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2010年2月5日号 2面・社説 

多国籍大企業の意を受けた
施政方針演説

国家機構の大改革、
対米従属外交の継続狙う

 鳩山首相は一月二十九日、通常国会に際しての初の施政方針演説を行った。
 財界は演説を、「政治理念を述べることは非常に大事」(桜井・経済同友会代表幹事)などと高く評価した。鳩山政権が行う政策のすべてが、この演説で述べられているわけではない。それにしても、演説には、鳩山政権がわが国支配層から託された核心的課題があげられ、首相はそれを推進することを言明した。
 他方、鳩山政権にとって当面は、「すべては参議院選挙」である。政権支持率は大幅に急落しており、この回復は緊急課題で、演説でもそれは重要な要素であったろう。しかし、財政は容易ならざる事態である。「いのち」の乱発はそれを示している。生活困窮の有権者に、カネをかけずに幻想的期待を持たせようと必死なのである。
 参議院でも民主党単独で過半数の議席を手に入れ、社民党などに配慮することなく、巨大金融機関を頂点とする多国籍大企業のための政治を行うことこそ、政権を主導する小沢・民主党幹事長の狙いである。
 だが、小沢にとって、自身の腐敗露呈を含めて、環境は急速に悪化している。
 労働者・労働組合は、鳩山政権へのいっさいの幻想を捨て、実力による闘いを準備しなければならない。

「官邸主導で責任ある政治」めざす
 鳩山首相は演説で、二〇一〇年度予算で社会保障費や文教科学費をわずかながら増額したことについて、「いのちを守る予算」などと自賛した。さも、「福祉の充実」へと踏み出したかのようである。だがそれは、選挙の票目当てであって「絵に描いたもち」に過ぎない。
 施政方針のポイントは、「新たな国づくりに向け」「官邸主導で責任ある政治」をめざし、「地域主権の実現」を「国のかたちの一大改革」と位置づけたことであろう。
 とくに「規制や制度」や「行政組織や国家公務員」のあり方を見直し、「幹部人事の内閣一元管理」「官邸主導で人材を登用」を打ち出した。「府省再編」もある。昨年の所信表明演説で掲げた「戦後行政の大掃除」の「本格実施」である。
 この持つ意味は重要である。
 自民党は野に下ったが、自民党が残した国家行政組織と財政赤字はそのままである。既得権を脅かされた官僚たちはさまざまに画策し、抵抗もしている。
 権力を官邸に集中し、強力な権力基盤を築くことは、一九九〇年代以来の小沢の一貫した戦略課題だった。財界、支配層は、国際的地殻変動のこの時期に、安上がりで、強靱(きょうじん)さと能力をもつ国家を求めている。これなしに、大企業・金融独占体が国際市場で勝ち抜くことは困難だからである。
 財界、支配層は、その解決を鳩山政権に期待している。ヨタヨタした鳩山政権だが、その期待に応えることを改めて宣言したといえる。
 また、国会の議員定数削減問題もそ上に乗せた。強力で安定した議会、保守二大政党制の強化をめざす狙いだ。
 地方制度改革、「地域主権型」への変革は「改革の一丁目一番地」と位置づけた。自民党政権時代の「中央政府と関連公的法人のピラミッド体系」を改革しようというもので、地方首長を引きつける狙いもある。すでに、原口総務相を議長とする「地方行財政検討会議」が発足、地方民主主義の空洞化につながる、議会改革などの審議が始まっている。
 これはまさに、小泉政権が「三位一体改革」で手がけようとして十分には果たせなかった改革である。
 さらに参院選後には、「財政運営戦略」を策定し、消費税増税など国民犠牲による「財政再建」の道筋を示すという。
 このように、鳩山首相が施政方針演説で掲げた諸課題の核心は、制度疲労が限界に達し、カネがかかりすぎる国家行政機構、関連組織の大改革である。多国籍大企業が国際競争力を高めるための策略を見抜かなくてはならない。
 小泉元首相が、「小泉構造改革を忠実に継いでいるのは民主党」と述べたのには、根拠があるのである。

対米従属外交の継続を表明
 外交安保政策では、マニフェスト(政権公約)などで掲げた「自主外交」「対等な日米同盟」は言葉としても消え去った。それは選挙には役立ったが、確固たる戦略もなく、日米関係を難しくしただけだった。
 今回、「重層的な同盟関係へと深化・発展」という同盟強化の方針だけが明示された。二十一世紀にふさわしい「深化」というが、内容は見えない。
 しかも米国の衰退と国際政治での力の低下は著しい。米国は、最近発表された「国防計画見直し」(QDR)で、核による「拡大抑止」といい、ますますわが国など同盟国を縛りつつ、「反テロ」などの世界戦略に対する負担をいっそう求めようとしている。
 確たる戦略もなく、基盤も揺らぐ鳩山政権は米国にどう対処するのか。「対等」とか「自主外交」は本質的にあり得ない。安保改定五十周年での「同盟深化」とはこうした中でのことで、一部が幻想するような、なにか「新しい日米関係」が始まるわけではない。
 懸案の普天間基地(沖縄県宜野湾市)問題についても鳩山首相は、「日米同盟関係を基軸として、わが国とアジアの平和を確保しながら」と露骨に言い、沖縄県民の負担軽減ではなく日米同盟・基地機能維持のための「五月末までに決定」を明言した。
 鳴り物入りだった「東アジア共同体」についても、日米同盟が「形成の前提条件」と明言した。これも選挙政策としては良かったが、歴代政権のアジア政策と同じ運命が早くも見えてきたようだ。
 これまでも、わが国独占企業のアジア展開に伴って、さまざまなアジア外交が模索された。だが、米国の妨害を打ち破れず腰砕けとなった。戦略と労働者階級を中心に国民的基盤をもった政権でなくては、日米安保を破棄し、自主的なアジア外交はあり得ないことを示している。
 いま米国は、オバマの一般教書演説でも打ち出されているが、深刻化した失業問題をアジアへの輸出倍増で乗り切ろうとしている。アジアは「失業の輸出先」であり、いっそうの市場争奪は避け難い。米国は、自らの権益を揺るがすような経済や政治、安全保障システム変更を容易に認めないであろう。
 鳩山政権の外交政策は、米国の衰退が進む中で戸惑いや模索もあるのであろうが、対米従属の枠内という根本は、旧自民党政権と大差ない

政権を取り巻く内外環境は危機的
 こうした鳩山政権だが、その環境は容易でない。
 リーマン・ショック以後の世界的危機は、「安定」を取り戻すどころか、いつ谷底へ転落するか分からない不安定さである。中国など新興国のバブルも危ういところにきている。各国は危機脱出に必死で、「国際協調」は瀬戸際である。アジアでの争奪は、ますます激化せざるを得ない。
 当然ながら、わが国経済も「出口」が見つかっていない。財政は、このままでは一一年度予算案の策定すら、ほとんど不可能である。
 鳩山政権に対する国民各層の幻想が、急速にはがれている。参議院選挙に勝ち抜ける保証すらない。
 労働者には低賃金と失業が押しつけられ、これと闘えず「民主党支持」を押しつける連合中央指導部はいつまで統一を保てるのか。
 「コンクリートから人へ」の政策で打撃を受けた中小建設業者など、民主党政権に期待した農民や中小業者も、急速に失望へと転じつつある。消費税増税となれば、さらなる反発は避けられない。沖縄県民の怒りは頂点に達しようとしている。
 小沢幹事長や首相自身による「政治とカネ」問題は、広範な人びとを民主党から離反させている。
 鳩山政権を取り巻く環境は危機的で、先行きはきわめて不安定なのである。闘いだけが展望を切り開く。
 鳩山政権への幻想を捨てて闘おう。


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