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2009年10月15日号 2面・社説 

八ツ場などの一方的なダム事業
凍結に反対する

 鳩山政権は「ムダ排除」を掲げ、公共事業削減などを矢継ぎ早に打ち出している。とくに、群馬県の八ツ場ダム問題は、鳩山政権にとって「政権交代」を印象づける上で典型ともなっている。
 「ムダ排除」は当然で、長年の自民党政権の「政官業の癒(ゆ)着」や官僚の「天下り」も許し難い。
 しかし問題は、この政権の「ダム凍結」で誰が利益を得るのか、誰が犠牲になるのか、誰のための政策なのか、である。
 マスコミも、一連の政策が国民のためであるかのように世論を導いている。連合も同様の立場だし、建設的野党だという共産党も、事実上鳩山政権を支持している。
 他方、一方的な「中止」「凍結」決定に対して、国策に翻弄(ほんろう)され続け、先祖伝来の土地を追われ生業を奪われた地域住民はもちろん、関係自治体や首長も戸惑い、反発している。地域の建設業者、関連事業者への打撃も必至だし、雇用にとっても重大な影響があり、疲弊(ひへい)した地域経済はさらなる崩壊の危機に直面する。
 鳩山政権の政策の一つひとつが、具体的に誰のためのものか、しっかりと見抜かなければならない。

独占企業の復興に貢献したダム
 現在、日本には約三千のダムがある。
 戦後の主要なダムは、一九五〇年代初頭の国土総合開発法を契機として建設された。五六年に完成した佐久間ダム(静岡県・愛知県)、同年に着手された黒部ダム(富山県)が代表例である。
 これらのダムは、戦後復興とその後の高度成長に不可欠なインフラ整備の一環で、石炭と並んで製造業復活のためのエネルギー需要に応えることを主目的に「国策」として強行された。これに対して、土地を一方的に奪われ生活を破壊される地域住民は、全国至る所で抵抗した。当然、労働運動もこれに呼応した。
 林業や農業で細々と暮らしていた地域住民を犠牲に、製造業大企業は膨大な血税を投入したダムで電力を安価に手に入れ、復活をとげ、成長した。ダム建設は、戦後の日本独占資本の資本蓄積にとって、不可欠な投資の一環だった。
 しかし、五〇年末代以降、中東の原油の支配権を握った米国はわが国に圧力をかけ、エネルギー源を石油に転換させた。かくしてダムの中心目的は、工業用水や水道水の確保、治水などに移った。
 だが、七〇年代初頭のオイルショック以降、水需要、とくに工業用水は伸びなくなり、製造業大企業にとってダムの必要性は低下する。
 大銀行を頂点とする製造業大企業の利益、発展にとって、ダム建設はもはやまったく不要となった。巨大金融資本にとっては、どこで労働者を搾り取り利潤を上げるかこそが関心事で、資本蓄積の手段が変わったのである。身勝手にも手のひらを返して、ダムを「ムダ」扱いするようになった。
 連中にとっては「渇水・洪水対策」など口実に過ぎない。こんにち「凍結」が問題になっているダムの大部分は、水資源確保や治水を名目とする計画が積み残したものだ。
 そこには膨大な利権があり、自民党族議員と大手ゼネコン、官僚が一体となって計画を進めた。売国政策で衰退した林業や農業で成り立たなくなった地域は、こうした事業などで辛うじて生き続けさせられた。

改革求める財界、多国籍大企業
 一方、製造業大企業は、八五年の「プラザ合意」を機に、また冷戦終焉後の「大競争」に直面して、電機産業から始まり自動車産業などいっせいに海外進出を本格化させ、海外に投資し、そこで稼ぐ多国籍大企業として成長した。
 かれらは、激化する国際競争に勝ち残るため、本拠地である国内の「整備」を望んだ。「官から民」「中央から地方」といった行財政改革と社会保障切り捨てや消費税増税など国民への犠牲で安上がりな政府をつくり、それを通して、巨大金融資本を頂点に多国籍大企業が国際競争に勝つための強力な内政と外交を、効率的に行わせることである。
 財界は九〇年前後から「改革」を要求し始めた。
 国と地方の財政再建も急務となった。財界には「癒着」の改革も必要であった。腐敗に対する国民の怒りも考慮せざるを得なかった。
 二〇〇二年、二つの財界団体が日本経団連として合併、多国籍大企業、トヨタ自動車の奥田会長がトップに座った。財界はよりいっそう強力に改革断行を迫った。

自民党は要求に応えきれなかった
 自民党の長期政権は、大企業のための政治を行いつつも、農民や中小企業などに財政支出で所得を再配分して引きつける「利益分配型」の政治によって、支配を維持してきた。官僚もその中で甘い汁を吸った。
 財界の要求する改革は、その「利益分配型」「癒着」を国際競争力強化のために止めろというものであった。しかし、それでは自民党の選挙は成り立たず、官僚も甘い汁を失う。自民党政権の下では、改革は遅々として進まなかった。
 村山から政権を引き継いだ橋本首相は九七年、「六大改革」を掲げ、財政構造改革法を成立させて公共事業も削減の方向を打ち出した。ダムの新規計画は事実上ゼロとなったが、従来からの計画の多くは中止されなかった。消費税増税の反発もあって参院選で橋本政権は倒れ、小渕・森政権で財政赤字は拡大した。
 財界の強力な後押しで、小泉政権は郵政民営化や地方交付税削減など、国民に犠牲を押しつける構造改革を進めた。公共事業も削減された。それでも、ダムと並んで財界が求めた道路公団民営化では、道路建設計画はそのまま維持されるなど、きわめて不十分なものとなった。
 奥田会長という強力な後ろ盾のあった小泉でさえ、既得権を侵される自民党や官僚の抵抗を押し切れなかった。逆に、小泉改革への国民の不満も高まった。引き継いだ安倍、福田、麻生の各政権は、改革政治で噴出した矛盾の対応に追われた。
 そうした中、国際競争はいっそう激化し、リーマン・ショック以降の荒波が襲った。財界にとって「改革」はまったく中途半端なままで、まさに「待ったなし」となった。
 鳩山首相誕生の前日九月十五日、日本経団連は「新内閣に望む」を発表、「改革を後戻りさせるな」と改めて号令を発したのである。


財界に応えようとする鳩山政権
 こんにち、財界は「改革」の宿願を民主党政権に託している。
 先の総選挙の際のマニフェスト(政権公約)では「コンクリートではなく、人間を大事にする政治」といって、官僚批判と併せて、八ツ場ダムなどの「中止」を打ち出した。
 非常に巧妙な公約であった。
 ムダ排除は結構だし、「癒着」批判、何より「子ども手当」など「国民の生活第一」の旗印が、生活苦の国民の共感を得たのは当然だった。
 すでに述べたように、それは大銀行を頂点とする財界、多国籍大企業の要求に従ったものでもあった。だから、桜井・経済同友会代表幹事は、ダム建設「中止」について「優先度の低い政策を生み出している背景、すなわち制度自体の問題をも見直し」ていると絶賛した。「制度」の見直しということを評価し、政策の本質を言い当てている。
 鳩山政権は、自民党にはできなかった「大改革」を行おうとしているのである。小泉元首相も分かっており、「構造改革を忠実に継いでいるのは民主党だ」と述べ、鳩山政権の役割を言い当てている。
 それにしても、国民が誰も犠牲にならないのなら、期待の高い「ムダ」排除にあえて「凍結反対」を言う必要はないかもしれない。
 だが、一方的「凍結」に、地元の地方自治体が反発している。国策に翻弄され「生かされてきた」地域が、この仕打ちに反発するのは当然である。建設業など地域経済に大打撃であり、この大失業時代に雇用の場も失われる。自民党政治下での農業破壊、さらに小泉政権下の地方交付税や公共事業費削減などの地方切り捨て政策、これに昨年秋以来の打撃が加わり、さらに今回である。
 地方はすでに疲弊しきっている。生活の糧を根こそぎ奪われるに等しく、怒りは当然である。われわれはその怒りと要求を断固支持する。

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