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2010年7月15日号 1面〜2面・社説 

第22回参議院選挙の
結果について

 七月十一日投開票の第二十二回参議院選挙は、民主党政権に対する国民の厳しい審判が下された。
 参議院での与野党勢力が逆転し、いわゆる「ねじれ国会」となった。菅首相、民主党が策した政権の「安定」どころか、議会運営は立ちゆかず、政府・与党は深刻な困難を抱え込んだ。
 菅政権に期待した財界も深刻な事態に直面させられ、途方に暮れている。争奪激化の世界で企業を前進させ、激動の国際政治に対処するのは、ますます容易でなくなった。
 民主党政権を支持し支えた連合指導部は、組織内候補十一人中十人を当選させたが、本来深刻である。候補者名での得票数を前回百八十九万票から百五十九万票へと大幅に減少させた。連合組合員の労働者の大半は、民主党政権どころか、組合執行部が推薦する候補者もまったく支持していない実態が、あますところなく暴露されたからである。
 共産党は、この党には珍しく、あけすけに深刻さを表明している。「党綱領と大会決定にたちかえり」「掘り下げた自己点検」を行うという。文字通り議会主義の党綱領が問われる、いわば「立党」の危機に直面した。
 社民党も本来深刻なはずであるが、中央幹部の発言からはそれは聞こえない。だが、日々、厳しい批判にさらされてきた現場、地方から提起されるだろうし、われわれはそれを期待する。
 また、社民党や中には民主党を支持したりした「左派」を自認する人びとはどう総括するのか。
 暑い夏の日差しと暴風雨の中で苦労され、しかも、有権者の支持を引きつけきれなかった皆さんの真剣な総括が求められている。
 深刻な生存の危機に直面した労働者、国民各層がそれを求めているのである。真の活路を求めているからである。
 政局はきわめて不安定で波乱を含んだものとなり、いずれ政党再編は不可避であろう。各党は、すでに衆議院の解散、総選挙を意識せざるを得ないし、その流れで動いている。しかし、そのようなことでは、この先の破局的情勢展開にも応えることはできまい。

各党の獲得議席数、得票数と消長

 今回選挙で民主党は、改選議席数五十四を四十四議席(選挙区二十八、比例十六)へ、得票数を四百八十万票余(比例、以下同)、二割強も減少させた。文字通りの大敗北、大後退である。
 連立を組む国民新党は議席を獲得できず、非改選の三議席のみ、得票数も約二十七万票、やはり二割強減らした。
 連立与党のこの大後退は、危機打開を求めた国民が、鳩山政権とそれを引き継いだ菅政権を厳しく審判し、「転換」を求めた結果である。
 民主党政権への「品質保証」をし、野党か与党かあいまいな社民党は、獲得議席は改選三に対して二議席獲得で、一議席、三十九万票、一六%減らし、「厳しい」後退となった。
 野党では、自民党が改選議席数三十八を五十一議席(選挙区三十九、比例区十二)に伸ばし、参院の勢力は七十一から八十四議席に増加した。だが、比例区の得票では、大敗した前回からさらに二百四十万票以上も減らした。有権者の支持はさらに後退し、長期低落傾向に歯止めをかけることはできなかった。
 公明党は九議席を取ったが、改選議席数十一を下回り、参院での勢力を改選前二十一議席から十九に後退させた。得票数も十二万票余減らした。「固い組織力」と言われたこの党の党勢も、やはり後退している。
 共産党は、一議席減で非改選と合わせて六議席、参院での勢力を後退させた。得票も八十四万票、二割減らした。どこから見ても、この党はいちだんと衰退した。
 他方、野党の中でも「新党」は違った。
 みんなの党は、改選議席なしから、東京で議席を獲得するなど十議席(選挙区三、比例区七)へと大きく前進。非改選と合わせて十一議席で、参院第四党の勢力となった。他の新党は、ほぼ埋没した。「たちあがれ日本」と新党改革が比例で各一議席を獲得した。元首長らでつくる日本創新党は議席を獲得できなかった。
 しかし、一千万を超える有権者が、これらの評価も定まらぬ「新党」に投票し、期待を託した。否、託さざるを得なかったと言うべきであろう。それほどに活路を求めていたのである。

選挙結果は何によって生み出されたか

さらに低下した投票率
 各党は梅雨空の下を支持を競い、支配層は、例によってマスコミなどを使って選挙への関心をあおり立てた。これまでも支配層は、投票率の低下を「議会制民主主義の危機」と有権者を投票に駆り立てたが、今回も同様であった。
 だが、投票率は五七・九二%(選挙区)と、前回を〇・七二ポイント下回る結果となった。四割を超える有権者が投票所に足を運ばないことで、現状の政治・政党に不信任を表明したのである。各党が欺まんを演じたにもかかわらず、この現実は冷厳である。
 国民生活と営業は、かつてない危機にある。それにもかかわらず、有権者は自らの生存の危機打開のために託すべき方向、支持する政党を見つけることはできなかった。真の選択肢は示されなかった。人びとの現状からすれば、このような参院選は茶番でしかなかったのである。
 それでも投票所に足を運んだ人びとは、まさに「藁(わら)をもつかむ」思いで、確信はないにしても、自らが期待する政党・候補者に投票したのであろう。その大半は、新党だったようである。
 この願いは、政党が裏切れば、逆にキバをむく。それはこの間も、そして今回も繰り返されたことである。


政権を批判し「変化」を求めた有権者
 今回の参院選においても、全体の勝敗に大きく影響したのは、選挙区選挙、とりわけ地方、農村部の比重が高い一人区の結果であった。定数二人以上の選挙区では、すべての二人区で自民党と民主党が議席を分け合い、定数三以上の都市部では東京と愛知だけで民主党は複数議席を確保した。比例区では議席を減らしたが、民主党は第一党を維持した。
 その一人区で、前回二〇〇七年、民主党は二十三勝六敗で圧勝し、全体の勝利を確実にした。だが、今回は八勝二十一敗と、ほぼ逆の結果となった。前回、自民党から奪った一人区の多くを「奪い返された」のである。
 周知のように前回の参院選、それに昨年の総選挙でも民主党は自民党農政、とくに小規模農家切り捨て・大規模農家育成策への農民の反発を「戸別所得補償政策」でひきつけ、勝利を手にした。小沢一郎(元代表、前幹事長)の作戦勝ちだった。
 しかし、農民生活はこの間も、農業資材費の高止まりとコメなど農産物価格下落で悪化した。口蹄(こうてい)疫問題での政権の立ち後れと宮崎県農民の苦難は、全国農民の同情と政権不信をかき立てた。始まった民主党政権の農政は、戸別所得補償は不徹底で来年度以降の制度設計も不明確、継続性が不確かである。さらに土地改良など他の農政予算は大幅削減と、期待した農民が「裏切られた」と判断して当然のものだった。しかも政権は、自由貿易協定(FTA)などでわが国農業を壊滅の危機に追い込む農産物自由化を進めるという。
 こうして世論調査でも農民の民主党離れが出ており、無党派層が一年前と比べて急増していた。もちろん、選挙戦の中では自民党にもいくらかは戻っただろう。
 しかし、一人区での自民党勝利により決定的であったのは、こうしたことではなかった。マスコミは出口調査結果から「公明支持層で民主候補に投票したのは一九%に過ぎないのに、自民候補へは六〇%。公明が自民の大きな援軍となった」という。一人区、すなわち小選挙区選挙では、こうした選挙協力は決定的ですらある。
 一方、都市部の無党派層は民主党を離れ、結構な部分がみんなの党を支持した。「自民党をブッ壊す」との小泉元首相の手法、「国民生活第一。政権交代」の小沢の手法、ポピュリズムは今回も同様だった。
 こうして、民主党は敗北したのである。

国民各層の不満、怒りはますます高まった
 民主党が大敗した背景は、鳩山政権の破たんも同じだったが、危機の深まりの中での国民の怒りと失望である。
 長年の自民党売国政治、とくに小泉政権以降の改革政治で犠牲にされた国民各層は、民主党が掲げた「国民の生活が第一」のマニフェストにひきつけられ、昨年、「政権交代」を実現させた。
 だが、国民生活はいっこうによくならず、むしろ悪化した。
 失業者は増え、失業率は五%以上に高止まりしている。約束した「最低賃金千円」などは忘れたかのように棚上げ、春闘は抑え込まれ賃金は上がらず、むしろ低賃金労働が急増している。労働者派遣法改正案もすっかり骨抜きになったあげく、財界の強い要求もあったのであろう、国会通過は見送られた。連合中央幹部が「労働を中心とする福祉社会」などと幻想をあおったところで、現場の労働者は信じない。自分の組合の推薦候補すらも支持しないで怒りを示したのは当然である。
 中小零細企業や自営業者も同様で、民主党に見事に裏切られた。
 大企業はこの間、急速に業績を回復し、大幅利益を計上、株主配当も増やし、企業内に利益を貯め込んだ。民主党政権が、大企業に手厚い支援を行った結果である。麻生政権が始めた大企業支援策は継続、拡充され、公約だった大企業減税の「特別措置」廃止も吹っ飛んだ。
 その大企業のもとで下請企業、中小零細業は下請価格引き下げと需要減退で塗炭(とたん)の苦しみにある。消費不振の小売業や公共事業削減の建設業をはじめとする中小零細企業には仕事がなく、あっても利益がほとんどあがらない状況となっている。小規模な倒産、廃業が増えている。
 しかし、銀行が貸し渋る中で中小企業が期待した資金円滑化法(モラトリアム法)は大銀行の抵抗で「骨抜き」となったし、中小企業に対する「予算三倍増」公約も反故(ほご)にされた。
 ところが民主党政権の閣僚や議員たちは、中小企業のところは見向きもせず、多国籍大企業がアジアで事業を獲得するための「セールスマン」と化した。これでは事業者たちが怒らないはずがない。
 「生活が第一」ではなく、まったくもって「大企業が第一」である。
 鳴り物入りの「子ども手当」は、早くも来年度は「見直し」である。ガソリン税などの暫定税率廃止や高速道路料金無料化も、財政赤字を口実に放棄された。
 外交・安全保障政策も、歴代自民党政権と同様の対米従属ぶりである。
 国民諸階層が民主党政権に失望し、怒りを高めたのも当然なのである。

選挙結果でいっそう窮地の財界

 選挙後、菅首相は「続投」を表明した。だが、参議院での過半数を失った与党の議会運営は困難をきわめる。安倍、福田、麻生の短命政権で証明済みの「困難」である。
 しかも、危機はいちだんと深く、新たな危機が迫っている。〇八年秋のリーマン・ショック後、各国国家財政の赤字が積み上がり、次の危機、ソブリンリスク(国家の信用不安)が拡大した。この前は米国発だったが、今度は欧州発の新たな危機が始まった。
 各国は、財政再建にカジを取り、国民への犠牲押しつけを強めている。デモやストライキが頻発するなど、各国の政治は不安定となった。
 国際協調はますます怪しく、各国による危機押し付け合いの様相が強まっている。経済・政治・軍事すべての面での米国の衰退も著しく、オバマ政権は窮地にある。
 こうした中、「世界の成長センター」となったアジア市場をめぐる争奪がかつてなく激化している。
 わが国財界が恐れ、備えようとしていた情勢が急テンポで進んでいる。財界は、小沢に託して、議会での強力な安定政権、国際的発言権をもつ強靱な国家を求めたが、それが今、泡と消えた。
 とくに、財政問題は一刻の猶予もなくなっている。国と地方の累積債務は、国内総生産(GDP)の二倍近く、先進資本主義国で最高である。大銀行の破たんが各国で起こったし、これからも起こると予測されている。だがもし、二百兆円もの資産を持つほどに巨大化したメガバンクが危機に陥っても、国有化して救える余裕はまったくない。また、財政出動で大企業を救うにも、社会の安定維持策が必要となっても、いずれにしても財政がなければ対処できない。支配層が「財政再建」を騒ぐのはその危機感のあらわれだが、解決は容易ではない。
 財界は菅政権に法人税引き下げなど「新成長戦略」と消費税引き上げで財政再建を求めたが、それもメドが立たなくなった。財界はとりあえず菅首相の続投を支持し、あくまで消費税増税と法人税減税を行うよう、民主党にハッパをかけている。野党にも協力を迫っている。
 だが、強力な政治どころでない。政党の大規模な再編なしに、「ねじれ国会」は解消しないし、財界が望むような内外の危機に迅速に対処する政治は不可能である。ましてや財界が長期に望んできた、保守二大政党制は展望できない。

闘いと結びつかない議会制民主主義、この総括が必要である

 「戦後初めての本格的な政権交代」などと期待を担った民主党政権だが、鳩山は悪政の果てに政権を投げ出し、菅政権は増税や成長戦略で財界の要求を丸飲みした。国民の怒りにさらされ、参院選で敗北したのは当然である。
 今回の敗北にもかかわらず、連合中央幹部は民主党政権を支持し、相変わらず「福祉社会」を唱えている。これほどの危機下で、多くの仲間が職場を失い賃金も引き下げられ、しかも「増税」発言である。
 民主党が政権について一年、幻想に対する答えは出たのではないか。
 大増税、改革でわずかな福祉やサービス切り捨て、財界には大減税で貢献、この政権を連合はいかなる口実で支持し続けるのか。どこに「福祉社会」への根拠があるのか。
 労働者は、民主党への幻想をあおる連合中央幹部に従わず、その裏切りを暴露して闘うべきである。
 労働運動が力を発揮できるのは、唯一ストライキをかまえて、企業側、支配階級と闘うときである。労働運動は、犠牲にさらされている国民各層を率いて、この国家、支配層と闘わなくてはならない。
 沖縄の基地問題でも同様である。鳩山は、沖縄県民にさんざん期待と幻想を持たせ、そして裏切った。菅政権には幻想の持ちようもないが、どの政権であれ日米同盟に縛られた政権に期待を持ってはならない。
 基地問題でも労働運動でも、闘い抜きに、広範な国民運動以外に、企業からも政権からも、譲歩を引き出すことはできないのである。
 ましてや、ときの政権に期待したり、政党の議席のいくらかの増加に期待したりすることは幻想である。
 もし、政権や政党に何らかの期待ができるとすれば、強力な闘いが背後にあってこそであることを、民主党政権の実際は教えたのではないか。
 議会での院内闘争、そのための選挙闘争が必要でないとは言わない。だが、それだけではどうにもならない。戦後、何十回も、「次の選挙で勝利して政治を変える」と、社会党や共産党、最近は社民党が言ってきた。労働組合はその度に動員され、現実の賃上げ闘争なども放り出して駆けずり回ってきた。
 そして昨年、民主党政権ができたが、それにも裏切られ、菅政権では財界の政治そのままで、裏切られる前に選挙に敗北、この体たらくである。
 闘いと結びつかない議会制民主主義は幻想である


真剣な総括と戦線構築を
 繰り返すが、連合中央幹部をはじめ「左派」を自認する人びとも民主党政権に期待し、幻想を広げ、そして今回の大敗北があった。
 今こそ、真剣な総括が求められている。
 リーマン・ショック後の世界経済は、各国の膨大な公的資金投入や国際協調で、何とか破局を避けてきた。だがこんにち、積み上がった財政赤字が新たな危機を生みだし、新興国もバブルが深まるなど、深い危機の中にある。全世界の労働者階級には闘いが迫られており、危機の中で前進できるチャンスも広がっている。
 わが国でも、国民諸階層の生活と営業の危機はギリギリで、もはや一刻の猶予もない。求められているのは、労働者をはじめとする国民諸階層の現実、実感に依拠した政治であり、それを実現するための強力な国民運動の発展である。その中核たるべきは、労働運動である。行動する強力な国民運動と結びついた政党、勢力の結集などが、もっとも確かな展望となる。
 わが党は、そのような闘いと、広範で実力ある戦線の形成を呼びかける。
 またわが党は、革命政党として自らの力を強めるために奮闘する決意である。


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