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2010年8月5日号 2面・社説 

対米追随深め、
アジアに敵対する菅政権


「日米同盟深化」の
危険な策動を打ち破れ

 日米両政府は八月三日、外務・防衛当局の審議官級協議を開いた。
 米国は、海兵隊のグアム移転が遅れることをほのめかし、菅政権に普天間問題での早期の「政治決断」を迫っている。対中国、対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の敵視・けん制に加担することはもちろん、よりいっそう、米国の世界戦略を支える役割を担うことを求めている。
 菅政権は、米国の要求に積極的に応えようとしている。七月二十五日から日本海で強行された、過去最大規模の米韓合同演習に海上自衛官をオブザーバーで派遣、朝鮮を圧迫するとともに、中国をけん制する米日韓軍事同盟が強化されつつある。
 この道を進めば、わが国はアジア諸国・人民とますます敵対することになる。沖縄県民には引き続き、爆音・事件・事故などの基地負担が押し付けられる。ましてや「対等な」日米関係、自主的な国の進路は永遠に望めない。
 菅政権を打ち倒し、対米従属外交を転換し、独立・自主の国の進路を切り開くことが急務である。

対米追随の限界露呈した菅政権
 鳩山前政権は、普天間基地について自公政権と変わらぬ辺野古案を盛り込んだ日米共同声明で合意した。「対等な日米関係」「東アジア共同体構想」問題も同様で、歴代自民党政権と大差ない対米追随政治の限界を露呈し、国民の失望と怒りを買って崩壊した。
 これを引き継いだ菅政権は、「現実主義」外交を掲げ、発足直後に「日米合意を踏まえる」ことを表明、六月末のトロントサミット(カナダ)では、オバマ大統領と「日米同盟はアジア太平洋地域全体の平和や安全の礎(いしずえ)」とうたった。これが、菅首相の言う「責任感に立脚した外交・安全保障政策」の実態で、歴代自民党政権を寸分変わらぬ対米追随外交そのものである。
 深刻な国民生活への怒りと合わせ、先の参議院選挙で、国民が菅政権に対して厳しい審判を下したのは当然のことである。
 内外に危機を抱えた菅政権は、当初予定していた、普天間問題の「八月末までの決着」を先延ばししようとしている。また、滑走路を二本から一本に減らすなどで、沖縄県民の「負担軽減」を印象づけようとしているが、悪あがきにすぎない。
 菅政権は知事選で、「県内移設」を事実上容認する知事を実現することで乗り切ろうとしている。徹底的に追いつめ、普天間基地の即時閉鎖・撤去へ前進する好機である。


アジア争奪で対日要求強める米国
 その米国には、菅政権の事情を鑑みる余裕はますますない。
 オバマ政権は、最大の課題である自国経済の再建にメドが立たず、あえいでいる。大銀行・大企業救済策や景気対策で財政赤字は拡大、難題続きで支持率は急落し、十一月の中間選挙を乗り切れる保証はない。
 こうした中、オバマ政権は「輸出倍増計画」による雇用拡大を掲げ、アジア市場の確保で息をつこうとしている。
 しかし米国は、アフガニスタン占領の行き詰まり、二十カ国・地域(G20)会合に見られるBRICsなど新興国の台頭など、国際政治でも衰退を深めている。とくに中国は強大化している。
 米国は一九九五年の「東アジア戦略」以来、アジアに十万人規模の米軍を維持することで、対中関与とけん制とともに、アジア市場確保の足がかりとしてきた。
 こんにち米国は、いっそう複雑な対中国対応を余儀なくされている。オバマ政権は人民元改革、チベットなどの民族問題、台湾への武器提供、隣国・朝鮮への圧迫などで中国を揺さぶっている。先日の米韓合同演習も、この狙いの下で行われた。
 同時に、米国は中国による米国債購入が不可欠である。米中は、経済で深い相互依存関係にあるし、成長するアジア市場をめぐってはライバルでもある。
 中国はそうした中で、人民元の「自主的改革」で譲らず、米韓合同演習に対しては独自の演習で対抗もしている。
 オバマ政権の対アジア政策は、この地域で利益をむさぼろうというのみならず、中国を自らの主導権下での協調関係に引き込み、とどめようとの策動でもある。東アジアは著しく不安定化せざるを得ない。わが国の態度が厳しく問われている。

国際的発言権の強化求める財界
 冷戦崩壊以降、財界は激化する国際競争に打ち勝つための内外政治を求めた。国内的には財政再建、対外的には日米同盟の下での国際的発言権の強化である。それなしには企業の国際活動が十分には保証されず、対外権益も守れないからである。
 窮地の米国はますます、日本を世界戦略の前線基地として活用しようとしている。米国の策動で不安定化する東アジアで、わが国にそのお先棒を担がせようとしている。
 わが国多国籍大企業は、この米国に追随し、海外派兵の拡大などで日本が国際的発言権を強化することを求めている。


日米安保の深化を許すな
 日米安保の「深化」に向けた協議が行われる中、すでに既成事実化の動きが進んでいる。
 菅政権は、野党時代に「反対」していたアフリカ・ソマリア沖での「海賊」対処活動を一年間延長することを決定した。日米共同開発中のMD技術を、米国の求めに応じて第三国に供与することも検討し始めた。参院選公約からは、昨年の衆議院選挙時の「米軍再編の『見直し』」すら消し去った。沖縄駐留の自衛隊混成団を旅団に格上げした。
 菅政権は、朝鮮の「元工作員」とされる金元死刑囚を訪日させ、朝鮮への敵視と排外主義をあおっている。十月には、米韓とともに朝鮮を包囲する形で海上封鎖訓練を行う。オーストラリアとは物品役務相互提供協定(ACSA)が結ばれ、軍事同盟化が進んでいる。
 とくに年内にも予定される「防衛計画大綱」の改定に向け、首相の諮問機関は「自衛隊を沖縄と南西諸島に重点配備する」提言をまとめたという。それは、朝鮮半島や台湾海峡での有事、さらに国連平和維持活動などへの「積極参加」を想定して「機動的で実効性のある防衛力整備」を提言。また「沖縄の戦略的重要性」を強調し「在日米軍基地の安定運用に向け、基地の日米共同使用の推進」なども提言するという。
 これが決定・実行されれば、国の進路の重大な岐路、亡国の選択となる。これらは冷戦崩壊後の九〇年代、各国が自主的な進路を模索する中、わが国が米国の東アジア戦略に追随し、安保再定義と日米防衛協力の指針(新ガイドライン)に踏み込み、米戦略を支える態勢を整えたことを想起させる。社民党の村山首相の下で、態勢は整えられていった。
 米国の力の限界は、この当時とは比べものにならない。中国は大きく変貌し、朝鮮もアジアも変わった。
 米国の対日要求はよりエスカレートしよう。わが国支配層すら、いつまでこの要求に耐えられるか。


 菅政権の進める政治は、歴代自民党政権と変わらぬ対米従属政治であり、わが国を発展するアジアに敵対させる亡国の道である。東北アジアの緊張を激化させ、戦争の可能性を高める危険な策動である。
 連合中央指導部をはじめ、菅政権を支える諸勢力は、重大な歴史的責任を負っていることを自覚しなくてはならない。対米従属でアジアに敵対する民族的裏切りの共犯者になる道を拒否すべきである。
 しかもこの道は、内外の反発にさらされ、破たんも見えている。米日韓の同盟強化に対し、韓国内から厳しい批判の声が上がっている。沖縄県民が県内移設を受け入れるはずはなく、闘いを強めるであろう。保守層の中にも従属的な日米関係の見直しを求める気運は高まっている。社民党が役割を果たせるとすれば、こうした中で闘ってこそである。
 ねじれ国会の与野党関係、あるいは民主党内部の矛盾の激化など議会政局で菅政権の末路も見えている。
 労働組合を中心とする広範な闘いで、菅政権の対米従属政治を打ち破ろう。


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