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労働新聞 2022年10月5日号・2面〜3面

日中国交正常化50年、
「台湾有事」とめよう

自主外交とれぬ岸田
政権に各界から厳しい声

 日中国交正常化から50周年、日中関係は首脳会談のメドすら立たず、最悪とも言われている。岸田政権は米国の中国抑止策に追随して、「台湾有事」などを口実に軍備増強、南西諸島の軍備強化を進めている。国交正常化の原点である1972年の「日中共同声明」など日中間の約束事は事実上ホゴにされようとしている。50周年に際して、日中関係者をはじめ財界などの中にも現状を危惧する声が上がっている。だが政権与党だけでなく野党の中にも中国敵視政策に異を唱える声は小さく、共産党は中国を覇権主義と攻撃する犯罪的な役割を買って出ている。揺るぎない日中関係はわが国だけでなくアジアの平和と繁栄のためにも重要であり、それにはわが国が自主外交を打ち立てる以外にない。こうした声を大きくしていこうと「日中国交正常化50周年、とめよう『台湾有事』! 自主外交を求める緊急集会」が9月29日、東京で開かれ重要な成功を収めた。以下、主な登壇者の発言を掲載する。(要旨・文責編集部)


米国の東アジア戦略、「台湾有事」を起こさせない! 日中韓、沖縄を平和のハブに!
羽場 久美子(青山学院大学名誉教授)

 「台湾有事」の背景には中国の経済成長がある。米の世界戦略は、21世紀にも自国の覇権を維持することだ。
 20世紀は米国の時代だったが、バイデンはウィルソン、ルーズベルトの二大巨頭をまねて「価値の同盟」を言いだした。「民主主義対専制主義」という価値の同盟で世界を分断していこうとしている。
 アフガンからの撤退で地に落ちた米国の威信を塗り替えようと積極的に世界戦略を練り直している。新冷戦ではなくむしろ「熱戦」が準備される、抜き差しならない状況だ。
 コロナ禍で米欧日の経済衰退は加速された。この危機感が米国の覇権維持のための外交、軍事政策を活発化させている。今やるべきことは、対立する国と共存することで戦争を避けることだ。米国は戦争をやめさせるどころか火に油を注ぐようにウクライナへの武器援助を進め、停戦を遅らせている。台湾への支援も進めている。「台湾有事」は中国の成長を止め、米国の覇権を継続するという米国の「のるかそるか」の生き残り戦略である  世界は先進国の衰退と新興国の成長がパラレルに起こっている。中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどの成長が続いている。21世紀後半はアジアの時代であるとOECD(経済協力開発機構)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行まで言っている。これを止めるかということが、米国にとって極めて重要な戦略だ。
 ジョセフ・ナイ(元米国防次官補)は、ウクライナ戦争は米国に最大の利益をもたらしたと言った。各国が軍拡に動き米軍需産業を増大させ、武器輸出が空前の規模で拡大した。経済制裁で一番打撃を被ったのは、同盟国であるドイツや欧州諸国や日本。それを尻目に米国は経済的に回復する状況になった。米国は戦争の継続を望んでいる。
 米国の戦略は必ず中国に及んでくる。ウクライナ戦争をやめさせ東アジアに火の粉が及ばないようにすることが大事だ。
 国交正常化から50年、本来、日中両国を挙げて祝わなければならない時にこういう話をしなければならないこと自体が悲しいことだ。米国は台湾有事を後ろからあおっている。始まった戦争は止められない。いかに東アジアの対立関係を戦争に発展させないかということが大事だ。
 米国はインド太平洋戦略として、クアッド、クアッドプラスを言いだした。クアッドは中国の「一帯一路」にくさびを打ち込む形で、安倍元首相が提唱した。さらに強力な軍事同盟としてAUKUS(米英豪)さらに5アイズ(諜報網)を握って世界中に諜報網を張り巡らしている。仏、独も加わった。だがインドは米国の言いなりにならないという姿勢だ。
 日本列島は3千キロにわたって大陸封じ込めの自然要塞(ようさい)といえる。そこに米軍基地、軍が大量に導入されている。ロシア、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、中国の三方からのミサイルに対してイージス艦などでは守れない。話し合いを継続しないと大変な状況になる。
 アンガス・マディソンによる2030年までの経済統計でGDP(国内総生産)の推移を見ると、1800年代までインドと中国が世界経済の半分を占めていた。その後、中国やインドの富を収奪して欧米が成長した。アジアはもともと経済と文化が豊かで、植民地から解放され、再び成長している。
 中国やインドは大国でありながら周辺国と地域協力を拡大している。
 だが、米国は覇権にしがみつくために「米中核戦争シナリオ」さえつくっている。尖閣、南シナ海、台湾が口実になっている。米国に届かない中距離核を中心に戦争準備をしている。経済分野でもアジアを分断しようとしている。米国はドイツとロシア、日本と中国、台湾と中国を対立させることで米国の支配を続けようとしている。
 東アジアは世界の軍事、経済、政治大国が集まるところだ。日中韓、沖縄の連携で平和的安全保障体制を確立することが重要だ。欧州安全保障協力機構(OSCE)のような、恒常的な対話組織の確立が急務だ。
 政府と政治家だけに任せていてはいけない。議員、自治体、市民、知識人、経済界、メディアなどが入って進めることが重要だ。
復帰50年の沖縄と現状
高良 鉄美(参議院議員・琉球大学名誉教授)

 沖縄では、シェルターの準備が始まっている。それは戦争の準備行為であり、戦争に向かっているということ。緊急集会で「沖縄を再び戦場にするな、真面目に平和外交を行え」と訴えた。
 沖縄の現状は、主権在民ではなく、日本政府がやっていることは主権在米ということだ。
 沖縄の空には憲法はない。嘉手納ラプコンは返還されたが、実際は米軍が管制をやっている。低空飛行をやらざるを得ない。訓練空域、海域が次々作られている。日本の主権はない。
 沖縄は、福岡より台北、上海の方が近い、東京より、香港、マニラの方が近い。アジアのハブとして有利な位置だ。沖縄は万国津梁の鐘の漢詩に言われるような懸け橋の地位にある。沖縄の経済的活用が必要だ。
 日本はウクライナ戦争を止めようとしていない。参議院のロシア非難決議では退場したら「非国民」と言われた。
 台湾有事を口実に馬毛島、宮古、石垣島で基地強化が進められている。辺野古新基地建設には県民投票で72%が反対し、参院選や今回の県知事選挙でも示された。辺野古の問題はデモクラシーの問題だ。台湾有事について、沖縄は止めてくださいと言っている。
 将来の世代がアジアの未来予想図を描けるように、そういう時代をわれわれがつくらなければいけない。
食料安全保障について
鈴木宜弘(東京大学大学院教授)

 日本が近い将来、飢餓に直面するという想定はすぐそこまできている。
 コロナ禍で物流が止まり、ウクライナ紛争が起きて物流が止まってきている。小麦の輸出の3割はロシアとウクライナが占めている。日本は米国から買っているから大丈夫だなどと言っているが争奪戦になって日本が買い負ける状況が起こっている。来年から日本の農家が使う肥料が供給できないかもしれない。
 お金を出せば買えるなどウソで経済安全保障など通用しなくなる。
 「台湾有事」が起こったらアウトです。米国の大学が核戦争のシミュレーションをしたら、国際物流が止まり局地的核戦争でも日本人の6割が餓死する。米ロの全面核戦争では全滅。核で死ぬのではなく餓死する。戦争に突き進むようなことを勇ましく言うことが、いかに愚かであるかということを本当にいま考えなければいけない。
 こんな時に国内の農業生産より中国がけしからんから経済制裁を強化して敵基地攻撃能力を高め、防衛費は2倍に増やし、いざとなれば攻めていけなんて言っていたら、闘う前にみんな餓死してしまう。
 米国は日米安保で何を守ろうとしているのか。米本土を守るために、沖縄の周辺にもミサイル基地を増やし、日本を戦場にして米国を守るということです。こんなことに加担したら、日本が一番被害を受ける。
 米国追従はいますぐ断ち切り、アジアとの共生システムを早急に考えなければならない。国民を守るため、国家戦略として外交をどうするのか、近隣との関係をどうするのかということを抜本的に立て直し、早急に行動しないと間に合わない。
 集会には伊波洋一・参議院議員など100人以上が参加した。多くのメッセージが寄せられ、各界からアピールも行われた。賛同も部落解放同盟中央本部など多くの団体・個人から寄せられた。主なメッセージと各界からの訴えを紹介する。

【メッセージ】(要旨)
鳩山友紀夫(元内閣総理大臣・映像出演)

 日中国交正常化50年の今年は本来は両国の輝かしい未来の50年に向けた再スタートとなるはずだったが、米国の軍産複合体が台湾をめぐる「有事」を引き起こし、東アジアの平和を第一に考えるべきわが国はその米国に追随している。50年前、日中間にはもっと価値観の違いがあったが、それを乗り越える努力が行われてきた。その原点に立ち返ることが求められているのではないか。

玉城デニー(沖縄県知事)
 米軍基地が集中している沖縄が戦争で攻撃目標になることは絶対に認められない。地域の平和と安定を図るためには、抑止力だけでなく、平和的な外交、対話による緊張緩和が不可欠だ。国家間の外交のみならず、地方レベルを含めたさまざまなレベルで、幅広い分野で、対話や連携による信頼醸成が必要。沖縄は、かつて琉球王国として周辺の諸国と交流してきた歴史があり、現在も中国本土や台湾を含め各地と交流が続いている。沖縄はこの特性を生かして地域の信頼醸成ネットワークのハブとして積極的な役割を果たすことができるし、実際にさまざまな取り組みを進めているし、今後も広げたい。

角田義一(元参議院副議長、自主・平和・民主のための広範な国民連合代表世話人)
 岸田政権は何の哲学もなく、自己保身のために安倍「国葬」を強行した。これは明らかに憲法違反の暴挙だ。間もなく臨時国会が始まるが、安倍元首相の旧統一教会との癒着について暴き、また台湾海峡での軍事衝突を起こさせないよう大衆運動を盛り上げなければならない。岸田政権を追い詰め、解散・総選挙に追い込んで新しい政権を打ち立てよう!

川田龍平(立憲民主党両院議員総会長・参議院議員)
 日中正常化は日本と中国はもとよりアジアと世界の平和に大きく貢献してきた。今後も両国の発展のため、私たち一人ひとりが知恵を絞り、平和な世界をつくっていかねばならない。日本国内で台湾有事が不安視され、中国も反発を強めている。中国、台湾、米国、日本、東アジア全体で緊張関係が急激に高まっているが、どんなことがあっても人と人が殺し合う戦争を起こしてはならない。

大石あきこ(れいわ新選組・衆議院議員)
 岸田政権は今年5月、経済版戦争法と言うべき経済安保法を成立させた。米国の世界戦略に追従し中国敵視政策をともに行う危険な道を歩んでいる。日本は半導体、レアアース、蓄電池、医薬品などの重要分野において中国に大きく依存している。米国の尻馬に乗って対中国包囲網に加担することは非現実的路線にほかならない。れいわ新選組は2月、衆院本会議における「新疆ウイグル等における人権状況決議」に関して唯一反対した政党だ。米国といっしょに戦争を遂行し、東アジアに再び戦火をもたらすことは絶対に阻止しなければならない。

小椋修平(足立区議会議員、広範な国民連合・東京世話人)
 対米追従の軍拡や沖縄をはじめとする南西諸島の最前線基地化、抑止力の強化ではなく、対話による信頼醸成の外交に努めるべきであり、戦争だけは絶対に避けなければならないという日本の立場を訴え続けるべき。日中関係の改善に向けて、日中首脳会談の開催、不再戦の誓いを求める。
【各界からの訴え】(要旨)
畠山澄子(国際交流NGOピースボート)

 ピースボートは歴史教科書問題から始まった。原点は日中関係にある。1984年のクルーズでは過去の戦争を見つめ未来の平和をつくる船旅で上海、南京を訪れた。40年間、草の根の国際交流を続けてきた。互いを脅威ととらえ安全保障関係が厳しい中でも地に足がついた交流を通して、お互いを信じることを大切にして信頼関係を築いてきた。民間外交の船旅に中国、韓国、東南アジアなどの若者も参加するようになってきた。いまこそ市民レベルの地道な交流を重ねることが大事だ。同じように国家は軍事力でなく政治的な対話を何よりも大切にしなければならない。

高須海地(Friday for Future Shiga)
 今の歴史教育は単なる知識を教えるだけでその背景を深く考えるようになっていない大きな矛盾を抱えている。教育を変えることが隣国との関係を築いていくことにつながっていく。何事にもユーモアを貫けるように勉強を続けたい。

坂田冬樹(全日本建設運輸連帯労組近畿地本関西生コン支部副委員長)
 あらゆる戦争に反対することを体で示すことが労働運動の基本だ。世界は大転換の時を迎えている。ウクライナ戦争で世界情勢は一変したといえる。ロシアも非難されるべきだが北大西洋条約機構(NATO)を拡大してきた西側諸国も非難されなければならない。労働組合として労働者の利害と相反するあらゆる戦争に反対していく。

藤田高景(村山談話を継承し発展させる会理事長)
 国葬反対では全国各地でいろんな集会やデモが開かれたが、日中国交正常化 年を祝うこういう大衆集会はほとんどない。これは大問題だ。日中友好団体はいくつもあって、幹部は日中友好をやっていると言うが、政府ともめるような言論はやらない。米国による中国たたきに正当性はない。米国は中国に追い抜かれる恐怖心からたたいている。利己主義そのものだ。

河内ひとみ(荒川区議会議員)
 荒川区は中国・大連市の友好交流都市としてファッションショーなどを通した交流を続けている。政府間が冷え込んでいる時こそ、地域レベル、草の根レベルの交流を大事にしたい。

水岡俊一(立憲民主党・会派「立憲民主・社民」議員会長)
 いま両国間は厳しい状況だ。どうやって中国、台湾、韓国とどのように平和を求めていくか、政治家の対話なくしては実現できない。与野党超えて政治家がもっと対話を進めていく努力をすべきだ。

内海洋一(社会民主党全国連合組織団体局事務局次長)
 84年の青年交流に参加した。いまだに中国から年賀状が来る。手厚い人情を感じる。経済危機と政治システムの矛盾を米国は軍事的手段で解消しようとしている。平和外交と憲法9条がまさに求められている。沖縄や南西諸島を見ると政府は憲法を無視している。危機的状況の中で憲法を守る政党が必要だ。

大嶋和広(日本労働党中央委員会総政治部責任者)
 本来なら今日はめでたい日だが、各紙の社説などを見ても日中関係が最悪となったのは誰のせいなのか、なぜなのかが隠されている。米国のこともほとんど言及がなく、中国がどうしたということばかりだ。米国の戦略について、衰退を巻き返そうと悪あがきしている点を念頭におかねばならない。日本が米国の戦略に手を貸さないということになれば米国のアジア戦略は崩壊する。せめて米国従属一辺倒の今の外交は早急に転換されなければならない。そのためには日中両首脳の会談が早急に必要だと主張したい。日中間の首脳の柔軟な対応が必要で、今こそそのような姿勢が必要だ。
日中国交正常化50年 とめよう「台湾有事」!自主外交を求める緊急集会アピール
 日本と中国が国交を正常化してから50年目を迎える9月29日、私たちは「日中国交正常化50年/とめよう『台湾有事』!自主外交を求める緊急集会」を開催しました。
 先人たちの努力を背景に、日中両国は1972年の日中共同声明で国交を正常化しました。
 日中両国は「長期にわたる平和及び友好のための協力」をうたっています。台湾が中国の不可分の一部であるとする中国の立場を「十分理解し、尊重」することも確認しています。
 日中正常化は、アジアと世界の平和と利益に大きく貢献しました。国際環境が変化する21世紀においても、両国関係を発展させることが不可欠です。
 ウクライナ戦争を機に、米国は「台湾有事」をあおり、「中国包囲網」を強化しています。ペロシ米下院議長の台湾訪問、ハイテク製品での「中国排除」、「台湾政策法」の審議などが進められています。中国は反発を強めています。
 日本でも「中国脅威論」があおられています。岸田政権は防衛力の「抜本的強化」を掲げています。経済安全保障の名の下、サプライチェーン(供給網)を再編する動きもあります。
 こうした「日米同盟強化一辺倒」の外交・安全保障政策は、再度の日中戦争を引き起こしかねません。沖縄は「対中国」の「最前線」に立たされています。軍拡は大衆増税や社会保障制度の改悪を招き、国民生活に甚大な悪影響を与えます。
 政治的立場を超えた多くの人びとが、日中関係の早急な改善を求めています。
 岸田首相は、早急に習近平国家主席と首脳会談を行い、関係改善に踏み出すべきです。
 国民の皆さん! 対米従属政治を転換し、自主外交を求める世論と運動を盛り上げようではありませんか。両国間の民間外交、経済・文化交流を発展させましょう。
 私たちは本集会を機に、「台湾有事」につながるあらゆる動きに反対し、日本の自主外交を求める幅広い運動を強める決意です。

日中国交正常化50年 とめよう「台湾有事」!
自主外交を求める緊急集会参加者一同

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