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2010年10月15日号 2面・社説 

G7ー通貨の国際協調は
きわめて困難であることが
明らかに


わが国の円高対策は展望なし、
迫り来る危機に
備えなければならない

 七カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が十月八日、米国のワシントンで開かれた。
 会議の結果、「通貨安競争」を抑えるための国際協調が容易でないことが明らかになった。十一月に韓国で行われる二十カ国・地域(G20)首脳会合を前に、中国に人民元改革を迫る問題も協議されたが、中国が要求に応じるのは困難である。G7が狙った協調は、先進諸国間でも、中国など新興国を含めてもますます難しいだろう。
 会議直前、日銀は異例の為替介入を行ったが、効果はなかった。以降の円高対策も難しい。菅政権は臨時国会で補正予算案を成立させようとしているが、円高を含めた事情を考慮すると、景気の展望は容易ではあるまい。
 国民生活の危機はいっそう深く、しかも長期に渡るであろう。
 大企業や支配層、政府に期待したり幻想を抱いても、生活難は打開できない。労働者、国民諸階層は、要求を基礎とする闘いを断固として推し進めなければならない。

国際協調をめざしたが困難が鮮明に
 G7会合での合意事項は、「新興黒字国は為替レートの柔軟性を向上させる」「強固で安定した国際金融システム」「為替の過度な変動は望ましくない」などであった。
 だが、肝心の先進国間でさえ、激化する「通貨安競争」を抑える具体的な合意はできず、先送りされた。日本が九月、六年半ぶりに行った円安誘導(円売りドル買い)について、各国は「愉快ではない」(ガイトナー米財務長官)などと不快感を隠していない。
 最大の貿易黒字国である中国に対する「人民元改革」要求についても、各国の温度差が表面化し、中国への名指しはできなかった。
 世界経済がリーマン・ショック後の危機から脱却できない中、財政出動の余力に欠ける先進諸国は、通貨安による輸出拡大で自国経済を再建しようとしている。それは「失業の輸出」にほかならず、現状はさながら、一九三〇年代、世界大恐慌後の通貨切り下げ競争を思い起こさせる状況である。根本にあるのは世界的な需給ギャップであり、貿易戦争の結果、どの国が敗北して後退するかの「ババ抜き」となっている。
 米オバマ政権の掲げる「輸出倍増計画」は、要は、ドル安政策で競争力を高め、併せて相手国への市場開放要求を強めることである。中間選挙で苦戦必至のオバマ政権、とくに民主党は共和党の要求を受け、下院で対中制裁法案を可決した。
 欧州諸国は、ギリシャ危機以降のユーロ安を武器に、ドイツ、フランスなどが輸出攻勢を強めている。
 この下で、先進国は全体として、中国に対する人民元改革要求を強めている。米国は「三〇〜四〇%」などという急激な人民元高を要求しているが、中国が同意できるはずもない。大幅な元引き上げを行えば、沿岸部を中心とする輸出企業は大打撃を受け、企業倒産と失業者が増大し、社会的危機は深まり、政権が揺らぎかねないからである。
 これは、先進国にとっても深刻なジレンマである。先進国の経済は大なり小なり「中国頼み」で、膨大な黒字を稼ぐ中国にも困るが、経済が混乱して危機が深まるのも困るからである。
 為替相場の改革を求められた新興黒字国の側にも言い分がある。「米国の金融緩和がドル下落を招いている」(マンテガ・ブラジル財務相)と反論している。
 G20を前にして、リーマン・ショック後の世界経済の破局をおしとどめた要因の一つである国際協調は、このように容易でないことがますます明らかになった。
 世界はまさに、いっそうの破局に向かいつつある。大激動の時代である。


日銀と菅政権の対応は展望を描けず
 新たな破局が迫り、国際協調が難しくなった世界の状況は、外需依存のわが国経済にとって「暴風雨」とも言うべき状況である。
 G7に先立つ十月五日、多国籍大企業を中心とする財界の意を受けた菅政権は、日銀の尻をたたいて「包括緩和」政策に踏み込んだ。
 事実上の「ゼロ金利」を四年ぶりに復活、一%程度の物価上昇が見通せるまで継続するとともに、五兆円の資産買い取り枠を設定するなどして市場への資金供給を増やす。買い取り対象には国債などに加え、初めて上場投資信託(ETF)などのリスク商品を加えるものである。
 バブル崩壊後でも前例のない量的緩和政策だが、効果はなく、円は十五年ぶりの水準にまで上昇した。以降も、成功の保証はない。
 菅政権は、五兆五百億円規模の「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」など補正予算案を決定した。菅政権はこれを、九月に行った二兆円の為替介入に続く、成長のための「第二段階」と位置づけた。
 内容は、地方の公共事業財源などに使う「地域活性化交付金」、雇用調整助成金の支給要件の緩和や中小企業融資の信用保証枠拡大などである。
 これらは、国民の生活と営業を好転させるにはまったく不十分なものである。かといって国家財政の赤字は深刻で、菅政権にはこれ以上の財政支出は難しい。一方、住宅エコポイントの対象拡大や海外の大型資源開発プロジェクトへの支援など、大企業への支援策はしっかり盛り込まれている。
 その大企業は国内市場を省みず、アジアをはじめとする新興国に殺到している。
 最近の調査によれば、最近のいちだんの円高に対する企業の対策は、「コスト削減」が四割、「新興国での現地生産の拡大」が三割以上に達する。コスト削減は国内景気の引き下げ要因で、国外への生産移転も引き下げ要因である。
 こうした下で補正予算案を打ち出しても、危機脱却の展望は困難である。
 国内の中小零細企業の仕事はますます減らされ、倒産・廃業は増え、労働者にはいっそうの低賃金が押しつけられ、あるいは首を切られる。実際には一千万人近いとされる失業者はさらに増える。内需、国民の懐具合はいっそう冷え込む。

幻想を捨て、闘いを繰り広げ、役立たぬ政権を打倒しよう
 経済危機はいっそう深まり、しかも長引くだろう。大企業はともかく、国民諸階層の生活と営業の危機はさらに厳しくなり、もはや「生存の危機」である。
 政府、支配層の「善政」など、あろうはずもない。幻想を捨て、要求を基礎にした闘いを繰り広げ、役立たない政府は打倒しなければならない。普天間基地(沖縄県宜野湾市)移設問題や尖閣諸島問題も同様である。
 菅政権の支持率は急落、早くも五割を割り込んだ。菅政権は公明党を引き込んで「ねじれ国会」を乗り切るつもりのようだが、公明党の側にも事情がある。
 目前には北海道の衆議院補欠選挙があり、さらに二〇一一年度予算、来春には統一地方選挙がある。総選挙もそう遠くはないであろう。菅政権の行方はすでに見えており、今国会を乗り切れる保証もない。遅かれ早かれ、鳩山前政権と同じ道をたどらざるを得ない。
 政党間、政党内の矛盾も激化し、政治・政党再編は不可避である。党内に対立を抱えた民主党も、この再編の外にはいられない。社民党も、連立をめぐって動揺がある。共産党も展望を描けまい。いずれにしても「政治の季節」である。
 危機打開のための闘いを断固として繰り広げ、政府を追いつめなければならない。
 対米従属で多国籍大企業の手先である民主党政権を打ち倒し、国民大多数のための政権を樹立しない限り、国民諸階層の苦難は打開できない。
 労働者階級は、迫りつつあるいっそうの危機に備えなければならない。労働者階級は自己の闘争を発展させるだけでなく、国民諸階層の先頭で、広範な国民運動の組織者として闘うことが求められている。


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