ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2010年7月25日号 2面・社説 

東北アジアに緊張もたらす
戦争挑発策動


米国の朝鮮敵視、対中けん制に
追随する菅政権を許すな

 米日韓の三国による、朝鮮半島と東北アジアの緊張を激化させる策動、瀬戸際政策に反対しなければならない。
 米韓は、過去最大規模の合同軍事演習を七月二十五日から日本海で実施する。「不屈の意志」などと名付けられたこの大規模演習は、朝鮮半島でのさらなる緊張をつくりだすだけでなく、東北アジアにとっても無視できない危険な火遊びである。
 米韓は、朝鮮籍船への臨検を念頭に、大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に基づく海上封鎖訓練を、十月に韓国南西部の釜山近海で実施するとも表明した。
 二十一日、訪韓したクリントン米国務長官とゲーツ米国防長官は、「戦場視察」さながらに、韓国・朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)間の軍事境界線に沿って設けられた非武装地帯(DMZ)を視察した。国務、国防両長官による共同視察は初めてのことである。
 同日、米韓両国は初の外務・防衛担当閣僚による「2プラス2」会合を実施し、対朝鮮での「結束」で合意。クリントン米国務長官は、朝鮮指導部に対する資産凍結など、新たな朝鮮制裁策も打ち出した。
 わが国の菅首相も、六月末のカナダで行われた開かれた主要国(G8)首脳会議で、朝鮮への敵視をあおった。マスコミは「朝鮮が暴発しないよう、しっかりと抑止する」(読売新聞)などと、米韓との「結束」を吹聴している。
 日韓は連携して、ベトナムで行われる東南アジア諸国連合(ASEAN)会議でも、朝鮮の「脅威」を喧伝すべく策動している。
 菅政権は朝鮮の「元工作員」とされる金賢姫元死刑囚を訪日させ、拉致被害者家族と面会させ、朝鮮への敵視を再びあおったが、これも最近の米韓の策動と無関係ではない。
 当然ながら朝鮮は、自国の目と鼻の先で行われる演習に対し、「重大な軍事的挑発だ」と非難している。
 中国も穏やかではいられない。黄海など自国近海での米韓軍事演習の実施には「断固反対する」と反発してきた中国は、東シナ海や黄海で実弾射撃訓練などを相次いで実施、米国をけん制している。

国連決議とん挫で巻き返し図る米国
 米日韓三国は、三月に発生した哨戒艦沈没問題を契機に、異常な朝鮮敵視を強めてきた。
 韓国の軍・民間合同調査団は五月、沈没が「朝鮮の魚雷攻撃」によるものとする調査報告を発表した。これを機に、米国は韓国の尻をたたき、国連安全保障理事会での制裁決議採択を狙ったのである。
 この策動は、紛争・衝突が続いている地域の歴史から見て、全く異常なものであった。
 だが、緊張をあおった韓国与党は地方選挙で国民の厳しい反発に遭遇、与党代表は辞任に追い込まれた。予定した米韓合同訓練も、中国の強い反発で延期となった。
 安保理による制裁決議も同様であった。一カ月以上にわたる折衝の末の七月九日、中国、ロシアの抵抗で、朝鮮を名指しさえできない議長声明を採択するのみに終わった。米国のもくろんだ拘束力のある対朝鮮制裁決議は成功せず、オバマ政権の思惑は、ひとまずとん挫した。
 他方、朝鮮は、議長声明を機に、核問題をめぐる六者協議への復帰に前向きな姿勢を見せた。これはもちろん、朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和協定の締結に向けた、米国との直接交渉を念頭においたものである。朝鮮が、この地域の平和と安定を望んでいることは、この一例を見ても明らかである。
 こんにちの事態は、米国が性懲りもなく巻き返しを策動していることを意味する。
 中国の反発に「考慮」するかのように、演習は朝鮮半島の反対側である日本海に移動しての実施となったが、規模はむしろ拡大された。米国は「公海上の演習について意思決定をするのは我々だ」(モレル・国防総省報道官)と、中国の反発を無視する姿勢をあらわにさせている。
 東北アジアの緊張をあおっているのは、歴史的に、そしてこんにちも、米国なのである。


危機打開狙い緊張あおるオバマ政権
 米国が朝鮮半島の危機をあおるのは、米国の抱える危機がいちだんと深いことが背景である。
 危機の中で発足したオバマ政権だが、深刻な経済問題を解決できずにあえいでいる。膨大な血税投入で大銀行や大企業を救済したが財政赤字は拡大、ドル離れのすう勢は続いている。メキシコ湾での原油流出事故への対応も問われて支持率は急落、与党内からの批判も拡大し、秋の中間選挙を乗り切れる保証はない。
 オバマ政権は、経済立て直しのために「輸出倍増」による雇用拡大を掲げ、アジア市場へのいっそうの参入をもくろんでいる。
 米国は、国際政治でも衰退を深めている。
 政権の命運をかけたアフガニスタン占領は、増派しても追い詰められ、司令官が政権批判で更迭された。米軍の撤退を控えたイラクでも、選挙後の混乱で政治空白が続いている。また、オバマは「核のない世界」を掲げ、ロシアなどを巻き込んで核独占体制を再構築しようとした。朝鮮とイランが直接の標的で、中国もけん制の対象である。だが、イランへの包囲と制裁強化は、ブラジルなどの反対でままならない。
 こうした中、オバマ政権は朝鮮への敵視と包囲をあおることで日本や韓国などの同盟国を結束させ、内外政治での主導権を回復させようとしているのである。

中国の抑え込み狙う米国
 オバマ政権は、直接には朝鮮への敵視をあおっているが、同時に狙うのは、朝鮮の隣国である中国へのけん制である。
 こんにち、米中は貿易などで深い依存関係にあり、米国は中国による国債購入なしにやっていけない。
 だが、大国として浮上する中国に対し、オバマ政権は人民元改革や市場開放要求、台湾への武器供与、チベットなどの民族問題、核軍縮問題など、揺さぶり続けている。朝鮮に対する敵視も、この一環である。
 元来、一九九五年の「東アジア戦略」以来、米国は一貫して、対中関与とけん制の姿勢を維持してきた。ますます高まる国内の不満を背景に、オバマ政権はいっそう複雑な対応を余儀なくされている。
 これに対して中国は、人民元の「自主的改革」で譲らず、米議会などで強い急速な改革には応じていない。朝鮮への態度は先に述べた通りで、台湾問題などでも譲っていない。もちろん、自らの国益からの判断である。
 オバマ政権が踏み込んだ対朝鮮強硬策は、台頭し、成長するアジア市場をめぐってはライバルでもある中国を、自らの主導権下での協調関係に引き込み、とどめようとの策動でもある。


菅政権の危険な策動を打ち破れ
 米日韓三国の瀬戸際政策は、偶発的事態を引き起こしかねない危険なものである。「米国の信頼第一」と、米国の危険な策動に思慮なく加担することは、わが国の安全保障、命運を他国にゆだねることである。
 わが国民主党政権は、哨戒艦事故以来、安保理の制裁決議で「先頭を切る」(鳩山首相・当時)と表明するなど、歴代自民党政権と同様の、対米追随・朝鮮敵視の姿勢をあらわにさせた。朝鮮への送金の際の届出額を引き下げるなど、独自制裁も強化している。普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を正当化する口実としても、朝鮮の「脅威」を最大限に利用している。
 金元死刑囚訪日に示されるように、菅政権もこれを引き継いでいる。その狙いは、朝鮮の「脅威」をあおることで鳩山前政権下で揺らいだ日米関係を立て直すことである。日米同盟の「深化」を一挙に進め、わが国の政治軍事大国化を実現するための世論操作でもある。
 わが国をアジアと敵対させ、東北アジアの緊張を激化させる策動を許してはならない。日本がとるべき道は、日米安保条約を破棄した、独立・自主の進路である。朝鮮との即時無条件の国交正常化は、その重要な一部である。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2010