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2010年2月15日号 2面・社説 

政権危機脱出に「輸出倍増」
掲げたオバマ政権

日本にも圧力、対米従属政治は
ますます限界に

 就任から一年たったオバマ米大統領は一月二十七日、連邦議会の上下両院合同本会議で、初の一般教書演説を行った。
 オバマは「経済の最悪期は過ぎたが荒廃は残り、(米国民の)十人に一人は職がない」と、二〇〇八年九月のリーマン・ショック以降の危機がいまだ深刻であることを自白した。彼は、演説で二十九回も「雇用(ジョブ)」という言葉を繰り返し、「雇用創出」を最優先課題に位置付けた。
 最大の雇用創出策は、「五年間で米国の輸出を倍増させる」ことである。輸出先は、昨年十一月に東京で行われた「アジア政策演説」に見られる通り、「世界の成長センター」となったアジアである。
 だが、金融依存で競争力の衰えた米国産業には、肝心の「輸出品」が限られる。オバマは「農家や中小企業」の輸出を拡大するという。アジアでの市場争奪はさらに激化し、諸国間の矛盾も深まる。「国際協調」と財政出動で小康を得ている世界経済にとって、新たな波乱要因となる。
 対米従属で、多国籍大企業のための政治を続ける鳩山政権にとっても、新たな難題である。「米指導者の焦燥とどう向き合うかが問われる」(一月二十九日付「日経新聞」社説)と身構えるなど、巨大金融機関を頂点とするわが国多国籍大企業も、戦々恐々としている。
 対米従属政治の継続で、わが国は生きていけるのか。戦略をもち、労働者階級を中心とする国民諸階層に依拠した独立自主の政権だけがわが国の進路を切り開くことができる。

背景はオバマの政治危機
 一般教書演説は、大統領が議会に対し、安全保障政策を含む内外の基本政策を明らかにするものである。
 だが、今回のオバマ演説は、国内経済の再建に三分の二以上を費やす異例なものであった。ここに、米国の内外での衰退ぶりとオバマ政権の抱える危機の深さが示されている。
 米国経済は、中小銀行の破たんが続くなど引き続き危機にある。国家財政の累積赤字は、国内総生産(GDP)とほぼ同額にまで拡大した。何より、過去二年で失業者が約七百万人も増加、千五百万人を超えた。失業率は約一〇%と、二十六年ぶりの高水準である。しかも、国民の八人に一人、三千万人以上が、食料を配給切符に頼っている。アフガニスタン占領もますます危機的である。米国には国際政治での友人がなくなっている。
 国民各層の不満は高まり、医療保険法案の成立もままならず、政権支持率は五〇%を割り込むまでに急降下した。危機の深さと国民の不満が「チェンジ」を掲げたオバマ政権を生み出したが、その不満はいまやオバマ自身に向かっている。
 これらを背景に、与党・民主党が厚い支持基盤を誇ったマサチューセッツ州の上院議員補欠選挙で敗北するほど批判が高まり、支持を失った。上院での安定多数を失い、議会運営もままならなくなった。
 オバマ政権にとっては深刻な政治的危機である。こうして、目前は、十一月の中間選挙に勝ち抜くことが至上命題となった。今回の演説と打ち出された政策は、なりふり構わぬ選挙対策でもある。

「市場争奪戦」宣言したオバマ
 問題は、輸出拡大を「どのように達成するのか」である。
 オバマは、輸出の強化のため「国家輸出戦略」を策定するとしたが、内容は、国内産業の競争力強化策だけではない。産業の国際競争力強化には時間がかかり、五年間で倍増とはいかない。だからロック商務長官は、通商法の厳格な適用で相手国に圧力をかけ、「不公正」な関税や規制などを取り除かせることや、アジアにおける多国間の貿易協定推進を表明した。実質上は、すでにドル安政策も行われている。中国の人民元への切り上げ要求も強まっている。
 これらは、他国への干渉で市場を開かせ、拡大することである。また、欧州や日本、中国などに、アジアをめぐる「市場争奪戦」を宣言したに等しい。ガイトナー財務長官は、「他国が海外市場を米国から奪うことを容認してはいけない」と、その狙いをあけすけに述べている。
 かつて、米国は自国産業保護と国際収支の不均衡是正をもくろんで、わが国に繊維、半導体、自動車、農産物など、さまざまな品目の輸出規制や輸入自由化を迫った。八〇年代末には、スーパー三〇一条による制裁をちらつかせてどう喝した。今回の「相手」は日本にとどまらないし、米国の危機もより深く、妥協は容易ではない

「国際協調」はいちだんと困難に
 だが、オバマの政策が、実際に輸出拡大に結びつくとしても時間がかかるし、結果は分からない。それでも、政権側も野党側も「保護主義」的な言動をエスカレートせざるを得ない。トヨタのリコール問題も、そうした中での出来事である。
 米中間の問題も同様である。
 オバマは二月三日、最大の貿易赤字相手国である中国に対して、市場開放のための「継続的な圧力の必要性」にまで言及、米国製品への市場開放を迫る考えを強調した。台湾への武器輸出問題、チベット問題などの懸案でも強硬である。経済と国内政治の両面から、オバマは迫られている。中国側も事態は同様である。両国は、国債買い受けや貿易などで深い相互依存関係にある。それでも国内政治からの圧力は高まり、先行きは危うい。
 米中間にとどまらず、リーマン・ショック後の危機をなんとか押しとどめてこれたのは、財政投入と「国際協調」だった。「協調」はこれまでも怪しかったが、ますます困難になる。二十カ国・地域(G20)会合などで繰り返し強調されている、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド交渉の合意も、いっそう難しくなろう。
 最大の経済国米国のこの選択で、「協調」が緩やかな地域主義にとって代わらざるを得ない流れは、いちだんと加速することになった。


対米従属政治の打開が求められる
 この国際環境に、わが国は対応を迫られている。直接にも、米国の「輸出倍増」構想は、日本に対しても円高と内需拡大要求、農産物の輸入拡大要求などとして襲いかかる。
 円高などは、わが国輸出産業に打撃になるというだけでなく、輸入増となれば細々と営業する内需型産業にとっては脅威である。「アジアは内需」などと言うわが国多国籍大企業は、アジア市場争奪に備えて、いちだんと進出策を進める。かれらはアジアでももうけを探るだろうが、日本国内はますます空洞化、中小下請けには仕事がなくなり、労働者の職は失なわれる。賃金や労働条件は「アジア並み」に引き下げられる。
 コメ、牛肉をはじめ、小麦、落花生などの関税引き下げ、市場開放となれば、日本農業はトドメを刺されよう。これまでもそうだったが、米国が農産物輸出を増やそうと思えば、コメなどわが国の市場開放が手っ取り早い策だからである。
 すでに、クリントン国務長官は岡田外相に対し、環境対応車(エコカー)への補助制度の適用対象として米国車を拡大することを要求した。日本側は受け入れたが、カーク通商代表部(USTR)代表は、まだ少ないと不満を述べている。牛肉問題でもやりとりが進んでいるようだ。
 アジア市場をめぐる日米間の競争も、欧州や中国もからんで激化する。


 対米従属、多国籍大企業のための政治では、国民諸階層の生活と営業はますます成り立たなくなる。
 財界が求め、鳩山政権がマニフェスト(政権公約)に記した日米自由貿易協定(FTA)など論外で、オバマ政権を助け、わが国多国籍大企業に利益を与えるものである。
 国民の自公政権への不満を引きつけて成立した鳩山政権だが、すでに馬脚をあらわし、いちだんと厳しい内外環境の下に追い込まれる。
 鳩山政権に頼っては、労働者・国民の願いは実現できない。労働者階級は鳩山政権への幻想を捨て、自らの要求を掲げて実力で闘おう。


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