2011年3月25日号 1面〜2面・社説
東日本大震災の復興をめぐり
争われる2つの路線
菅政権による財界支援策を
見抜き、打ち破って被災者、
国民のための復興を
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このたびの東日本大震災にあたって、日本労働党と労働新聞は、被災者の皆さまに心からのお見舞いを申し上げますとともに、犠牲になられた方々とそのご遺族の皆さまに対し、深甚なるお悔やみを申し上げます。
東日本大震災とその後の大津波、さらに福島第一原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)の事故は、東北地方を中心に未曽有(みぞう)の被害をもたらした。
リーマン・ショック後の大不況に直面していた国民の生活と営業は、この震災を機にいちだんと危機を深めている。
地震発生後十日余り、現地では必死の救援活動が続き、全国からボランティアが駆けつけ物資が寄せられるなど、支援活動も始まった。局面は「復興」へと移りつつある。
だが、菅政権と支配層は、大銀行、大企業には巨大な支援を行う一方、勤労国民を中心とする被災者支援は「二の次」で、国民への犠牲押しつけも強めている。
労働者階級をはじめとする勤労国民がみずから生き残り、生活を再建し、復興を勝ち取るためには、菅・民主党政権の進める大銀行、大企業優遇の「復興」策を見抜き、「誰のための復興か」を争うことが不可欠である。
国民的な闘いで、被災者、国民大多数のための復興を実現しなければならない。
東北地方を中心に巨大な被害
「千年に一度」と言われるM(マグニチュード)9の巨大地震が三月十一日、東北・関東を中心とする地域を襲った。直後に大津波が発生、青森県から千葉県を中心とする太平洋岸に押し寄せた。
死者・行方不明者は二万四千人を突破、約三千人の負傷者、建物損壊は約十三万戸に及ぶ。四十万人以上の人びとが不自由な避難所生活を強いられ、飢えと寒さに苦しんでいる。救助を待ちつつ、力尽きた命も多い。
さらに、福島第一原発で大事故が発生、放射性物質が広域に飛散した。原発から半径三十キロ圏内の住民は避難・自宅待機を余儀なくされ、より大規模な原発災害と放射性物質拡散の恐怖におびえている。飲料水も広範囲に汚染された。
東北の農林水産業は、就業者でわが国の一六・二%、総生産で一五・六%という大きな割合を占める。
日本のコメ収穫高の約二七%を産出し、「コメどころ」と言われた農業は深刻な打撃を受けた。多くの田畑が津波にのまれ、酪農も再建のメドは立たない。難を逃れた周辺農民も、放射能汚染で野菜や牛乳などの農畜産物の出荷が停止された。
青森から茨城に至る三陸沖は「世界三大漁場」の一つとされ、わが国の水揚げ高の約二割を産出していた。だが、漁港、船、加工施設にいたるまで壊滅的な打撃を受け、被害の実相さえつかめない。
鉱工建設業では、就業者でわが国の七・三%、総生産で六・三%を占めていた。
中でも、全国の一二・九%を占める電子デバイス、一四・八%の情報通信機器などは大打撃を受け、生産は軒並みストップした。
道路、交通機関などが寸断されたことで、小売・流通産業も大打撃を受けた。
幾十万の労働者が新たに職を失い、農漁民は生活の糧を失った。
被災地住民は、生活物資の不足による局地的なインフレにも襲われている。原発事故に関連し、福島からの避難者の宿泊が断られるなど、いわれのない風評被害、差別まで広がっている。原発に近い地域には支援物資さえ届かない。
まさに「国難」ともいうべき大災害である。
震災と原発事故の被害は全国に波及
今回の大震災と原発事故の影響は、東北地方にとどまらず、全国に波及し、国民生活をいちだんと危機に追い込んだ。
リーマン・ショック後、大企業は派遣など労働者を大量に街頭に放り出してコストダウンを図った。政府は大銀行、大企業支援策を立て続けに実施。この結果、多国籍大企業は輸出依存と併せていち早く回復、巨額の利益をあげるまでに復活した。他方、労働者をはじめとする国民諸階層には犠牲が押しつけられ、生活と営業はますます困窮した。
そこに起きた今回の災害で、自動車や電機、鉄鋼、食品、製紙などの企業が部品の供給停止などで全国的に操業停止、稼働率引き下げに追い込まれた。中小零細の下請け企業は仕事を失い、明日の経営も分からぬ状態にたたき込まれた。首都圏は東京電力の計画停電で経済活動が停滞。ガソリンなど燃料不足も深刻化、交通や物流は混乱をきわめている。全国で物資の買い占めが起き、商店にはモノがない。
経済活動の停滞を口実に、首都圏をはじめ全国で労働者への首切りが強まり、労働条件引き下げなどの不当労働行為も頻発している。最低賃金以下への賃下げ強制、営業停止に際して個人の有給休暇の消化を迫ったり、新規採用者の内定取り消しなど、企業の悪らつな手口は枚挙に暇がない。労働者の生活は、ますます成り立たなくなっている。
政府の推計によれば、道路、鉄道などインフラ、さらに住宅の被害は最大二十五兆円と、阪神・淡路大震災時の倍以上に達することが確実である。岩手、宮城、福島三県の経済活動は向こう三カ月間にわたって二五%も低下、原発事故と電力不足、全国的な消費の冷え込み、折からの円高など、来年度の実質国内総生産(GDP)は一%近く低下するという調査もある。原発事故の推移によっては、事態はさらに悪化する可能性もある。
いずれにしても、経済活動への影響は深刻で大規模、かつ長期のものとならざるを得ないだろう。
国民諸階層、とりわけ被災者に対して一刻も早い支援が必要で、これは政府の責任である。政府の救援と復興政策を求め、監視し、闘わなければならない。
震災後の菅政権、支配層の諸対策
震災から十日余を経て、人命救助などの緊急課題を残しつつも、局面は「どう復興するか」に移行しつつある。
地震、津波、原発事故という大災害に直面しても、そこに生き、働く人びとの社会、経済的な立場は一様ではない。同じ「被災者」でも、労働者、農民、商店主、企業家など、異なる社会層の人びとで構成されている。被災しての苦しみの程度も生活再建への道も、それぞれに異なっている。
生活の再建、経済復興の問題を考える上で、国民的危機である大災害の発生以降、大銀行を頂点とする財界などの支配層、菅・民主党政権がどのような政策を行ってきたか、たどってみることが必要である。かれらの主要な関心事と以降の「復興」政策を推察できるからである。
菅首相は震災発生直後の十一日、「総力を挙げて取り組む」との総理大臣談話を発表。
翌十二日、本年度予算の予備費から救援物資の費用をねん出することを決めたが、金額はわずか三百億円であった。補正予算の編成作業も始めた。同日の与野党党首会談では「政治休戦」が演出され、二〇一一年度予算の成立は確実となった。
同日、炉心溶融が起きた福島第一原発への海水注入がようやく始まった。東京電力は海水注水で原子炉が廃炉となることでの大損害を恐れ、対応が遅れた。以降の事態悪化は営利優先で情報隠しの東電、さらに政府の責任で、まさに人災である。
谷垣・自民党総裁は十三日、早くも「復興」目的の増税を提案した。
政府は十三日、米空母・ロナルド・レーガンが宮城県沖に到着したことを受け、「救援」を口実とする大規模な日米共同の「トモダチ作戦」を本格化させた。その後規模は拡大、艦船二十隻、航空機百四十機という「巨大演習」さながらである。
日銀は十四日、金融政策決定会合で追加金融緩和策に踏み込んだ。「金融市場の安定」を理由に短期金融市場に大量の資金を供給、供給額は当初の五日間で六十兆円という空前の規模に達した。さらに、昨年十月以来実施している国債や社債、上場投資信託(ETF)などの資産買い取り枠を現行の五兆円から十兆円に拡大、買い取りペースも速めた。まさに湯水のごとく、大量の資金を大銀行に与えている。
厚生労働省は十五日、計画停電にともなう企業の休業に際し、支払われるべき労働者への「休業手当」を支払わなくてもよいとする通達を出した。「政府による労働条件引き下げ容認」である。
関西経済同友会は十六日、時限立法による「災害復興支援税(仮称)」を提唱。財界の手先である日本経済研究センターも同日、恒久的な「復興税」導入を求めた。増税への世論誘導である。
円高が史上最高値を更新したことに対して、経済同友会などの経済界は十七日、政府・日銀に輸出大企業の利益を守るための為替介入を要請。十八日の七カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議の合意を受け、日銀は五千億円以上の「円売り・ドル買い」介入を実施した。
厚労省は十八日、「雇用維持」の名目による企業支援策である雇用調整助成金制度の拡大を発表。被災した中小企業への支給条件緩和は当然としても、計画停電を理由に労働者に休業補償を支払わない企業にまで助成金を支払うこととした。
菅首相は十九日、谷垣・自民党総裁に入閣を打診、またも「大連立」を策動。国民の反発をかわして政権の「安定」を図る狙いだが、谷垣総裁は震災対策での「協力」を約束しつつ入閣はひとまず拒否した。
政府は同日、金融機関への新たな公的資金(国民の血税)投入を準備し始めた。
二十日、政府は被災した企業に過去にさかのぼって法人税を還付する方針を決めた。同日、放射能漏れを起こした東京電力の賠償責任を国が肩代わりする方向で検討に入った。東電の責任を免罪し、二千億円以上とされる膨大な賠償金を国民に負担させようというのである。
政府は二十一日、基準値を超える残留放射性物質が検出されたとして、福島、茨城、栃木、群馬の四県の一部農産物の出荷「自粛」を指示、さらに摂取制限まで課した。「基準値を超えても安全」と言いつつこの措置をとる支離滅裂ぶりで、農業者を絶望の淵に追い込んでいる。
三井住友など三大銀行などは二十三日、東電への二兆円規模の緊急融資を検討に入った。大銀行は、国民に惨禍(さんか)を押しつけた東電でさえも助けようというのである。
国難をよそに、財界の強欲ぶりには際限がない。政府は、この財界を最大限に支えている。
国民犠牲、大銀行と大企業には支援
見たように、政府は大銀行・大企業に大盤振る舞いを行う一方、被災者への救援策は、事実上「これから」である。実際に被災者救援に走り回っているのは当該自治体や心ある国民である。
与野党は、復興の財源論争に明け暮れている。その実態は、高速道路無料化や子ども手当の年少加算分の「見直し」といったもので、すべて実施されたとしても五兆円にも達しない程度である。このような「重箱の隅を突く」措置では、被災者に衣食住を保障し、早急に被災地の復興を図ることはできない。
それどころか、菅・民主党政権は、すでに始まった企業による労働者への犠牲押しつけを容認し、促進してさえいる。休業補償問題はほんの一例である。
増税論も勢いを増している。
わが国は、すでにGDPの二倍もの累積債務を抱えている。支配層にとって、いち早く国民に犠牲を押しつけなければ、「復興」どころか財政が保たない。財界はかねてから消費税増税を求めてきたが、被災地の苦難と国民の同情を逆手に取り、「好機」とばかりに世論づくりを強めているのである。疲弊(ひへい)し災害の直撃を受けた国民のふところから、さらに取り上げようという悪らつな策動だ。
他方、政府・日銀による大銀行、大企業への支援策は素早く、かつ大規模である。
日銀の緩和策は、大銀行にタダ同然で資金を与えて荒稼ぎさせるとともに、大企業の資金繰りを助け、機関・個人投資家の資産目減りを防ぐものである。急激な円高を防ぐことで、輸出大企業のもうけを確保させる狙いもある。
大銀行は以前から中小零細企業への融資を激減させ、あるいは引き揚げている。日銀や政府から供給された資金は、東電のような大企業に融資することはあっても、国民や中小零細企業に回すことはない。かれらは膨大な資金をヘッジファンドに流し、商品や為替市場で荒稼ぎさせている。震災直後、史上最高値を記録した円高の背景には、ヘッジファンドなどの投機筋と、それに資金を供給した米国やわが国巨大金融機関がある。
法人税の還付は大銀行、大企業には多大な支援だが、ほとんどが赤字で法人税を払っていない中小零細企業に恩恵はない。
また支配層は、ドサクサまぎれにさまざまな悪政を進めている。
財界は、マスコミを使って「一致団結」などと国民統合の思想攻撃を強めている。「尊敬できる日本人」などという外国メディアの報道さえも利用し、国民を自らが支配する「秩序」の枠内に抑え込もうとしている。
さらに「復興」を口実に、関東大震災後の復興院のような巨大な権限を持つ行政機構の設立を準備、大企業の利益のための「復興」をもくろんでいる。多国籍大企業は政府から利益を引き出しつつ、一方で国内を見捨て、海外展開を進めようとしている。
ことさらに「支援」を打ち出している米国も同様である。
日米共同作戦は、日米同盟「深化」の一環である。「普天間基地の死活的重要性が証明された」(海兵隊幹部)と、沖縄に居座るための世論操作まで行っている。普天間基地(沖縄県宜野湾市)移設問題やメア米国務省日本部長の「ゆすり」発言などで揺らいだ日米関係を立て直し、日本の隣国である中国や朝鮮民主主義人民共和国への敵視とけん制を強化する「絶好の機会」とばかり、共同作戦の大デモンストレーションを行っているのである。
このように、菅・民主党政権が国民に犠牲を押しつけ、大銀行、大企業だけを手厚く支援する政権であることは、震災後の諸政策にも確実に貫かれている。
被災地から「国に見捨てられた」(桜井・南相馬市長)との政府に対する怒りの声が上がるのは当然である。
日本発で世界資本主義の危機はいっそう深まる
日本の大災害が、世界にどのように波及するかという問題もある。
リーマン・ショック後の世界資本主義の危機はますます深い。先進国の危機脱出策としての金融緩和は、原油や穀物価格の高騰となって世界を襲っている。これを背景に、米帝国主義の世界支配の要衝である中東諸国で人民が立ち上がり、政変が相次いだ。激動は原油価格をさらに高騰させ、帝国主義の世界支配を揺さぶっている。
ここに「日本発の津波」が襲いかかった。米国を中心とする帝国主義は、危機の深まりでいっそう困難に立たされた。リビアに対する、米欧の焦りに駆られた侵略と米から欧州への指揮権移譲問題もそれを示している。
日本の経済活動の停滞による、部品供給の問題や消費低迷だけではない。
原発関連への影響はさらに大きく、世界的な「原発ブーム」は冷水を浴びせられた。「原発依存」は難しくなった。
いきおい、原油、天然ガスなど天然資源をめぐる世界的な争奪、中東やアジアをめぐる争奪はいっそう激化する。世界経済の不透明感は高まり、発展のテンポは遅れよう。
国際環境の危機は外需依存のわが国にはね返り、その先行きを大きく制約することになる。
米欧も、わが国の震災とその先行きに固唾(かたず)をのんでいる。
帝国主義による世界支配の危機は深まり、破局はますます避けがたくなりつつある。
争われる2つの路線、労働者は闘いの先頭に
菅政権の進める大銀行と大企業のための「復興」に反対し、労働者・国民諸階層の利益を最優先する復興の道を対置して闘わなければならない。
これは、震災を機にさらなるボロもうけをたくらむ、世界の帝国主義との闘いでもある。
菅・民主党政権のみならず、歴代政権はこれまでも大銀行、大企業のための政治を行ってきた。この国難に際しても同様で、誰のための政治が行われているかは明らかである。言うなれば、復興をめぐる「二つの路線」の争いがある。
被災地の労働者には被災前と同等以上の賃金を保証し、政府の責任で職をつくり出さなければならない。全国の労働者にも大幅な賃上げを行い、すべての失業者に職を保証すべきである。
農民にも所得を補償し、農地を失った農民には国の手で基盤整備を行わなければならない。漁業に必要な設備も同様で、安心して漁に戻れる対策を急ぐべきである。
中小零細企業には、無利子・長期の直接融資などつなぎ資金を支援し、復興を助け、大企業による取引停止などの横暴を禁止して営業を守らなければならない。
他方、大銀行、大企業への支援策を直ちにやめさせ、法人税引き下げを中止することはもちろん、ため込んだ大企業の内部留保をはき出させ、応分な負担をさせるべきである。本当に財源が足りないなら、一兆ドル(約八十兆円)以上ある外貨準備を売却してねん出すべきである。国民の汗と血で稼いだ富は、国民のために使われるのが当然である。国民のために使うなら、赤字国債の発行もためらうべきでない。
すべての原子力発電所を停止し、代替エネルギーの開発を急ぐべきである。
各地方自治体は、諸産業、住民への影響を直ちに調査し、住民の生活と営業を守る観点から対処すべきである。
労働者・労働組合は自らの要求を掲げて断固たる闘いを繰り広げるとともに、前例のない困難に直面した被災者、国民諸階層と連帯し、国民大多数のための復興を要求してその先頭で闘わなければならない。
心ある地方議員、国会議員が、危機に際して国民のために闘うことは意義があることである。知識人の役割も重要である。社民党、共産党などの野党も、国民とともに進むことを願う。諸階層、諸政治勢力が、力と知恵を出し合うことが求められている。
さらにこうした闘いは、国民大多数のための実力ある政権をめざす闘いとして実を結んでこそ、前進が保証されるのである。
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