上を占める個人消費は伸び悩んでいる。インフレも強まり、これも個人消費を冷え込ませている。九%を超えて高止まりする失業率、四千五百万人を超えて増え続ける食料切符受給者など、国民生活も深刻である。
 ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)などの機関債、地方政府債券などの連鎖的格下げも必至で、金融不安は終わらない。
 慌てた連邦準備理事会(FRB)は、「一三年までの金融緩和の継続」を打ち出した。米国は、新たな金融緩和策(QE3)に踏み込む可能性がある。
 直近の経済状況だけではない。
 一九七一年、金との交換を停止されたドルが基軸通貨であり続けたのは、米国の「信用」ゆえであった。米国は世界から資金をかき集め、膨大な「双子の赤字」を埋め、さらに利ざやを稼ぐ「ドル還流システム」で延命してきた。
 格付け会社の評価とはいえ、今回の事態は、国債に代表される米国の金融資産が、世界の投資家にとって「最も安全で確実な投資先」としての地位を失ったことを意味する。金の高騰は、ドルへの不信でもある。
 オバマ大統領は「米国が『AAA』国家であることは変わらない」と強がるが、戦後のドル体制はいよいよ末期である。
 危機の半面、暴落に至らない限りでのドル安は、「輸出倍増計画」で経済再建をめざす米国にとって望ましいことである。今回の危機は狙ったものではないにしても、米国には悪いことばかりではない。むろん、米国の産業競争力は衰えており、輸出拡大が成功するあてはない。
 ドル安政策は、諸国間の「通貨戦争」「貿易戦争」をさらに激化させる。新興国などのインフレ、社会不安もやむことはない。米国の危機脱出策は諸国内、諸国間の対立をますます激化させる、危機の根源である。

独自の戦略的対応を強める各国
 多極化し、市場をめぐる競争が激化する世界で、各国はそれに対応した独自の政策を強めている。その速度は、八月初旬の危機顕在化以降、いちだんと速い。
 中国の温家宝首相は十九日、訪中したバイデン米副大統領に対し、「財政赤字削減に向けた努力」を要求。米国の新たな金融緩和策についても「インフレが加速して中国経済の打撃になる」とけん制している。副大統領の訪問は、中国による米国債の継続保有・購入(米国への財政支援)を担保することが狙いの一つであった。中国はこれを受け入れつつクギを刺した。中国はBRICSの中心国として恒常機関の設立を主導、各国通貨による決済に踏み出すなど、ドルの相対化も進めている。
 独自の共通通貨・ユーロを有する欧州連合(EU)では、中心国のドイツとフランスが十六日、ユーロ圏の首脳会議を定例化する「経済政府」構想や財政赤字削減策を法律で定めることなどで合意した。イタリア、スペインなども評価の声をあげている。米国のヘッジファンドに南欧諸国の財政難があおられる危機の中でも、欧州は統合を強め、存在感を増している。
 ロシアのプーチン首相は、「分不相応の生活で彼らの問題の一部を世界経済に転嫁し、寄生している」と米国を批判。欧州との連携強化による経済強化に乗り出した。
 南米諸国のほとんどが参加する南米諸国連合(UNASUR)も十二日、地域金融基金の創設や各国通貨での決済推進などで合意、こちらもドルの相対化を打ち出した。
 諸国は、米国が急速に衰退する世界で、国益をかけて自らの道を歩んでいる


対米従属政治の転換は急務
 米国発の新たな危機は、外需依存・ドル依存で、東日本大震災からの復興もままならぬわが国を激しく揺さぶっている。円は史上最高値を更新した。
 自国の通貨安を歓迎する米欧諸国は、それと逆行する協調介入には冷淡で、日銀の単独介入に効果はない。曲折はあれ、円は中長期に高値水準で推移する。
 一方、わが国多国籍大企業にとって、円高は合併・買収(M&A)など海外展開を強める好機でもある。かれらは「日本のモノづくりが流出する時期が来た」(トヨタ)などと開き直り、国民経済を顧みない。
 円高は米国が仕掛けている攻撃である。支配層内にさえ「基軸通貨ドルの崩壊」に備え、通貨バスケットによるアジア共通通貨を求める動きがある。
 それにもかかわらず、民主党代表選挙を争う前原前外相、野田財務相、馬淵首相補佐官など、いずれも日米同盟「深化」による対米従属政治の継続を表明した。民主党政権には戦略もなく、南米諸国ほどの対米けん制さえできない。政府・日銀は、円売り介入で得たドルを米国債に再投資し、財政難の米国に資金を貢いでいる。これは、ドル暴落を防ぐ役割も果たす。民主党政権は、リーマン・ショック直後、「ドル体制を守る」と公言した麻生・自公政権以上の売国政権である。
 政府が検討している「円高総合対策」、日銀の追加的金融緩和も効果はなく、苦境にある国民経済・国民生活を打開できない。
 円高問題一つでも、打開できるのは政治の力である。対米従属で多国籍大企業のための政治を転換しない限り、わが国に活路はない。
 広範で実力ある、独立・自主の政権を樹立することが急がれている。


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