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2010年6月15日号 1面〜2面・社説 

「第三の道」は対米追随、
多国籍大企業のための政治


菅新政権への国民の反発は
不可避、幻想を捨て闘おう

 民主党・国民新党連立の菅新政権が六月八日、発足した。
 十一人の民主党閣僚は留任したが、枝野新幹事長をはじめ「脱小沢」色を演出した政権となった。民主党中心の政権であり、若干の違いはあるものの基本的性格は鳩山政権と同じである。その差も、いっそうの危機の深まりと財界の強い危機を露骨に反映したものである。十一日の所信表明演説にもそれは出ていた。
 財界はこの政権成立を歓迎し、「最大限の協力」(米倉・日本経団連会長)を表明した。枝野幹事長は就任後、真っ先に経団連を訪問して、いっそうの連携を誓い合っている。
 連合中央も新政権を「歓迎」、参議院選挙でも支えることを表明し「(政権交代の成果は)これからだ」など、なおも幻想をあおっている。
 野党になったはずの社民党だが、民主党政権への批判を「カネと政治」と普天間基地(沖縄県宜野湾市)移設問題だけに切り縮め、菅政権にも「是々非々」というあいまいな態度である。共産党も「反省がない」のが問題だというが、「建設的野党」「是々非々」路線を止めたわけではない。鳩山政権に媚(こ)びを売って事実上支えた共産党も、責任をとるべきである。
 いくつかの「保守新党」が政権批判を強調しているが、選挙で生き延びるためのものにすぎない。自民党や公明党も、新政権を「小沢隠し」などと批判する以上のものではない。
 新政権を、労働組合の最大のナショナルセンターが支え、かつ、大銀行・多国籍大企業の財界も支持して最大限の協力を約束、議会の与野党各党が事実上こぞって支持する事態となっている。「左派」を自称する勢力の中にも、「支持」が高い。
 この異常な事態は、内外の危機の深さの反映であろう。似たようなことは、歴史上何回もあったからである。
 菅首相は「奇兵隊内閣」などと粋がってはいるが、難問山積で突破できる保証はない。
 菅政権は誰のための政策を進める政権なのか。大銀行を頂点とする財界、支配層と国民の利害対立はいっそう激化し、国家財政はますます危機的で、誰もが満足できる政治などまったくの幻想である。
 新政権の性格を見抜き、鳩山政権を引き継ぐ菅政権をも打ち倒さなければならない。日和見主義者たちが振りまく幻想を打ち破って、闘う戦線を広範に、力強く発展させなければならない。これは、労働運動の発展にとって緊急の課題である。

「カネと普天間」だけでない鳩山政権の破たん
 昨年八月末の総選挙において、国民は自公政権への怒りを「国民の生活が第一」を掲げた民主党に託した。鳩山前政権が誕生した。
 だが、鳩山政権はその九カ月近く、麻生政権などの自公政権と同様の「多国籍大企業が第一」「日米同盟が第一」の政治を推進した。鳩山首相の辞任は、この政治が行き詰まった結果にほかならない。
 鳩山政権は、普天間基地移設問題で、決定的で許し難い裏切りを演じた。鳩山首相には、主観的には、沖縄への「思い」と「公約」、また米国の衰退を前にして戸惑い、模索もあったのかもしれない。だが結果は、対米従属路線の限界を露呈したにすぎなかった。「東アジア共同体」問題も同様だった。国の進路に無頓着で、日米安保破棄を掲げきれない社民党も限界を露呈した。
 普天間移設問題にとどまらない。「国民の生活が第一」を叫んで政権交代を果たした鳩山政権に期待と幻想が高まったのは当然だったが、国民はものの見事に裏切られた。経済・財政の危機と国民生活の危機は、鳩山政権と国民との矛盾を著しく激化させた。
 もともと欺まんであったマニフェスト(政権公約)だが、ガソリン税などの暫定税率廃止も高速料金無料化も、財政赤字を口実に次々と投げ捨てられた。参院選対策もあって辛うじて実施された「子ども手当」は、早くも来年度実施が「見直し」となった。
 失業率は五%以上に高止まりし長期化、有効求人倍率は都市部でさえ急低下している。大企業は、製造業だけでなく、流通など非製造業や金融機関もアジア、新興国に殺到し、国内経済の空洞化が急テンポで進んだからである。だが、鳩山政権は何一つ対策を打たなかったどころか、「アジアは内需」などと言い、トヨタ出身の経産相をはじめ、閣僚は多国籍大企業のセールスマンと化してこれを後押ししたのである。
 中小零細業者の経営は成り立たず、倒産・廃業が続出した。期待された「モラトリアム法」はまったくの骨抜きにされたにとどまらず、大銀行はこの期間にも中小企業への貸し出しを大幅に減らした。大銀行からすると、「アジア内需」獲得に動かない中小企業は、「どうせつぶれるのだからリスクはとれない」とでもいうのか。鳩山政権は、中小企業のために何一つ対策を打たず、中小企業への法人税引き下げや「支援予算三倍増」などの公約すらもまったく反故(ほご)にした。
 犠牲は労働者に集中的に出ている。パート賃金をはじめ、労働者の賃金は下がり続けている。しかも、「最低賃金千円」の公約実施を、何と二〇二〇年まで引き延ばした。この政権が続くと、六百円とか七百円の超低賃金があと十年も続くことになる。内需が拡大するはずがないのはもちろん、これでは労働者は生きていけない。非正規労働者の境遇も改善していないし、労働者派遣法抜本見直しはまったくのザル法となったが、それすらも約束に反して通常国会では成立させなかった。
 一方、血税投入で自動車や家電製品の売り上げが伸びるなど、一握りの大企業は公然と支援・救済された。だが、「コンクリート」(公共事業)を削られた業界も、建設業者も、地域経済も深刻な危機にさらされた。
 自民党と同様の、財界のための対米従属政治が国民の怒りと失望を買い、支持率が急落したのはあまりにも当然である。民主党内からも「参院選を闘えない」という声が高まって、鳩山は政権を投げださざるを得なかった。
 菅政権は、こうした日本の経済・社会、鳩山政権の「宿題」を引き継いだ。

法人税減税・消費税増税が内政の核心、外交は日米基軸の「現実主義」
 菅新政権は、大銀行を頂点とする国家独占体の「覇権的利潤追求の内外政治」を運命づけられている。所信表明演説からもそれを読みとることができる。
 まず、鳩山政権の「戦後行政の大掃除」を引き継ぎ、その「本格実施」という。一九九〇年前後から、とりわけ二〇〇〇年代に入って、大銀行を頂点とするわが国多国籍大企業は、激化する国際競争に勝ち抜くための国内整備を求めてきた。「制度疲労」が限界に達し、カネがかかる国家行政機構の大改革であり、国家的強靭(きょうじん)さを高めることである。軍事を含む強力な国際政治力なしに、多国籍大企業といえども国際競争に勝ち抜けないからである。
 この改革を小泉政権が担ったが、自民党という基盤の上で中途半端となった。以後の政権は短命で、それどころではなかった。財界はこの課題を鳩山・小沢の民主党政権に託したが、またも挫折した。それを菅政権は引き継ぐというが、行政機構と国内の随所にきしみが噴出するであろう。
 菅首相の掲げる「経済・財政・社会保障の一体的立て直し」は、財界が歴代政権に望んできたことである。
 菅首相は「強い経済」から始めるという。鳩山政権後半には「成長戦略」としておおかた決まっていたが、法人税引き下げや研究開発への集中的支援で、各国企業との争奪を激化させている一握りの多国籍大企業の国際競争力を高め、「アジア内需」を取り込むことが狙いの中心である。そのため国家による「選択と集中」政策で重点分野、企業以外は切り捨てられ、過酷な産業再編や規制緩和で、中小企業は淘汰(とうた)され、労働者は首を切られ、生きる術(すべ)を奪われる。
 「強い財政」とは、要するに消費税率引き上げである。言うまでもなく消費税は逆進性が強く、低所得者ほど重負担となる。だから国民の反発は避けられず、それを抑え込む増税の世論づくりのために菅首相は超党派の「財政健全化検討会議」を提唱した。
 菅首相は、これらを一体的に進めることを「第三の道」などと呼ぶが、実態は、国民への収奪でこれまで以上に財界を助けることにほかならない。
 外交政策では、日米同盟を「国際的な共有財産」として、「対等」を強調した鳩山路線を手直しし、対米従属路線を改めて公言した。米国は経済、政治、軍事で衰退を深め、中国の急速な台頭など、多極化は急である。「世界の成長センター」となったアジアをめぐる争奪が激化し、政治的にも対立と地域不安定化が避けられない。
 菅政権は、こうした地域情勢下で、鳩山政権下で拡大した日米間矛盾を緩和すべく、普天間代替基地の「県内移設」方針を引き継ぐほか、「自国のために代償を払う覚悟」を呼びかけるなど、米戦略をさらに支えることを求めている。ちょう落する米国を軍事でも支えるこの方向は、わが国の運命をさらに危うくする亡国の道となろう。
 大企業の「アジア内需取り込み」のために、日本農業を壊滅的危機に追い込む、経済連携協定(EPA)の推進も明言された。
 菅政権の政策は「国民生活が第一」とは裏腹に、多国籍大企業のための国民犠牲で対米従属の政治である。


幻想を捨て菅政権と闘おう
 だが、菅政権の安定は、誠に怪しいものである。財界の高い期待に応えるのは容易でなかろう。
 ギリシャを発端とする欧州危機が深刻化、世界の金融と経済はますます不安定となっている。国家財政の問題は世界的な課題となって、菅政権の財政面での制約はいちだんと強まっている。「成長戦略」の環境も難題だらけである。世界経済は「二番底」が再び語られ、ユーロ安で市場競争も激化している。円高は長期化するとの見通しもある。中国でも矛盾が高まっている。うまくいっても、成長するのは新興国に拠点を移した一握りの大企業だけで、国民経済はむしろ空洞化がいっそう進む。
 国民犠牲の政策に、政権への反発は不可避である。
 沖縄県民が「県内移設」を受け入れるはずもない。八月末までの、普天間代替基地の「工法」問題も決着させるのは容易でない。軍事費を削減する米国の、対日負担要求も強まるだろう。
 国民諸階層は、生活と営業の「出口」を切実に求めている。政権支持率の「V字回復」は、ワラにもすがりたい国民意識の反映であり、いつでも菅政権に向けられるキバとなる可能性が高いのである。
 「看板のすげ替え」で、与党が参院選に勝利できる保証もないし、結果次第で、連立の組み替えや政党再編となろう。保守二大政党制での政治の安定は見通せない。
 それでも、連合中央幹部は「改革の方向は間違っていなかった」などと強弁し、鳩山政権の下で失墜した国民の支持をつなぎとめようとあがいている。企業内で「労使協調」に浸ってきた連中にすると「企業のため」は当然かもしれないが、恩恵にあずからない多くの「普通の労働者」には苦難だけあり、断じて許せないことだ。悪政に苦しめられ、裏切られた国民に対し「もう一度裏切られよ」とでもいうのか。
 社民党が国民のための政治をめざすのであれば、財界のための政権である菅政権に対する態度を明確にし、闘わなくてはならない。ましてや、民主党への幻想をあおってはならない。
 菅政権による、対米追随と多国籍大企業のための政治と闘う戦線の構築は急務である。


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