ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2009年9月25日号 2面・社説 

鳩山新政権が成立

「日米同盟堅持」で
国民の期待に応えられるか

 民主党の鳩山代表が九月十六日、内閣総理大臣の指名を受け、三党連立政権が誕生した。
 新政権は「脱官僚」などで「変化」を演出している。マスコミの調査による内閣支持率はいずれも七割以上と、歴代二位の高さだ。連合中央幹部はもちろん、「左派」とされる労組の多くも歓迎のようである。共産党も「建設的野党」から一歩踏み込んだようだ。だが、高支持率は「ご祝儀」としてもやや異常で、万事「これから」の過渡期である。
 有権者を意識する新政権・与党は、約束した政策をほごにはしにくい。だが、内外環境は危機的で政策実現の条件は乏しく、経済を支配する財界は「豹変(ひょうへん)」を求めている。鳩山首相は、歴代首相と同じように早速訪米し「日米同盟堅持」を強調した。
 国際競争への対処を迫られる大銀行を頂点に大企業・財界が経済を牛耳り、かつ「日米同盟関係」を政権合意にした鳩山新政権には制約と限界だらけである。
 労働者・労働組合は鳩山政権を見定め、闘いに備えよう。

有権者をそうは無視できない
 長年の対米従属政治下、特に二〇〇七年来の危機の犠牲を押しつけられた労働者、国民諸階層の苦難と怒りが、自公両党を下野に追い込んだ。国民は変化を求めた。「生活支援」を掲げた、新政権への要求と期待が高まるのは当然である。
 とくに鳩山政権は、連合が支持する初めての政権となる。電機連合出身の平野官房長官をはじめ、自動車総連、UIゼンセン同盟などの連合中核単産の出身者が入閣した。連合中央幹部は政権交代への幻想をあおってきた「ツケ」を払わずに、組合員を納得させられるであろうか。
 来年は参議院選挙である。政権与党もそれを意識せざるを得ない。連合にもうひと働きしてもらわなくてはならないのである。
 鳩山政権の政治は、一般的に、こうした有権者・支持団体の期待、世論を無視できない。

新政権は同じ危機を引き継いだ
 しかし、鳩山政権は、麻生前政権と同じ経済、社会の基盤の上で成立し、その制約、限界も引き継いだ。できることには客観的限界がある。
 世界経済の「回復」が言われるが、波乱に満ちている。大銀行への血税注入、財政出動で辛うじて崩壊をまぬがれているが、投入したカネの後始末が難問だ。むしろ「二番底」が現実味を帯びつつある。
 危機後をにらみ先進国資本は新興国に殺到、それは新たな矛盾を引き起こす。金融規制や基軸通貨問題、保護主義問題などで大国間の対立が激化し、米国の衰退は明白で新興国が台頭、かつてない多極化が進行している。争奪激化の世界である。
 この世界に、わが国多国籍大企業は対応を急いでいる。米国の過剰消費で繁栄してきた大企業は、雇用と設備という「二つの過剰」の解決を労働者と中小零細企業に押しつけ、新興国へのシフトを強めている。わが国労働者の賃金は、新興国労働者との「競争」にさらされている。
 「内需拡大」というが、国と地方の債務残高は約八百兆円、国内総生産(GDP)の一・五倍以上で、先進国中最大だ。政治の出番は限られている。
 この経済の基礎の上で、新政権の選択の幅はきわめて狭い。

争奪激化に競争力強化求める大企業
 経済の実質を握る、大銀行や大企業の要求を無視した経済運営は不可能である。マスコミ次第の選挙による政権であり、財界の機嫌は損ねられない。民主党は「豹変」の呼びかけに、選挙中から次々に応えた。
 いま財界は「人的パイプ」が少ないことから、新政権との距離感を測っている。それでも、成長戦略を求めている。規制改革、財政再建、消費税増税や法人税率引き下げなどを要求。多国籍大企業は、政治が要求に応えない限り「海外に出ていく」と脅かす。グローバル競争を口実に、参院選も待てないという。
 長期的に、鳩山政権はこの財界の要求を拒否できない。支配的階級が替わったわけではないのである。


政権の担い手たちは自民党と同じ
 その鳩山政権の主要な顔ぶれは、元自民党田中・竹下派である。鳩山首相をはじめ、財務相、外相、防衛相の主要閣僚、民主党を掌握した小沢幹事長もである。
 藤井財務相は「官僚中の官僚」と言うべき元大蔵省事務次官だが、財務省特別顧問に行天・元大蔵省財務官を任命した。かれは一九八五年プラザ合意以降の「マネー敗戦」と言われる、米国に貢ぐ売国政策を実行した張本人である。その後、旧東京三菱銀行の発足など金融資本巨大化の手先となり、昨秋には麻生政権の内閣参与として「金融サミット」特使を務め、米ドル体制を守るために奔走した「通貨マフィア」だ。
 これが新政権の主要な実体で、人物まで自民党政治と同じだ。これまでの財界中心の売国政治と本質的に違った政治を求めるのは夢想であろう。


「脱官僚」は財界の要求でもある
 連合や少なからぬ国民が新政権に「期待」する一つが、「脱官僚」である。
 確かに「政官財の癒(ゆ)着」や特権は目に余る。だが、いま断ち切られようとしているのは「自民党・族議員と官僚との癒着」に過ぎない。行天氏で分かるように、売国官僚体制の本質は変わっていない。大企業と高級官僚は、「天下り」など無数の糸で結ばれている。
 財界は、建設、医療などの分野での自民党族議員と官僚、業界の「しがらみ」、利益分配型政治を問題視している。自民党政権下で深まった癒着を断って「統治能力」を回復させ、地方分権や行革で安上がりな政府にし、多国籍大企業が国際競争に勝つための政治を効率的に行わせることが狙いである。
 財界はその仕事を民主党に担わせようとしている。八ツ場ダム問題はその象徴となろう。小泉政権以来の、多国籍大企業が進める国家独占資本主義体制の再編・強化であり、官僚機構を打ち壊すものではない。


政権の矛盾露呈は避けられない
 前原国交相は、公共事業中止問題で立ち往生せずにすむだろうか。公明党の山口新代表が八ツ場ダムの視察に行ったように、野党はスキを突こうとしている。
 亀井金融相が主張する中小企業のモラトリアムには金融資本が異論を唱え、財務相とも温度差がある。郵政民営化問題は、最大の金融資産を誰が手にするかという、米金融資本を含む激しい争奪戦で、総務相とも齟齬(そご)が生じている。
 派遣法の改正には製造業大企業が反発、連合主要単産間でも対立がある。新政権の目玉といえる温暖化ガス削減問題は、大企業の不満が連合内の主要単産間での意見の食い違いとなっている。自治労など公務員労組は行革攻撃に対処できるのか。
 鳩山首相はオバマ大統領と「同盟深化」を約束したが、米軍再編や海外派兵問題では日米間でも、与党内でも矛盾が避けられない。
 新政権の政治はさまざまな矛盾を引き起こし、激化させるだろう。連合は最大の支持基盤として、たびたび態度を問われることになろう。
 また民主党が圧倒的多数だが、社民党、国民新党も参院選を控えて「存在感発揮」が避けがたい。それは政権の不安定要因ともなるし、社民党などの側も試練にさらされる。


真の打開の道へ
 ワーキングプアと呼ばれる年収二百万円以下の貧困層は労働人口の三四%、失業率は上昇、中小企業の倒産も増え続ける。現体制では生きていけず「転換」を求める人びとが急増、打開を求めるエネルギーが噴出する機会はますます増えるだろう。
 鳩山政権の選択肢は狭く、人びとの「生活安定」と危機からの脱却はもちろん、政権の「安定」さえ危うい。それは、対米従属政治を変えない限り不可避的な限界である。
 労働運動は「次」に備えなくてはならない。財界優先、対米従属政治の犠牲となり現状打破を求める労働者を中心に、農民や中小商工業者とともに壮大な戦線を形成することこそ展望である。

Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2009