ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2011年7月25日号 2面・社説 

米国の深刻な危機の中で
開かれたARF

米戦略に追随し、中国けん制の
手先を演じた菅政権

 東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議、ASEANプラス3(日中韓)会議など、ASEAN関連の一連の会議が、七月十九日から二十三日まで、インドネシアのバリ島で行われた。
 一連の会議は、米帝国主義の危機がいっそう深まり、オバマ政権がアジアに活路を求める中で開かれた。
 米国は会議で、南シナ海における中国とASEAN間の懸案への介入を図り、中国への敵視とけん制を露骨にさせた。まさに、自国の抱える深刻な危機からの脱出策、悪あがきである。
 菅・民主党政権は、六月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)合意を機に、ますます米国のお先棒を担いでいる。今回の一連の会議でも、それ以前からの安全保障政策でも、その態度は鮮明である。これはアジアの緊張を極度に高め、わが国をアジアで孤立させる亡国の道である。
 衰退する米国のアジア戦略に加担せず、独立・自主の国の進路を切り開かなければならない。

米国の抱える深刻な経済・財政危機
 米国は、連邦準備理事会(FRB)による空前の量的緩和策(QE2)にもかかわらず、インフレと景気の「二番底」の危機にある。
 オバマ政権はリーマン・ショック後、危機脱出のため、膨大な景気対策など「何でもあり」の対策を行った。だが、危機脱出はならず、昨年秋からはQE2に踏み込まざるを得なくなった。それでも経済は好転せず、失業率九%以上に高止まりしている。食料切符で食いつなぐ国民は増加の一途である。しかも、QE2による世界的な食料・資源価格の高騰とも相まってインフレが進み、国民の不満は高まっている。米国は国際エネルギー機関(IEA)を動かして原油放出を行わせ、インフレ沈静化を図ったが、効果はない。
 財政赤字もいちだんと悪化、赤字は三年連続で一兆ドルを超えるのが確実で、累積では国内総生産(GDP)と同規模にまで拡大している。
 議会による累積債務上限の引き上げは合意困難で、債務不履行(デフォルト)の危機も高まっている。基軸通貨ドルへの不信も高まった。
 こんにち、金融政策、財政政策ともに余地を失ったオバマ政権は、興隆するアジア市場への輸出拡大を図るしか道はない。環太平洋経済連携協定(TPP)はそのための道具だが、それもうまく進む保証はない。
 オバマ政権の中心課題は深刻な経済の立て直しだが、いよいよ打つ手はない。

米国の思惑通りでなかったARF
 米国の外交・安全保障政策も、経済や財政の制約から逃れられない。
 中東、さらにアフガニスタンを含む南アジアで難題を抱えたオバマ政権は、この間、アジアへの関与を強めている。
 こうした米国の戦略は、一九九五年の「東アジア戦略」以来一貫したものだが、危機打開と来年に控えた大統領選挙への対応のため、ますますアジアを活路としている。
 東日本大震災を口実とした「トモダチ作戦」や、2プラス2合意などで、日本をいっそう「手駒」として使おうとしている。
 中国に対しては経済関係を深めつつ、従来からの人民元改革や市場開放要求を繰り返し、チベットなどの人権問題で干渉している。会議直前にはインドとの戦略対話やベトナムとの合同軍事演習まで行い、中国に対する一種の「包囲網」に取り込もうとの策動も強めた。
 こうした環境の下でのARFである。戦略再配置を進める米国は、中国に対するけん制強化を狙って会議に臨んだ。
 米国は会議で、ASEANと中国が領有を争う南沙(スプラトリー)・西沙(パラセル)諸島問題などの南シナ海での問題に、「海上交通の自由」を掲げて介入した。名指しは避けたが、中国に「(領有を主張する)法的根拠」を示すことまで要求した。
 二十二日に行われた米中外相会談でも、米国は強硬な態度であった。さらに、日本と韓国を巻き込んで、南シナ海をめぐるASEANと中国との間のルールづくりを「監視する」などと、域外国でありながら干渉する意思まで表明した。
 だが、米国の思惑通りには進んでいない。
 中国と経済関係を深めるASEAN諸国は、ARF前に、南シナ海での懸案解決に向け、環境保護など八項目の共同活動に関する「行動指針」で合意していた。
 これは、二〇〇二年に合意済みの「南シナ海行動宣言」を、法的拘束力のある「行動規範」へと発展させる上での一歩である。中国とASEAN、さらにASEAN諸国内にも一定の意見の違いはあるにしても、南シナ海の懸案を米国抜きで、自主的に解決する点で踏み出したのである。
 エスカレートした米国の対アジア政策は、あせりに駆られたもので、悪あがきにすぎない。
 アジア情勢は、いちだんと複雑なものとなっている。

菅政権、ARFでも対米追随
 菅・民主党政権は、ARFでも米国の手先としての態度に終始した。
 松本外相は、中国に南シナ海での「自制」を要求、ASEAN諸国にも中国敵視の「世論」を広めるべく画策した。また、「ASEAN域内の海上物流の連携を強める」などという構想を表明したが、これは米軍のプレゼンスを前提にしたものにほかならず、米国の掲げる「海洋航行の自由」の具体化と一体である。むろん、わが国財界の利益のためのものでもある。ASEAN地域内での災害時の支援にも言及したが、これも東日本大震災時の米軍による「トモダチ作戦」同様、米軍と共同しての自衛隊海外派兵に向けた地ならしという狙いが隠されている。朝鮮民主主義人民共和国に対しては、またも拉致問題を持ち出して非難した。
 菅政権の対米追随は、ARFにおける態度だけではない。
 すでに菅政権は、2プラス2合意で、米国に追随して中国に対して身構える姿勢を約束した。一部は、すでに昨年末の「防衛計画の大綱」で先取りされていたが、2プラス2合意を機に、日米同盟「深化」が一挙に進んでいる。
 鹿児島県馬毛島への米軍の空母艦載機離着陸訓練(FCLP)移転を約束し、米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)に新型輸送機オスプレイが配備されることを認めた。普天間基地の名護市辺野古への移設計画は、旧自公政権案とまったく同じである。
 台湾に近い沖縄県与那国町などへの陸上自衛隊配備など、中国を見据えた「南西諸島重視」の布陣も進めている。
 アフリカのジブチには、自衛隊による初の海外拠点が建設された。これも、アフリカでの存在感を高める中国へのけん制である。武器輸出三原則の撤廃も策動されている。これらは、集団的自衛権の行使容認と憲法改悪にもつながるものである。
 TPP参加に向けた策動も続いている。
 延命策に明け暮れる菅・民主党政権だが、対米従属については、歴代自民党政権以上である


独立・自主のアジア外交を
 米国が衰退を早め、アジア情勢が複雑化する中、確固とした戦略なしにわが国が生きていくことはできない。
 ARFでのわが国外交は、菅・民主党政権が、歴代自民党政権以上の対米従属、まさに手先であることを世界、アジアに示した。大国のインドはもちろん、一国では決して大国ではないASEAN諸国でさえ、米国の力をときには利用するが、決して「言いなり」ではない。中国とも独自に交渉しているし、わが国に対する態度も同様である。
 わが国の対米従属外交との差は歴然としている。「経済大国」とされる日本の、何たる自主性のなさか。
 わが国労働者階級は、独立・自主の国の進路、それを実現する政権の問題に無関心ではいられない。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2011