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2011年8月5日号 2面・社説 

「デフォルト回避」でも
深刻な米国の危機

対米追随の転換なしに
わが国の未来に展望はない

 オバマ大統領は七月三十一日、米与野党指導者が連邦政府の債務上限引き上げで合意したと発表した。
 合意前、世界の支配層は、リーマン・ショックに続く「米国発の危機」に戦々恐々(きょうきょう)としていた。米国が新規に国債を発行できず、債務不履行(デフォルト)に陥る危機はひとまず回避されたが、米国の財政赤字もドル不安も解決することはない。何より、米国の実体経済はますます深刻で、世界経済の危機の震源地となっている。
 米国内の階級対立は激化し、市場をめぐる諸国間の争奪も激しさを増す。
 対米従属政治の転換こそ、わが国の唯一の展望ある道である。

デフォルト回避でも危機は去らず
 米国がデフォルトに陥れば、その影響はギリシャの財政危機どころではない。「第二のリーマン・ショック」として、いまだ不安定な世界経済や金融市場を破局に追い込みかねなかった。世界の支配層、投資家はデフォルトにおびえ、「決着を急ぐべき」(日経新聞)などと金切り声をあげた。米連邦準備理事会(FRB)は合意失敗に備え、金融機関の対応策を策定することまで行った。
 かれらは、債務上限引き上げ合意で「一安心」できるだろうか。
 米与野党の合意内容は、現在一四・三兆ドル(約一千百六兆円)の債務上限を二・一兆ドル引き上げることと引き替えに、今後十年間で二・四兆ドル(約百九十三兆円)の財政赤字を削減するというものである。うち九千億ドル分については、先行して削減方針を決定。残りは、超党派の「特別委員会」が今年十一月までに削減計画を策定する。赤字削減が進まなければ、強制的に厳しい歳出削減を行う仕組み(キャップ制)も導入する。
 上下両院は債務上限引き上げ法案を賛成多数で可決。八月二日、オバマ大統領の署名で成立した。これによって、米政府は新規に国債を発行する法的根拠を得、法的上限に達している債務をさらに拡大させることが可能となった。当面のデフォルトは避けられた。
 オバマ大統領は合意を自賛しているが、実態は、下院の主導権を握る共和党に押し切られたものである。
 オバマ政権が計画していた富裕層向けへの増税は盛り込まれず、基本的に、赤字削減は歳出削減で対応せざるを得なくなった。オバマ政権の目玉政策であった医療保険制度改革も、見直しの対象になった。
 しかも、これで米国の深刻な財政赤字が解決するわけではない。米国の財政赤字は、リーマン・ショック後の二〇〇九年から年間一兆ドルを超え続け、今後十年間の累積でも七兆ドルの赤字が上積みされる見込みである。財政赤字を計画通り削減できる保証はないし、実現できたとしても、二〇兆ドル(国内総生産=GDPの約一・三倍)近い巨額の累積赤字が残る計算で、解決できない。
 米国は、世界経済のかく乱要因であり続ける。米国債の「格下げ」問題に代表されるような、ドルへの国際的不信も高まらざるを得ない。

いよいよ深い米国の危機
 「(デフォルト回避で)不確実性の雲が晴れる」(オバマ大統領)どころか、米経済はより深刻な危機にある。米国の実体経済がほぼ「二番底」に入っているからである。
 六月末まで行った量的緩和(QE2)にもかかわらず、経済成長率は今年に入って低迷している。住宅価格は昨年九月以来下がり続け、これを背景に、GDPの七割以上を占める個人消費は伸び悩んでいる。
 QE2によってガソリン価格などのインフレが強まり、スタグフレーションの危機にある。オバマ政権は世論対策として、国際エネルギー機関(IEA)を動かして世界的に原油を放出させることまで行った。
 米国民の生活はいちだんと悪化している。
 失業率は悪化し、九%を超えて高止まりしている。食料切符(フードスタンプ)で食いつなぐ国民は四千四百万人以上で、一日四千七百人ものペースで増え続けている。個人の破産も月三万件を超え、リーマン・ショック時よりも多い。
 景気後退に加え、予定される大規模な赤字削減も、社会保障制度の後退などとなって米国民、とくに低所得者層にさらなる打撃を与える。オバマ政権への反発もいっそう高まることになる。
 苦境の米国は、ますます輸出に活路を求めている。昨年掲げた「輸出倍増計画」はその典型である。
 膨大な財政赤字、下院の主導権を共和党に握られて財政出動が困難なこと、再度の量的緩和(QE3)がインフレに拍車をかける可能性が高く容易ではないことに加え、来年に大統領選挙を控えていることも、オバマのあせりに拍車をかけている。
 米国による、人民元改革要求など最大の貿易黒字国である中国への圧力強化、環太平洋経済連携協定(TPP)を使ったアジア市場への参入は、さらに強まらざるを得ない。
 だが、新興国、とくにアジアへの輸出拡大で経済の浮上を図ろうとしているのは、日本や欧州なども同様である。
 諸国間の市場をめぐる争奪戦はいよいよ激しく、「貿易戦争」の様相を呈している。その点で「デフォルト危機」は、狙ったものではないにせよ、米国にとってはドル安誘導に効果的な面さえあった。
 米国内の階級対立と併せ、諸国間の対立も激化せざるを得ない。

対米従属のわが国も深刻
 わが国は〇八年秋のリーマン・ショックによって、先進国中、もっとも深刻な影響を受けた。こんにち、またも「米国発」の危機に揺さぶられている。
 オバマ大統領の会見後の「円安ドル高」はわずか数時間しかもたず、またも、円相場は東日本大震災後の最高値に迫った。株価も下落した。投資家たちさえ、米国経済の先行きを信用していないのである。
 政府は四日、円安誘導をもくろんで「円売りドル買い」介入を行った。米国はこの介入を容認したが、東日本大震災直後とは異なり、すんなりとした協調介入とはいくまい。
 しかも、政府は「ドル買い」で得たドルを何に使うのか。大震災からの復興や国民生活の向上に役立てるならまだしも、歴代政権も民主党政権も、米財務省債を購入して米国にドルを還流させている。財政難の米国には「願ったりかなったり」である。米国にとってはこの対日債務さえ、ドル安で棒引きさせることができる。
 菅・民主党政権は、一連の騒動を「願望」を込めてながめるだけであった。プーチン・ロシア首相は、米国を「(過剰債務で)世界経済に寄生している」と非難した。一・一兆ドル(約八十五兆円)以上の米国債を保有する中国は、米国に「投資家(中国)の利益を保証する責任ある姿勢」を要求した。この程度の外交的駆け引きさえ行わないほど、わが国政府の売国ぶりはきわまっている。
 対米従属政治の下では、わが国は国富を米国に貢ぎ、収奪され続けることになる


 若干の起伏はあれ、円高傾向は長期に続く。市場介入はもちろん、日銀による新たな金融緩和策も効果はない。
 わが国多国籍大企業は円高を口実に海外展開を強め、国民経済を犠牲にしている。大企業はさまざまな手段で為替リスクを回避できるが、中小企業の経営はますます立ちゆかない。その下で働く膨大な労働者には、さらなる雇用の危機である。
 だが、菅・民主党政権は国民生活の向上策はそっちのけで、多国籍大企業の望むままの政策を行っている。歴代政権による対米従属政治も転換するどころか、「同盟『深化』」など、衰退する米国に対する追随を政治・経済・軍事すべての面で深めている。TPPへの参加策動は、この一例である。
 米国の「デフォルト危機」は、世界経済の危機の深さ、行き詰まりを改めて示した。
 わが国労働者階級をはじめとする国民諸階層にとっては、独立・自主の政権をめざす課題の緊急性がいっそう鮮明になっている。


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