20020125

労働党旗開き 壮大な闘いへ意気高く

情勢は求める 国の進路の転換

大隈鉄二議長が講演


(2)現在の情勢と幾つかの論点

 さて党の「旗開き」では、恒例のようになっておりますので、本題に入ります。最初に、現在の情勢の幾つかの論点について述べ、次にわが国の進路、それから党の闘いなど述べたいと思います。
 情勢と幾つかの論点では、簡単にしかできませんが、1番始めに、いうところのグローバル資本主義、あるいはサイバー資本主義について。それから2番目に、グローバル世界の中での国民経済と各国の政府の問題について。3番目に、社会民主主義の問題について。4番目に、社会主義の問題などに、触れてみたいと思います。

こんにちの世界/グローバル資本主義

 本屋には今も、グローバル資本主義、サイバー資本主義といってみたり、市場原理主義、株主資本主義などといったような解説あるいは論文の書籍が、山のように積まれているんですね。結構売れてるんですね。
 この問題が、いろんな政府の文章とか、自治体の文章、あるいは政治家たち、学者の口にのぼってからそう長くならないと思います。例えば最近の10年間ぐらいは、貧富の格差が非常に激しくなった、2極分化ですね。そういうようなことを、このグローバル資本主義の進行の中での現象といいますか、そう説明がされて、あまりいいことじゃないなという印象。今では、世界がとんでもないところに向かってるのではないか、と。1994年のメキシコ危機の時には、まだそれほどではなかったんですね。
 私は95年の旗開きの演説で、この問題について触れておったんですが、97年からアジアの通貨・金融危機、それから実体経済がアジアで次々に破壊されていく。それからロシア、中南米に波及していく、ああいう危機があったあとでは、ずいぶんとグローバル資本主義というのは、いろんな解説もやられたんですね。
 それから、サミットでグローバル資本主義が最初に取り上げられたのは、確か96年のリヨンサミットですね。その後98年にも、サミットで取り上げられておるんですが、その時はもう97年のあの危機があった後ですから、グローバル資本主義は、ばく大な利益ももたらすけれどぜい弱性もあるというのが、サミットの議長声明にある。そんな具合ですが、一般に97年のアジア通貨危機を境にしていろんな出版物などがどっと出てきたんですね。
 その問題ですが、先ほど申し上げたように、グローバル資本主義といってみたり、サイバー資本主義、時には市場原理主義が支配する世界、といった具合に現在の資本主義あるいは世界を、そう呼んで説明するのが普通になっています。株主資本主義という言葉も頻繁に出てきます。
 今はもう株主資本主義だから、つまり会社の社長がどんどん労働者を首切っていく状態を説明する時に、「株主資本主義だから」、「市場の評価が第1で、社長も市場から追い立てられている」というように、引き合いに出される。「グローバル資本主義」、「そういう時代なんだから」ということで合理化される。
 ところが、何冊読んでみても、この最近10年余りといわれるようなグローバル資本主義について、明確な概念といいますか、一致した見解というのはないんですね。ないんです。
 最近の本では、世界がこのままいけば崩壊する、大変な時代になった、どう生きていくか、どう改革しなければならないかというのが多いですが、なぜそうなのか、根本のところがいま一つ、明確ではない。一般の多くの人が納得するような説明がないですね。
 ただいえるのは、この資本主義の今の現状が労働者階級にとって、あるいは多くの企業家にとってさえ、大変な時代。それから貧富の格差がますます大きくなって2極分化し、世界がいっそう不安定になる。そういう意味のことはみな事実として書かれていますが、しかし、グローバル資本主義について十分納得できるような、共通の見解はない。
 それはそうでしょう。これで利益を得ている者がおり、半ば利益を得ながらも不安な者がおり、職場を追われる労働者、企業倒産の憂き目にあうような企業家がおるわけですから、皆が納得できるような見解があるわけないんです。
 また経済学専門の人たちの書いた文章を見ますと、問題が資本主義経済というわけですから、あれら国際通貨基金(IMF)だとか世界銀行だとかウォール街の連中はまるで経済学を抽象化し、数学をもて遊び、利益のみを追求する、誤った経済学だと批判しています。新古典派ですか、マネタリストなど誤った経済学だと批判し、経済学は本来そういうものではない、といっています。ウォール街は誤った理論に導かれていると、いいたげですね。
 ですが、しかし社会科学、歴史や経済学、この手の分野の学問は、歴史的に登場し、発展してきたという点ではあらゆる学問と同じでしょうが、それぞれの階級の利害が大きくかかわっているんですね。自然科学とはずいぶん異なっています。
 支配勢力に都合の良い理論は、支配的な理論となりがちですから、なぜ新古典派のような経済学が登場してきたのか、誰かがそれを必要としたということでしょうか。
 こんなふうに、グローバル資本主義について、いろいろな説明、議論がありますが、まとまって納得のいく説明は見られないです。十分意識されているかどうかはあるのでしょうが、結局のところ、階級あるいはどの社会層かの利益が反映され、解説しているわけですね。
 いつごろから、こういうグローバル資本主義といわれるような社会が登場したんだろうか、これについても、まちまちです。
 有名なジョージ・ソロス、彼がいうには、70年代ユーロダラーが、つまりあれはベトナム戦争やら何やらで垂れ流したドル、米国にかえらない資金のユーロダラーですね。そしてその資金を目当てに、あるいはそれを運用するためにオフショア市場、つまり通貨市場が登場してきたころからだと、こういってるんですね。
 グローバル資本主義への移行を、コンピュータやインターネットなどの技術革新と必ずしも結び付けてはいないし、ましてこれを決定的な要因とはみなしてはいないんです。
 だが普通、グローバル資本主義、あるいはサイバー資本主義といわれるのは、だいたい技術革新でコンピュータが発達し、とりわけインターネットなど、通信技術の発展と結び付けて、説明されているんですね。
 時代の流れ、もうそういう世界になったんだから、人びとはその中でどう生きていくかの選択が迫られることになった。大部分がそういう説明ですね。小泉首相など皆いっているようなことですね。
 グローバル社会を説明する時に、コンピュータ、技術革新の話を書いてないのは、1つもない。そしてそれを大きく言うか、小さく言うか。大きく言えば、まさしく技術革新ですから、もう逆らうことができない時代の変化、したがって人びとはどうこれに自分が対応するかしか道がない。
 そういう時代に、さまざまな企業家が生き残りをかけて闘っているということですから、労働者が犠牲になるのはやむを得ないという理屈にもなる。これはもう、ごまかしですね。
 避け難いのではなくて(この技術革新は避け難いですが)、それがこんにちの経済でいろんな人びとが苦しんでおる原因ではないんですから。
 例えば、この間まで大蔵省(現財務省)財務官だった榊原英資の本が『市場原理主義の崩壊』とかいっぱい出ていますね。彼は、どの時点からこういう社会(サイバー資本主義)になったかという点で、メキシコの危機を分析しながら説明しています。
 メキシコ危機の発生の理由については、いろいろな見解がある。1つは、それまでメキシコ経済は発展していたが、貿易収支で経常赤字が出てきたと(経常赤字を埋めるのに大きな借金、それには短期資金も多かった)。次にその途中で早く高金利政策をとり、景気の過熱を抑えておればよかったのが遅れた。3番目は複合的なもの、原住民の反乱、政府の通貨切り下げ。
 しかし、それぞれのことは理由になるが、メキシコ危機のきわめて特徴的なことを言い表してはいない。こういって、背後で短期資本が予測もつかない速度で出ていったことを挙げ、つまり資本収支、短期資本の収支によってメキシコ経済が崩壊したと説明している。このようにサイバー資本主義への移行を、メキシコ危機の分析を実証的にすることで確認しています。
 97年のアジア危機も同じです。それまでは活況があり「21世紀はアジアの時代」といわれていた。それが、中国の元の切り下げ、95年の日本の円高から円安への切り替え(米国のドル安是正と密接にからんでいるんですが)、それが重なって、アジアの輸出がうまくいかなくなって、経常収支が悪化した。
 早く手を打たないで、赤字を埋めるのに短期資本を外国からうんと借りた。そして、やばいとなったらバーッと短期資本が逃げた。だから、メキシコと同じ。
 ただメキシコの時には、あれを「21世紀型危機」とはだれもいわなかった。つまり、世界資本主義の状態が新たな、それ以前とは違う段階に入ったとは、だれもいわなかった。しかし、2度目に97年にそれが繰り返され、しかもそれがアジア危機から始まって世界的に広がったことによって、97年でありながら、21世紀はこの種の事件が頻発するであろうと、いうところの「21世紀型危機」というふうにいわれるようになったんですね。
 こんな具合で、いつからグローバル資本主義に入ったのかというのも定説がないんです。もちろん、グローバル資本主義についての概念も漠然としたもの、これらはすでに述べました。ただ、資本の自由化があり、巨大な金融市場が形成されておること、コンピュータと通信技術の発達などによって金融技術が変化し、瞬時に膨大な資金が世界を駆けめぐっていることだけは確かです。
 金融市場というか取引は、一般的にいうと各国の通貨の取引をやる市場、もう1つは、銀行業務で伝統的な融資の仕事(資金の貸し借りの仕事)、それからもう1つは、株や債券を扱う証券市場、この3つですよね。
 それが、いま実体経済と比べると、ケタ違いに大きくなっており、その中で最も大きなものは通貨取引なんです。ここで動いている資金は想像もつかないほど大きい。1日で、日本円にすると約200兆円。200兆円といいますと、たった2日ぐらいで日本の1年間の国内総生産(GDP)と同じ金額なんです。そうすると、日本は大きい国ですから、世界のトップの米、日、EU諸国などを除く、あと100数十カ国全部の1年分のGDPに匹敵するほどの金額が、1日で取引されているということになります。しかもこの通貨取引の95%は、投機的な取引といわれています。
 実体経済と関係がなければいいんですが、関係があるわけですね。その取引が株に響いたり、各国の手持ちの外貨に響いたり、たちどころに銀行が滅びたりするわけです。そういうことで、世界はとんでもない所に来ているということなんです。  どうしてこんなことになったのか。こんにちの世界で、資本主義の金融市場がそこまで肥大化してなければ、コンピュータ技術が発達しようが何しようが、金融技術がどうであろうと、世界経済が天国から地獄に行ったり来たりするようなサイバー資本主義は生まれなかったはずです。
 だから、膨大なその資金、自由な市場、その発生、発展過程に着目することが大事なことだと思います。
 こうした仕組みの形成過程はいろいろありますが、先程いったようにブレトンウッズ体制の崩壊。70年代、米国がベトナム戦争やその他で、ドルを世界中に垂れ流すわけですね。そうすると、あちこちにそのドルが本国にかえらないで、さまよう。各国の政府や銀行に手持ちのドルがあるわけですね。日本はどっちかというと対米追随ですから、ドル資産をためてありがたがっている。それをいつまでもタンスに入れておけば、減ることはないと思っていた。しかし、ヨーロッパの人たちは信用していないですよ。だから、ドゴールなどはしょっちゅうこれを金と換えろと要求してきた。この圧力を避けるために、例のニクソン・ショックというのがあった。もうドルと金とは交換しないでよい、裏付けのないゼニを印刷しやすくなった。
 それにもかかわらず、ユーロダラーというのが増え続ける。その打開策として、石油危機を利用したといわれている。石油危機というのは、世界中の先進諸国からドルがどっと産油国に行くんです。そしてその産油国は、たまったドルを使わないで、米国の銀行に預け、米国の国債を買ったんです。そこがいわば世界の金融市場の肥大化の一つのステップでしょうか。
 米国は石油産出国の王様たちから預かったカネを運用して、利子を払わにゃならんので、世界中に貸した。とりわけ当時は第3世界に貸したんですね。米国の銀行は、大忙しになったんです。
 それで利益も得た、ところが借りた側は払えなくなる。80年代の始めに、累積債務問題(いわゆる南北問題)というのが起きる。そういうことで、払えなくなってまた世界が危機になった。それを解決したのがまた米国で、ちょうど今でいう不良債権を債券化しましょうというやつですね。つまり第3世界の払えない国に、いわば借用証(債券の発行)を書かせたんですね。そして、それをもって売った。だから、債券市場がまた膨大になった。
 そんなこんなで世界の金融市場は年月を経て、こんにちのように膨大なものになった。銀行は肥え太った。膨大な資金はあり余って運用にも困っており、血(利潤)に飢えているんです。
 ウォルフレンという日本にいるオランダ人の特派員、これが書いた本の中に、比較的まとを得た説明をしているのがあります。「今や消費市場は飽和状態になっている。何を作っても売れなくなった」と、数カ年前に携帯電話がはやった。あれがグワーッと広がった。そしてすぐ満杯になった。中国人に電話一つを持たせれば、という話がありますが、これだって今の世界の生産能力からみるとすぐ満杯になる。もはや何を作っても売れない状態になっている 。
 そこでつまらん商売、実際に人間に必要なのかと思われる商売もみなやっている。歌謡曲のCDを売るところから始まって、子供に化粧させるとか、男にこう(ピアス)つけさせるとか(笑い)、ブロマイドを売るとか、つまらん映画、あるいはポルノなどあらゆることを商売にし、市場をつくる。つまりなんでもビジネスにしてしまう。
 それでも資金があり余っているからで、今では株式会社、工場も売買をしている。そこには労働者も、社長もおるのに、あたかも商品のようにこれも売買の対象となる。株を公開した会社の社長は、「おめえのところの会社は全部俺が買ったからな」といついわれるかも知れない。今や会社も商品となっているわけですね。普通の商品の売り買いだけでなく、こういう共食いもやっている。コンピュータ技術と結びついてやっている金融派生商品(デリバティブ)などは、もうだまし合い、詐欺同然のことのようです。
 ウォルフレンが、資本主義は過剰生産、消費市場はいまや飽和状態、何にもかも商売にしてしまう。それでも資金があり余っている、これが世界の最大の問題、経済の最大の問題であるといっていますが、これはまとを得ていると思うんです。
 ここで触れるのが適切かどうかの問題はありますが。株主資本主義、つまり株主の評価、あるいは市場の評価と関連してですが、あそこでは労働者が余って効率が悪いという評判でも立つなら、たちどころに株が下がるわけですね。するとその会社の資産はごってり下がる。同様のことは銀行でも同じなんです。そうすると昨日までやっていけると思ったのが、株価が半分になったら、資産内容が悪いということで銀行も倒産しかねない。だからいきおい、市場の評価を気にしないわけにはいかない。
 極端な例は、国家もまた、金持ちの連中からみるとそういうことになる。だから、小泉が国家を効率よくしなくてはならんといって、民にできることはみんな官から民に渡すという。それで「改革」を一生懸命やっているわけですね。資本効率の悪い企業はつぶすともいっていますね。
 例えば500人とか、もっと慎ましくいえば10人とか20人を雇って、そして経営者がもうけはないけれど、ほそぼそうちも食えるし、従業員も食えるからまあまあじゃなあと。私どもから見ると、それもまた立派な会社だと思うんですよ。中小企業のおっさんが苦労しながら、一人でも首にしないようにというのは立派なことだと思うんです。けれども、今の投資家からみるとナンセンスということになる。そんなのは何の意味もない。そういうものは資本主義のプレーヤー、企業家たちの群から切り捨てなければ、効率が良くならない。こういうふうにまでなっている。そういう世界、国、社会になってしまっている。
 時代の流れで技術革新は進むし、それが生産、流通、あるいは金融にも影響を与えるが、それが原因でこんにちの社会、危機となったのではないんです。
 世界経済がうまくいかない原因は、巨大なあり余る資金が、何か物を作るとか、人間社会に有意義なものに投資されない。資金を必要としているのは、世界中にあります。貧乏な国はいっぱいですから。しかし、持ったやつからみますと、もうけなくてはいけない。だから、そういう意味ではこの巨大な資本がもはや手のつけられないところまで来て、世界経済はその重圧に苦しんでいるんですね。
 97年の5月からアジア危機が始まりましたが、その9月に、香港で世界銀行やIMFの総会があった。その数日前のセミナーで、世界の銀行家、企業家や有名な投資家たちが集まって議論した。金持ちどもがね。そのときにマレーシアのマハティール首相が、その場で演説した。モノ、実体の伴わない通貨の取引を禁止すべきだと。これこそアジアで何千万の人が失業し、中には命を絶たれた人たち、あるいは暴動の原因なったなど、いわば諸悪の根源と批判した。
 そこにはいなかったようですが、ソロスが直ちに「そんなことになれば世界は破滅する」と反論した。投資家たち、カネを動かして世界中の利益のある所にカネを投資する、もうけが少なくなったり、やばくなったらサッと引き上げる、そういう行動の自由を抑えられたら、世界は破滅すると、ソロスは正直にいったんですね。その通りの世界なんですよ、今は。ただし、世界ではなく破滅するのは資本主義です。
 さきほどいったように、1日に200兆円の多額な取引が瞬時にしてやられる。そのうちの95%以上は、決して貿易とかサービスのための取引ではない。貿易、サービス、旅行などのための取引は、たった5%にも満たない。膨大な資金は利を求めて、つまり人間の生き血をすするために世界中を駆け回っている。こういう世界ですから。こうした状況が、数十年の間に形成されたんですね。
 2次大戦後、最初はブレトンウッズ体制ができて貿易が始まる。それまでは、世界は貿易資本が直接物々交換する以外にシステムがなかった。そしてブレトンウッズ体制で為替レートが決まり、その時々のつじつまが合わない決済をやるために、世界銀行とかIMFがつくられる。そういうところから始まって、さっきもいいましたように、一連の経過があって、こんにちのような世界がある。
 つまり一般的にいいますと、この金持ち、つまりウォール街に集中している連中ですが、彼らにとっては巨大な市場は自分の物なんです。私的所有なんです。それを運用するのが何が悪いというわけでしょう。そのために圧力をかけ、世界中の貿易をしている所に、金融の自由化を迫った。日本のビッグバンというのも、あらゆる資本の自由化をやっているわけです。世界を自由化しなければ彼らは都合が悪い、こういう圧力をかけて世界を改造していく。こんにちに至ってまだ自由化を進めようとしているわけですね。
 しかし、アジア危機を経験したマレーシアのマハティールは、実体を伴わない通貨の取引は禁止しろというわけです。これで何十年も努力したアジアの何億の人たちが、営々として築いた経済が一瞬にして崩壊したからですよ。そういう要求するのは当然なんですね。ところが、それだと世界は破滅する、カネを動かさなければ、ということです。権利だといっているんです。ここに和解し難い世界の資本主義の矛盾、限界があるんです。こんにちのいっさいの経済の動きは、まずそのことを理解しなければならないと思います。
 そこで、もう1つ。正月の新聞を見られたと思います。トヨタの奥田碩さん、財界でも大将になりましたね。これが自動車産業は依然として経済の中核であろうし、製造業の中核で10年ぐらいはもつであろうと。それから先はわからんという話をして、日本は次々に何か新しい仕事を見つけなければならんともいい、その冒頭に、通貨のことと株価のことは「神のみぞ知る」といっている。わからんと。
 もう1つ、極端な例はソニーの出井伸之さんですね。この人は、世界の情報技術(IT)の先端を行き、日本のIT、家電のリーダーです。世界のIT革命を導く立場にある。その彼が年頭にいうのは、もはや長期計画などは空しいと。例えば、この2年間に通貨はどのくらいのレートになるか、予測しなければならない。この変動次第では、景気が悪くなくても赤字になるんですね。ところが見通しが立たないので、もう長期計画などといっても空しいと。したがって、何が起こるかわからない時代なので、守るということ。従業員や借金を減らし、無駄を省き、何が起こっても耐えられるようにならなければいかん。出たとこ勝負だといっているんですね。そして、出井さんは「これは、私がいっているだけではないんです」という。
 今、この間まで米国ゼネラル・エレクトリック(GE)の会長だったウェルチの本が、本屋に山ほど積まれている。これが辞めて日経新聞の「私の履歴書」に書いていた。出版記念に日本に来たですね。その出井さんとウェルチが出版記念会で会ったら、彼がそういっていたという。私ならば船の上で製造をする。そして輸出先に持っていって、港でどこ製かと聞かれたら、最も通貨の安い所で作りましたといって、そこに陸揚げするといっていたというんです。だから私だけではない。つまり、製造業の連中は自分の手の届かないところで通貨が変動する。予測もつかない。株価もそういう投資家たちによって決まる。だから、株主資本主義といわれるように、もう投資家あるいは市場の評判を気にし、生きていかなきゃならん。したがって日本でコストが高くつくというと、外国に逃げなきゃならん。彼らもまた、もはやこんにちの現状にとどまれない。じっとしておれん。

国民経済と政府の問題

 この間の国会で、小泉首相にある保守党の政治家が質問した。大不況が来るといって、市場で生き残るといってどんどん首を切ると。小泉総理、これに何とか手を打てないかといったんですね。それに対して、小泉がどういったかというと、私はそんなことはしません。企業は生き残らにゃならん。強い企業として生き残るためにやっておられることを、もし政府が干渉して規制をしたら外国へ出ていきますよ。だから政府の仕事とは、企業の努力を助け、環境を整え、日本に留まってもらうようにすることだといった。
 グローバル資本主義の中で、国民が黙っておると国民経済はもはや政府の手の届かないところに来ておるわけですね。だから、そういう世界を無批判的に受け入れて改革、改革ということになれば、どうなるか。明日は労働者やその流れの中で生きていけない人たちは、路頭に迷う。商売は続かない。そういう時代になっておるんですね。今、グローバル資本主義と国民経済という問題は、そういうことなんですね。
 グローバル社会が進行すると、各国の国民経済が米国スタンダード、米国基準の社会にさせられていくと。そこで、国民経済が破たんするので、例えば97年にマレーシアのマハティールが規制をやったようなこと、それをあちこちでやられたんでは世界のシステムが破滅すると、ソロスも、米国の頭目、投資家、銀行家たちもいう。
 金融の世界に関する限り、つまり資本主義の最も大事な頂点の部分では、世界システムになっている。にもかかわらず、各国は国民経済として管理されている。これが最大の問題だと。そして市場は、市場の流れは本質的に不安定だと。不安定なのにそれをコントロールする世界政府がない、これが大問題だといっているわけですね。しかし、各国が国民経済を守るといって戸を立てたら、例えば通貨を管理するとか、自由にさせんとか、というようなことになれば、世界秩序も崩壊すると。だからそれは許せんのだと。ある程度までチェック機能、安全弁の範囲ならば許されるけれどもという。
 コントロールするためには、世界の国際機関、つまりIMFとか世界銀行とか、国連などの流れを強くするか、世界的に何か作る以外に本来はないといっている。だから、日本の最大の問題は、こういう世界の流れ、米国の金融資本、ウォール街の支配する世界的な流れ、運営の中で、国民の利益を守るためにどういう道をとるかという選択が迫られている、ということになる。
 この問題について、榊原は「もう1度ああいった(97年)危機のようなことがあれば、世界経済はもたない」、崩壊するといっている。何としても、私はそれは避けたいと。そして、彼がいうには偏狭な国益論、「国を守れ」といった偏狭なやり方でも、結局世界の大勢の中で孤立させられ、たたかれて滅ぶと。
 もう1つ、「改革、改革」という人がおるけれど、そういう米国スタンダード、米国支配の流れの中で生き残ろうという「改革」をやったところで、世界で進む危機から逃れられない。私は別な道をとる、といっておるんです。
 彼がいうには、大体のところ「情報武装化」ですね。金融のバクチに対して、太刀打ちできる情報武装化ですね。金融戦は情報戦。「円安、円高」というような流れの中で、化かし合いを含めて、ニセの情報を送っても生き延びる、勝たねばならない。そういうことを生々しく書いている。「きれい事じゃない」ともいっている。そういう情報戦に耐えられる者を、大量に国家的に養成しなきゃいかんといっています。
 もう1つ、それにしても、世界では軍事力も必要、それを持たなきゃならんともいっていますね。まだ詳細な計画は発表していませんが、大体そういうニュアンスのことをいっている。
 つまり、米国の支配のグローバル資本主義は当面は続くでしょうから、その中で生き残りながら情報戦でも耐え、銀行業務でデリバティブでもやれるような水準を闘いとりながら、軍事力も蓄え、ある程度世界の中で発言権も確保しながら、米国に「もの言える」状態をつくろうと、こういうことのようです。どこか、中曽根康弘らに似ているところがある。
 同様に、三井物産戦略研究所の寺島実郎さんも、ずいぶん論客でいろいろ書いています。これもまた、全体的には今の米国スタンダードの中で、打ち破るわけにはいかないものの、ある程度距離を置こうということで、彼は安保条約の破棄のようなこともいっていますね。しかし、彼もまた日本の財界の研究所でしょう。だから、そこは限界でしょうが、これも距離を置きながら、何らかの意味で欧州の2つの実験に注目し、アジアと手を組んだりして、現状に修正を加えたい。つまり、暴れ回る、世界を自由に動かす横着者に距離を置きながら、手を抑えることができないかというようなことです。
 それから、小渕が死ぬ直前に欧州に行って、フランスと話をした。98年、あの危機があった後で、何とか短期資本を抑えようと、そうでないと世界が破滅するということで行って、この期間に、いろんな申し合わせはできたようです。ところが、榊原がいうには、現実に具体的には何1つ手が打たれていないと。つまり米国の利害があるわけですね。この資本を世界中を駆けめぐらせて、どこに投資して、どこから引き上げるなどという自由を束縛されたくないという米国。だから容易ではない。
 こういう時代に、例えば欧州は欧州連合(EU)で対抗しようとしている。あれは、1次大戦、2次大戦やって戦争の経験から、そこを避けたいというのもあるんでしょうが、もう1つは、ドルに対して防衛していくということとしてあると思うんですね。わが国はどうするんでしょうか。国民経済と政治の問題は、グローバル資本主義の下で、最大の問題だと思うんです。

社民主義の問題

 それから社民主義の問題ですが、欧州で英国のブレア首相が、97年に登場した。それから98年と、欧州で社民主義が急速に政権にありついたんですね。だから一時、日本の社民がこれにあやかろうとした。今度の社民党大会、何も方針が出なかったもんですから、1年かけて社民主義を何とか確立したいといっている。結局、今のグローバル社会、日本でいうなら改革政治ということで自民党がやっているわけですが、これにどう対抗するかが基本なんですね。
 市場主義、市場原理主義、弱肉強食の時代、これを緩和するということが社民主義として、いわれているわけです。しかし、ブレアがドイツが少し違うのは、英国の場合はサッチャーがあって、「イギリス病」といわれたものを立ち直らせた経過があり、その中で、その後を受け継ぎ「第三の道」を選択した。長い間苦労して政権にありついた。
 ドイツとフランスはちょっと違んですね。そして努力したというより、あれはまあ土井たか子さんが勝った時、消費税のころですかね「山が動いた」といったような雰囲気でした。欧州は、欧州統合の中で、各国のレベルを合わせるという情勢に迫られ、既得権を次々と取り上げて、例えば「赤字を3%以内に抑える」とかいろんなことで、欧州の人たちは大変苦しんたんですね。それの流れの中で社民は、もう1度復活した。というわけで、ドイツなどはサッチャー風のようなものを経験しないで来たんですね。ですから、社民主義は2、3年してブレアと同じ道をたどり、今では社民主義をとうに捨てた人たちについて、ドイツもフランスも「社民党は裏切った」というふうになる。
 つまり、グローバル資本主義の世界の中で、欧州の企業家は生き残ろうとしているわけで、この企業努力の阻害要因になるようなことをやれば、どうなるか。ドイツ経済やフランス経済はきついんですね。市場のいうことを聞けば、労働者や市民の既得権にはマイナスになる。つまり、「第三の道」などというのはごまかしになりかねない。そして、今度のテロ事件以後のアフガン戦争などはじゃんじゃん爆撃するところまで踏み込んだ。
 そういう厳しい資本主義、グローバル資本主義は過剰生産、厳しい競争に悩んでいる、そうした社会ですから、あいまいな中間はないんですね。大変だと思いますよ。まあ大体そういうことで、グローバリズムに対する態度を明確にしなければ、社民党も自分の理念をうち立てることはできないと思います。
 しかし、ご存じのように「改革政治」についても、参院選挙でも社民党の内部でもまるで意見が違っていた。

社会主義問題

 次に社会主義問題についてちょっと触れておきたいんですが、つまりこの社会主義というのは社民主義とか何とかではなくて、資本主義に取って代わるべき社会主義の話です。そして歴史的には80年代末期から、世界的な規模で敗北、あるいは大幅に後退したんですね。こうして、理屈も影響力も後退したわけですが、その時期にしかも急速に、世界的な範囲でいえば、このグローバル資本主義下、まさにその条件がいっそう成熟しきったと思います。
 巨大な金融資本の存在とその私的所有は、ますます世界資本主義の実体経済、あるいは諸国民の生活を破壊する要因になって、もはや耐え難いところまできている。その現象が、誰にも読みとれるようになった。
 最近のグローバリズム批判の中で、2極分化もそうなんですね。富める者と貧しい者がますます格差が広がっているというような。そして、この中間がなくなってきていることについて、三井の寺島氏は「社会の中間層がおることが社会の安定要因だったけれども、世界はますます不安定になる」というようなことをいっておりますが、もはや耐え難いところまできている。2極分化もその成熟しきった証拠ですね。
 それから94年、97年の危機、あるいはそれが頻発する状況が進んでいるということの中にも見られます。  また、世界の貧富の格差が極端になって、不安定さが増大し、ますます米帝国主義をして、軍事力によって世界秩序を保たなければならない、軍事力に依存する度合いがとても強くなってきているということの中にも、私は世界の資本主義が成熟しきって、一般的にいうと、いわば社会主義の寸前であるということがいえるんだと思います。
 テロ事件、あるいは反テロ報復戦争なども、そういうことを示しているということなんです。