ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2009年10月5日号 2面・社説 

国際政治での米国の
主導権喪失は急速

「日米基軸」の鳩山政権、
世界のすう勢に立ち後れ

 米ピッツバーグで第三回主要二十カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)が行われ、前後して国連総会など一連の国際会議が行われた。鳩山新首相が参加、マスコミは「外交デビュー」と持ち上げた。
 だが、一連の国際懸案、とりわけ経済金融危機の打開は容易でない。
 今サミットでは、金融規制問題、国際通貨基金(IMF)などにおける新興国の発言権拡大、国際的不均衡の解決などで合意が図られたという。しかし、危機打開は保証されていないし、各国はそれぞれの「国益」をかけて立ちまわった。一連の会議を通して、米国の主導権喪失と諸国間の利害対立、矛盾の激化が改めて浮き彫りになっている。G20は、世界の激変、米国の衰退と重心の移動、大国間の争奪激化、多極化を改めて印象づけた。
 「温暖化ガスの二五%削減」で拍手喝采(かっさい)を受けた鳩山首相だが、激変する国際社会に対処する、国民の利益を基にした明確な路線がないことが露呈した。「アジア重視」などと言うが、オバマ大統領に「日米基軸」を誓約したように、これまでの歴代自民党政権と変わらぬ対米従属政治を継続する意思を示した。「外交デビュー」は、日米同盟路線の限界を早くも露呈させるものとなったのである。
 国際社会は激変・再編が進み、わが国の歴代政権が採ってきた対米従属政治をますます時代錯誤のものとさせている。
 わが国の危機を打開するには、戦後の対米従属政治を清算する以外にない。

金融サミットでの協調と限界
 昨年九月のリーマン・ショックを機に、米国初の金融危機は全世界に広がり、世界的恐慌に発展した。
 この危機に対処するためにということで「金融サミット」が十一月、米国で開かれた。主要国(G8)だけでは対処に限界があり、中国やインドなどの新興国を巻き込むことが必要となったのである。今年四月には第二回サミットが開かれ、今回が三回目の会議であった。
 この過程で各国は、金利引き下げ、金融機関への公的資金投入や国有化、不良資産買い取りなどを矢継ぎ早に行い、また、膨大な額の財政投入による景気対策で世界経済は破局を免れ、何とか保っている。今のところ、一九三〇年代のような深さの世界恐慌にまで落ち込んでいないのは、金融サミットなどによる「国際協調」がまがりなりにも維持されているからである。
 それでも、先進諸国は軒並みマイナス成長で、新興国の成長率も大幅に鈍化した。実体経済は「回復」どころか、「二番底」さえ予想されている。
 しかも、一連の危機対策の結果、各国の財政赤字は急増、不良資産を買い取った中央銀行の資産内容は悪化した。他方、金融緩和で「カネ余り」は度を増し、巨大金融機関はまたも投機に走り始めた。通貨は著しく不安定となっている。先進各国の大銀行、多国籍大企業は再編を強めつつ新興国に殺到、市場争奪は激化している。

諸国間の矛盾は激化
 各国は国際協調をどこまで維持できるか。目前の危機乗り切りでは「協調」しているが、それぞれ国益を貫こうと争いを激化させてもいる。
 金融規制や財政出動の規模をめぐって、米欧はことあるごとに対立、新興国は発言権拡大を急いだ。サミットのたびの合意にかかわらず貿易と金融での保護主義は拡大、各国は相互不信の種をまき散らしている。米ドルに代わる基軸通貨をめぐる闘争も激化している。第二次大戦後の米ドル体制は末期となり、独自の共通通貨を持つ欧州諸国をはじめ、新興国も模索を強めている。
 今回の金融サミットも同様で、協調の一方で激しい矛盾が露呈した。
 「国際的不均衡」の解決が明記されたが、各国間の為替調整は容易でなく「通貨安競争」の懸念すら高まっている。
 金融規制問題では、金融派生商品(デリバティブ)やヘッジファンドなどへの規制強化は、金融が産業の中心である米国の反対で明記されなかった。銀行幹部への報酬抑制では合意したが、何の実効性もない。
 一方、銀行の自己資本規制の強化が、二〇一二年末までに段階的に実施されることになった。
 かつて、八〇年代から九〇年代にかけて急速に強大化しつつあったわが国金融機関は、自己資本比率をめぐる八八年の国際決済銀行(BIS)規制で欧米諸国に狙い打ちされ、一時期国際市場からの後退を余儀なくさせられた。今回の自己資本規制強化も同様で、この危機での打撃が欧米金融機関に比べて小さく、国際展開を強めているわが国金融機関を狙い打ちしたものである。
 他方で、中国など新興国のIMFへの出資比率を引き上げ、発言権を強化することでも合意した。発言権が小さくなる欧州諸国は難色を示したが、新興国の発言権の強まりは阻止できない。欧州の発言権縮小は、米国にもとりあえずは有利である。
 金融サミットの定例化も決まり、G20は「国際経済協力の第一フォーラム」となった。世界経済を議論する場は、G8からG20へと移り、G8の役割は著しく低下することになる。とくに、日本のアジアにおける比重は大幅に低下することになる。
 米国を筆頭とする帝国主義諸国の力の低下はおおい難い。新興国が経済・政治の両面で台頭した世界で、共通通貨・ユーロをもつ独仏などの欧州は独自性を強め、また、新興国ではあるが中国やロシアなども争奪に加わり、多極化は急である。テンポはともかく、国際協調は崩れ、地域主義に取って代わられるだろう。
 この世界で衰退する米国には、国際的な「友」はおらず、主導権をますます喪失している。
 「日米基軸」などといってきたわが国はどうするか。歴代政権が採ってきた対米追随政治からの脱却が迫られている。

鳩山政権は難題を解決できるか
 だが、鳩山首相は、日米首脳会談で「日米同盟堅持」を確認し、その「深化」を約束した。政権の進歩的な装いにもかかわらず、時代錯誤もはなはだしい。
 首脳会談は、「経済危機克服への協調強化」でも合意した。さっそく藤井財務相は、ガイトナー米財務長官にドル体制を支持すると表明。九月二十九日、財務相顧問に八〇年代中盤以降のドルを支える売国政治の張本人であり、昨年の第一回金融サミットに麻生首相によって政府特使として派遣され、ドル体制を守るために奔走した、行天・元大蔵省財務官を据えた。歴代自民党政権以上の対米従属政権とならない保証はない。
 北澤防衛相は、沖縄の普天間基地の移設問題をめぐって「現実を見失うのは得策ではない」などと発言、辺野古への移設に伴う環境影響評価(アセスメント)手続きも続けることを表明した。「沖縄県外への移設」というかねてからの発言を撤回することをにおわせるものである。この問題では岡田外相もいろいろ言っているし、前原沖縄問題担当相(国交相)も再度「県外移設」の検討を表明するなど、定まっていない。アフガニスタン占領支援、インド洋給油問題も絡んで、政権内の矛盾を露呈させることになる。
 鳩山首相が掲げた「東アジア共同体」構想は、またも米国からの批判にさらされている。世界で存在感を増した中国は、この構想に対して、米国をにらみつつ国益に沿って対処しており、鳩山提案は軽くいなされた格好である。鳩山政権は、その腰が定まらぬ姿勢を見抜かれている。
 国民の期待が高い鳩山政権だが、「国益」にかかわる重大な問題で早くも迷走し、「日米同盟」路線の限界が見え始めている。
 労働者、労働組合が、対米従属政治の転換を求める国民的戦線を形成して闘ってこそ、危機を打開し、わが国の新しい進路を切り開くことができる。

Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2009