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2010年4月15日号 2面・社説 

米ロが新STARTに調印、
「核体制見直し」も発表

米国の深刻な危機が背景、
闘いで核廃絶運動の前進を

 核兵器をめぐる動きが急速である。
 世界の核兵器の九〇%以上を保有する米ロ両国、オバマ大統領とメドベージェフ大統領は四月八日、チェコのプラハで、戦略核兵器削減条約(新START)に調印した。包括的な核軍縮条約の調印は、一九九一年の第一次戦略兵器削減条約(START1)以来となる。条約発効後七年以内に、両国が配備する戦略核弾頭は三〇%減らして千五百五十発に、弾道ミサイルや戦略爆撃機などの運搬手段は八百に削減される。戦略核弾頭数は、START1調印当時と比べおよそ四分の一に減らす合意である。
 これに先立ち、オバマ米政権は六日、核戦略の指針「核体制見直し」(NPR)を発表した。NPRでは「核兵器の役割を縮小する」とし、「米国ないしは同盟国の死活的利益を守るという極端な状況」でのみ核兵器の使用を検討するとした。核弾頭の新規開発を放棄することも表明。また、核拡散防止条約(NPT)加盟国で、条約を順守している国に対しては「核兵器の使用も威嚇もしない」と明記した。
 十二日からは、米国の主導で核安全保障サミットがワシントンで行われ、核物質の国際的な管理体制を「四年内に徹底する」などで合意した。
 一連の動きは、オバマ大統領が約一年前、「核兵器のない世界」をめざすと宣言したプラハ演説の具体化といえる。
 これに対して、鳩山首相は「核のない世界に向けた第一歩」などと歓迎している。マスコミも「核に依存しない世界づくりへの転換点」(朝日新聞)などと賛美し、核大国が理性にめざめ、世界が核廃絶に向かうかのように宣伝している。
 確かに、核軍縮は歓迎できることである。NPRも、ブッシュ前政権が、核兵器を通常兵器と同様に使うとしていたことと比べると、「転換」ではある。
 問題は、なぜ、オバマ政権が軍縮条約など一連の行動に踏み切らざるを得なかったのかである。

背景は米国の深刻な経済・財政危機
 米ロが核軍縮の合意に至った背景には、世界経済危機と両国が抱える深刻な財政難がある。両核超大国といえども、破局の迫った世界資本主義の泥船の上である。
 オバマ米政権にとって、全軍事費の約一割、毎年五百億ドル(四兆五千億円)を超える、膨大な核兵器の維持・保管費を削減することが必要であった。財政難の程度は違えど、ロシアの事情も同様である。
 とくに、米国はリーマン・ショック後の景気対策などにより財政赤字が深刻化、二〇〇九年度の赤字は前年度の約三・一倍にも達した。累積赤字額は十二兆八千億ドル(約千百九十三兆円)を超え、国内総生産(GDP)に匹敵する額に近づいている。
 基軸通貨・ドルの信認低下というリスクも増している。
 こうした米国にとって、財政問題は一刻の猶予もない。
 さらに、オバマ政権は十一月に中間選挙を控えており、この面からも「実績づくり」が急がれていた。

核独占体制の再構築狙う
 米国は、核軍縮を打ち出し、核安保サミットを主宰することで大国による核独占を保障するNPT体制を再構築し、崩れかけた世界支配を維持することも狙っている。
 NPT体制は、一九九〇年代後半のインド、パキスタンの核武装によって大きく揺らいだ。こんにちNPT体制は、圧迫に抗して核を離さぬ朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)とイランによって、トドメを刺されようとしている。帝国主義による核どう喝で屈服を強いられてきた世界の中小国は、大国の核独占体制を打ち破りつつある。米国にとっては、両国への核放棄圧力が失敗しそうな上、世界に核が拡散する懸念も捨てきれない。
 また、イラクやアフガニスタンへの対処のほか、各国で多発する政変など世界の激動に対処するにも膨大なカネがかかる一方、核兵器、とくに戦略核の意義は低下している。
 ゆえに、オバマ政権は核軍縮条約などで「国際世論」を味方につけ、朝鮮やイランに武装放棄を迫ると同時に、非核国が自衛のために核武装に走る動機をつみ取り、NPT体制を再構築しようとしているのである。核安保サミットにおいて、ウラン濃縮を一定の国に集約する「核燃料バンク」構想が取り上げられたのも、核拡散を阻止する狙いからである。
 ロシアは、イラン制裁で米国に同調した。核独占を維持する点では、米国、ロシアはもちろん、他の核大国の利害は一致している。


オバマ政権は核廃絶に向かわない
 核軍縮条約やNPRは、徹頭徹尾、米国の国益に貫かれたものであり、核廃絶につながるものではない。
 新STARTによる戦略核の削減は、要は「人類を滅ぼせる回数」をわずかに減らす程度のことである。しかも抜け道だらけである。米ロの軍縮がさらに進めば中国の戦略核の相対的地位が上がるが、中国を最大の「仮想敵国」とする米国の世界戦略からして核削減の限界は明らかである。射程の短い戦術核兵器の削減は軍事バランスの変動に直結するため、米ロ間とて合意のあてはない。そもそも、条約の発効には米上院での三分の二の賛成による批准が必要で、その見通しはない。
 米国は核の使用を否定したわけではない。それどころか、NPRでは「NPTを順守しない国」として朝鮮とイランを名指しし、核兵器もしくは核開発を放棄しない限り、核攻撃の対象となり得ると宣言している。これは、両国を「ならずもの国家」と呼び、核による先制攻撃を公言したブッシュ前政権と同じである。「米国が大量の核兵器を保持するための見せかけ」(イラン)という反発は当然である。
 NPRでは「安全で効率的な核兵器を維持する」「核兵器のインフラを近代化させる」とも明記され、新たな核搭載兵器の開発は続く。
 何より、帝国主義国が大量の核兵器を背景に、中小国・人民を抑圧するという世界の現実に変わりはない。だから、この「秩序」を打ち破ろうとする中小国が、核を熱望することもやむことはない。
 核兵器の廃絶は、帝国主義を打ち破ることなしに不可能である。


米戦略を支える鳩山政権
 NPRは、米国の「核の傘」に頼るわが国や同盟国に対し、米軍の前方展開の継続、通常兵力の強化、拡大抑止の提供の継続などを「条件」として求めている。
 鳩山政権はこれにどう対処するのか。
 鳩山政権は、言葉では「核廃絶」を語るが、現実には米軍の抑止力を前提としている。岡田外相は「核の先制不使用」などと言ってきたが、NPRでも、米国は中国も朝鮮も先制使用の対象国としているのである。岡田は、米軍のわが国への核持ち込みは「ときの政権の決断」などと言う。緊張が激化する世界で、米戦略にいっそう奉仕するもので、危険きわまりないことである。また、「前方展開の継続」を求める米国には、朝鮮半島から中東までをにらむ普天間基地機能の国外移設など、受け入れられるはずはない。
 しかも鳩山政権は、核物質の管理のための組織「世界核セキュリティー協会」の会議の日本開催を表明するなど、米国によるNPT体制再構築のちょうちん持ちとなっている。国連安全保障理事会の議長国となったことを幸いに、イランへの追加制裁に向けた音頭を取ってもいる。朝鮮への不当な制裁措置は、またも延長された。
 これでは核廃絶につながらないどころか、アジアをはじめとする中小国・人民の信頼を得ることもできない。
 核大国、特に米国に頼っては、核廃絶は実現できない。唯一の被爆国であるわが国においてこそ、オバマ政権と鳩山政権への幻想を捨て去り、帝国主義との闘いと結びつけた核廃絶運動の前進を図らなければならない。


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