2009年5月25日号 2面・社説 

オバマ米大統領の
「核のない世界」演説


核廃絶運動は帝国主義と
闘ってこそ前進できる

 5月25日、朝鮮民主主義人民共和国が二度目の核実験を行った。最初の核実験の際(2006年10月)、われわれは社説で見解を発表した。その後の具体的経過を踏まえなくてはならないが、基本的な点については、今社説と併せた両社説で述べつくされていると考える。

 オバマ米大統領は四月五日、チェコのプラハで演説を行い、「核兵器のない世界」をめざすと宣言した。オバマは具体策として、戦略核兵器削減条約(START)の交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准、兵器用核分裂物質の製造を禁止する条約(カットオフ条約)の追求、核拡散防止条約(NPT)強化などをあげた。
 この構想は、五月初旬に国連本部で行われた来年のNPT再検討会議に向けた準備委員会でも再度表明された。また、オバマは演説に先だち、ロシアとの間で、本年十二月に失効が迫った第一次戦略兵器削減条約(START1)以降の核軍縮について交渉を行うことで合意した。
 わが国麻生政権は、早速この構想を支持、中曽根外相は二十七日、「世界的核軍縮のための十一の指標」という提言を行った。これは、朝鮮民主主義人民共和国と中国を非難するなど、対米追随でアジアへの敵視に満ちた売国的なものである。
 ところで、オバマ演説を支持し期待する論調が、わが国の野党や平和運動を担ってきた団体・人びとの間で広がっている。典型は共産党で、かれらは核超大国である米国が核廃絶にめざめたかのように宣伝している。社民党の態度も、共産党ほどではないが似たりよったりである。
 だが、「核廃絶」を唱えるオバマ政権の狙いは別にあり、米帝国主義がすすんで核を廃絶することはあり得ない。共産党の態度は米国を美化し、核廃絶を実現する上できわめて有害なものである。
 唯一の被爆国として、核兵器廃絶は日本国民の悲願である。いくらかの核軍縮であれ、期待したいことは十分に理解できる。だが、オバマなど核大国の「善意」に頼っての核廃絶は不可能である。
 米国を筆頭とする帝国主義との闘いと結びついてこそ、核廃絶運動は力強く前進できる。

核は帝国主義による世界支配の道具
 第二次世界大戦終了前、最初に核兵器を開発したのは米帝国主義である。米国は原子爆弾を長崎と広島に投下し、何十万人も虐殺した。これは、大戦後を見据えた、ソ連へのけん制でもあった。米国はこの核兵器を中心とする軍事力によって、西側の指導者となった。
 米国は、圧倒的な核戦力を背景に、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争など数々の侵略戦争を行った。また、自らの意に沿わない国々に核どう喝をかけるなど、圧迫を加え続けた。
 米国に次いで、ソ連、英国、フランス、そして中国が核武装に踏み切った。この五大国は「核クラブ」を形成、国連では安全保障理事会常任理事国として拒否権を持ち、NPTやCTBTによって核独占体制が保障され、形ばかりの「軍縮」がうたわれるだけである。五大国は時に対立もするが、核独占体制を維持する点では結託してもいる。
 九〇年代のインド、パキスタンによる核武装は、この核独占体制に風穴を開けた。五大国は両国に圧迫を加え、制裁したが、情勢が変わると核保有は事実上「公認」され、とりわけインドの地位は高まった。さらに、半世紀以上も米国の核どう喝を受けてきた朝鮮が、独立と民族を守るために核武装に踏みきった。
 その他、イスラエルが核を保有し、イランなど帝国主義が開発を疑っている数カ国がある。
 核武装を志向する国が続くのは、核武装すれば他国から「一人前」の扱いを受けるからである。資金が乏しい中小国にとっては、核はもっとも安上がりな兵器の一つで、帝国主義国、大国から威嚇されにくく、また威嚇することも可能になる。
 こうした歴史を見れば、米国を中心とする帝国主義諸国こそ、核兵器を開発し、実戦で使用し、政治的にも最大限悪用してきた張本人であることは明白である。核兵器の廃絶は帝国主義、とりわけ米帝国主義との闘いなしには不可能である。

演説の源流はキッシンジャーら
 オバマ演説は、かれが個人的に思いついたものではない。
 その源流は、二〇〇七年一月、キッシンジャー元国務長官(ニクソン政権)、シュルツ元国務長官(レーガン政権)、ペリー元国防長官(クリントン政権)、ナン元上院軍事委員長の四人による共同提言「核兵器のない世界へ」にある。
 この超党派の四人は、米歴代政権による中小国・人民に対する核どう喝と核軍拡に責任を負う人物だ。
 四人の提言は「(核兵器が)危険な者たちの手に落ちるという現実の可能性に直面している」が、米国の政策が「その危険に見合ったものになっていない」と危機感を表明、核兵器の拡散を防いで「核兵器を最終的になくすための全地球的な努力を行う」ことを呼びかけている。
 つまり、反米国家・勢力が核兵器を握って対抗することを許さぬために、「核廃絶」を掲げようというのだ。
 四人は、翌〇八年にも提言を行った。それはSTARTの延長、「テロリスト」による核入手の阻止、NPT強化、CTBT発効などで、まさにオバマ演説と同じ内容である。
 米民主党は昨年八月、党大会で「世界の核兵器廃絶」を政策綱領に明記、オバマは大統領候補としての公約に掲げた。政策綱領には、キッシンジャーらの提言を受けたものであることが記されている。
 そして今回の演説となる。オバマ演説の内容については、米支配層内の主要な部分に一定の合意ができているということだ。そしてそれは、こんにちの米帝国主義の状況に規定されたものである。

米国の危機が演説の背景
 米国は未曾有(みぞう)の恐慌下にある。サブプライムローン問題を機に膨らんだ金融機関の損失はいまだ確定せず、GMなど自動車産業が破たんの瀬戸際となるなど、実体経済も深刻だ。政府や連邦準備理事会(FRB)は、資本注入や不良資産買い取りなどの対策をとっているが、第二次大戦後の米ドル体制が末期となったことは明白である。
 政治の面でも、イラクに次ぐアフガニスタンの占領で困難を抱え、増派にもかかわらず軍事的にも追いつめられている。パキスタン情勢も不安定の度を深め、手を抜けない。朝鮮は核兵器を握って離さず、イランも圧迫に屈していない。ロシアや中国などの新興国もときに対米対抗を強めるなど、米欧帝国主義国間の力関係の変化というだけでなく、世界は特殊な多極化を進めている。オバマ政権の登場自身が、こうした米帝国主義の危機の反映でもある。
 オバマ演説は、こうした米帝国主義をとりまく深刻な状況、かれらの「弱さ」を背景としている。
 演説の狙いはまず、核兵器の維持・保管にともなう膨大な財政出費を削減することである。こんにち、米政府の財政赤字には際限がなく、この四月単月の財政赤字は二百九億ドル(約二兆円)を超え過去最高となった。財政問題は喫緊の課題である。これは、八七年に米ソ間で合意された、中距離核戦力全廃条約(INF)締結の場合と同様である。当時のレーガン政権も、「双子の赤字」の解決に悩んでいた。
 同時に、キッシンジャーらも述べている通り、朝鮮・イランなど中小国、反米政権への核拡散を阻止し、核独占体制を再構築することも戦略的課題である。
 またこれらを通じて、イラク戦争を機に急速に失墜した国際的指導権を再確立し、世界支配を維持しようとしているのである。
 演説にも明らかである。オバマは「(核廃絶は)私の生きているうちには無理」とし、「(他国の)核兵器が存在する限り、効果的な核戦力を維持する」「同盟国を核で防衛する」と言明する。米帝国主義の核兵器を使った世界支配の意思にはいささかも揺るぎがない。「核廃絶」という「錦の御旗」は、帝国主義的野心のための欺まんにすぎない。
 ゆえに、オバマ演説を機に核軍縮がいくらか前進する可能性はあっても、それは何度も繰り返された軍縮諸条約と同じで、「核廃絶」に向けての本質的な前進ではあり得ない。
 幾度かの軍縮によって、核による「人類絶滅の回数」はわずかに減ったが、米帝国主義は核によるどう喝政治をやめなかったし、中小国・人民や被爆者の苦難は減っていない。
 しかも、そのいくらかの「核軍縮」さえ保証されたものではない。
 すでに交渉を始めたロシアは「米国のミサイル防衛(MD)能力が制限されない限り、核弾頭数を減らすことはできない」としているし、フランスはオバマ演説を「イメージアップ戦略に過ぎない」と断じている。核大国は、互いの真の狙いを熟知している。来年のNPT再検討会議で、「核軍縮」などの合意ができるかどうかも怪しいものである。
 米国内の世論もある。九三年に調印された第二次戦略兵器削減条約(START2)では、米議会がその議定書を批准せず、とん挫した。
 オバマ演説の狙いを見抜き、幻想を捨てなければならない。


オバマへの幻想あおる共産党
 核廃絶は、先進諸国の労働者階級が、中小国・人民と連帯し、米国を筆頭とする帝国主義と闘えるかどうかにかかっている。唯一の被爆国であるわが国においても、オバマ米政権への幻想を捨てて闘うとともに、「日米安全保障体制のもとにおける核抑止力」を公言するわが国売国政権と闘うことが必要である。
 だが、志位・共産党委員長はオバマ演説を「歴史的な意義」などと賛美し、駐日米大使にオバマ宛ての書簡まで届けるなど、まさに応援団である。オバマ(代理)から外交辞令丸出しの返書が来るや、志位は「『聞く耳』を持った大統領が生まれた」などと狂喜乱舞している。
 共産党は、オバマ演説の背景である米国の危機、「弱さ」を見て取ることができず、美化している。
 さらに共産党は、オバマ演説に追随することで、核廃絶運動の矛先を鈍らせ、帝国主義と闘わないものに押しとどめようとしている。「朝鮮の核問題の解決の上でも」核廃絶のための国際交渉を行えなどと、「核廃絶」に名を借りた朝鮮の核放棄と、大国による核独占体制の強化に力を貸してもいる。
 報道によれば、八月に長崎市で開かれる平和祈念式典における平和宣言文の起草委員会では、少数ながら「オバマ演説は朝鮮やイランを対象としたもので幻想を持つべきではない」という趣旨の意見が出たと聞く。共産党よりは、よほど現実的で支持できる見解である。
 共産党の狙いは、目前の総選挙での票目当てに「オバマ人気」にあやかろうというだけではない。志位が「(米国と)公式の話し合いのルートが開かれた」と述べたように、政権入りに対する米国のお墨付きを得たいがためなのである。
 このような共産党の態度に対し、オバマが「思慮に富んだ書簡」と感謝したのも当然というものだ。
 共産党のような態度では、麻生政権の対米従属政治と闘うこともできない。実際、共産党は「十一の指標」について「核兵器廃絶という項目がない」と言うだけで、中国や朝鮮への敵視について批判を避けている。共産党も麻生も、オバマへの追随で「同じ穴のムジナ」なのだ。
 米帝国主義への追随では、核兵器を廃絶することはできない。核兵器の廃絶は、帝国主義の世界支配を打ち破ってこそ可能である。わが国労働者階級をはじめ核廃絶を願う人びとは、中小国・人民と連帯し、帝国主義と闘おう。

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