ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2011年1月1日号 1面〜5面 

大隈議長、新春に語る

 激動の二〇一一年が明けた。「労働新聞」編集部は、日本労働党中央委員会議長である大隈鉄二同志に新春インタビューを行った。議長は、リーマン・ショック後の国際情勢の推移、東アジア情勢とその特徴、日米・日中関係などわが国の進路、当面の政局とわが党の課題など、縦横に語った。紙面の都合で一部を割愛せざるを得なかったが、以下、掲載する。(聞き手、本紙・大嶋和広編集長)


激動の国際情勢について

大嶋 新年、明けましておめでとうございます。

大隈議長 おめでとうございます。

大嶋 さて、恒例の新春インタビューです。
 昨年も激動でしたが、とくにアジアをめぐる情勢が大きく動いたように思います。米中関係もいろいろありましたし、記憶に新しいところでは、朝鮮半島をめぐる緊張が続いています。このアジア情勢の背景や見通しについて、お聞かせください。

大隈議長 最初のテーマ、いつもながら情勢ですね。
 あなたの発言を聞いてね、こんなことを話せばいいのではないかと。それは何と言っても、ごく最近の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)がね、韓国のあの延坪島(ヨンピョンド)を砲撃したということを口実にしてね、大騒ぎになったわけですよね。
 米国は航空母艦を派遣したり、米韓の演習ですね。その前にもあったんですけれども、今回は黄海に米空母「ジョージ・ワシントン」を持ってきて、あの地域で演習をしたんですね。あの地域は、この前の演習の時に、中国がえらく反対した地域ですよね。だけど、今回は入ってきた。それだけではなくて、米韓の演習に続いてね、日米もまた演習をやったわけですよね。そしてまた、引き続きその延坪島、あの地域では米軍をバックにしながら、韓国があの地域で実弾演習をするという。そんなことで、やにわにきな臭くなったというか、急速にアジア、北東アジアの緊張というか。
 だから「労働新聞」では、「アジアは『波高し』」というか、そんな表現を使ったわけだけれど、その辺のこと、朝鮮に対する圧力というより、朝鮮ももちろん口実にはなっているんですが、もっと広い範囲で、そして大局的にはね、米中関係というような流れで理解しておいたらよいと思うんです。マスコミも大方、そういう角度で論じているわけですから。
 この問題、その背景をある程度解明しようとすれば、世界の現状というか、世界情勢の全体、その流れについても、話しておく必要がある、そう思います。

リーマン・ショック後の推移について
大隈議長
 その内容ですが、米国を発端とする金融危機、とくにリーマン・ショック以降の世界の金融危機や経済不況、諸国間の状況や課題、利害の違い、それに経済だけでなくその上部構造としての国際政治情勢など、ある程度概括的に、大ざっぱでも触れておくことが、必要なんですね。
 それらの問題を、少しだけ、内外情勢、政局等々を論じる前提として、述べておいたほうが分かりやすいかと思いますので……。
 経済の面から、下部構造の面から話してみますと、いずれにしても、世界の「百年に一度」とか言って、一九三〇年代と比較してね、論じられる現在の世界の状況、世界資本主義の状況はですね、リーマン・ショック以降のいろいろなことがありましたが、あれ以降どんな経過をたどって、現状をどう理解したらよいかということから始めたほうが、分かりやすいかもしれませんね。
 それで、まず何と言っても、リーマン・ショックでの世界の金融システムの大きな動揺ですね、実体経済に響いてですね、あわや三〇年代の危機に匹敵するような、そういう文字通り、恐慌に発展するのではないかというようなことがあったんですが。米国、あるいは先進国の協調ですね、あるいはG20(二十カ国・地域首脳会議)などでかろうじての国際協調というか、各国の中央銀行、FRB(米連邦準備理事会)を中心としてね、大量の流動性というか、これを注入することによってね、ある程度まで、金融危機が一服状態にきて、それから実体経済もそれに続いて、公的資金で現状というか、三〇年代と比べるならばかろうじて危機が一服したというか、そういう状況が見られたんですね。
 それで、一時は「出口論」が模索されるような、とくに中国などは比較的早く回復過程というか、成長過程にまた入ったというようなことも手伝ってですね、それからヨーロッパなども「出口論」が模索される時期があったんですが。
 その後、また例のギリシャに端を発した、これがソブリン危機というやつですね。あそこの財政危機に目を付けたんでしょう、ヘッジファンド等々の攻撃というか投機というか、そういうことがあって、もう一度、危機が世界の金融システムのぜい弱性というか、それがやにわに注目されるという、そういう経過があったんですかね。
 しかし何と言ってもいちばん大きな問題は、米国です。金融の動揺で、一挙につぶれるとはなかなかにね。たとえば五大証券みたいなのは姿を消したようですが、(形を変えて)また復活しているし、そういう金融も動き始めてはいるんですが、なにせ実体経済がなかなか立ち直れない。
 世界全体のGDP(国内総生産)から見てね、確かにBRICsと言われるような発展途上国の比重は従来より高まってきているので、BRICsが順調に発展すればね、それはそれで、世界の実体経済のいくらかの救いにはなるんでしょう。それにしても、依然として、やはり世界経済の規模の中で、二割以上を占める米国の経済が回復しないとね、全体としての実体経済の世界的な回復というのはあり得ないわけでね


米国経済について
大隈議長 その米国、失業率は約一〇%からなかなか下がらない、高止まりの状態なんですね。だから消費も上向かない。そういう経済、オバマ政権も四苦八苦ですね。
 米国はそのため、国内でいえば財政出動もやりましたし、金融もFRBのバーナンキ議長が大規模な緩和政策をとっている。製造業、雇用も伸びないので、昨年一月、オバマ政権は「輸出を倍増する」という政策を打ち出した。五年間で、ですね。
 オバマの評判、支持率も地に落ちた。危機の「はけ口」としての輸出倍増政策。アジアにより強力な参入をめざし、なにかと口実を見つけては介入してくる。最近の米国の対外政策の一つの特徴は、「家庭の事情、内輪の苦しさ」とかかわっているんですね。
 ここではとりあえず、失業率の高止まり、内需が伸びないことから始めて、製造業、雇用事情、そして輸出倍増政策など、最近のオバマ政権の対外政策の一つの特徴、その内因の一部に触れましたが、通貨政策や金融のことも、ちょっとだけ付け足しておきます。
 バーナンキの大規模な金融緩和政策は、ウォール街(銀行や金融業者)を助けたり、内需の下支え等の内政上の理由もあるんでしょうが、世界でのドル不信は、いっそう高まっていくんですね。
 結局世界から見ると、「通貨下げ競争」に「映る」わけですよね。ですが、米国の金融緩和、つまり通貨政策は、「映る」なんてそんな消極的なもんじゃないんだと思いますよ。通貨ドルは下がってるんではなくて、「下げてる」んですよ。米国の輸出競争力は、当事者が満足していようがいまいが、高まってる。統計にも出てるんです。
 発展途上国も、自国の防衛のため、通貨高を「抑制」せざるを得ない。ドルが下がれば自国通貨はみな上がるのでね。通貨介入、これは当然ですね。そういう流れの中で「通貨安競争」、あるいはブラジルが言い始めたんですが「通貨戦争」。こうなった。
 だが、それに尽きないですよ。
 米国の最近の大規模な金融緩和や金利政策などは、今や危機直後の緊急措置ではない。また単なる「実体経済の下支え」だとか「輸出促進のためのドル安政策」といった「有権者のためというきれいごと」の面ばかりではない。政権維持のため、それもあろうが、見逃せないのは、どの階級、支配層のどのグループが真に権力を握り、利益を追求しているか、ですね。
 バーナンキの金融政策、大規模な流動性としてのドル資金放出、これを手にしてばく大な利益を受けているのは、米国労働者の失業率の高止まりを見ても、消費が伸びないことを見ても、オバマの評判が地に落ちてることでも、察しはつくんじゃないですか。有権者の多くは不満なんですよね。
 経済学者、竹森俊平さんの著書「中央銀行は闘う」によれば、サブプライム危機発生以降の、中央銀行の類例を見ないような強力な金融緩和策は、今のところ、実体経済に目立った効果はないが、金融システムそのもの、つまり銀行や金融業者に対する効果は目覚ましい、と。
 「二〇〇九年以降、米国の大手金融機関、ゴールドマン・サックスやJPモルガンが史上最高益の記録を続々更新しているというのは、金融政策の効果がいかに強力であったかを証明している」と書いてますよ。
 それに、金融機関の手口の分析と中央銀行のそのための条件整備(長短金利差を広げる政策など、ばく大な利益を稼がせる政策)の詳細にも触れて、FRBもECB(欧州中央銀行)もそれをやっていると指摘してますよ


大嶋 ゼロ金利でお金を借りて、国債に投資するだけでもうかりますからね。実際には、もっと複雑な手口もあると……。

大隈議長 中央銀行が、大量の「お札=ドル」を印刷し、銀行の国債や不良資産と交換する(日銀の白川総裁も最近、大方の予想を超えて思い切ったことをやりましたね)、銀行には資金がたっぷり、長短金利も適度に操作してやる。銀行や金融機関・金融業者は債券、株、資産、資金をもっとも稼げる内外で運用する。投資家や銀行・金融機関はばく大な利益を稼ぐ。
 これまた、よいことばかりではないんですね。
 先進諸国間でも、先進国と発展途上国との間でも、対立を引き起こしているんです。いっそう複雑な様相での、危機の激化となってもいる


国際協調は崩れた
大隈議長
 九月のG20だったか、ここでも「通貨競争を何とか避けるべきだ」とか「自粛すべきだ」とか、米国は主張した。が、なにせ、米国がそういうことを主張しても、自国では大量の流動性を放出し、事実上のドル安政策。実体的には「通貨安競争」の張本人。まとまるはずもない。
 それに米国を先頭に、先進諸国のダブついた低金利の資金は、発展途上国の資産をめざして殺到している。このこともまた、発展途上の当該諸国の通貨を押し上げる。
 発展途上諸国は結果として、自国の通貨高に介入する、せざるを得ない。発展途上国の最近の対抗策、防衛策は、通貨介入策だけではない。自国資産の購入に課税する、規制する、等々で、金融グローバルも危うくなって、一方で「協調」が叫ばれ、他方で「対立」も進む、そういう流れですかね。
 それに、オバマ政権が十一月の中間選挙で敗北したこと。この敗北で、財政政策はいっそう動けなくなった。米国の金融政策は、バーナンキの「緩和」に頼らざるを得ない。バーナンキもいっそうの緩和政策をにおわせてもいる。「出口論」など、昨年半ばにはそうした楽観論もあったんですが、当面は口にできる状況ではないんでしょう。
 もちろん、米国の金融緩和政策や金利政策を、失業率や実体経済が厳しいからとの単純視、これは禁物ですがね。
 さっきも触れたんですが、何を狙っているか、誰の利益が追求されてのことか、見抜く必要がある。
 まだ続く、米国のそういう金融緩和政策、その厳しい経済は、いっそう新たに、世界経済と政治のかく乱要因とならざるを得ない。そう見て違いはない。
 以下に紹介するのは、九七年のアジア通貨危機後、当該発展途上国政府が、危機の経験に学び、外資を警戒し、貿易を伸ばし黒字を稼ぎ、外貨準備を蓄えてきたことを述べながら、しかし結局はどういう実態になっているかを暴露したものです。先進諸国の低金利の資金は、あらゆるルートをかいくぐって発展途上諸国の民間機関に届く。クルーグマン・プリンストン大学教授によると、その資金は政府の膨大な外貨準備を上回っているかそれに近い、という。
 クルーグマンの著書「世界大不況からの脱出」の「究極の通貨危機」という部分、そこに今の時点では資料としては物足りないのですが、次のように書いています。
 「金融危機の直前の九六年、米国の対外資産はGDPの五二%に相当し、対外債務はGDPの五七%だった。それが〇七年になると、その数字はそれぞれ一二八%と一四五%に上昇している。米国はさらに純債務国に転落したことになるが、それよりも重要だったのは、資産のクロスホールディング(持ち合い)の急拡大である」
 この期間に、米国は借金も増えたが、その対外資産がGDPの五二%から一二八%に増えた、この指摘が重要です。金利の低い先進国から借りて、高い国で運用して稼いでいる実態です。この時点でさえ、危機が再び起これば、発展途上国が「第二の爆心地」となりかねない、と言っている。
 すると、〇七年以降の、米国や先進諸国の中央銀行の膨大な金融緩和策、低金利の資金は、どんな運用実態なんだろうか、と疑問が出る。膨大な利益を上げつつ、爆心地になるかな……。
 一般的にはこの局面、先進主要諸国は金融システムの不安を落ち着かせ(銀行に稼がせ)、実体経済の成長、財政再建が課題と言われているんですが、途上国頼みの世界経済、その途上国はすでにインフレ、バブル対策の引き締めに舵(かじ)を切ってる。これは成長率の引き下げ要因ですからね。
 先進諸国内部には失業者は多く、財政再建での既得権のはく奪、引き締めで、経済成長もいっそうままなるまい。政府も企業も資本も途上国での争奪に血道をあげざるを得ない。
 だから、危機は深まるのではないでしょうか。米欧など先進諸国間でも、先進諸国と発展途上諸国との間でも、矛盾は激化するでしょう。複雑な多極世界での協調はいっそう難しく、かつ対立面がいっそう目立つようになる。
 ここのところはおしまい、ですね。


EU諸国や中国と米国
欧州諸国について
大隈議長 欧州諸国ですが、ギリシャに始まって南欧ですが、最近はアイルランド、そういう諸国での財政難、この危機の弱い環を投機筋に突かれて、ECBと主要国は必死になって、ユーロ圏の動揺を抑えるというか、危機を切り抜けるというか、そういう流れで対策をとらざるを得なくなったんですね。
 何でもそうですが、最初はもたつく、対応が遅れたのはドイツだったですよね。大変だった。ユーロ・システムの弱点が書き立てられた。だが経過を通じて欧州危機を観察すれば、悪いことばかりではないんですね。二面ある。
 財政危機にあった諸国、今でも危機下にあることはそうですが、攻撃を受けても耐えてる。ECBと主要国は、危機下の諸国を支援し、欧州版IMF(国際通貨基金)の体制も合意に達した。乗り切ったわけではないのですが、今回の危機を通じていくつもの問題を処理し合意し、体制は強化されたんですね。
 それに、通貨としてのユーロが「危ない」というか不信が広がったので、ユーロ安。この流れの中で、ドイツとかフランスとかの輸出依存度の高いユーロ圏の中心諸国が、その通貨安によって輸出を激増させる結果となったんですね。これこそたくらんだわけではないでしょうが、アジアでの競争は非常に有利になったんですね。
 そんなこんなで、どこも自国が今の世界的な金融、あるいは実体経済の危機の中で、それぞれ自国を中心に動くという意味では、国際協調は次第に崩れてきている面があるんですよね。
 ただ、周辺諸国の危機は並大抵のものでないことも事実で、その諸国で、金融や実体経済の危機、財政危機など通じて、いつなんどき社会的危機が発生しても不思議ではない、そんな状況も見落としてはならんと思いますね。
 米国との関係ですが、すでにドルとユーロは他の諸国通貨と比較すれば、二大通貨でしょう。まだドルが相当に強いのも事実でしょうが、ドルは没落しつつある通貨、他方は新しく登場し、いっそう上昇に向かうかもしれない通貨。なにはともあれ、国際市場で二つの通貨は競っているんですから。
 それに米欧は金融政策、その規制をめぐって相当の対立があるんですね。また、通商や環境問題、それに安全保障問題、対ロシア、対中国、対イラクやアフガンでも十分な一致があるわけではないことは、すでに知られていることではありますが。
 G20やさまざまな国際会議では、一方に先進諸国、他方に発展途上国と、対立がそんなにきれいにならないことがしばしばある。国際会議で米国が孤立することだってある。
 こうした状況の背景には、米国自身の衰退と、欧州諸国でのユーロ圏の形成とその強化、それに何といっても、目立ってきた中国の興隆でしょう。ある程度、少しはかな、プーチン首相のロシアの復活も。
 それにしてもですが、米国は依然として帝国主義諸国の中心。かろうじて先進諸国をまとめてはいるものの、めっきり弱くなってきましたね。焦ってもいるんでしょうが。
 今回の朝鮮問題、対中政策というか、艦船を並べて黄海に進出しても、戦火は開けないでしょう。


中国について
大隈議長
 さっきの質問、アジアのことでも、世界の構造的な変化、そういう大きな流れの中でとらえてみると、たとえば、なぜ米国が急に朝鮮の砲撃問題を口実に(それも実際には、直前、韓国側が軍事演習をやっていた)、マスコミもそう書いたが「中国をにらんでやっているんだ」とね。
 そういうことが、なぜ出てきたんだ、これらを理解する上では、さっきから言ってるような大きな流れ、背景などを考えると、比較的分かりやすくなると思うんですよ。
 その中国のこと。中国が経済力がついたことや、そして軍事力を強めて防衛ラインね、これを少し広げて、東シナ海を「内海」のように、そういう海洋国家のような様相を示してきている。フィリピン、ベトナム等々が、南沙(スプラトリー)・西沙(パラセル)諸島などで領有権、あるいはその実効支配をめぐって、中国と争ってる。軍事紛争も幾度もあった。
 だから、尖閣諸島問題もそういう流れで理解しておく必要があるんですが、米国はその中国とアジアの警戒感、一種の係争問題を巧みに利用し、介入してもいる。そんな問題もあるんですね。
 そういう全体を考えると、今回の朝鮮を口実にした大騒動、そして、一挙に米日韓の軍事体制を強める動きに出たのは、分かりやすくなるわけですね。もちろん、核問題等々もあるのは間違いないですが、そういうことですね。
 それからもう一つ。例の一九九六年頃の安保再定義。その前提はジョセフ・ナイ国防次官補らによる「東アジア戦略報告」ですね。その米戦略構想に沿って、冷戦崩壊後の米日関係を「再定義」したんですが、それはソ連が崩壊した後に、「二度と米国に対抗するような勢力をつくらせない」戦略です。中国を「世界の工場」として利用するにしても、中国が対抗勢力にならないよう、世界全体の中で、米国のコントロール下に置くという、中国への「関与政策」なんですね。
 その戦略、それが米国の衰退と、それから最近の中国の興隆、それに〇七年に始まった今回の危機やその進展と、勢力構図の大きな変化、それと関係があるんですが、「もはやコントロールできなくなる時期が近づいてる」「すでに手遅れになったか、なりつつある」という、米国での認識、世界政治上の考察、それが最近、とみに強まったんですね。それがこの時期を選んで、やにわに朝鮮問題を取り上げてやってきているということだろうと思いますね。ですから、単に「核」とか「安全保障問題」、軍事問題ではないんですよ。そういうこと、米国の死活にかかわる金融や経済、政治や軍事、外交、そうした戦略の全体を考察しておかねばならない、そういった問題ですね。それを理解すると、最近のアジアでの動きは、とくに米中関係と言ってもよい。
 ですから、具体的事情の具体的分析という点では、いくらかの難点があるにしても、認識面での大局観、誤りではないと思いますよ。
 アジアをめぐっての中国の当面の動向ですが、周辺地域をきちんと戦略的に固めていく、そんな狙いですかね。それが米国から見ると、アジアでの既得権益を守れるだろうか、となるんでしょう。
 だから、東シナ海の海上交通の自由の確保、米国としては断固として守るんだと。中国からすれば通さないとは言わないが「何もかも自由ではないぞ」「オレの海だから」と、まあこんなところですかね。海だけの単純な話にして、そんなところでお茶を濁すことにしますが、いずれにしても実際はもっと複雑です。
 中国にとってはアジア情勢を自国に優位に固める狙いでしょうから、米国にとってはアジア参入が下手をすると難しくなる。複雑な闘争を演じてる、そんな瀬戸際に来ていると思いますね。


TPPについて
大隈議長
 それで、もうちょっと別な面、TPP(環太平洋経済連携協定)問題ですね。ラテンアメリカでの最初の動きは米国発ではないですよ。それなのに、米国も参加し、ラテンアメリカ、チリとかを合わせて、急にアジアに参入してきた。そんな経過があります。
 いわば四カ国から始まってね、シンガポールなどもみな巻き込んで、アジアに力を入れてきた。ああいう政策も、さっき言ったような大きな流れ、それからオバマが「輸出を倍増するんだ」等々という流れの中で見ると、急に出てきた理由は分かるわけですよね。
 それは経済面で見ると、中国が盛んにアジア市場で影響力を増してきているということと関係がある。米国はアジア市場での競争で自国の優位を狙って、実利も追求しているでしょうが、中国の席巻を阻止しようとする政治的な戦略も見え見えですね。日本を巻き込んで、非関税地域をつくるというか、そういう流れですよね。この辺で……。

日本の外交、安全保障問題

大嶋 お話しのような世界、アジアの中で、昨年は日本の進路というか、外交・安全保障も大きな問題としてクローズアップされました。中国との間の尖閣諸島問題も含めて、お話しください。

大隈議長 世界の大局とアジア情勢、米中関係は、すでに詳しく話しましたから、次に、わが国の対アジア、対中外交の問題について少し話しますか。


鈴木、村山、菅政権の性格と安保史
大隈議長 本筋から離れるかもしれませんが、ひょんな話がしたくなった。回り道かな。戦後(第二次大戦での日本の敗北、いわゆる終戦以後)の四九年は中国革命、五一年に日米安保が締結されたんですが、最初は吉田首相の時ですよね。
 この首相は世界情勢も米国の意図も、自分がどんな「選択」をしてるか、その選択以降、国の運命や予想される道行きがどうなるか、結果はともかく、大方は思いめぐらせていたんでしょうね。全面講和でなく単独講和だったんですから。それに日華条約が前提、この条約下では新しい中国とは国交ができないこと、米国の意図がどこにあるかは読み取っていた。中国はいまだに台湾問題を解決できていない。米国の武力で、中国にとっての大事業、真の独立のための統一が、阻まれているからですよ。
 七〇年代以降、米国も日本も「二つの中国を認めない、台湾問題は中国の内政」と言って台湾とは「国交」がないんですが、実質は、米国はいまだに台湾の独立派を武力で支えているんですね。そして日本も米国と歩調を合わせている。
 こう見ると、五〇年代の日米安保条約や日華条約の残渣(ざんさ)があって、当時の狙いは十分に生きてるんではないか。吉田が何を考えていたか、以後の資料でわかってる。外交戦略、安全保障問題の策定や選択は、国の運命の選択ですよ。
 ところが総理大臣=首相も知らないうちにか、言われるままに承認し、意味さえ分からん者もいたんですね。自国の運命にかかわる安全保障ですから、無責任な話でしょ。八一年五月、時の総理、鈴木善幸首相はレーガン大統領と共同声明を発表した。これ、日米同盟の重要な転機となった「シーレーン防衛問題」ですね。
 NHKでの特別番組でやってましたが、伊東外相はともかく、鈴木首相は共同声明の真の意味も分かっていなかったと、論じてましたね。八一年の共同声明から日米安保の質が変化し、こんにちの流れへの転機となったんだと。ある論者はご丁寧にも、鈴木首相が四七年に日本社会党から出馬し当選し、政治家の道を歩くようになった、そういう人だとも。
 次が、冷戦終焉(しゅうえん)後の九六年四月十七日の「日米安保共同宣言」つまり安保再定義ですね。この時の首相は自民党の橋本龍太郎氏だが、九五年の新防衛大綱、新中期防など、安保再定義を可能にし、かつ前提ともなった大胆な策定は、なぜできたか。当時の防衛事務次官、村田直昭の説明は明快なんですね。つまり、「社会党を取り込んだ村山政権下だったからできたのである」とね。また、「中曽根内閣に次ぐ第二の防衛政策を進める時期であった」ともね。当時、「今が絶好の機会ではないか」とも言ってた、そう書いてますね。
 冷戦が終わった以降も日米安保、つまり従属的な政治軍事同盟を継続する「再定義」の選択、こんな重要な選択が、こんな調子で決められていったんです。一国の運命をもてあそんだ無責任な政治というほかない。
 なんでこんなこと思い出すかというと、NHKにも刺激されたが、鈴木善幸さんが社会党出身なことを忘れていたし、村山首相が安保再定義に責任があることはよく知っていた。さて、現在の菅政権も、案外前二者、鈴木善幸、村山富市と共通点、プンプンにおうんですよ。


新防衛大綱と中期防
大隈議長 十二月十七日、新たな防衛計画大綱、中期防(中期防衛力整備計画)が決まったんです。日米の官僚や制服組、それに戦略研究家と策定者たちは、長期に研究を重ねてもきたんでしょうが、表面化は突然ですね。菅・民主党政権内部でも、与党内部でも、深く議論がされた形跡もない。
 新聞報道は似たり寄ったりです。「中国に懸念 機動対応」、そんな見出しもあった。記事本文はーー
 「新防衛大綱、南西諸島備え強化『動的防衛力』に転換」「政府は十七日午前の安全保障会議と閣議で、新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)と中期防衛力整備計画(中期防、一一〜一五年度)を決定した。新大綱は軍備増強を続け、海洋進出を強める中国を『地域・国際社会の懸念事項』と位置付け、自衛隊配備が手薄な南西諸島や島しょ部の防衛強化を打ち出した。その上でテロや北朝鮮への対応も含め、多様な事態に機動的に対処する『動的防衛力』の構築を掲げた」ーー
 この報道で見られるように、菅・民主党政権は、安全保障政策では中国を「地域・国際社会の懸念事項」と位置付け、それに対抗するため、日米、日韓関係をいっそう強化し、その軍事的一体化を進める決定をしたんです。
 これは冷戦終結後の安保再定義より重大な、劇的転換ですね。中国をより直接的に、地域・国際社会の懸念事項と位置付けているからです。この選択を「落ち目の」米国はとても喜んでいるに違いないですね。かつての村山政権時のようにね。
 菅首相のもとに、最近、秘書官として防衛省から派遣、配置されたのもうなずけるわけだ。予算も装備もやがて、その大綱と中期防に沿って具体化される。そんな筋書きになってきたんですかね。
 中国の興隆も一本調子ではあるまい、弱さも含んでいます。だが、中国経済、軍事力の増強と近代化は、それはそれで、目覚ましい。アジアの状況は大きく変化しつつあります。
 中国は、近隣諸国、アジアね、これらをみな敵に回すつもりはもちろんない。だから、いろんな矛盾、対立もあるんだが、戦略的には互恵関係、友好関係、それを主張して、それはウソではないんだと思いますね。
 しかし米国はそういう現状と、中国の対アジア、近隣政策を、不安な目で観察しているのではないか。
 中国は何といっても人口が大きいし、大国ですから、それが経済力を強め、自信も持ってきた。
 そして、不用心と私には思えるんですが、「経済が大きくなってくるにしたがって、軍事費の割合を増やす」とか、そんな発言が伝わってくる。また、少し前の話ですが、ベトナムとかフィリピンとかと領有権を係争中の諸島を指して、尖閣諸島についてもそうだが、「核心的利益」とか「核心的国益」と迫ってくる。そういうことを平気で言うようになった。
 米国の不安は、アジアに影響力を行使できなくなることです。アジア諸国が米国の意向より中国の意向、中国を向いて外交を展開することになれば、米国にとっては、世界の重要な発展地域で、下手をすれば締め出しをくうことになりかねない。そんな不安、それが理由で、激しく争っている。そんな情勢ですね。これからしばらく、大方のメドがつくまでは、争奪の難しい局面、米中間の一つの勝負どころですかね。


 わが国はどうするのか。
 今の支配層の動きを見ますと、そういう中国に対して自国の利益を守る、国益を守るには、もはや米国との関係をいっそう強めて、日米関係を深化させていくという認識です。菅政権は最近の閣議決定で、理解の程度がどうかの問題はあるにしても、それを選択した。厳しくて危うい選択である。
 米国は衰退しつつあります。依然として強国だけれどもすう勢としては「衰退する米国」。日本の保守政治家の全体にも、NHKでさえそう言っている、そんな情勢ですから、当然そんな認識はある。
 だから、保守政治家の大方は、中国に対して自国の安全を守るためには、米国とは従来以上に関係を強め、自国の国力にふさわしい軍事力等々、軍事的にもある程度、いっそう大きな貢献をしなければならない。こんな道、政策で、対処しようと考えてるんですね。そんな人が多い。
 でも、不安もある。衰退する米国がいつ何時、中国と取引するかもしれない。「本当に守ってくれるだろうか」という不安は皆持ってる。けれど、当面の局面ではそうせざるを得ない。いろんな意見、相当な幅があり、右は「核武装以外にない」とまで言ってますが、それにしても大同小異、保守派は大方そんな認識でしょう。
 何度も申し上げたが、今のアジアと世界、急速に構造というか、力関係が変わっているわけで、本当に自国の安全、あるいは周囲との平和的な関係を維持できるのか、自国の利益を十分反映できるような国際環境を形成できるのか、それが問われているんです。
 本来、他国に安全保障を依存する、戦争とか平和とか、最近のアジアの激動を予感させる情勢を見ていると、これでいいのかと、ますます思いますよね。これから先は、紛争も多発する。
 自国がどういう道を選ぶのか、選択が問われる時が来る。戦争と平和の問題で、ひき金を他国に任せて、本当に国益が貫けるだろうか、とても重要なことになる。
 したがってこういう局面では、まず国の運命を自国で決定できる、そういう政権の樹立が決定的です。
 韓国の現在の李明博政権は、その軍隊も、いざというとき、米軍の指揮下に入るんですよ。戦争も和平もままならん。これが現実でしょう。
 菅政権の今回の「選択」で、外交政策も制約をいっそう受けるに違いない。対中だって、対アジアだって、米国といっそう「調整」が迫られるに違いないからですよ。
 これまでの日米同盟下でも、わが国外交の自由度をある程度は広げ得る一つのチャンスがあったのに、それを失しましたね。いくらかの期待、吹っ飛びましたね。なにせ中国に、米日韓三国で共同対処する、そんな約束に踏み込んだんですから。


対中国外交について
大隈議長 中国は、経済的に大きく発展してGDPは日本を最近追い越し、米国に次ぐ第二の大国になった。人口はわが国の十倍以上で国土も広い。軍事費も年々増加、軍事力近代化(核、ミサイル、空母、潜水艦、空軍、情報化と誘導技術等々)も進んでいます。
 ここ数年の、広い海域での艦船、とくに潜水艦の目立った行動、最近の尖閣諸島の問題等々が、マスコミ、紙面、画面で、連日報道されている。
 が、これらは事実でもね、広大な領土、十数億の人口、これに難癖をつけてもしようがない。地球のどこかに家移りしますか。隣国の経済発展、いいじゃないですか、貿易もしてるんですから。軍備増強、やや気になるんですが実態や意図が問題でしょう。書き立てれば、どこの国でもその部分はあるんですからね。日本だって軍事研究に余念がないんですから。核問題だってないとは言い切れないですよ。
 面白くないのは、最近の尖閣諸島問題。わが国に領有権があり実効支配下にもあるのに、中国も領有権を主張し、何かと攻勢にも出始め、緊張も高まった。
 ここは考えどころ。譲歩の必要はないし、中国も戦争してまで奪取するとは言ってませんよ。この問題は、日中間の広いさまざまな利害関係の一部であって、全体あるいは中心課題ではないんですね。
 ですから、この問題ゆえに他の全体を壊しますか、そんな政治家はいませんよ。あおっている連中は、別な理由で余儀なくされてるか、別な意図からでしょう。
 尖閣紛争時に、米国が「日米安保の適用範囲」と言ったので、日本では保守勢力は与野党挙げてありがたがったが、こんなことだから他国に侮られる。
 日米関係にすき間風が吹くと虚を突かれ、中国やロシアが領有権問題で攻勢に出て、揺さぶりをかける。米国はその情勢や朝鮮問題を利用して、対中をにらんでの米日韓の軍事一体化を一挙に進めた。
 ここにはまるで、日本が見えない。独自の意思、独自の外交がない。韓国の現在の李明博政権と同じかそれ以下の、おどおどした姿しか見えない。
 すでに述べたように、菅政権は、防衛大綱で中国を名指しで批判し、米日韓三国で共同対処するという安全保障戦略を確定し、外交の裁量度を自ら狭め、自国の運命をいっそう他国に握らせた。この激動の時代に、菅政権は、いっそう誤った道を選んでしまったんです。
 経過を振り返ると、〇九年の総選挙で成立した小沢元幹事長、鳩山前首相、菅などがつくった中途半端な民主党政権は、選挙目当てでもあっただろうが、まるで政権戦略、構想もなかった。わが党はそれを批判し、系統的に暴露してきました。
 この政権には、漠然たる希望的なものしかなかった。小沢は訪中して、「日米中の正三角関係」を、鳩山はASEAN(東南アジア諸国連合)で「東アジア共同体構想」を、沖縄では普天間基地(宜野湾市)を「国外、少なくとも県外」と主張した。デタラメなことを言ったあげく、こんにちの事態。菅政権の到達点、選択とどんなに異なっていることか! ですね。
 実は内政もデタラメだった。これについてもわが党は批判し暴露してきた。繰り返しませんがね。


 中国問題に戻りましょう。
 まだ、中国は他国に押しかけては来ませんよ。
 湾岸戦争の頃、トウ小平は「頭を上げるな、低くせよ」と言って、外交を用心深く展開するように諭した。毛沢東も帝国主義強国の覇権主義に断固反対したが、併せて、自国のそれにも反対し、いつも注意を促していた。
 今の中国は、当時の中国とは格段の差、強国になりましたが、そういう歴史はあるのですからね。でも、率直に言って気にはなってますよ。
 それはそれですが、小国、弱国を侮ることは、大国といえども国益にかなわないと思いますね。まして、わが国は経済大国、技術大国で世界の先進国でしょ。対中外交も堂々とやれるし、日本が自国の意思を明確に持ってくれば、そうした政権を樹立すれば、真剣に向き合わざるを得ないんです。
 歴代の自民党、保守政権、今回の民主党政権のように、米国に従って、時々小声で、米国に気兼ねしながらの外交では、この激動、この難局、乗り切れませんよ。
 わが党は、捨て身で、自国民とアジアの諸国民、諸国家に呼びかけて、アジアの地域的な平穏を守る道を選択します。
 われわれの選択は、民主党政権あるいはこれまでの保守政権とは、明確に異なったものです。
 それで尖閣諸島の問題ですが、七〇年代、確かにトウ小平の時代になって、中国の領土ということを言い始めた。しかし当時、具体的な外交上の課題にはしなかった。そして、「もっと次の世代で話したらどうだろうか」と。それは、彼らが当時、すぐそれを外交上の課題にしても、事は面倒で、より広い範囲で、中国が日本と連携したり等々の利益からして、必ずしも得策じゃないと見たんでしょう。
 それは彼らなりの賢明さだったんでしょう。だから、ついつい日本もそういうことで、ことさらに尖閣問題をあれこれ言う必要もなかったわけですね。
 ところが中国が、国力がついてきて、最近になると経済が大きくなって資源問題も大切になってきたので、例の排他的水域のあの所にも、あれはそれでもソロリと出てきたんですがね、途中で日本が抗議をすると「話し合いましょう」とこう言って来た。ところが近頃はもう話し合いもしない。そして今度は尖閣諸島まできたんですよね。
 だから、日本から見ると、やや中国が、トウ小平時代のような用心深い態度ではなくて、自信がついてきたことが目立つようになった。中国の国力が増してきたので尖閣諸島の問題が日中間の大きな問題となってきた、と映る。
 しかしもう一つの面。強くなったという意味もありましょうが、とくにあそこで出てきた。日本の尖閣諸島の領海の近くまで来たので、漁業協定の地域とは違い、それより南の領海あるいは接続水域までですね。
 その領海と接続水域の間をすれすれに来ながら漁をして、偵察に来たような面もある。それに、その前のヘリコプター事件もあったしね、日本のほうもやや警戒し始めた頃でもあり、国外退去を要求したんですね。そして、トラブルが起こった。
 どうやら中国も、日本がそういう態度に出るのを予想してなかったようですね。偵察に来たような試験的な行動だったんでしょう。衝突とか逮捕は偶然でも、大きな流れは計画的範疇(はんちゅう)と私は理解してますがね。
 それでこじれたわけですが、したがって一般的に言うと、前のヘリコプター事件の流れ、あるいは潜水艦などあちこちにというようなことから見ると、中国が強くなってきた面があるにしても、さらに……。
 もう一面はですね、中国の国内での弱さの面もあるわけですよね。事件が起こってしまうとね、当然、報道される。
 「中国はこれほど実力がついてきたのに、弱腰外交をしているのではないか」という批判ね。中国の対外政策が、中国の民意からも影響を受けるようになった、そういう面も出てきているわけですよね。だから「弱腰外交」という批判は、中国の政権のいくらかの弱さも反映している。
 もう一つ、中国の経済の前進と併せて格差もうんと広がってきている。この中国社会の中での政権に対する不満というか、そういうものの「はけ口」として、世論として出てきてると思いますね。
 そんなことなどを考えるとですね、中国の動きは理解しやすくなる。
 さて、もうちょっと尖閣諸島問題に戻りますとね。途中から明確に「核心的利益」ということで、米国に行って温家宝が拳を振り上げてやっている。テレビでやってましたよね。ああいう流れを見ますとね、尖閣問題はこれから厄介な問題になると思いますね。中国でもそうですが、日本でも議論が起こるんですね。日本でごく一部ですがね……。
 そこで尖閣問題は、党としては、「固有の領土」と言って領有権あるいは領海、それから接続水域のようなこと、排他的経済水域等々の国としての利益を守るということは当然必要なことなんですね。
 われわれは党としてはそれを主張しているまでですが、「尖閣諸島は固有の領土」とかそういう権益を主張することが「中国との関係を悪くするんじゃないか」とか、あるいは極端な言い方をすれば「反中国的ではないか」と言うわけですよね。そういう批判が一部あるんですね。多数ではないにしても一部にはある。とくにあの新左翼だとかですね、知識人の一部にもあるようだけれど。
 たとえばわれわれが尖閣問題で領有権を主張して、中国も主張しているようですから、ある意味で争いになっているんでしょう。それを否定する必要はないです。
 しかしそうかといって、日中関係は尖閣問題だけではなくて、これはもう何度も述べましたが、もっと広い範囲のさまざまな問題があって、これを主張したからといって「反中国」ではないですね。これを主張しても、なおかつそれはそれで中国とアジアで、近隣諸国ですからね、貿易関係を広げたり友好関係を広げたりということは利益にかなうわけですよ。中国も尖閣の所有権を主張して、日本が主張しているからといってこれを「反中的だ」などという理解はしていないですよ。
 だから、そういうことで両方からよく冷静に見るとね、この一事をもって「労働党の主張は反中国だ」とかというのは成り立たないと思うんですね。そんなことを言えば、中国が尖閣諸島を主張すれば「反日だ」ということになるわけですよね。中国自身がそれを否定しているわけですから。
 そういう点でわが党は、尖閣諸島についての若干意見は対立しています。労働党は、中国と意見が違う点、もっと重要な相違、ありますよ。中国は「社会主義」と言ってますが、われわれは社会主義だとは思っていない。
 しかしそのことを指して、われわれが反中国で、事を構えようということではない。現在の国際政治を、われわれは「特殊な多極世界」と言っておるんですが、米国に対してはこれと闘うという意味で、ある意味で中国とは幅広い共通の利益があるわけですから。そういうことですよ。
 したがって、わが党は領有権はきちんと主張するけれど、全体として、米国と闘う上で、米国が朝鮮を口実にアジアに、とくに軍事的に介入してきているというこの局面で、幅広く協力し合う可能性、これはあるわけですから、一部の人たちの批判は当たりません。それから、わが党の態度を批判するというより「心配する」という人も中にはいるでしょうが、それも心配無用です。
 わが党は断固として、日米安保条約を破棄して国の独立を闘い取るということ、中国との関係で言えば、領有権は主張しますが、全体として敵対ではない。とくにアジアに介入する米帝国主義との闘いで、共同できる可能性がありますし、できれば全アジアから米国が後退することを積極的に進めることも視野の内に入っておりますので、心配には及びません。そう申し上げたいですね。

政局と党の闘い

大嶋 最後に、支持率低下にあえぐ菅政権の現状評価と、政局の見通し、党の闘いについてお話し
ください。

大隈議長 新年のインタビューとなっていますが、十二月中の話、しかも政権末期、菅政権は政権維持、小沢は政治生命の保身で、破れかぶれの情勢、大局はともかく政局(小局)展望は至難ですね。それを前提に、ですかね……。
 政局、党の闘いなどは新年の旗開きできちんと話しますので、以下の私の話は、とくに大幅に、編集長同志にお任せします。


大嶋 分かりました。

政局について
大隈議長 菅政権というか、菅・民主党政権というか、末期になりましたね。鳩山から代わった直後の政権でも、第一に解決しようとしたのは財界との関係復活で、よくやりましたね。「よく」というのは、上手にではなく急いでという意味で。とかく「ギクシャクしていた」といわれる財界との関係を修復しようとしたんですね。閣僚を挙げて、いわば世界中を飛び回ってセールスマンをしたのもそこからですよね。
 今度の、小沢との代表選後の菅政権は難問山積していたこともあるでしょうし、民主党政権内部で代表選のしこりもあったんでしょうが、揺さぶられ続けて、ますます財界の言う通りになった。難問山積で頭が空っぽだったんでしょう。
 最近のいくつか挙げると、参議院選挙で民主党が後退して、また「ねじれ」ができたでしょう。与党は衆議院では多数派でも、参議院では少数派。しかも、衆議院も絶対多数ではないんですね。参議院で拒否されても、衆議院に戻して決めるというような意味での三分の二を持てないんですね。そういう意味では不安定で、参議院で多数派をなくしたことはとても痛いわけですね。自公政権が衆議院で多数を握って、参議院で負けた時とは違うんですよ。
 そこで、いよいよ末期でしかも「政治とカネ」の問題、問責決議等々でずいぶんと追い込まれた。菅・民主党政権は、政権の浮揚を図ろうと、なりふり構わず。典型が今度の補正予算で、辛うじて採決してくぐり抜けたんですが、まったく財界の言う通りですよね。
 菅は盛んに「リーダーシップ」「決断」と言う。ずいぶんとムチャをしていますよね。それからパフォーマンスをやっている。硫黄島へ行って遺骨集めをしたり、農民のところに行ったり。それから防衛省から秘書官を採りましたね。初めてですよ。警察から採ることはあったんですが、北澤防衛相が勧めたらしい。四月に備えてのことなんでしょうが、それまでもつかどうかは分からないですね。そういうわけで、もっぱら政権を維持するためにやって、今度の本予算となる。空約束もいろいろしていますが、財源手当てもないというようなことで、末期と言って間違いないですね。
 そこでいくつか問題があるんですが、政権浮揚策で小沢を政倫審に呼び出すと言う。自分の党で、党内の結構な勢力を持っているその親分の小沢をですね、野党と組んで国会に招致すると。まあ、これは末期でしょう。
 それから、今、菅政権が日米関係の中で進めている基地問題も一つでしょうし、安全保障政策と関係がある、例の武器輸出三原則を緩和させる等々。「日米関係を深化させる」等々の流れの中で、菅政権はそれを追求しつつあったにもかかわらず、政権維持のために社民党に秋波を送って、三原則緩和を「防衛計画大綱」からはずして、とりあえず参議院だけでなく衆議院の体制を固めようとしたわけですよね。これは支離滅裂でしょう。
 しかしまあ、秋波を送ろうとしたが、社民党はなかなか応えられないような雰囲気です。福島党首は与野党協議をやめたんですかね。が、「何とかなるのではないか」というのが見えたことは見えたんでしょう。これは今の社民党の複雑な状況をあらわしていると思うんですね。わが党は社説でそれを「奇妙なこと」と批判しましたが。国民新党も困っておるんでしょう。国民新党は例の郵政問題がどうにもならんわけで。そういう点から見ても、この政権は、もはや維持できにくいところまできたんだと思いますね。
 いずれにしても、小沢が離脱するかどうかもありますが、菅政権は総選挙を控えているということもあるんですね。総選挙を控えているのでは党を割るわけにはいかないし、しかし、小沢を切っても総選挙で勝てる保証はないですね。最近、仙谷が言っている「総選挙はない」というのは疑ってかかる必要がある。一つは、仮にそれが願望であっても、「総選挙はない」という言葉で、いわば任期いっぱいやれる保証はないと思います。つまり、「破れかぶれ解散」という可能性が全然ないわけではない。もう一つは、「ない」ということが願望であっても、任期いっぱいもつ保証もない、という意味です。破れかぶれだと早いし、願望したところで任期いっぱいもてないという意味で、「破れかぶれ」から「もてない」という、どちらかの可能性を含んでいる。
 この間の選挙を見ると、栃木か、茨城か……。


大嶋 茨城県議会選挙ですね。

大隈議長 茨城県議選があったんですが、仮に統一地方選挙後に総選挙があるとすれば、地方選はそれを占う選挙ですね。
 仮に任期いっぱいでなく、統一地方選挙後のどこかの時点でとすれば、今度の通常国会は、地方選挙と総選挙を想定した選挙がらみの国会です。政局は「コップの中の嵐」とはいえ、議会政党風に言えば「激動の政局」ということですね。それは地方選挙がどうなるか、総選挙があるとか、結果がどうなるかと併せて、政治再編を含む、政治再編がらみの激動と言ってもよい。そういう時期に入っておる、ということを理解しておく必要があると思いますね。
 そしてこの間ずっと、たとえば自民党の中にも憲法一つめぐっても一様でないねじれがあるでしょう。民主党も、いわば社民系から自民党以上の右の人とのねじれ。議会の参議院と衆議院だけでなく、政策上のねじれもあるでしょう。
 しかし、これからの激動の時代、最後的には総選挙があるにしても、議会政治の中でねじれが解消するかというと、必ずしもそうはならないと思いますね。というのは、総選挙の結果はどうあれ参議院は変わりませんから、ねじれが解決する保証はない。しかも、そのどさくさの中で政策的なねじれがスッキリするかといえば、しないと思いますね。次の地方選挙や総選挙を経ても、国会のねじれはスッキリしない。政策上、つまりある党はまとまって政策的にスッキリするかといえば、それも片付かないと思います。
 すると日本の政治の混迷は、仮に総選挙まであと二年半としても、それまでも、その後もねじれは残る。ねじれが残っているということは、二大政党制としてもスッキリせず、完成はしない。最終的には政策のねじれがキッチリしなければ、二大政党制は機能しないんですね。しかし、もうそういう状況にはないと思いますよ。
 さりとて、圏外にあるような社民党ーー向こう(与党)に入れば別ですよーー共産党は圏外に立たされると思うんです。数カ年の政治、混迷期の中で大きな影響を与えられるような状況は、社民党、共産党には難しいだろうと思います。ただ、共産党や社民党がすっかり消えてしまうとは思えません。そうかと言って、公明党がそうだったように、不安定な中である程度キャスティングボートを握るとか、政治再編の中で何らかの役割を果たすには、今のところ力不足のような気がするんですね。


労働党の闘いについて
大隈議長 だから、わが党がしっかりと今の危機の進行の中で原則的な闘いを堅持して、そして登場する準備、これが一つの大事な問題だろうというふうに思います。そこで党としては、国の進路の問題だとか、内政上も階級の利害を守る、とりわけ労働運動の問題、しっかりと統一戦線を発展させる問題などできちんとした政策がとても重要になると思いますね。

「福祉国家論」について
大隈議長
 それと関連していくつかあるんですが、一つは例の労働運動の中での「福祉国家論」です。これはきちんとしなくてはならない。
 いくつかあるんですが、一つはスウェーデンのような「福祉国家」と言われるものが、どういう歴史過程で形成されたのか。福祉国家論を議論するには、三〇年代にスウェーデンで、どういう過程、どういう諸条件で登場したのか、歴史的な経過もある程度きちんとしなくてはならない。もう一つは、日本と比べてよく言われるヨーロッパ、英国にしてもドイツやフランスしても、日本と比べるなら労働組合の組織率が高いわけではないです。スウェーデンは圧倒的に高く、八〇%〜九〇%あるんですが。それは三〇年代からの歴史を知らなくてはならないんですが。組織率はそれ程高いわけではないにしても、第二次大戦の最中にヒトラーの登場があり、ヨーロッパの資本家も大変な目に遭ったわけで、レジスタンスもあった。その中で社会的に、労働組合が一定の大きな役割を果たした。そういう経過の中で、ヨーロッパの労働運動をきちんと理解しておく必要があるわけです。
 それと対比して日本の第二次大戦後の福祉問題を考えると、どちらかというと企業が中心となり、「日本型労使関係」と言った。こうした経過や背景があるんですね。それをきちんとする必要があるんですね。
 その点をきちんとしなくてはならないのと、その先、にもかかわらず日本型労使関係が行き詰まったというか、これが維持できなくなった。ヨーロッパもその問題があるわけですよね。スウェーデンでさえ右派に政権が移っている。失業者が増えている、既得権も削られてきているなど、資本主義の行き詰まりの中でこういう問題が起きてきている。そういう流れできちんとしなくてはならないと思うんです。
 それから、九七年に英国でブレア・労働党政権が登場した。「英国病」といわれる中、まずサッチャー首相が、よく言われる「新自由主義」を掲げた。これは競争が激しくなった中でこれに対応せざるを得なくなったところから、労働者の既得権をはく奪したわけですね。それで労働者側が敗北した後、二〇〇〇年代に入って短期間ですが、社民政権が次々に誕生した。十五カ国。最初はブレアなんですよ。いわば「第三の道」というやつね。サッチャーの道ではなく、旧来の労働党の道でもなく「第三の道」。危機が深まってくると、「第三の道」というのが出てくるんです。そして、またたく間に十五カ国で社民が政権を握った。
 つまり危機が深まった下で、選挙でも伸びず、そこで「第三の道があるのではないか」となった。大企業、あるいは多国籍企業というものには手を触れないで、「その下でもやっていける道があるはず」ということなんですね。中身はサッチャーの延長なんですよ。それで、もののみごとにイラク戦争を通じてブレアはおしまいになり、十五カ国ともなくなった。破たんしたんですよ。日本では日本型労使関係もなくなってきた。
 したがってヨーロッパでは、日本のように福祉国家論が大繁盛してるわけではなく、「それではやっていけない」という結論なんですね。日本は何周遅れか知らんが、福祉国家論が出てきている。本質的にその国の政権を誰が握っているのかということを明らかにし、それと労働者階級が断固として闘わなくてはならないという道から、そういうシステムの下、つまり多国籍企業、大企業が握っている下で、それと妥協する道がないのかという意見なんですよ。福祉国家論というのは。日本は何周遅れかでやってきているわけです。
 スウェーデンだって労働組合の組織率が高くて、それを基盤にした政権によって三〇年代に初めて、いわば国の政策として、いま言う福祉国家論が出てきたですね。
 それでもスウェーデンは、政治は握っても、市場は企業の自主性に任せる、ということなんです。ところが、日本は労働組合の組織率も低く、政権を取る展望もないでしょう。にもかかわらず福祉国家論が出てきている。民主党政権ができたことを契機にしてね。しかしその民主党政権は、財界の利益には手をつけない。
 福祉国家論というのは、小ブルジョア的な幻想なんですね、願望です。つまり、現存する支配階級と断固として闘うことではなく、「その下でも生きる道はないのか」という論なんですね。
 労働者階級を教育して支配階級と断固として闘う道ではなく、それと共存できるという考え方なんです。まして、資本主義の危機が極端に深くなって、市場競争が激しくなる中で、日本で福祉国家論が出てきたということですよね。いわば敵に対する「助け舟」で、闘いをそらすという意味があるわけです、結果的には。労使協調の焼き直しなんですよ。

「左」の福祉国家論「批判」
大隈議長
 もう一つ大事なことは、「左」が福祉国家論を批判し、本質的に大企業が支配権を握っている下で「相いれない考え方」と言う。ところが、そうかといって「社会主義は先の話だから」「それをめざす闘い」という意味で、つまり改良で認識を統一して闘いを「前進」させる上で「一定の意味がある」と言っているんです。改良が目的化されているんですね。
 マルクス主義では、革命的な闘いの結果として敵側の譲歩を闘い取ることができると言っているわけですが。このような見解は、福祉国家論を「批判」しているように見せかけて、実はこっそり、これとの断固たる闘いを避ける役割を果たしている。だから右側の福祉国家論より、この「左」の側のほうがよりヤバイんです。より犯罪的なんです。そういう点をきちんと批判しなきゃならんと思うんですね。

統一戦線問題について
大隈議長
 それからもう一つ、統一戦線問題ね。
 農民もそうですが、農業や商工業に従事している小所有者層は、戦後ずーっと旧来の自民党、保守勢力の基盤だったものです。これらの人びとに対する問題をきちんと対処して、政治的に獲得する必要があります。この基盤の上に、自民党が成り立っていたわけですよ。小沢前民主党幹事長は、一方で連合労働運動を背景にしながら、他方で選挙に勝とうとしてこれらの支持を得ようとしたわけですよね。ところが、小沢の農業政策は一種の大規模農業ですよね。今度の予算を見ても分かりますが、そこを狙っている。菅は小沢を排除するようなことですが、政策的には小沢の言っていることを採り入れているんですよ。
 そういう意味で、労働者が自分の要求を闘うだけでなく、全国、地方、都道府県という規模でも、この種のことに目を向けさせるように、労働者を教育する必要がありますよね。
 今度のTPP問題だって、労働者はきちんとした方針をもつ必要があると思うんですね。TPPは、何も農民問題だけではないですね。関税をゼロにすれば、どの分野でも、中小企業にまで問題は出ますね。
 そういう点で、労働運動が地方政治でも、一定の規模で政治闘争を試みることが重要だと思いますね。日本の労働運動の中で、良心的で「労働者の闘いを重視する」と言う人たちでさえ、この点が弱い。レーニンが「労働者階級が自分のことだけでなく、他の階級のことを取り上げたときだけが革命的だ」と言ったようなことですね。
 つまり経済闘争だけでなく、権力のための闘争、それが重要だということで、労働者を教育する必要があるということです。
 たとえば、沖縄の戦後を見ると、官公労を中心に民族闘争を闘って戦線を広げているわけですよ。
 そういう点で、労働者をきちんと教育する必要があるように思うんですね。
 統一戦線を発展させるために、労働者は自分の企業の中で闘うだけではなく、地域で諸階層、諸階級の課題を取り上げて積極的に闘うことが重要です。そういう点で、今の労働運動の中で、とくに「左派」ですね、かれらはそういう点でとても弱いですね。まあ、そんなことが重要でないかと思うんです。

結び
大隈議長
 結びですが、労働党は世界情勢の推移をきちんと見て、アジアでどうするのかですね。国の進路をめぐって態度を絶えず鮮明にして、いろいろな保守派も含めて国の独立や自主を闘い取れるように広い戦線をつくって闘います。
 それから、党として原則的に労働者階級をはじめ諸階級の課題を取り上げて、組織者として進むということです。労働党として旗幟(きし)鮮明にして闘いたいと思います。

大嶋 ありがとうございました。
 詳細は、新春講演会でお願いします。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2011