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2011年2月15日号 2面・社説 

米戦略に大打撃与えた
中東人民の闘い

菅政権の対米従属外交は
歴史のすう勢に逆らうもの

 米国の世界支配の要衝である、中東地域が激変している。
 各国で人民の闘いが前進、いくつかの政権は打ち倒された。この背景は、マスコミなどの言う「長期独裁政治への反発」だけではない。米国の危機脱出策を震源地とする世界的なカネ余りとインフレ、これによる人民生活の悪化がある。
 米国の世界支配は深刻な打撃を受け、ますます行き詰まった。
 歴史のすう勢に逆らう菅・民主党政権の対米従属外交を打ち破らなければならない。

相次ぐ政権崩壊、流動化する中東
 北アフリカのチュニジアでは一月、人民のデモによってベンアリ政権が崩壊、大統領は亡命に追い込まれた。暫定政権が発足したが、人民の闘いは続いている。
 中東の大国であるエジプトでも、ムバラク大統領の退陣を求める闘いが発展。ムバラク大統領は百万人のデモや労働者のストライキに追い詰められ、中東随一の親米政権が崩壊した。
 ヨルダン、イエメン、アルジェリアなどでも人民がデモなどに立ち上がった。ヨルダンでは内閣が総辞職、イエメンでは大統領が「引退」を表明した。アルジェリアは、非常事態宣言を二十年ぶりに解除することを決めた。
 中東各国支配層は食料の一年間無料(クウェート)、首相の給与半減(イラク)など、国民をなだめるのに必死である。エジプトのような事態になることを恐れてのことだが、バラマキを行っても、人民の覚醒を長期に抑え込むことはできない。
 中東諸国の政治情勢は、急速に流動化している。


米国の世界戦略が危機に
 第二次大戦後、米帝国主義は英国の覇権に取って代わる形で、イスラエルとアラブの反動的支配層を使って中東諸国、人民を抑え込んできた。世界戦略の重要な手段の一つとして、原油価格の決定権を握るためである。米国は自らの「秩序」に反抗する国々、人民に対して武力で攻撃を仕掛け、政権を打倒し、あるいは経済制裁で締め上げるなど、あらん限りの暴虐を尽くしてきた。
 イラクのフセイン政権は長期にわたる経済制裁の末、無法な侵略戦争で転覆させられた。イランも「核問題」を口実に制裁を受け続けている。パレスチナ人民は、いまだ祖国をもてない状態を強いられている。
 ムバラク政権は、米国が三十年間に及ぶ経済・軍事援助を続けてきたほど、米国の忠実な同盟者であり、米中東戦略の要であった。この政権の崩壊は、米国の中東、世界戦略にとって、大きな打撃である。
 今回、米国はムバラク退陣が避けられないと見るや、親米路線の維持を狙って、スムーズな政権移行を画策した。だが、親米政権が続く保証はない。ましてや、情勢の流動化はエジプトにとどまらず、世界戦略へのいっそうの打撃は避けられない。

米国の危機脱出策が影響
 中東諸国・人民は、米帝国主義とその手先に対して、長年にわたって闘い続けてきた。
 こんにちもイラク、パレスチナなどで抵抗運動が続いおり、イランは制裁に耐えて国の独立を堅持している。エジプトでも非合法下、ムスリム同胞団などの抵抗が続き、国会で一定の支持を集めるまでに闘いが前進していた。
 中東が激動した背景には、これら闘いの蓄積に加え、米経済の危機とそれからの脱出策が、中東人民の生活をさらに悪化させたことがある。
 米国はリーマン・ショック後、巨大金融機関、大企業への大規模な資金注入や国有化、景気対策など、なりふり構わぬ対策を行った。一時は「出口論」が言われたが、中小銀行の破たんが続くなど地方の金融不安は続き、失業率が高止まりするなど、危機から脱却できていない。
 昨年十一月、米連邦準備理事会(FRB)は六千億ドルに及ぶ国債買い取りという空前の量的緩和政策(QE2)に踏み込んだ。この狙いは、浮上しない実体経済を下支えし、併せて「ドル安」によって輸出を拡大するというだけではない。巨大金融機関にタダ同然で資金を融通し、その復活を助ける狙いである。
 あふれ出たマネーは、金融機関を経て世界の金融・商品市場に流れ込んだ。新興国を中心とする株式市場の高騰、不動産バブル、穀物や原油、金価格は急上昇した。昨夏から、国際価格は小麦で二倍、トウモロコシは一・七倍に高騰している。
 今世紀に入って以降、エジプトやチュニジアは欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)などで外資導入を積極的に進め、欧州への輸出拠点、あるいは観光地として、国内総生産(GDP)上では「発展」してきた。だが、一方で貧富の格差が拡大し、リーマン・ショックの影響もあり、若年層を中心とする失業は二〇〜三〇%にまで深刻化した。
 この貧困層に、食料などの価格高騰が襲いかかった。エジプトの場合、最大の輸入相手国であるロシアが、昨夏以来、穀物禁輸に踏み切ったことも影響した。一カ月の物価上昇率は一〇%を超え、貧困層は「ひからびたパンしか食べられない」状態に突き落とされた。人民は、生きるために立ち上がった。
 米国にとっては皮肉なことに、その危機脱出策が、自らの中東支配を揺るがす結果となったのである。

危機は中東諸国にとどまらない
 だが当面、米国は緩和政策を継続せざるを得ない。
 米国を握る金融資本にとって「量的緩和が終われば米景気は窒息する」(著名投資家のジョージ・ソロス)という危機は変わらないからである。QE2の期限は六月だが、もう一段、延長される可能性が高い。
 ドルの垂れ流しはさらに増加、投機マネーは行き場を求めて世界中を飛び回る。原油、穀物などは、曲折はあれ、投機対象となり続けるだろう。発展が見込まれる新興国にはマネーが流入、バブルをあおる。逃げ足の速い短期資金の流入増は、一九九〇年代末のアジア通貨危機以上の破局を準備する、新たな爆薬である。世界の貧困層の生活はますます耐え難いものになり、諸国内の階級闘争は激化する。
 米国の緩和政策で、欧州諸国や新興国を巻き込んだ「通貨戦争」はいちだんと激化する。昨年の二十カ国・地域(G20)首脳会議のように、米国の国際的孤立は深まろう。
 米国の危機脱出策は世界中に混乱と紛争の種を振りまきつつ、米国自身の世界支配をさらに弱めることになる。

対米追随で戦略なき菅政権
 世界は破局が迫り、多極化を強めて激変している。
 このような中、菅・民主党政権は何の戦略もなく、衰退し世界戦略も破たんしつつある米国をこれまで以上に支え、中東・アジア諸国、人民に敵対する外交に終始している。
 前原外相らは昨年十二月、チュニジアを訪問し太陽光発電など中東諸国へのインフラ輸出を狙う「チュニス宣言」をうたった。だが、相手国政権の崩壊と動揺で、「宣言」は早くもとん挫した。カネ目当てで、地域の実情を見誤ったのである。
 菅政権はこれに懲(こ)りず、中東情勢の「軟着陸」を策す米国を助けるべく動き始めている。
 さらに菅政権は、日米の「新たな共通戦略目標」策定を中心とする日米同盟の「深化」に踏み込んだ。韓国、オーストラリアとの同盟強化による中国や朝鮮民主主義人民共和国への敵視とけん制、海外派兵の拡大、普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設策動、中国包囲網でもある環太平洋経済連携協定(TPP)への参加など矢継ぎ早である。
 対米追随では諸外国にあなどられ、重要な民族的利益を守れない。訪ロした前原外相はロシア首脳に足元を見られ、北方領土問題での成果はまったくなかった。中国との尖閣諸島問題も同様である。
 菅・民主党政権の対米従属外交に反対し、売国政権を打ち倒し、独立・自主、中東・世界の中小国・人民と連帯する新政権で、国の進路を切り開かなければならない


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