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2010年10月5日号 2面・社説 

中国が尖閣諸島問題で
理不尽な「報復」


対米従属の打破、独立・自主の
政権でしか解決できない

 沖縄県・尖閣諸島近海で九月七日、わが国領海内に侵入していた中国漁船が海上保安庁の停船命令に従わず、逆に巡視船に衝突するという悪質な事件が起きた。日本側は船長を逮捕、石垣簡易裁判所は二度の拘置期間延長を行った。
 尖閣諸島はわが国固有の領土であり、ここでの犯罪行為に対する処置として、これらは当然のことである。
 だが、尖閣諸島の「領有」を主張する中国は、かつてない強さでこれに反発し、理不尽な報復措置を取った。
 東シナ海のガス田開発をめぐる交渉など、閣僚級の交流はすべて停止され、両国首脳が合意した「日本青年上海万博訪問団」の受け入れまでもが延期とされた。民間の交流や経済活動も影響を受けた。ゼネコン社員が身柄を拘束され、資源・レアアース(希土類)の対日輸出が止まるという事態も起きた。
 さらに中国は、日本との間で北方領土問題を抱えるロシアと連携し、事実上日本を対象とする「第二次大戦終結六十五周年を記念する共同声明」まで発表した。
 当該船長は二十五日、実質上の政治決断で処分保留のまま釈放・帰国した。だが、中国は尖閣諸島を含む「領土問題」を「核心的利益」と位置づけており、主権をめぐる長期の争いとなることは避けがたい。
 他方、動揺を重ねた菅政権は、中国の態度に屈したのみならず、事件を口実に日米同盟の「深化」で中国への対抗を強めようと策動している。
 他の野党の態度も似たり寄ったりで、是認するか口ごもっている。だが、いっそう他国・米国に依存することで国の主権、領土保全が可能だろうか。自国の利益にそった打開が可能だろうか。
 わが党の見解は、それとは鮮明に異なっている。こんにちのように国際関係が新旧入り乱れ、激動する時代には、人民に依拠した政権、国民大多数に依拠した独立・自主の確固たる政権によってしか、国の存立を守ることはできないのである。

尖閣諸島が日本領であることは明白
 わが国は一八九五年、十年余りの調査を経て尖閣諸島の領有を宣言した。この手続きは国際法における「先占原則」にそったもので、当時の中国(清朝)も含め、国際社会からの異議は何らなかった。第二次大戦後、尖閣諸島は沖縄県の一部として米軍の施政権下に置かれ、一九七二年に日本に返還されている。
 だが、国連は六八年、同諸島海域に原油が埋蔵されている可能性を報告した。すると、中国と台湾は七一年、突如として尖閣諸島の「領有権」を主張し始めた。
 中国は「同諸島が中国側の大陸棚に接続している」「中国の古文書に尖閣諸島に関する記述がある」の二つを「領有」の理由としているが、「後付け」でしかない。資源が欲しいから領有を宣言するとは強欲な話である。七二年の日中首脳会談で、中国の周恩来首相(当時)が田中首相に対し、「石油が出るから、これが問題になった」と述べている通りである。
 それ以前、中国は、日本による領有、あるいは米軍の施政にも何ら異論を唱えなかった。中国側の資料にも日本領であることが記されていることは、明白な事実である。


大国主義的な中国の「報復」
 船長の勾留(こうりゅう)に対する中国側の対応は、強引でまったくの大国主義である。
 中国がここまで強硬な態度を取っているのはなぜか。
 七二年の日中共同声明で日中両国が国交を回復した際、尖閣諸島は問題にならなかった。七八年の日中平和友好条約の際も同様で、主要に問題になったのは、台湾の地位であった。
 平和友好条約の批准書交換のために訪日した搶ャ平・中国共産党副主席(当時)は、日中両国が尖閣諸島問題を「一時棚上げ」し、解決を「将来の世代に委ねるべき」と述べた。
 当時、中国は「改革開放」路線に踏み切る前後で、今とは比べものにならない小国であった。中国としては「棚上げ」で時間を稼ぎ、「国力がつけば解決(領有)できる」という長期戦略だったのであろう。
 こんにちの中国の理屈は、この「棚上げ」論をタテに「平和友好条約に反する」というものである。だが、「棚上げ」にわが国が同意したわけではなく、両国間のいかなる条約・協定にもそのような合意はない。搶ャ平氏、あるいは中国政府の意見がどうであろうと、尖閣諸島がわが国固有の領土であることとかかわりはないのである。
 このように、条約・協定に反映されてもいないし、いわば搶ャ平氏の「独り言」であって、付き合わなければならない理由はない。

中国の乱暴な政策の背景は何か
 国内総生産(GDP)で世界第二位の大国に浮上し、軍事力も増強、国際的地位を高めている中国には、領土問題を自国に有利に解決できる条件が整ってきたという判断があるのだろう。
 成長に伴って、資源など海洋権益確保の重要性も増している。尖閣諸島問題で日本に強硬・非妥協的でなければ、東南アジア諸国との間で係争となっている南シナ海の南沙・西沙諸島の問題にも影響しかねない、という判断もあるだろう。
 もちろん、アジアに展開する米国への対抗もある。
 胡錦濤・国家主席ら指導部が「後継体制」を首尾よく準備するためという説もあるが、何よりも、国内矛盾が激化しているという背景がある。
 リーマン・ショック後、世界経済をけん引しているかのように言われる中国だが、国内需要を引っ張っているのは四兆元(約五十三兆円)に及ぶ政府の景気対策であり、効果には限界がある。沿岸部からの輸出にしても、先進国経済が「二番底」の危機を迎えているこんにち、好調が続く保証はない。不動産バブルの始末も難問である。都市と地方、貧富などの格差は開き、さらに「外資依存」で基礎は危うい。
 労働者はストライキなどで要求を強めており、政府・共産党はこの対応を誤るわけにはいかない。
 中国政府の強硬な態度には、これら国内の不満をそらす狙いがある。中国は今年に入って、尖閣諸島の「領有権」を台湾やチベットなどと同列の「国家の核心的利益」と位置づけるようになった。
 今回の対日対応で、中国政府はいくらかのものを得た。だが、国際的信頼など失ったものも多いと思われ、その先行きは平坦ではない。見かけ上の強硬な態度は、かれらの「弱さ」をもさらけ出したからである。


対米追随、戦略なき日本政府
 中国の理不尽な態度はあったにしても、逮捕・勾留から一転、事実上の政治判断で釈放するなど、菅政権の対応は動揺を重ね、国益を損なう無様なものであった。菅政権の支持率が一気に低落したのも、当然である。
 このような対応の責任は、歴代政権にもある。
 台湾漁船が接近したり、中国人活動家が上陸したりするなどの問題が起きても、日本政府は「領海侵犯」「不法入国」などで処罰することはなく、常に穏便な解決を図った。靖国神社への参拝で対中関係を悪化させた小泉政権でさえ、尖閣諸島に不法に上陸した中国人を逮捕せず、「国外退去」処分としただけであった。
 「わが国の領土」と言いつつ、当然あるべき、実効支配を強める措置も取ってこなかった。今回の事件でさえ、逮捕理由は「領海侵犯」ではなく「公務執行妨害」である。
 このような態度はすなわち、尖閣諸島をめぐる「領土問題が存在する」こと、中国と「係争中」であるということを暗に認めるようなものであった。中国につけ込まれる余地を自らつくり出していたのである。
 中国との経済関係による利益ほしさに、戦略もなく、民族の利益の根幹にかかわる領土の問題をあいまいにしてきた、歴代政権の責任が厳しく問われなければならない。


対米従属の対中包囲に加わる日本
 今回の事件を口実に、菅政権は、米国の世界戦略に追随し、中国への包囲・けん制に加担する策動を強めている。
 すでに菅政権は、普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を言明するとともに、黄海での米韓合同軍事演習に自衛官をオブザーバー参加させた。沖縄駐留の自衛隊混成団を旅団に格上げしている。事件直後に閣議決定された「防衛白書」では「南西諸島防衛」のために「新たな部隊配備」を検討すると明記している。さらに、年内にも予定される「防衛計画大綱」の改定で、いっそう米世界戦略のお先棒を担ぐ役割を買って出ようとしている。
 民主党内からは、尖閣諸島周辺での日米共同軍事演習の実施、同諸島への自衛隊常駐などを政府に求める声も上がっている。与野党の国会議員や石原都知事、マスコミは、いっそう米国に頼って中国に対抗しろとあおっている。これは、深まる生活難に対する日本国民の不満をそらすという狙いもある。
 その米国は衰退を早めている。オバマ米政権は「輸出倍増計画」を掲げ、アジア市場により参入することで経済危機の打開をもくろんでいる。九五年の「東アジア戦略」以来一貫したものでもあるが、アジアでの権益確保のためにも、米国は米軍のプレゼンスを維持する策動を強めている。
 これらの狙いから、米国は人民元改革要求をはじめ、台湾への武器供与やチベットなどの人権問題、韓国の哨戒艦沈没事件を口実とした米韓合同軍事演習などで、中国に対する揺さぶりを強めている。
 菅政権は、この米国への忠誠を誓い、対中包囲網に加わり、策動を強めているのである。
 菅政権は、クリントン国務長官に「日米安保は尖閣諸島に及ぶ」と言われて有頂天になっている。
 だが米国は、日本が尖閣諸島を実効支配していることは認めるが、領有権が日中どちらにあるかについては中立の態度である。日中間に火種が残ることは、米国にとって利益になる。米国も、国債購入など中国の助けなしに生きていけないし、中国の巨大市場でもうけたいのである。すべては、米国の国益からの判断である。


独立・自主でこそ領土問題を打開できる
 固有の領土を守る権利は、どの国にもある。
 二つの道が争われている。菅政権のように対米従属で中国に対抗するか、独立・自主の道で中国にも戦略的に対応するか、である。
 米国の力に頼って中国に対抗しようなどという奴隷根性では、激変する国際社会で生きていけない。他国と対等に渡り合おうとすれば、まず、自らが自立しなければならない。第一、米国が日本の国益を一貫して擁護するだろうか。
 中国には、いまのところ、尖閣諸島を武力で奪うだけの力はないし、そうした冒険主義に走るほど愚かではあるまい。だが、戦略的展望の中で迫ってくるであろう。小競り合いと緊迫した局面の起伏は必定であると思わねばならない。
 今回の事件を転機として、「尖閣諸島が固有の領土である」と主張するだけでなく、独立・自主へとわが国の進路を転換しなければならない。ロシアとの間の北方領土問題も、そうしてこそ解決できる。
 米国に依存すれば国を守れるかのような態度を取る売国政権を打倒し、独立・自主の政権を樹立しなければならない。
 日米安保条約を破棄し、すべての米軍基地を撤去させ、自国人民に頼った安全保障政策を打ち立て、歴史的事実と国益にそったかたちで、必要ならアジア諸国との連携も行いつつ、領土問題を解決すべきである。
 この課題をもっとも断固として闘い、解決できるのは、労働者を中心とした国民大多数に依拠した政権である。
 対米従属政治の限界と相まって、わが国の進路をめぐり、保守層の中での分岐も進まざるを得ない。労働者階級は、広範な国民諸階層をひきつけ、その先頭で闘わなければならない。
 わが党は、そのような戦略的展望をもって国難に対処しようとしている。
 ともに闘おう。


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