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2011年7月15日号 2面・社説 

大震災・電力不足を口実に
海外展開強める多国籍大企業

国と運命をともにする
人びとのための政権を

 東日本大震災と、福島第一原子力発電所事故以降の電力問題を口実に、多国籍大企業がまたも海外展開を強めている。
 その進展は急速かつ大規模で、わが国経済は深刻な産業空洞化に直面している。
 財界は日本から出ていく理由として法人税や電力不足などを挙げているが、自らの要求する政策を実現させるための口実にすぎない。
 菅・民主党政権は空洞化への手だてもなく、財界の言うがまま、法人税減税や環太平洋経済連携協定(TPP)を進めようとしている。だが、政策がどうなろうと、多国籍大企業が日本にとどまる保証はない。
 国民の生活と営業、地域経済の危機はいよいよ深い。
 国民経済・国民生活を守るため、財界の横暴と闘い、その手先である菅・民主党政権を打ち倒し、政治の実権を国民大多数の手に移さなければならない。

続々と海外展開進める多国籍大企業
 トヨタ自動車、日立製作所など大企業の海外展開は、今に始まったことではない。大企業は、すでに利益の過半を海外で稼ぐようになっている。しかも、多国籍大企業は海外で得た膨大な利益を日本国内に還元せず、海外での合併・買収(M&A)、設備投資に巨費を注ぎ込んできた。製造業だけで、国内の雇用は一九九六年比で約三百万人も失われた。
 大震災後、大企業の海外展開はいちだんと急速になっている。
 新日鐵は、熔融亜鉛メッキ鋼板の製造ラインをタイでの生産に切り替える。北越紀州製紙は、中国に白板紙の製造販売会社を設立。東レは、韓国で炭素繊維の開発・生産を大規模に始める。バンドー化学はインドで二輪車・自動車用ベルト工場を建設。京セラはベトナムに電子部品・情報通信機器の工場を建設。三井金属はマレーシアに、極薄電解銅箔の生産設備を新設。旭硝子はブラジルに建設・自動車用ガラスの工場を建設。JX日鉱日石金属は、液晶パネル部材の生産を海外生産に切り替える。日立金属は、自動車向け鋳物部品の生産の一部を、海外のグループ工場に移管した、等々。
 これにともない、国内拠点の統廃合と、労働者への解雇や配転などの攻撃が強まっている。パナソニックの一万七千人、リコーの一千六百人の大リストラ、ソニーによる被災地・宮城県多賀城市の拠点縮小と労働者の解雇なども、この流れで強行されている。
 従来、大多数の大企業が「先端技術は国内、汎用技術は海外」という経営戦略をとってきた。競争力の源泉としての技術の国外流出を恐れたからである。だが、国際的競争激化により、それも続けられなくなった。製造業のみならず、建設、流通・小売など、従来は「内需型」とされてきた企業の海外移転も進んでいる。
 まさに急速な産業空洞化である。
 大震災後の「国難」とも言える状況下、海外で暴利をむさぼるために他国へ出ていく多国籍大企業の態度は、きわめて身勝手なものである。

「6重苦」と政治介入を強める財界
 多国籍大企業、財界は、自らの行動を正当化するための「理由」を持ち出している。
 日本自動車工業会の志賀会長(日産自動車)は、円高、法人税、貿易自由化、労働規制、温暖化ガス規制、さらに電力不足を挙げ、日本企業が海外企業と競争する上での「六重苦」などと言う。日本経団連も七月十一日、同様の「緊急アピール」を行っている。豊田・トヨタ自動車社長は、「日本でのものづくりがちょっと限界を超えた」とまで言う。
 財界の言う「六重苦」は、海外展開を正当化するための口実である。また、「空洞化対策」を口実に、政府に法人税率引き下げやTPP参加など貿易自由化、国民犠牲の「財政再建」などを迫る狙いもある。いわば、財界の利益になる政策を行わせるための「脅し」なのだ。
 財界は「もうけ口がない」と言って海外へ移転し、国内には投資せず他国に投資しているにもかかわらず、日本の政治権力は握って離さない。この連中は、歴代政権を自らの手先とし、自らの利益のための政策を行わせてきた。今になって「六重苦」などと言うが、「円売り・ドル買い」介入、法人税減税、貿易自由化、労働法制の規制緩和など、すでにさんざん恩恵を受けてきたのである。
 この事実を隠すだけでなく、わが国の政治に口を出し、さらなる恩恵を受けようなど、厚かましい限りである。この連中のどん欲さには、際限がない。
 「六重苦」なる、財界の宣伝の狙いを見抜かなければならない。

定見なく財界いいなりの民主党政権
 急速な国内経済の空洞化の進展を前に、菅政権は歴代政権と同様、国民経済を守る気概も定見もなく、相変わらず財界の言うがままの政治を行っている。
 菅・民主党政権は、昨年六月、多国籍大企業が海外で稼ぐことを支援する「新成長戦略」を掲げた。これにそって、閣僚はインフラ輸出などのセールスマン役を買って出た。大震災直後にも、大銀行・大企業を金融政策、減税などで手厚く支えた。
 菅・民主党政権は「(空洞化を)食い止めなければいけない」(枝野官房長官)などと言う。だが、政府で検討されていることは、TPPなど自由貿易の推進や法人税率の引き下げである。このほか、「空洞化対策」と称して、国内で生産拠点を分散化した企業への補助金支出、企業が節電した分の電気料金を割引くなどの案が浮上している。
 まさに、国を出ていく多国籍大企業の要求を満たすものにすぎない。「盗人に追銭(おいせん)」とはこのことである。菅政権が発足時に掲げた「雇用重視」のかけ声は、ますます欺まんとなっている。
 減税やTPP参加などを行ったからといって、多国籍大企業が日本にとどまるとは限らない。「法人税が下がったから(日本で)投資を増やそうと考える経営者はいません」(松本・住友電工社長)と、「正直」に語る経営者もいるほどだ。
 菅首相が七月十三日に打ち出した「脱原発」も、政権の延命を狙ったものにすぎない。財界は、海外展開のための新たな口実にするだろう。
 菅・民主党政権には、国民経済、国民生活を守ることはできない


国民経済、国民生活を守る政治に
 急速な産業空洞化は、労働者にとってはさらなる雇用の危機であり、中小企業には倒産・廃業の危機である。地域経済にとっても深刻な事態で、壊滅的打撃を受けた被災地にとっては地域の存亡にかかわるものだ。空洞化は、わが国国民経済、国民生活を崩壊させるものである。
 国民経済・国民生活を守り、発展させなければならない。
 多国籍大企業にも社会的責任はあるはずで、それを果たさないなら、国民はこれと闘う以外に道はない。
 国内を捨てての海外展開は厳重に規制されるべきである。海外でのもうけの一定部分を国内に環流させ、投資や労働者への配分に回すことを義務づけるべきである。
 それでも「国外に出て行く」という企業、経営者には、わが国政治への関与を許すわけにはいかない。国民経済・国民生活を考えない連中がわが国の政治を握っていることが、最大の問題なのである。
 多国籍大企業が日本の政治の実権を手放し、しかも長年にわたって労働者を搾取し、中小企業に犠牲を押しつけ、政治をほしいままにしてため込んだ資産の一定部分を手放して外国に行くのなら、それはそれで悪いことではない。
 わが国の政治は、日本と運命をともにせざるを得ない人びと、つまり労働者、農民、漁民、中小商工業者など国民大多数のためのためのものなければならない。
 対米従属で多国籍大企業のための政権を倒し、国民大多数のための政治へとシフトさせることが急務である。


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