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2011年6月15日号 2面・社説 

社会保障や「復興」を口実に
強まる増税策動

財界のための策動見抜き、
広範な闘いで打ち破ろう

 社会保障制度改革と東日本大震災からの復興のための財源確保を口実として、政府、財界による増税策動が強まっている。
 これは徹頭徹尾、財界のためのものであり、生活苦にあえぐ国民にはさらなる犠牲の押しつけである。
 国内総生産(GDP)の二倍にも達する国と地方の累積債務の責任は、対米従属で大企業のための政治にある。
 支配層の「財政危機」キャンペーンに惑わされず、財政を食い物にして潤ってきた財界、多国籍大企業にこそ、責任を取らせなければならない。
 「増税反対」の大衆行動の発展が求められている。

官民あげた「増税」の大合唱
 社会保障と税の一体改革に向けた政府の集中検討会議(議長・菅首相)は六月二日、改革原案を公表した。社会保障制度改革のための財源として、消費税率を二〇一五年度までに段階的に一〇%へ引き上げることを明記した。
 続いて、政府の復興構想会議が十一日、第一次提言の素案を発表。ここでは、大震災からの「復興」のために発行する復興債の償還財源を確保するためとして、「基幹税を中心」に臨時増税を検討することを明記した。たばこ税、酒税など複数の増税も検討されている。政府税制調査会による論議も始まった。
 財界も、経団連が五月二十七日、経済同友会が六月八日と相次いで「復興」に関する提言を発表。いずれも、消費税増税や復興税新設などによる増税を打ち出した。
 政府・与党は月内に増税案をまとめ、今年度中に税制改革法案の国会提出を行うことをたくらんでいる。
 マスコミなどによる「オールジャパン」「痛みを分かち合おう」など、増税を「納得」させるためのキャンペーンも強まっている。
 まさに、増税の大合唱である。

財政再建は支配層の切迫した課題
 社会保障制度改革や震災「復興」を理由に掲げてはいるが、民主党政権が進めようとしているのは、わが国財界がかねてから要求してきた「財政再建」である。
 巨大金融機関を頂点とするわが国多国籍大企業、支配層は、外交上の国際的発言権の強化とともに、内政面では財政再建を急いでいる。財政再建は、リーマン・ショック後の米国の急速な衰退と世界の多極化の中、支配層にとってますます切迫したものとなっている。財政危機を抱えたままでは、とれる経済・社会政策に限界があり、新たな危機に対応できないからである。大企業にとっては、国際競争力を高めるための法人税減税を断行させるための財源が必要なほか、膨大に保有する国債の価格が暴落することによる経営悪化や、長期金利の上昇による資金調達コストの増大を避けるなどの狙いもある。
 支配層にとっての財政再建の切迫性は、未曽有の被害をもたらした東日本大震災を機にさらに強まった。

財政危機の責任は対米従属で 大企業のための政治にある
 わが国の膨大な財政赤字は一九七〇年代末からあったが、深刻化したのは九〇年代以降である。
 対日貿易赤字の拡大にいらだった米国は、九〇年の日米構造協議で、わが国に「内需拡大」の不当な圧力を加えた。これにより、六百三十兆円もの公共事業が対米公約とされて推し進められ、わが国の国家財政は一気に悪化した。
 九〇年代後半、橋本政権が「六大改革」の一つとして財政再建を掲げ、消費税増税と法人税減税を強行したが、国民の怒りで改革は挫折。逆に九八年以降は、バブル崩壊後の景気刺激策として公共事業を中心とする膨大な財政投入が行われた。景気対策への動員で自治体財政も急速に悪化。国と地方の赤字は、ときの小渕首相が「世界一の借金王」と自嘲するほどに拡大した。
 〇一年に登場した小泉政権は、「聖域なき構造改革」を掲げて財政再建に突き進んだ。公共事業削減、社会保障制度改悪、定率減税廃止などのほか、「三位一体改革」として地方にも犠牲が押しつけられた。
 この政権を支えたのは、経団連と日経連が統合した日本経団連であり、その会長にはトヨタ自動車の奥田会長が就いた。奥田は〇三年年頭に発表した「奥田ビジョン」で「消費税率一六%」に代表される財政再建、「小さな政府」を要求した。
 この後、安倍、福田、麻生と続く自民党政権は短命に終わったが、〇八年秋のリーマン・ショックを機に、「エコカー減税」やエコポイントなどの大企業支援策を大規模に行ったことで、財政はさらに悪化した。
 財政赤字の責任は対米従属政治にある。大企業はその中で財政を食いものにして肥え太ってきた。その犠牲はあげて国民に押しつけられた。

増税策動を強める民主党政権
 財界の財政再建要求は、民主党政権に引き継がれることになった。
 民主党は「国民生活が第一」という政権公約(マニフェスト)を掲げて国民をひきつけた。だが、「ムダ排除」によって子ども手当などの財源をねん出するというかけ声は欺まんで、「事業仕分け」「ダム工事停止」などのパフォーマンスの真の狙いは、主要には増税のための地ならし、世論づくりであった。
 この正体は、鳩山政権を引き継いだ菅政権でいよいよ露骨となった。
 菅政権は「強い経済、強い財政、強い社会保障」を掲げ、昨年夏の参議院選挙前に「消費税率一〇%」という自民党案に飛びついて増税を打ち出した。だが、政権交代への失望とも相まって選挙に大敗、増税論議は先送りされたかに見えた。
 そこに東日本大震災が発生した。民主党政権は大震災を「絶好の機会」とばかり、またも増税策動を強めている。「復興」と社会保障制度改革がその口実である。
 財界の強力な後押しは、すでに見た通りである。


増税反対の広範な闘争を
 消費税をはじめとする増税は、大震災を機にさらに悪化した国民諸階層の生活と営業を、もういちだんの危機に追い込むものである。財界のための増税策動に反対し、闘いを強めなければならない。
 とりわけ消費税は、低所得者ほど負担が重い半面、輸出大企業には輸出分がまるまる還付される、きわめて不平等な税である。
 被災地の復興も社会保障も、国民の負担ではなく、肥え太った大企業の負担で行われるべきである。消費税導入(八九年)以降、大幅に減税されてきた大企業への法人税率を上げ、さまざまな優遇税制を廃止すべきだ。二百兆円以上ある、大企業の過剰な内部留保を相応に取り立てなければならない。さらに、約一兆一千億ドル(約九十兆億円)と史上最高となった、外貨準備資金の一部(米財務省債)を売り払うべきである。
 これらを行えば、被災地の復興も、安心できる社会保障制度も、財源はたちどころに確保できる。これらを実現するための確かな道は、独立・自主で国民大多数のための政権を樹立することである。
 だが、労働組合の現状はどうか。
 連合は六月八日、「第三次税制改革基本大綱」を発表。「消費税の社会保障安定財源化」を掲げ、政府・与党の論議に「積極的に参画」するという。消費税の「逆進性緩和」などが盛られてはいるが、基本的に増税と闘わない態度である。
 野党はどうか。
 共産党は増税に「反対」だと言う。だが、「緊急の被災者支援などで力を合わせる」などと「オールジャパン」の宣伝に追随し、事実上、民主党政権を支える態度である。増税についても「国民と国会が議論すべき」などという平和ボケぶりだ。
 これらの裏切りを打ち破り、労働者・労働組合は闘いの先頭に立つことが求められている。
 労働者を中心に、農漁民、中小商工業者、知識人、青年学生、心ある与野党の政治家などによる増税反対の闘いと広範な戦線の形成は緊急の課題である。


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