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2010年11月5日号 2面・社説 

支持率急落、内憂外患の菅政権

 菅政権は十月二十九日、四兆八千五百十三億円規模の「円高・デフレ対策」を盛り込んだ二〇一〇年度補正予算案を国会に提出した。
 補正予算の効果は、円高のゆくえにもよろう。財界は補正予算案の成立をあせっており、最終的には国会を通過するだろう。だが、「ねじれ国会」を抱える菅政権には容易ではない。来年度予算、その関連法案となると、いっそう展望がない。
 また、菅政権は尖閣諸島問題に続き、北方領土問題でも難題を抱えることになった。財界が熱望する環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)は、与党内の合意さえ容易ならざる事態となっている。小沢前民主党幹事長の「政治とカネ」の問題もある。
 何より、国民の生活と営業の危機は深刻で、国民諸階層は怒りと不満を高めている。各種調査で支持率が急降下したこと、さらに二十四日に行われた衆議院北海道五区補欠選挙で与党候補が敗北したことは当然である。
 成立から半年足らず、菅政権の先行きはすでに見えている。

深刻な円高は片づかず
 「通貨戦争」とも言うべき諸国間の矛盾は、二十カ国・地域(G20)会議でも解決できない。財政余力の乏しい先進諸国が、通貨安による輸出拡大で自国経済を再建しようとしているからである。根本にあるのは世界的な需給ギャップである。リーマン・ショック後の世界が破局に陥ることを押しとどめてきた要因の一つである国際協調は、いよいよ難しい。
 米国は、金融緩和や公的資金投入、さらに「輸出倍増計画」のために事実上のドル安政策をとり、通貨戦争の引き金となった。だが、諸対策は息切れし、失業率が高止まりするなど「二番底」の危機にある。中間選挙も大敗、民主党は下院の過半数を失った。
 米国は巻き返しを狙い、人民元改革などで中国への圧力を強めている。
 その中国は、国内総生産(GDP)第二位の大国となった。だが、不動産バブルやインフレ、著しい格差、腐敗などへの国民の反発が強まり、政権は対応に追われている。この国内要因を大きな背景として、尖閣諸島問題などで大国主義的外交を展開している。
 ギリシャ危機などで揺さぶられた欧州諸国も、輸出を拡大させている。人民に負担を押しつける財政再建を進めつつ、欧州版IMF(国際通貨基金)構想などを進めている。
 こうして、米国を中心とする帝国主義諸国の力は弱まり、中国、インド、ロシアなど新興国が浮上、世界は特殊な多極化の様相を深めている。大国を中心に、アジア市場での争奪が強まり、この地域はまさに「波高し」である。
 外需依存のわが国経済をとりまく環境は厳しく、好転する気配はない。円高、わが国の経済危機は深まり、しかも長引くであろう。


内憂外患、難題だらけの菅政権
 わが国多国籍大企業は、自らが世界、とくにアジアで勝ち抜くための内外政治を要求している。
 菅政権は「新成長戦略」を掲げ、当面する補正予算の成立に続き、法人実効税率の引き下げなどでこれに応えようとしている。
 だが、国と地方の累積債務はGDPの二倍にも達し、何を行うにも財政の限界がある。
 衆参の「ねじれ」で国会運営もままならず、野党の取り込みも思うに任せない。強制起訴されることとなった小沢前幹事長の国会招致問題なども難題で、政権の求心力は急速に低下している。
 外交も八方ふさがりである。
 菅政権は、日米安保条約の「深化」で米戦略をいっそう支えようとしている。だが、普天間基地(沖縄県宜野湾市)移設は沖縄県民が当然にも強く反対し進まず、在日米軍再編全体も押し進められない。鳩山前政権下で揺らいだ日米関係の「修復」は容易ではない。
 菅政権は、大国化する中国には翻弄(ほんろう)され、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で屈服したあげく、首脳会談をソデにされるという醜態をさらした。メドベージェフ・ロシア大統領による北方領土の国後島訪問にもなすすべなく、民族の利益にかかわる問題で断固たる態度を取ることができない。
 菅政権は内外の危機に囲まれ、あえいでいる。

国民生活を犠牲にする菅政権
 菅政権の最大の難題は、国民生活の深刻な現状を打開できないことである。
 完全失業者は、官製統計では約三百四十万人と言われるが、実際の失業者数は一千万人近い。ハローワークには求人がなく、最近の円高や公共事業削減の影響でさらに減った。大卒者でさえ約四割は正社員になれない。
 職に就けても、労働者の四人に一人、約一千百万人が年収二百万円以下という貧困状態を強いられている。民主党政権は「時給千円」の公約を棚上げし、この動きに拍車を掛けている。労働者派遣法改正案はザル法な上、成立のメドさえ立たない。企業内での労働条件はいっそう悪化し、不当労働行為も増えている。農民には空前の米価低落が襲いかかっている。農業で食べられる価格レベルからは程遠く、さらに円高で輸入農産物の価格が低下、競争激化で、農家の販売価格はさらに下落している。他方、肥料や農機などは値上がりしている。この状況下で、戸別所得補償制度はまるで「保証」になっていない。菅政権はTPPへの参加で、農産物の完全自由化を策動している。農民はこれまでも輸入自由化で痛めつけられてきたが、こうなれば日本農業は壊滅である。
 中小零細企業の倒産は、負債総額が一千万円を超えるものだけで年間一万四千件以上もある。廃業に追い込まれる零細企業はさらに多い。存続できても、円高を口実とする大企業からのコストダウン要求はますます厳しい。大銀行は中小零細企業には見向きもしない。
 健康・介護保険料負担など、国民への犠牲転嫁はますます増えている。たばこ税は増税され、菅政権は消費税増税の構えを隠していない。
 こうして、自治体窓口が給付申請を不当に絞っているにもかかわらず、生活保護受給者は二百万人に迫り、民主党政権下の一年間で二十万人以上も増えている。一年に三万人以上が自殺に追い込まれ、半数以上が失業者と高齢者である。
 菅政権は、多国籍大企業が海外で稼ぐことには数々の支援を行うが、労働者をはじめとする国民諸階層には苦難を強いている。
 まさに菅政権は、対米追随で国民生活を犠牲にする政権である。

危機打開、独立・自主の政権を
 補正予算や日銀の円高対策も効果はなく、国民諸階層の生活と営業はますます悪化するばかりである。菅政権には、わが国を取り巻く内外の危機は打開できない。
 悪政を行う民主党政権に対する「よりまし」という評価は幻想で、売国的で国民犠牲の政治を擁護することになる。
 要求を掲げた、強力で、断固たる国民運動こそが頼りになる。一九九五年の少女暴行事件を契機とした沖縄県民の闘いが政府を追いつめた例を見ても明らかである。現実の大衆行動によってしか、「国を動かす」ことはできない。農民はTPPに激しく反発、JAは全国大会を準備している。財界団体である北海道経済連合会も反対を決議するなど、農業と関連産業、地域経済を守る闘いとして発展しつつある。
 沖縄県民は、普天間基地の県内移設を許さず、闘いを堅持している。尖閣諸島問題では、政令指定都市の全六十六議会中、四十一議会が政府の弱腰を批判する決議を採択した。北方領土問題でも、元島民などが政府への批判を強めている。
 闘いを発展させて菅政権を打ち倒し、独立・自主、国民大多数のための政権に替えなければならない。


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