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2010年7月5日号 2面・社説 

早くも見えた、国民犠牲の
菅政権の哀れな末路


対米従属政治打破、広範で
実力ある戦線構築を急ごう

 「政権交代」後、初の本格的国政選挙である参議院選挙は終盤に入っている。梅雨の中、奮闘する皆さんはまことにお疲れ様だが、国民生活の深刻さを解決し、わが国の進路を打開する選択肢は示されていない。
 参院選の結果がどうであれ、民主党主導の政権が続くことは間違いないが、菅首相が望むような政治の安定もあり得ない。
 菅首相は所信表明演説で「戦後行政の大掃除の本格実施」「経済・財政・社会保障の一体的立て直し」「責任感に立脚した外交・安全保障政策」を掲げ、財界から喝采(かっさい)を受けた。参院選直前には「新成長戦略」や「財政運営戦略」を閣議決定、多国籍大企業をよりいっそう具体的に支援し、他方、国民各層に増税などの負担を押しつける政策を鮮明にした。
 だが、菅政権をとり巻く内外の危機はますます深く、政権のとりうる選択肢はきわめて狭い。政権の安定と成功は保証されておらず、むしろ早くも、哀れな末路が見えた。
 労働者を中心とする国民的闘いこそが、事態を打開できる。菅政権を打ち倒す、広範で実力ある戦線の構築を急がなくてはならない。

露骨に財界のための政治を宣言
 菅政権は「強い経済、強い財政、強い社会保障」にそって、国会閉会後の六月十八日に「新成長戦略」を閣議決定した。また、消費税大増税も打ち出した。
 「新成長戦略」は、大銀行と一握りの多国籍大企業が「世界の成長センター」となったアジア市場でのし烈な競争に勝ち抜き、アジアを絞りあげ利益をむさぼる企業戦略を支援する国策である。そのため法人実効税率の大幅引き下げをはじめ、大企業に集中的支援を行って国際競争力を高めるという。
 「選択と集中」で、大独占企業以外は容赦なく再編・淘汰(とうた)、切り捨てられる。労働者の賃金はアジア諸国の労働者と競わされてますます低下、さらに街頭に放り出される。
 米倉・日本経団連会長はこの政策を大歓迎し、法人税引き下げだけでなく、研究開発費への控除などさまざまな大企業優遇政策の継続も要求している。税率一五%程度への段階的引き上げを要求し、「(増税に)反対する政党は国の実情や世界の金融情勢をきちんと理解しているのか疑問だ」などと、国民をどう喝している。

わが国と菅政権の国際環境
 六月末にカナダで開かれた主要国(G8)、二十カ国・地域(G20)の両首脳会合は、「合意」は取り繕ったものの、具体的な中身は何ら合意できなかった。
 米国は中間選挙などの国内対策もあって財政出動の継続を求めたが、ギリシャ問題を契機とするソブリンリスク(国家の信用不安)に揺さぶられる欧州諸国は、早期の財政再建を主張して対立した。中国など新興国は、銀行税の導入や先進国の急激な引き締め策に反対した。逆に先進国側は、中国の人民元改革要求を掲げ続けた。
 このように、各国は自国・地域の問題に手いっぱいで、互いに危機の押しつけ合いで生き延びようと必死である。国際協調はいよいよ怪しくなっている。
 他方、各国支配層は財政危機を国民の負担で乗り切ろうとして、労働者のストライキやデモなど、大規模な反発を招いている。英国をはじめ、各国で政変、政治の不安定化が進んでいる。
 また、米国は「輸出倍増計画」による雇用創出で国内の矛盾を緩和しようとし、欧州もユーロ安を追い風に、アジア市場に殺到している。わが国多国籍大企業は株安や円高に揺さぶられながら、アジアをめぐる争奪戦に対応せざるを得なくなっている。
 リーマン危機後の世界経済は相対的安定すら見せないまま、次の危機が始まった。わが国も対処が迫られている。リーマン危機がそうだったが、矛盾を集中的に受ける位置にあり、菅政権を縛る。


菅政権を縛る国家財政の危機
 国内では、国内総生産(GDP)の二倍近い国と地方の累積債務が、重い足かせとなっている。わが国支配層にとって欧州の危機は他人事ではなく、菅政権は「強い財政」、すなわち「財政再建」を急いでいる。
 大銀行や大企業を救おうにも、また、社会の安定維持策が必要となっても、財政ががんじがらめでは対処できない。支配層が「財政再建」を金切り声で騒ぐのは、その危機感のあらわれである。国債を大量購入し安定した利益を得てきた大銀行の経営安定のためでもある。決して国民の将来負担を心配してではなく、大銀行など支配層の明日の危機に備えようとしているのだ。
 菅政権の財政「再建」策は、要するに消費税率の大幅引き上げと社会保障制度の大改悪である。この戦略によれば、順調に経済が成長したとしても、最低でも消費税率五〜六%以上の増税が不可避となる。
 菅首相は、超党派の「検討会議」を提唱したり低所得者への「還付」をほのめかすことで、国民の反発を抑え込もうとしている。だが、増税への国民の大反発は不可避で、すでに就任後一カ月足らずで、支持率は一〇ポイント以上も下落している。
 それどころか、菅政権には、参院選後に直面する二〇一一年度予算の編成ですらメドが立たない。マニフェスト(政権公約)の実行どころではない。
 財政危機は菅政権の手足を縛り、揺さぶり続ける。

対米従属路線の矛盾噴出は不可避
 鳩山前政権の行き詰まりを見た菅首相は、「現実主義」で対米関係を安定させ、政権基盤安定をもくろむが、米国の衰退は著しい。財政危機で、軍事費すら削減せざるを得ない。中国などの台頭で、世界の多極化は完全に定着した。
 こうした中、菅首相はアフガン支援を約束、朝鮮敵視で先陣を切るなど、歴代自民党政権と同様、米国の世界戦略を支えようとしている。だが、沖縄県民は普天間基地(沖縄県宜野湾市)の県内移設を許さず、基地撤去を求めている。
 米国はまたも、わが国の内需拡大と輸入拡大を強く求めている。日米間には東アジア共同体をめぐる対立もある。
 揺らいだ日米関係の「回復」は、容易ではない。
 対米従属政治の菅政権は、国内での対立をいっそう激化させ、鳩山同様の窮地を歩むことになろう。
 与野党は入れ替わったが、安倍、福田、麻生、鳩山と、一年足らずの短期政権が四代も続いた。政権破たんの直接の原因はそれぞれ違うが、決定的なのは、悪政への国民の不満と怒りであった。菅政権も同じ基盤で、しかも比較にならないほど深まった危機の中、悪政を演じなくてはならない。
 激しい国際争奪戦に対処を迫られている支配層だが、危機に対処する「安定」した議会制政治を手に入れるのはほとんど不可能である。


 菅政権が続けば、すでに生きるか死ぬかの状況に追い込まれている労働者の下層をはじめとする国民諸階層は、生存の危機に直面する。
 菅政権への幻想をあおるさまざまな日和見主義は、国民犠牲で多国籍大企業中心の対米従属政治を支える犯罪的役割を果たしている。「いまが踏ん張りどころ」などという連合中央幹部だけでなく、野党となったはずの社民党も、菅政権への批判は普天間問題など部分的で、いまだ民主党政権への幻想をあおっている。
 菅政権への幻想をきっぱりと捨て、政権打倒のために闘う以外に、国民の生活と営業の危機を打開する道はない。参院選の結果に一喜一憂すべきではない。
 わが党は、国民の諸階層の危機を解決するための実際の闘いを重視し、広範で実力ある戦線の形成を呼びかける。
 わが党は、そうした前進のために断固闘う。


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