日朝首脳会談　拉致事件利用した逆流許さず、平壌宣言の誠実な履行を

労働新聞　2002年９月25日号社説

　小泉首相は９月１７日、歴代首相としては初めて朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の平壌を訪れ、金正日総書記と首脳会談を行った。双方は「日朝平壌宣言」に署名し、2000年１０月に中断していた国交正常化交渉を本年１０月中に再開することで合意した。
　平壌宣言はまた、日本が過去の植民地支配について「痛切な反省と心からのおわび」を表明、この清算、補償について、国交正常化後、経済協力方式で協議することを確認した。また、両国は朝鮮半島の核問題の包括的解決のため、全ての国際的合意の順守を確認、北朝鮮はミサイル発射凍結を03年以降も延長すると表明した。
　また、拉致問題について、金正日総書記はその事実を認め、安否情報を伝えたうえ、公式に謝罪した。宣言は「不正常な関係の中で生じた遺憾な問題の再発防止」を確認した。

平壌宣言合意の背景と逆流の強まり

　日朝両国間の国交問題では、北朝鮮側は、時に問題がなかったわけではないが、基本的には一貫して関係正常化を望んできた。
　これに対してわが国政府は、例えば、1990年の金丸訪朝団や、99年の超党派訪朝団派遣に見られるように、両国関係正常化を望む国民世論に押され、あるいは時に政権の思惑から、この課題を取り上げることがあったにしても、基本的には戦後一貫して、北朝鮮敵視政策をとり続けてきた。
　ところが今回は、米帝国主義の経済的、外交的封鎖と軍事圧力のもとで強いられた、国家的存亡と経済苦境から脱しようとする北朝鮮の側の事情と、わが国、小泉政権の思惑、特に内外での難問山積で瀬戸際に追い詰められ、政権浮揚をはかりたいという事情が背景となって、首脳会談が実現した。
　そして日朝首脳会談は一定の合意に達し、平壌宣言が発表された。動機はともかく一般的には、正常化交渉の再開は平和と友好を望む両国国民の多くにとって喜ぶべきことで、当然ながら会談での合意事項は、両国政府と両国民によって誠実に履行されなければならない。
　だが、小泉政権が日朝首脳会談に踏み切り、合意にこぎつけたので、一見意表をついた「政治的事件」に、様々な評価と混乱が見られるが、わが国支配層と小泉政権が、北朝鮮敵視政策を改めたわけでもない。この時期の敵視政策としての１つの選択に過ぎないし、必ずしもそれを隠しているわけでもない。とりわけ野党の政治音痴を見越して、若干巧妙に振る舞っているだけである。
　首脳会談直後から、わが国政府やマスコミ、さらに各政党らは、いっせいに「拉致問題の真相解明が交渉再開の前提」、「交渉再開は時期尚早」などとするキャンペーンを繰り広げ始めた。これは、北朝鮮が拉致事件を認めたこと、特に８人の死亡という悲劇的な情報が伝えられたことで生まれた、わが国民の驚きや悲しみを、北朝鮮と朝鮮人民に向けようとする、排外主義的傾向にあふれた悪質なものである。

問題はわが国の対米追随と、一貫した敵視政策にある

　拉致問題の解明だけでなく、金総書記が事実と認めた以上、北朝鮮政府は、国民世論に押されてわが国政府が求める要求に、なんらかの対応を迫られるのは当然であろう。しかしこの問題は、両国関係の正常化と、両国民の友好協力関係の発展、アジアでの共生の実をあげる上からも、理性的で正しく、かつ「妥当な解決」でなければならない。
　そのためには、両国関係の歴史の中で、なぜこの事件が起こったのか、その背景、歴史を振り返ってみなければならない。
　わが国は1910年の「韓国併合」以来、45年の日本敗戦に至る３５年間、朝鮮半島の植民地支配を続け、朝鮮民族に言語に絶する苦痛、屈辱を与え収奪し続けた。またこの間、中国大陸への侵略戦争を支えるための労働力として、１５０万人もの朝鮮人を強制連行＝文字通り拉致してきたのである。従軍慰安婦として数万人の女性を連行、拉致したことも、よく知られた事実である。
　また、第２次大戦後も、日米安保体制下で、米国に従属するわが国は、冷戦下での北朝鮮敵視政策を選択した。
　50年に勃発した朝鮮戦争では、出撃した米軍の兵站（へいたん）基地として直接、間接に戦争に参加、米韓側に立ち北朝鮮に敵対し、朝鮮人民の流血の上に朝鮮特需で潤い、戦後復興の基礎を築いた。65年には、日韓基本条約に調印、韓国とのみ国交を樹立し、膨大な経済援助を通じてこれを支え、休戦協定下で対峙（たいじ）する北朝鮮に敵対を続けた。
　さらに、冷戦構造崩壊以降も、わが国は、米国の東アジア戦略に追随し、核疑惑、ミサイル問題などで北朝鮮敵視政策を継続。昨年９月の米国の同時テロ事件以降は、テロに何のかかわりもない北朝鮮を「テロ支援国」、「悪の枢軸」と決めつけ、戦争どう喝を強める米国につき従い、政治的、軍事的、経済的封鎖に加担して、北朝鮮を圧迫し続けてきたのである。
　歴史的に北朝鮮敵視政策を続け、両国関係の緊張と対立を意図してつくり出してきた元凶が、小泉首相を含む歴代自民党政権にあったという事実を忘れてはならない。こうした深刻な対立と緊張、相互不信という「不正常な関係の中で」拉致事件も発生した。
　したがって、マスコミや政府の拉致事件を口実とする反北朝鮮の大宣伝は、これらの歴史、事実経過に口をつぐんで、国民の怒りや悲しみを意図的に北朝鮮と朝鮮人民に向けさせようとする、排外主義的な策動で、しかも許せないのは、小泉政権がその世論を背景に北朝鮮をさらに圧迫し、交渉を有利に展開しようとしていることである。

北朝鮮への圧迫下で締結された平壌宣言

　なぜこの時期に首脳会談がもたれたか、大まかには、すでに述べた。
　北朝鮮は、米国とその追随者どもの圧迫、封鎖の下、この国の経済発展は、特に冷戦崩壊以降思うにまかせなかった。近年の水害多発は深刻な食糧難をもたらした。
　昨年９月のテロ事件を契機に、米国ブッシュ政権は、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、イラクの次は北朝鮮だと、軍事圧迫と戦争のどう喝をさらにエスカレートさせた。これは、北朝鮮の国家的存立を危うくするものであった。
　周知のようにブッシュは、核開発疑惑やミサイル実験をあげつらって、北朝鮮を「ならず者国家」「テロ国家」などと決め付け、北朝鮮の武装解除を迫っている。最近のいわゆるブッシュ・ドクトリンでは、米国による他国への内政干渉も先制攻撃も正当化されると宣言、イラクへの戦争準備に狂奔している。
　こうした厳しい国際環境の中で北朝鮮は、日朝首脳会談に臨んだ。日本は逆に、この情勢をチャンスと見、最大限自らに有利に展開するよう交渉を行った。こうした状況下で成立した平壌宣言の内容は、北朝鮮側にとっては過酷なものであった。
　したがって北朝鮮が余儀ない条件のもとで同意したとしても、とりわけ、首脳会談以後、北朝鮮の困難と譲歩を見て、かさにかかって「ハードルを高く」し、いっそうの譲歩を迫ろうとする米日の態度は公平なものではない。
　この宣言が以降の日朝の友好発展、あるいは北朝鮮の存立を保障し、アジアの平和、安定に真に資するものか否か、危惧が残るといわねばならない。
　周辺諸国と世界の多くは、この日朝首脳会談とその結果を、平和に資すると評価しているが、必ずしもその観点が正しいとは思えない�目前の状況下で事なきを得られそうなので、ほっとしているに過ぎないのかもしれないからである。
　各国の人民はその政治体制を選ぶ権利はないであろうか、それぞれの国家は自国を防衛する権利はないであろうか。イラクにしても北朝鮮にしても、自国を防衛するために軍事力を強化し、万全を期する権利があるはずである。ところが米帝国主義は気にくわない国家や政治体制、政府を、いまや公然と転覆し先制攻撃をかけると公言している。米国の理不尽な要求に屈服し武器を捨てることが「平和への道」と評価する国際的な風潮を、どう解釈したらよいだろうか。
　こうした風潮が広がるなら、やがて評価し「はしゃいでいる」諸国のうちの数カ国も、米国の標的となるだろう。全世界の人民と多くの諸国も、やがて米国の横暴なドクトリンを認めては生きていけないので、闘いが始まる。したがって、平壌宣言は中長期的に見るなら、必ずしも平和への一歩前進ではあるまい。

だが、平壌宣言は誠実に履行すべきである

　しかし、ことが国家間の約束事となった以上、両国は合意を誠実に履行する義務がある。
　日本側から、米国の干渉下でこれ以上北朝鮮に難癖をつけ、要求を吊り上げるようなことをしてはならない。もしそうなら、朝鮮敵視政策の清算どころか、これは両国人民間にいっそうの禍根を残すこととなろう。
　わが党は、合意された平壌宣言にそって、わが国政府が日朝の国交正常化に向け、他国の干渉や介入を排して、いわば国家戦略として、独立、自主の態度で誠実に取り組むことを、改めて、強く要求するものである。