ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2009年12月5日号 2面・社説 

オバマ政権、争奪激化する
アジア市場に関与強める

米国の手先としてでなく、
自主的進路を

 オバマ米大統領は十一月十二日から九日間、日本、シンガポール、中国、韓国の四カ国を歴訪した。
 オバマは、最初の訪問地となった日本で、アジア政策をめぐる演説を行った。それは、米国を「太平洋国家」と位置づけ、自身の、ハワイで生まれインドネシアで育った経歴を引き合いに「米国最初の太平洋地域の大統領」を自認した。わずか四十分の演説中、オバマは十七回も「太平洋」と繰り返したのである。
 「アジア重視」の姿勢は、以降の中国などアジア諸国歴訪においても一貫していた。これは、こんにちの米国の抱える危機の深さを反映している。米国は、アジアへの関与を強め、米多国籍大企業のための市場を確保しようとしているのである。
 だが、世界の多極化は完全に定着し、争奪が激化している。米国のこの思惑がうまく運び、危機を打開できるというあてはない。
 肝心なのは、わが国の進路である。対米従属政治を打ち破り、独立・自主の国の進路をめざすことは急務となっている。

アジアへ関与強化を宣言したオバマ
 先進各国が軒並みマイナス・低成長となる中、アジアは四・四%(二〇〇九年)、六・六%(一〇年)という、比較的高い成長率が予想されている。アジアは、さながら「世界の成長センター」となっている。
 オバマの歴訪の狙いは、このアジアへの関与を強め、自国の危機を脱却するためのものである。
 シンガポールで行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、米国はシンガポール、チリ、ニュージーランドなどとの締結を検討している環太平洋規模での自由貿易協定(FTA)である「環太平洋戦略的経済パートナーシップ」(TPP)を主導することを明言。次いで、東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議を開き、経済制裁を続けるミャンマーとも同席した。米大統領が、ASEAN十カ国のすべてと首脳会議を行ったのは初めてである。
 胡錦濤・中国主席との会談では「戦略的信頼関係」をうたう共同声明を発表した。オバマは、かねてから米国が求めてきた人民元改革問題を声明に盛り込まず、チベット問題でも、中国への配慮を見せた。
 李明博・韓国大統領との会談では、FTA批准などを協議した。
 また、二十四日には訪米したインドのシン首相と会談、対中けん制の狙いも込めて「戦略的協調関係」をうたった。
 一連の外交で、アジア市場への関与に対する、米国の並々ならぬ決意は明白である。オバマ大統領は歴訪前と同様、帰国後の二十一日にも、「アジア太平洋地域への輸出拡大は、国内の雇用創出を増加させる」と、その狙いをあけすけに述べた。

クリントンに似た「アジア重視」
 オバマ大統領の「アジア重視」は、クリントン政権を想起させる。
 政権二期目の一九九六年四月、クリントン大統領は日本の衆議院で演説した。彼は「米国の貿易の五〇%以上は太平洋諸国との間で行われており、米国において三百万の良い雇用を支えている」と述べた。
 「アジア重視」の姿勢を打ち出し、その発表を日本で行ったこと、アジアへの関与を米国内の雇用と結びつけた点、日本との間では普天間基地(沖縄県宜野湾市)など安全保障問題が懸案となっていたことなどは、今回のオバマ政権と似ている。
 当時、冷戦が崩壊して旧社会主義国の市場が開放され、中国も九三年を機に大規模な対外開放政策に踏み切ったことで、列強の課題は安全保障から経済へと移っていた。こうした中、アジアは九七年の通貨危機の前夜で、先進国からの膨大な投資を呼び込んで成長していた。
 クリントン政権は、九三年にシアトルでのAPEC首脳会議を主催、安全保障面でも、九五年に中国を包囲する「東アジア戦略」を策定するなど、アジアへの関与を重視する政策を採っていた。演説は、この戦略をいっそう明確にさせた。
 後任のブッシュ(子)政権は、アフガニスタン、イラクへの侵略戦争とその後の対応に追われ、アジア政策どころではなかった。ブッシュ政権は〇七年のASEANとの首脳会議をキャンセルしたほか、ASEAN関連の会議を二度も欠席せざるを得なかった。
 ASEAN諸国が今回の米国を「アジア回帰」と受け止めたのには、理由があるのである

「アジア重視」は衰退が背景
 だが、米国の現状は、クリントン政権当時とは大きく変化した。
 〇七年夏のサブプライム・ローン問題発生、さらに〇八年九月のリーマン・ショック以降、米国の衰退はいっそう鮮明である。世界中から還流させた資金を元手に、IT(情報技術)バブルや不動産バブルを実現できた九六年以降の米国の状況とは、大きく異なる。
 現在、米政府は、危機対応の公的資金注入、景気刺激策などに大わらわだ。米国の象徴であったゼネラル・モーターズ(GM)は、事実上の国有下にある。「問題銀行」はなお五百行を超え、倒産は増加、失業率は一〇%を超えた。しかも、ドルへの信認はかつてなく揺らいでいる。ブッシュ政権の「ツケ」である、アフガンやイラク、イランへの対応もままならず、「手が伸びきった」状態である。オバマ政権への支持率も急落、五割を切った。雇用の確保など、経済・社会の安定化策は至上命題である。
 一方、九六年当時には想定されていなかったほどに、アジアでは中国が台頭、「G2」と言われるほどになった。米国は、本質的には中国を包囲・けん制しつつも、膨大な財政赤字を補うため、中国に米国債購入を頼まざるを得ない。
 こうした「出口」の見えない経済状況と、矛盾に満ちた対中外交のまま、米多国籍大企業はアジアを「成長が期待できる」と見なし、「活路」を見い出している。オバマの役割は、その「露払い」である。
 だが、アジア市場への参入で苦境を脱却できる保証はない。ASEANは当面は米国を必要としているが、独自の結束も強めており、米国の思い通りにはならない。また、アジアへの参入は米国内の産業空洞化をいっそう進め、階級矛盾の激化につながらざるを得ない。

対米追随・アジア敵視から脱却を
 欧州連合(EU)・中国首脳会議が開かれるなど、ヨーロッパ諸国もアジア参入を急いでいる。巨大金融機関を頂点とするわが国多国籍大企業にとっても、アジア市場は希望である。成長するアジアをめぐる争奪は、かつてなく激化している。
 こうした中、米国はこれまで以上に、日本をアジア関与のための足がかりにしようとしている。日米首脳会談で合意された、来年の日米安保条約改定五十周年を機とする「同盟関係の重層的に深化」のための政府間協議とは、そのための地ならしとなろう。米国は、日本が独自に対アジア政策を採ることを許さず、TPPに取り込むなどで抑え込み、アジアをめぐる中国との綱引きを有利に進めようとしている。
 その日米関係も安泰ではない。普天間基地移設問題の解決は先送りされ、インド洋での給油活動の代替措置も決まっていない。沖縄県民の基地撤去を求める声は、新たな高揚を見せつつある。
 問われるのは、わが国の進路である。
 鳩山政権は「東アジア共同体」を掲げるが、米国のアジアへの関与を前提とする欺まん的なものである。「日米同盟の強化」を掲げる鳩山政権では、限界は明らかである。普天間基地をめぐる問題も、「落としどころ」を探っているにすぎない。
 世界は多極化し、日本にとっても、外交の選択の幅は広がっている。だが、鳩山政権は自民党政権と大差ない対米追随で、アジア諸国を恐れ、べっ視している。朝鮮との国交正常化さえできずに敵視・制裁し、中国をけん制している。ドル体制からの脱却など思いもよらぬようで、今また円高に揺さぶられ、急場の対応に追われている。
 鳩山政権の対米従属政治を打ち破り、アジア規模での内需拡大、ドルに揺さぶられない体制をめざすことは急務である。アジアとの真の共生が求められている。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2009