労働新聞 2002年10月25日号 社説

 9月17日の日朝首脳会談での合意に基づいて、国交正常化交渉が今月29日に再開される。しかし、交渉の開始を目前に控えたこの時期、わが国政府は、米国が発表した朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発問題を口実に、北朝鮮敵視政策を露骨に強め、日朝首脳会談での合意と平壌宣言を裏切り、国交正常化交渉それ自身を反故(ほご)にしようと策動を強めている。
 日朝首脳会談に臨んだ小泉首相の思惑はどうあれ、「国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」とした平壌宣言の合意は、直後の世論調査の結果を見るまでもなく、両国国民多数の希望に添うものである。この精神に沿い、国交正常化交渉は誠実に、かつ迅速に取り組まれなければならない。米国の意を受けたわが国政府の自主性のかけらもない外交姿勢と、悪意に満ちた北朝鮮敵視政策は、断じて許されるものではない。

日朝交渉への米国の露骨な介入

 米国務省は突如として16日、10日も以前に平壌で行われた米朝高官協議の席上で、北朝鮮側が高濃縮ウラン製造施設建設を含む核兵器開発を進めていると米側に認めた、との声明を発表した。米政府はこれを、北朝鮮の核開発凍結を定めた94年の米朝枠組み合意への重大な違反と決めつけ、核開発を断念させるため「北朝鮮に圧力をかける」と公言した。ブッシュ大統領は、「金正日を説得し、武装解除させなければならない」「関係国と協調できれば、この脅威を平和的に処理できる」と、日朝交渉に介入し、その進展を妨害する姿勢を露骨に示した。
 一方、これを受けて、川口外相は21日、来日した米ケリー国務次官補との会談で、「核問題など安全保障上の問題に進展がないのに、国交正常化交渉を前進させることは考えていない」と、米国の意に従い、その手先として日朝交渉に臨むことを約束した。マスコミもまた、「真摯(しんし)な対応が見られないなら、席を立つくらいの強い決意で、交渉に臨まなければならない。」(読売・18日社説)などと、北朝鮮敵視と正常化交渉の中断をあおり立てている。

だれが合意を裏切っているのか

 拉致事件被害者の一時帰国で、対北朝鮮世論が好転の兆しを見せた矢先を狙った核開発問題の暴露は、国内世論に少なからぬ動揺を与えた。しかし、だからこそ、ことの経過を冷静に見て、だれが、何ゆえこの事態を作り出しているか、支配層の狙いや、何が真の国益につながるか、冷静に見る必要がある。
 小泉首相は18日、「日朝平壌宣言には米朝の(枠組み)協定順守も入っている。しっかり守ってもらわないと正常化はうまくいかない」などと、あたかも、正常化交渉の障害があげて北朝鮮の側にあり、わが国政府が被害者であるかのように言いつくろった。しかし、発表された事実だけを見ても、これは真っ赤な大ウソである。
 22日の「読売」夕刊は、9月12日の日米首脳会談で、ブッシュが小泉に、北朝鮮が高濃縮ウランによる核兵器開発を進めているとの情報を伝達し、同17日の日朝首脳会談で、金総書記に核開発疑惑の払拭(ふっしょく)を迫るよう要請していたということを、米政府高官の発言として伝えている。これによれば、ブッシュは日朝首脳会談では核問題を巡る国際合意の順守などを求めるにとどめ、高濃縮ウラン製造施設建設の事実の提示や核査察の実施方法の取り決めなど、具体論には踏み込まないように、とまで具体的に指示したという。記事は、「北朝鮮に手の内を見せず、日朝首脳会談での出方を見極めた上で、北に核開発疑惑の証拠を突きつけるタイミングを探る狙いだったとみられる」とも報じている。
 これこそ真実である。小泉は、米国の情報を受けて、首脳会談以前からすでに北朝鮮の核開発の事実を十分知っていた。そればかりか小泉は、米国の軍事、経済封鎖と圧力、戦争どう喝という厳しい国際環境の中、余儀ない条件下で妥協を迫られた北朝鮮の足元を見透かして、米国の指示通りに「すべての国際的合意の順守」なる文言を宣言に明記させ、核問題でさらに北朝鮮を追い詰める段取りを意図的に準備した。
 小泉が、いまさらのようにこの問題を騒ぎ立てるのは、まさに猿芝居であり、米国の意図に従って首脳会談での合意を反故にし、交渉の進展を妨害するための口実に過ぎない。
 わが党は、日朝首脳会談とその合意を「わが国支配層と小泉政権が北朝鮮敵視政策を改めたわけでもない。この時期の敵視政策としての1つの選択に過ぎない」(9月25日号社説)と指摘した。さらに、「首脳会談以後、北朝鮮の困難と譲歩を見て、かさにかかって『ハードルを高く』し、いっそうの譲歩を迫ろうという米日の態度は公平なものではない」とも指摘したが、まさに事態はそのように進展している。米国は、「悪の枢軸」と決めつけた北朝鮮をいっそう追い詰め、武装解除を迫ろうと画策しているのであり、わが国小泉政権は、この米国に従って北朝鮮敵視政策を強め、日朝国交正常化自身を頓挫(とんざ)させようとしているのである。

北朝鮮には自国を防衛する固有の権利がある

 核開発問題は、隣国であり、唯一の被爆国であるわが国の国民感情に衝撃を与えている。しかしそれを逆手にとった、敵の意図があることを見抜かなければならない。
 改めて言わなければならないのは、本来、それぞれの独立国には自国を防衛するために、軍事力を強化し、万全を期す権利がある、ということである。たとえその手段が通常兵器であれ核兵器であれ、ことの本質は同じである。とりわけ、朝鮮戦争以来の休戦協定下、核兵器で武装した優勢な米軍の重圧と対峙(たいじ)する北朝鮮が、核開発を願うことは理解できないことではない。それも、最近の、いわゆるブッシュ・ドクトリンで、気に入らない政権の転覆をめざした、他国への内政干渉や先制攻撃も正当化されるなどと宣言している米国の包囲下でのことである。米国は、その覇権に抵抗する国を軍事力で打ち倒しても、世界支配を維持しつづけようとする、強盗的な世界戦略を公然とさせている。「大量破壊兵器開発、拡散」などの理由は言いがかりに過ぎない。核査察も国連決議も不要として、イラク攻撃を強行しようとするところに、その意図が明確に現れている。
 大国による核独占、核どう喝という世界の現実がある以上、核軍事力をもって自国の安全を確保しようとする国が登場してくるのは避けがたいことである。事実、1998
年には、インド、パキスタンが核実験を行い、大国の核独占に風穴を開けた。米国は、当初こそ経済制裁でこれを封じ込めようとしたが、先のアフガン攻撃では、戦争への協力を取り付けるためパキスタンへの制裁を解除、今も膨大な「援助」を続けている。あるいはまた、イスラエルが核兵器を保有していることは公然の秘密だが、米国は自らの中東支配のためにこれを容認し、最大の後援者として今も支援しつづけている。米国の言う「核拡散防止」など、このようなものである。
 核廃絶をめざし、平和を求める闘いは、本来、核を独占し、世界支配の道具として使い続ける帝国主義大国を追い詰め、打ち破る闘いと結びつける以外に、その勝利の展望はありえない。いわんや、米国の強盗の論理に従い、武器を捨てることが平和への道などという屈服の論理がまかり通れば、世界の諸国は未来永劫(えいごう)米国の支配を認めねばならず、自主的な発展や繁栄、平和と安定などありえないこととなる。世界の諸国は、いつまでこの論理を認めることができるのであろうか。
 米国の強盗的な世界戦略のお先棒を担ぎ、北朝鮮敵視政策を強める小泉政権の態度は、両国国民の願いに反し、両国関係にいっそうの禍根(かこん)を残すものだ。アジアと世界の平和、安定にとっても、許しがたい逆流といわなければならない。平壌宣言には、両国間の安全保障問題は「対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した」と明記されている。核開発問題、より本質的には米軍の核配備を含む朝鮮半島の核問題は、この合意に従い包括的に解決されなければならない。
 わが党は改めて、わが国政府が朝鮮敵視政策をやめ、独立、自主の外交姿勢で、日朝の国交正常化に向け、両国の合意に誠実に取り組むことを強く要求する。


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