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2010年6月5日号 2面・社説 

東北アジアの緊張高める
米日韓の策動

哨戒艦事件を口実とした
朝鮮敵視政策に反対する

 韓国の軍・民間合同調査団は五月二十日、朝鮮半島西側の黄海で三月に起きた韓国海軍哨戒艦「天安」の沈没事件について、「朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の魚雷攻撃」によるものとする調査報告を発表した。
 この発表を機に、米日韓三国は一体となって、朝鮮半島と東北アジアの緊張を激化させる瀬戸際政策に踏み込んでいる。
 米国は「韓国が主導する必要がある」(ゲーツ国防長官)などと韓国の尻をたたいている。オバマ政権は朝鮮への金融制裁を準備、「テロ支援国」再指定も示唆(しさ)している。さらに、沖縄の嘉手納基地には最新鋭のステルス戦闘機F22が続々と飛来、八日からは、朝鮮近海で米韓海軍の大規模な合同訓練を行うなど、軍事的挑発も行っている。
 李明博・韓国政権は、国連安全保障理事会による制裁決議採択をめざすほか、韓国海域での朝鮮船舶の航行禁止など独自の制裁措置を実施、朝鮮を再度「主敵」と位置づけることも検討している。
 わが国政府も、安保理の制裁決議で「先頭を切る」(鳩山首相・当時)などといきり立ち、朝鮮への送金の際の届出額を引き下げるなど、独自に制裁を強化している。昨年の核実験を口実とする、朝鮮籍船を臨検できる船舶検査法も成立させた。
 一方、朝鮮は事件を「捏造(ねつぞう)」と反論、制裁策動に対して「戦争局面とみなす」との声明を発表した。
 米日韓三国による朝鮮への敵視と包囲は、軍事衝突の可能性さえはらんでいる。この危険な策動を打ち破ることは、喫緊(きっきん)の課題である。

朝鮮戦争はいまだ終わっていない
 誰が朝鮮半島、東北アジアの危機をつくりだしてきたのか。
 朝鮮戦争は一九五三年以来休戦状態にすぎず、いまだ終わっていない。分断された一方である朝鮮に対して、米日は一貫して正当な国家として認めず、政治・経済・軍事のすべての面にわたって敵視、包囲し、体制転覆を策動してきた。南側の韓国も長らく、反共軍事独裁政権であった。
 だが南北朝鮮では、人民の闘いと「太陽政策」を掲げた韓国の金大中政権、盧武鉉政権の下、二〇〇〇年の南北共同宣言など、統一に向けた自主的気運が高まった。
 一方、米国のブッシュ前政権は〇二年、朝鮮を「悪の枢軸」などと決めつけ、朝鮮に軽水炉を支援する約束を破り、先制核攻撃まで公言した。わが国も、小泉政権以降、日朝関係を一定前進させた〇二年の平壌宣言を反故(ほご)にし、拉致問題を口実として朝鮮に対する敵視と排外主義を激化させた。〇三年には、中国を巻き込んで、朝鮮の核開発放棄と体制転覆を狙った六者協議が始まった。
 朝鮮半島の危機をつくりだしてきたのは、米帝国主義とその追随者である。朝鮮が独自に核兵器を開発してこの包囲を打ち破ろうとしたのは、当然のことである。
 今回、問題になっている海域だが、北方限界線(NLL)は朝鮮戦争後、米軍が一方的に決めたものである。朝鮮が同意できるはずもなく、小規模な衝突はたびたび起きていた。この十余年でも、死傷者が出たものだけで九九年、〇二年、〇九年、そして今回である。そういう海域なのである。
 今回の事件の具体的な真相について、われわれは知りようがない。だが、韓国政府、李明博政権の三月以来の周到な準備と対処は、紛争・衝突する地域の歴史から見て、全く異常である。この衝突をもって安保理での「制裁」に持ち込もうとする今回の米日韓の策動は、単純にではなく、「情勢環境」の全体、とりわけ米韓日の意図などの分析抜きには、事件の本質とその予想される発展を理解することができない。

オバマ政権の抱える危機
 米国が朝鮮への敵視を強めているのは、背景に、米国自身の抱える危機がある。
 リーマン・ショック後の危機の中、〇九年一月に発足したオバマ政権だが、打撃からはいまだ立ち直れない。財政赤字は拡大する一方で、基軸通貨ドルへの信認は揺らいでいる。大銀行・大企業への多額の血税投入は国民の大きな批判を受けて支持率は急落、一月の上院議員補欠選挙で大敗し、秋の中間選挙を乗り切れる保証もない。
 こうした中、オバマ政権は経済立て直しのために「輸出倍増」による雇用拡大を掲げ、アジア市場へのいっそうの参入をもくろんでいる。
 国際政治の面でも、米国は衰退を深めている。
 チェコのプラハで行った「核のない世界」演説は、「核廃絶」を錦の御旗とすることで核不拡散条約(NPT)による核独占体制を再構築するという狙いからのものであった。直接的には朝鮮とイランが標的とされ、中国もけん制の対象である。
 だが、先日開かれたNPT再検討会議では非核国からの非難に直面し、イランへの包囲と制裁強化はブラジルなどの反対でままならなかった。アフガニスタン占領も泥沼で、打開のあてはない。
 平和協定締結のための米朝協議という朝鮮の要求に応じず、昨年の人工衛星打ち上げに対する不当な制裁に続いて、こんにちまた制裁を加えようとしている背景は、こうした危機から、内外政治での主導権を回復することである。


中国の抑え込みも狙う米国
 オバマ政権が居丈高に制裁を振りかざしているのは、朝鮮だけが「標的」ではない。オバマ政権が狙うのは、中国へのけん制である。
 こんにち、米中両国は貿易などで深い依存関係にあり、米国は中国による国債購入なしにやっていけない。
 だが、二十カ国・地域(G20)会合などで存在感を増し、大国として浮上している中国に対し、オバマ政権は人民元改革や市場開放要求、反ダンピング課税、台湾への武器供与、チベットなどの民族問題、「人権」問題や核軍縮問題など、ことあるごとに揺さぶりをかけている。
 そもそも、九五年の「東アジア戦略」以来、米国の対中関与とけん制の態度は一貫したものである。両国が「G2」と言われるようになったこんにち、米国は国内で高まる不満を背景に、いっそう複雑な対応を余儀なくされている。
 米国は今回、哨戒艦事件への対応を通じて中国を揺さぶり、国際的な朝鮮包囲網に参加させるもくろみなのである。朝鮮に対する制裁措置は、中国が制裁に同調しない限り「効果」がないからでもある。
 オバマ政権が踏み込んだ対朝鮮強硬策は、台頭する中国を国際政治上、米国の「目下」の位置に抑え込むためのものでもある。


民主党政権の危険な策動を打ち破れ
 米日韓三国の瀬戸際政策は緊張を極度に高め、偶発的事態を引き起こしかねない危険なものである。
 わが国政府は、調査結果が発表される前から、韓国政府への「力強い支持」を表明するなど、異常な突出ぶりを示している。しかも許し難いことに、普天間基地(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古に移設する日米共同声明を正当化する口実として、この事件を最大限に利用している。
 政府の狙いは、朝鮮の「脅威」をあおることで普天間基地移設問題を決着させるなど、揺らいだ日米関係を立て直すことである。併せて、事務レベルで討議中の日米同盟の「深化」を一挙に進めるための世論誘導である。このさ中、オーストラリアとの物品役務相互提供協定(ACSA)が締結され、韓国との間でも締結準備が進んでいる。米国の世界戦略に追随し、中国・朝鮮を包囲する、事実上の米日韓豪の軍事同盟が強化されているのである。
 韓国政府の強硬策は、地方選挙で厳しい審判を受けた。わが国でも、国の進路を誤らせ、東北アジアの緊張を激化させる策動を許してはならない。
 日本がとるべき道は、日米安保条約を破棄した、独立・自主の進路である。朝鮮との即時無条件の国交正常化に踏み出さなければならない。
 そうしてこそ、アジア諸国・人民の信頼を得ることが可能になるのである。


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