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2010年4月5日号 2面・社説 

2010年度予算が成立

米国と多国籍大企業の
利益守り、国民には増税

 鳩山政権下で初めての予算である二〇一〇年度予算案が三月二十四日、戦後五番目の早さで成立した。
 鳩山政権は、今予算を「いのちを守る予算」などと呼んでアピールしている。与党の一角である社民党は、「社会的セーフティネット破壊路線からの転換」などと高く評価。野党の共産党も、子ども手当法案などに賛成、半ば与党化している。
 だが、一〇年度予算は「バラ色」のものではない。逆に、支配層の危機の深さが読み取れ、鳩山政権がその危機を国民各層に押しつけて乗り切ろうしていること、したがってこの政権の性格を如実に暴露している。

財政危機反映した予算
 一〇年度予算の一般会計総額は、過去最大の九十二兆二千九百九十二億円。〇九年度(八十八兆五千四百八十億円)から四・二%増加し、史上最大となった。
 歳入では、税収は三十七兆三千九百六十億円で、前年度比八兆七千億円以上も減少。このため「埋蔵金」など税外収入の十兆六千二億円のほか、新規国債発行額が過去最大の四十四兆三千三十億円に膨んだ。前年度比で十一兆円以上の急増である。
 歳出では、政策的経費である一般歳出が過去最大の五十三兆四千五百四十二億円。子ども手当の実施などで社会保障費が九・八%増の二十七兆二千六百八十六億円、農家への戸別所得補償を含む食料安定供給関係費は三三・九%増の一兆千五百九十九億円。一方、中小企業対策費はわずか一・一%増の千九百十一億円、公共事業費は約五兆七千七百三十一兆円と一八・三%の大幅減である。
 こうして、戦後の混乱期を除き初めて、当初ベースで国債発行額が税収見通しを上回った。リーマン・ショックを契機とした、大幅な景気減速による税収減が最大の理由だが、鳩山政権が、自公政権と同様の限界を持っているからでもある。

国民各層に数々の犠牲
 鳩山政権は、一〇年度予算での「成果」を宣伝している。しかし、万人に「良い」政策はあり得ない。問題は「誰が利益を得るのか」「誰が財源を負担するのか」である。
 連合を最大の支持団体とする鳩山政権だが、マニフェスト(政権公約)や「政策インデックス二〇〇九」で掲げた失業者対策の強化や最低賃金「時給千円」などは、ほとんど行われていない。今予算では、わずかに、労働者の加入する雇用保険の適用範囲を拡大した。だが、これさえ、保険料率の引き上げとセットである。厚生年金保険料と中小企業従業員が加盟する健康保険料率も上がる。仕事をもつ六十五歳以上の労働者に対する厚生年金の減額(在職老齢年金制度)分も減らされて、労働者は収入減となる。
 農家に対する戸別所得補償はコメのみで、土地改良など他の農業関連予算は削られた。しかも所得補償は、日本農業にトドメを刺す、自由貿易協定(FTA)推進が前提である。一反あたり一万五千円では、とても割に合わない。参院選での農民票対策と「実務からの農協排除」という狙いも明白である。
 「中小企業支援予算の三倍増」(インデックス)のかけ声とは裏腹に、中小企業対策費はほとんど増えていない。「中小企業憲章の制定」など影も形もなく、中小企業への法人税減税は見送られた。
 公共事業費に大ナタが振るわれ、地方を中心に中小建設業者はさらなる打撃を受け、倒産・廃業の増加は不可避である。自公政権による「高速道路千円」で打撃を受け、路線縮小や廃業などが相次ぐ高速路線バス会社やフェリー業界は、高速道路無料化で追い打ちをかけられる。


増税と抱き合わせの子ども手当
 与党が「成果」として宣伝する社会保障分野はどうか。
 鳩山政権の「目玉」政策として、中学卒業までの子ども一人当たり月二万六千円を支給する子ども手当が実施される(今年度は半額)。
 だが、財源として所得税・住民税の扶養控除の一部が廃止され、支給額は目減りする。しかも、控除廃止で見かけ上は所得が増えるため、多くの家庭で健康・介護保険料、保育料などが玉突き状に上がる。子ども手当の完全実施時には、扶養控除と配偶者控除が全廃される。子どもがいない、もしくは失業者や障害者など二十三歳以上の被扶養者を抱える家庭には増税だけが残る。要するに、低所得者層ほど負担になる。
 高校無償化も、すでに都道府県から授業料減免措置を受けている低所得世帯には利点が少ない上、公立と私立の格差も残る。朝鮮学校が不当に排除されてもいる。まして、財源として特定扶養控除が縮小され、子どもを高校に通わせることができない家庭には負担増である。
 このほか、自公政権下で決まった、国民年金保険料の引き上げも続き、これまでで最大の年五千二百八十円の負担増となる。マニフェストで廃止が約束された後期高齢者医療制度は、当面存続されるどころか、保険料は平均約二%増額され、年間で平均六万三千三百円にもなる。障害者自立支援法の「応益負担」も残る。たばこ税も増税される。
 以上の施策を平年度ベースで見ると、一兆円規模の増税となる。「羊頭狗肉(ようとうくにく)」とはこのことで、「福祉社会への一歩」どころではない。


米国、大企業に手厚い恩恵
 一方、米国と大企業の利益はしっかりと守られている。
 鳩山首相が「包括的に見直す」とした在日米軍への「思いやり予算」はそのままで、米軍再編経費は四百八十億円も増額された。米軍関連の経費総額は三千三百六十九億円と、中小企業対策費の一・七倍である。
 エコカー減税や家電・住宅の「エコポイント」、さらに研究開発減税や雇用調整助成金は、〇九年度第二次補正予算の通り継続される。自動車・電機の多国籍大企業、住宅メーカーなどには「笑いが止まらない」状況で、かれらは早速、業績を急回復させている。
 日本航空やエルピーダメモリなどの大企業は、債務免除や直接の補助金という恩恵まで受けた。自公政権下で行われた法人税軽減、輸出企業への消費税分の還付といった、大企業優遇措置も手つかずである。
 所得税の累進税率もカネ持ちに有利に緩和されたままで、株式等の配当や売買益に対する軽減税率(二〇%を一〇%に軽減)も継続される。
 鳩山政権が誰の利益を守っているか、明白である。

財政危機でさらなる国民負担
 国民への犠牲押しつけは、七月の参院選後、さらに強まらざるを得ない。
 世界経済はいまだ出口がなく、わが国経済も同様である。来年度予算の編成はメドさえ立たず、国と地方の累積債務は国内総生産(GDP)の二倍に達しようとしている。
 鳩山政権の事実上の最高実力者である民主党の小沢幹事長は、参議院選挙に勝ち抜いて政権を「安定」させ、「普通の国」をめざす策動に打って出る狙いである。それは、わが国多国籍大企業が、激化する国際競争に勝ち抜くための国内整備であり、「効率的で強靭(きょうじん)な国家」を実現することである。大企業への法人税減税はこの一環で、すでに参院選の公約となった。
 鳩山政権にとっては、大衆増税以外に道がない。「消費税率を四年間引き上げない」という総選挙公約は、反故(ほご)にされたも同然である。すでに菅財務相は、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の「改善」を掲げ、消費税増税の検討を始めた。鳩山政権は、六月にも「中期財政フレーム」と「財政運営戦略」をまとめ、税制改革、すなわち本格的な大衆増税に踏み込もうとしている。
 民主党が参院選で勝利できる保証はない。各種世論調査では、鳩山政権に対する支持率は急落している。労働組合の中でも、普天間基地移設問題などを契機として、政権への幻想がはがれつつある。
 闘いの好機である。労働組合が鳩山政権への幻想を捨て、国民的戦線の先頭で闘うことこそ、生活と営業の危機を打開する最善の道である。


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