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2010年8月25日号 2面・社説 

地域主権改革に
打って出る菅政権


財界のための改革を見破り、
住民のための地方政治へ闘おう

 地域経済の疲弊(ひへい)はますます深刻の度を増している。
 二〇〇〇年以降、自動車、電機など一部大企業による極端な「輸出主導」で「回復」を見せていたわが国経済は、リーマン・ショックを契機に、輸出製造業からその下請け、非製造業にいたるまで深刻な打撃を受けた。その深刻さは、それまで比較的「好調」と言われた県、地域ほど劇的であった。とくに、愛知県など東海地方の落ち込みは典型で、全国に先んじて大規模な派遣切りが強行され、膨大な非正規労働者が生きる糧を奪われ、街頭に放り出された。
 一方、北海道、沖縄、四国など、非製造業のウエートが高く、製造業でも内需型産業が有力な地域は、バブル崩壊後の長期不況からの立ち直りも遅く、雇用の受け皿となってきた建設業などが、小泉改革による公共事業抑制策や地方交付税削減で深刻な影響を受けた。規制緩和や市場開放など、国策によって切り捨てられた農業や構造不況業種の没落も急であった。民主党政権の「コンクリートから人へ」は、それを加速させている。
 他方、大企業はリーマン・ショック後の危機から素早く立ち直り、利益を急回復させている。これは、賃金引き下げや労働者への解雇、下請け企業への単価切り下げや国・自治体からの手厚い補助、海外展開によるものである。
 こんにち、輸出大企業はもちろん、流通、小売など内需型産業すら、アジアなど海外展開を急速に進めており、国内での投資を減らしている。これでは、国内での生産活動が活発になるはずもないし、職も生まれない。失業率は五%台に高止まりし、生活保護受給世帯は増加し続けている。国民諸階層、地域住民はかつてない生活と営業の危機に直面している。
 七月の参議院選挙で民主党が大敗した背景は、こうした事態への、国民の不満と怒りである。
 こうした中、菅政権による地域主権改革が本格化しようとしている。
 地方の危機を前に、「左派」の中にさえ、「国民のためになる改革」などと「期待」する向きもある。
 だが、民主党政権による地域主権改革に飛びつき、期待することでは、地方の危機を脱することはできない。

財源なしの「権限委譲」は空論
 内閣府の地域主権戦略会議(議長は首相)は七月末、国の出先機関の「原則廃止」と補助金の一括交付金化について、各省庁に「自己仕分け」を指示した。
 民主党政権は昨年秋の政権交代後、鳩山前政権が十二月に地域主権戦略会議を設置、通常国会に「地域主権改革関連三法案」を提出、菅政権も成立直後の六月二十二日、地域主権戦略大綱(以下、大綱)を閣議決定するなど、本格的な地方制度改革に打って出ている。
 大綱には、国から地域に対する自治事務の義務付け・枠付けの見直しや、基礎自治体への権限委譲、さらには、地方公共団体の基本構造ともいうべき首長と議会という二元代表制の「検討」、道州制の「検討」など、当面の地方制度改革の方向が盛り込まれた。三法案、さらに戦略会議の「仕分け」指示は、この具体化である。
 改革の中身は、「権限委譲」など地方にとっては良いことのようである。だが、交付税など地方の財源が削減される中で権限だけ委譲されれば、地方からすれば負担増となる。また、反動的な自治体首長に権限を「委譲」すれば、行政サービスの低下や公務員への合理化など、思うがままの住民犠牲を許すことになる。
 「権限委譲」などの美名に惑わされてはならない。


小泉改革を引き次ぐ地域主権改革
 民主党政権の地域主権改革は、「左派」の一部が主張するような「福祉社会への入り口」ではない。地方住民のためどころか一握りの財界のためのもので、一九八〇年代後半以降、与党の枠組みが変わる中でも継続されてきたものなのである。
 八五年のプラザ合意以降の円高、市場開放の流れ、併せて冷戦構造の崩壊は、国境を越えた多国籍大企業による国際競争を激化させた。わが国も、それにふさわしい国内再編が課題となった。多国籍大企業は海外展開を後押しする軍事力を含む国際的発言権と、カネのかからない「小さな政府」を切望し始めた。
 こうした中で、財界など支配層が「地方分権」を叫ぶようになった。
 典型は「聖域なき構造改革」を掲げた小泉政権であった。小泉政権は「地方分権改革推進会議」を発足させ、「三位一体改革」を推進。地方交付税は大幅に削減されて地方の財政危機は深刻化、地方では行革が迫られた。自治体合併も強制された。「究極の行政改革」として財界が求める、道州制の動きも始まった。都市と地方の格差は急拡大した。
 この背後には、二〇〇二年には財界団体が統合されて日本経団連が発足、強力な政治介入を行い、改革を号令し始めたことがあった。
 小泉を引き継いだ安倍政権は〇六年、「地方分権改革推進法」を成立させ、〇七年には「地方分権改革推進委員会」が発足。以降、民主党政権にまたがって、今まで四次にわたる答申が出されている。
 こんにち、民主党政権が打ち出している地域主権改革は、こうした流れを受け継いでいる。
 民主党政権による地域主権改革に反対し、闘わなければならない。

自民党の改革引き継ぐ民主党の改革
 鳩山前政権は、財界の願いにそって、地域主権改革を自らの「一丁目一番地」と位置づけた。菅政権も、これを引き継いでいる。
 それは、建設業者と結びついた補助金行政、地方ボスと族議員を基盤とした自民党政権では不徹底であった改革を進めることであり、大銀行を頂点とするわが国財界が望む、財政再建のための、国、地方を含む統治機構の効率化、強化である。
 とくに菅政権は、地域主権改革を成長戦略の中に位置づけ、その断行を宣言している。「再配分政策であった地域振興策からの脱却を図る」として、「各種規制の緩和やルールの変更を大胆に進め、『選択と集中』の観点と『民間の知恵と資金』を積極的に活用した仕組みを導入して、埋蔵需要の掘り起こしを図る」という。地方交付税削減で中央政府の「財政調整機能」を放棄し、中央、地方政府の効率化、自治体合理化を進めるものである。
 これは、地方経済を疲弊させてきたこれまでの政策を転換するものではないどころか、国の責任としての地域振興や国土のバランスある発展を投げ捨てる、いっそうの地方切り捨てである。個別自治体は存立すら難しくなり、待ち受けているのは、財界の願う道州制への再編である。


地域の敵を見破って闘おう
 この「新成長戦略」の下、各自治体はいずれも「選択と集中」を掲げて、企業誘致を競い合おうとしている。限られた財政の下なので「選択と集中」と言うのであろうが、「選択と集中」の分野を決めるのは、地域の支配層、銀行や企業、地主などの地域ボスである。
 これら地域の支配層は、従来からさまざまなプロジェクトの中で地方財政を食い物にして肥え太ってきた。この連中に任せれば、住民福祉もサービスも、地場、中小・零細企業などへの支援策も切り捨てられる。地域の雇用は、いっそう厳しいものとなる。
 ましてや、こんにち、大企業は海外展開を進めている。どんな優遇策を行ったとしても、大企業が地方に残る保証はない。大企業に依存しては、地方の自立は不可能である。
 地域住民の生活と営業を守る闘いを発展させなければならない。
 その際、地域の支配層の欺まんを見破り、これと闘うことが不可欠である。「左派」勢力の中には、地方における敵を明らかにしない「敵なし論」が根深く存在するが、この傾向は早急に克服されなければならない。
 労働者・労働組合、地方議員、活動家には、菅政権の進める地域主権改革を打ち破り、地域住民の生活と営業を守るために闘うことが求められている。


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