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2010年11月15日号 2面・社説 

G20で具体的合意なく、
国際協調は危機に

破局に備え、労働者階級は
闘いを準備すべき時を

 二十カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が十一月十一〜十二日、韓国のソウルで開かれた。
 会議では、米帝国主義主導の帝国主義諸国や他の大国が入り混じり、国益を掲げて激しく対立、決裂をもはらんだ緊迫の展開となった。各国は金融市場への波及を恐れて対立をひとまず封印、何とか「合意」にこぎつけた。このG20を引き継ぎ、横浜でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が行われた。
 一連の会議を通して、首脳会議などの国際協調はいよいよ困難であることが、これまで以上に明らかになった。わが国マスコミも「大山鳴動ネズミ一匹」(日経新聞)と、成果がないことを認めざるを得ない。
 世界はまさに、新たな破局に向かいつつある。
 帝国主義諸国の支配層、大銀行を頂点とする多国籍大企業が危機を人民の犠牲で切り抜けようとしており、これで打開できるか、労働者階級が断固たる闘いで前進するか、世界の情勢の推移はこの競い合いにかかっている。
 こうした情勢の下、全世界の労働者階級は、断固たる闘いに立ち上がらねばならない。

世界では通貨戦争が激化
 こんにち、各国、とくに先進諸国はリーマン・ショック後の成長率低下と失業者増加、国内の巨大な需給ギャップを解決できていない。
 米オバマ政権は危機を「輸出倍増」で打開しようとしているが、デフレの危機に直面、米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和に踏み込み、通貨戦争の震源地となった。
 しかも、民主党が中間選挙で大敗。財政出動を嫌う共和党に下院の主導権を握られ、とりうる政策は、為替などの金融政策と他国への市場開放要求以外は難しくなった。
 この下で、米国は活路を求めてアジア市場への参入を強めている。APECや環太平洋経済連携協定(TPP)は、そのための道具である。
 米国は、十月のG20財務相・中央銀行総裁会議で経常収支の黒字・赤字を国内総生産(GDP)の四%以内とする案を提示するなど、中国への人民元改革要求を強めている。
 欧州連合(EU)は欧州通貨基金構想などの危機の再発防止策と併せ、財政再建で人民への犠牲転嫁を進めている。ドイツなどはユーロ安で輸出が好調だが、アイルランドなどの財政危機につけこんだ、投機筋の攻撃にさらされてもいる。
 中国などの新興国は経済成長を続けているが、先進国、とりわけ米国の新たな量的緩和で生じた過剰流動性が巨大金融機関や各種ファンドを経由して流れ込んで通貨高の圧力となり、またインフレやバブルを引き起こしている。新興諸国は、為替介入や金利引き上げ、規制強化などに懸命である。
 日本は、長期のデフレから脱却できない。日銀は量的緩和策に追い込まれたが、円高には効果がない。
 こうして諸国は、輸出増加のために自国通貨安を競う通貨戦争や保護主義的政策によって、互いに危機を押しつけ合う死活をかけた争いに突入している。
 今回のG20は、このような環境下で開かれた。


数値目標や米金融緩和に非難集中
 今回のG20首脳会議で最大の対立点となったのは、経常収支など複数の項目で構成する指針によって、参加国の政策が不均衡の原因となっていないか、相互に監視するという問題である。
 だが、前回の財務相会議と同様、今回も具体的な数値目標での合意はできなかった。
 この仕組みが導入されれば、輸出依存度が高いドイツや中国は打撃を受けて経済成長にはマイナスとなるからである。メルケル独首相は、数値目標について「経済的に正当化できず、政治的に適切でない」と反発した。数値目標の基準策定はきわめて困難である。
 米国が批判を受け、孤立したのは、数値目標だけではない。
 量的緩和政策に対しては、歴史的にインフレ警戒論が根強いドイツをはじめ、ブラジルや中国など新興国が批判を強めた。中国は、「責任ある政策を実施し、為替相場の安定を保つべき」とまで非難した。
 さらに、基軸通貨・ドルをめぐる意見の違いも露呈した。
 中国は、ドル基軸の国際通貨システムを「改善すべき」と明言。ブラジルも、ドルの代わりに国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)を支持した。すでに、中国やブラジル、ロシアはSDR建て債券の発行に踏み切っているが、G20での公然たる動きとなった。戦後のドル体制はいよいよ末期である。

諸国間の矛盾は激化、長期化へ
 G20会議の結果、「通貨の競争的な切り下げを回避」「先進国は為替レートの過度な変動や無秩序な動きを監視」「不均衡是正のための参考指針を財務相・中央銀行総裁会議で議論」「新興国への急激な資本流入を抑制するための規制を容認」「あらゆる形態の保護主義に対抗」などの七項目で合意が図られた。
 だが、こうした「合意」はこれまでも守られなかったし、今後はますます守られない。通貨戦争も保護主義も、やむことはない。各国は自国の利益を守るのに必死で、そうしなければ政権が危ういからである。
 リーマン・ショック後、各国の財政出動と国際協調によって、世界は破局に至ることを押しとどめられてきた。だが、G20会議を重ねるごとに諸国間の矛盾は激化し、もはや国際協調は吹き飛んだ。
 これは、一九七〇年代のオイルショックを機に始まった「先進国首脳会議」以来の、米国の世界支配を延命させる国際協調体制が続かなくなったことを意味する。
 とくに米中両国の対立は、互いに譲れぬ深刻なものとなりつつある。両国は貿易や国際政治などで深い依存関係にあるが、対立の激化は以前と異なる局面に入った。
 オバマ大統領は、G20に先だってアジア諸国を歴訪、中国包囲網の強化を図った。巨大市場をもつインドでは、同国の国連安保理常任理事国入りに支持を表明、インドネシアでも中国をけん制した。
 対する中国は、フランス訪問で航空機の購入で合意、財政赤字を抱えるポルトガルでは、ギリシャに続いて国債購入をちらつかせてひきつけるなど、米国の包囲網を切り崩す動きを強めた。
 両国の首脳会談では、中国はこれまでにない強い態度で、米国の人民元改革要求を突っぱねた。オバマ大統領は、人民元問題について「いらだたしい」と述べたが、どうにもならない。APECでも、中国は「経済統合は漸進的に」と主張、ここでも米国ペースを許さない。
 米国の策動は、危機がいちだんと深まり、米国だけでは中国を抑え込めなくなったことを示している。
 米中間だけでなく、諸国間の闘争は、さまざまな形で、長期に続くであろう。

対米追随の菅政権で危機打開できず
 多極化し、諸国が自国の国益をかけて激しく争う激動の世界で、対米追随の日本はますます存在感をなくし、追い込まれている。
 菅政権は今回のG20でも、米国の数値目標提案を容認しつつ、日本を例外措置とするよう画策するなど、対米追随に終始した。
 通貨戦争が激化する中、起伏はともかく、円高は長期に続かざるを得ない。しかも世界は「二番底」のリスクも抱え、外需依存のわが国経済には「暴風雨」である。
 菅政権の「新成長戦略」はわが国多国籍大企業がアジアで稼ぐことを助けるものだが、環境はますます悪く、財政の制約もある。財界にとってはTPPが「活路」だろうが、中小零細企業は切り捨てられ、労働者の労働条件はいっそう悪化、街頭に放り出される。農漁民や地方も犠牲にされる。
 補正予算、日銀による量的緩和政策も、ほとんど効果はあるまい。しかも、米国からは新たな内需拡大を迫られる可能性が高い。中国、ロシアとの領土問題も片づかない。
 菅政権の先行きはすでに見えた。労働者階級は、闘いの備えを急がなければならない。


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