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労働新聞 2022年1月1日号・12面

全国水平社創立100年

裁判闘争の完全勝利と
部落差別禁止の法制化を

片岡 明幸・部落解放同盟
中央執行副委員長

 部落解放同盟は今年3月3日、前身である全国水平社が創立されて百年の節目を迎える。部落解放同盟は、これまでの先達たちの闘いの歴史的教訓と向き合いながら、時代とともに生じる新たな課題に取り組み続けている。こんにち、インターネット上で流布される差別に対する取り組みはきわめて重要かつ喫緊となっており、昨年9月には鳥取ループ・示現舎に対する「全国部落調査」復刻版事件に関する5年にわたる裁判闘争を経て一定の勝利判決を得た。この課題の重要性や取り組みについて、部落解放同盟の片岡明幸中央執行副委員長に聞いた。(文責・編集部)


 今年は全国水平社創立百年だが、この百年で差別がなくなったわけではなく、依然として部落差別が存在し、また新たな形で広がってもいる。百年は節目だがあくまで通過点で、部落差別撤廃にむけた闘いの基本は堅持しなければならない。

「空白の十五年」と新たな差別
 この百年を大きくと振り返ると、大正から昭和初期の全国水平社の運動があり、翼賛体制下で中断した運動が戦後復活、現在の部落解放同盟結成へとつながった。  先達たちの運動により一九六九年に同和対策事業特別措置法が制定された。これにより生活環境改善や社会福祉の増進、産業の振興などをめざすさまざまな事業が国の財政措置で行われるようになった。住宅や隣保館・教育集会所の建設、就労・教育対策などと同時に、学校現場でも同和教育が行われるようになった。
 しかし、二〇〇二年に特別措置法が終了し国の財政措置が切れると、「部落差別はなくなった」「同和行政・同和教育は終わった」などの誤った認識が広がり、学校現場で同和教育を無視・軽視する傾向が広がった。一部では真面目に取り組まれ続けたが、「これ幸い」とやめる学校も相次いだ。
 一六年に部落差別解消推進法が制定された。「部落差別」の名称を使った初めての法律であり、これにより現在もなお部落差別が存在するという国の認識が明確に示され、部落差別は許されないこと、部落問題を解決することが重要な課題であること、そのための教育及び啓発の必要性が明記された。
 特措法終了から推進法制定の「空白の十五年」の間、ネットが急速に普及したことに伴い、その匿名性や拡散性を悪用した差別事象が多発するようになった。その最も悪質なものが「鳥取ループ」を名乗るMと示現舎による「全国部落調査」記載内容のネット上での公開だ。また、面白半分に部落を探訪する動画がアップされたり、何か事件があればすぐに部落と関連付けられたデマが拡散するなどの事象は後を絶たない。自治体が差別防止のためネットをチェックするモニタリングを行い相当な数の差別書き込みが削除されてもいるが、いたちごっこの状態だ。
 同時にこの間、学校で同和教育を受けられなかった子どもがネットで地域の部落差別情報に初めてふれて素直に信じるという、新しい差別の再生産が生じるようになってきた。これは親や祖父母などが近隣地域の部落を教えるような従来型の差別とは違うものだ。
 象徴的な出来事が一九年一月に起きた。佐賀県の高校生がフリマアプリ「メルカリ」に「復刻版・全国部落調査」を出品した。この高校生は、ネットを通じて初めて部落について知り、鳥取ループが公開した「復刻版」のPDFデータから三冊を印刷・製本、その内の一冊をメルカリに出品した。これが五千五百円の高値で売れたことに驚き、残りの二冊もメルカリで販売、さらに二冊を製本して出品しようとしていた。しかしネットニュースで自分の販売行為が問題となっていることに驚き、自ら県行政に連絡し追加製本した二冊を引き渡し陳謝した。
 私はこの高校生と実際に会って話をしたが、「面白そうだからやった、自分でも部落を訪ねてみたりもした」という感じだった。悪いことしたという感覚はなく、「復刻版」の印刷・製本・販売がどういう被害につながり得るのかということも分かっていなかった。
 このような新しい差別は「新自由主義」的な意識とも関連があるように感じている。不遇で貧しい人が部落差別をするのではなく、歴史的な脈絡を知らない社会的成功者が「同和対策は不公平」との差別意識を持つ。これは「在日特権」などと言われるものと似ている。学校教育や社会教育の場での人権・同和教育や部落問題研修を推進することの重要性を強く感じている。

勝利判決、司法判断の限界も
 鳥取ループが「復刻版」のオンラインストア・アマゾンでの予約を開始した一六年二月、早急にこの行為を止めようと地裁に訴えたところから裁判闘争が始まった。三月に販売中止の仮処分が決定され、四月には「出版禁止、ネット掲載禁止、損害賠償」を求めて提訴した。昨年九月に出た地裁判決は、基本的には勝利判決だが、問題も多く中途半端で、私たちは完全勝利をめざし十月に高裁に控訴した。
 地裁判決の評価できる点は、▽部落の一覧表の公開は違法だとはっきり示した▽部落差別の存在とその深刻さを指摘し地名公表によって差別を受ける可能性があることを認めた▽損害賠償責任を認めた▽本の出版とネット掲載の差し止めを認めた▽差し止めは「表現の自由」侵害に当たらないと判断した、などだ。
 一方で問題としては、「差別されない権利」を認めず「プライバシー侵害」だけで判断したため、結果として二十五の都府県だけを差し止め対象とし、十六の県を除外したことだ。損害賠償も原告二百三十五人のうち二百十九人に対してしか認められなかった。
 もう少し説明すると、裁判所は「部落差別が存在することは認めるが、被差別部落の地名を出すことが差別になるという法律がない。しかし地名一覧表の公表でそこに現住所や本籍を置いている原告のプライバシーを侵害することは明白なので、プライバシー侵害で原告らの訴えを裁く」という考え方をしたと思われる。だから原告のいない県は「プライバシー侵害が発生しない」と差し止めの対象外にした。私のように出身地である被差別部落から引っ越した者の損害賠償を認めず、部落出身だと公表している者のプライバシー侵害も認めなかった。
 私たちは部落一覧表のネット上からの完全な削除を求めていたのだが、差し止めが県ごとに違うという判断はネットの性質からしても理解に苦しむ。実際、鳥取ループは「裁判所が公表にお墨付きを与えた」などと吹聴している。また部落出身だと公表している人のプライバシー侵害を認めないというアウティングとカミングアウトの違いを理解していない判断も認めがたい。私は部落差別をなくすために名前を出して活動しているのであって、差別されるために名前を出しているのではない。
 今後は、判決の評価できる内容を積極的に取り上げ、自治体にネット上にあふれる差別情報のモニタリングと削除を求める取り組みを強めると同時に、部落差別を禁止する法律、とくに部落一覧表や関係者の名前を公表することは差別であり禁止するというはっきりした法律を実現する運動を強めなければならない。
新春メッセージ
闘いの歴史ふまえ反差別共同闘争発展させよう
部落解放同盟中央本部執行委員長 組坂 繁之


 昨年の衆議院総選挙は、自民党が議席を減らしたものの、保守補完勢力の伸長により、改憲発議の条件ができるなど、たいへん厳しい結果となりました。岸田政権は、「新しい資本主義」をめざすとして、「成長と分配」を強調していましたが、所信表明演説でも明らかなように成長を優先するばかりで、市民のいのちや生活を守るという本来の政治の最も重要な課題への取り組みがまったくすすんでいません。
 この間の感染症の世界的流行(パンデミック)への対策では、自国第一主義が生み出した対立的な国際情勢のなかで感染症拡大防止に向けた共同の取り組みをすすめることができませんでした。とくに、米中対立の激化、欧州連合(EU)諸国の不統一をはじめ、中東や朝鮮半島情勢などのように、国際情勢をいっそう不安定なものにしています。
 こうした社会的政治的情勢のなかで求められているのは、人権と平和の確立にむけた政治勢力の結集であり、差別と戦争に反対する市民運動の拡がりです。岸田政権は、米国への追従をより深めるなかで、軍事費の増大をさせ、沖縄の民意を無視した辺野古新基地建設をあくまでも強行する姿勢です。また、「敵基地攻撃能力」の保持を明言するなど、憲法違反の戦争推進政策をすすめようとしています。
 今日の日本社会は、新自由主義政策のもと、貧困と格差が拡大、固定化しています。さらに感染症拡大のなかでの社会不安や不満を背景にして、インターネット上の差別情報の氾濫やヘイトスピーチのように差別と暴力が公然と煽動されており、改憲阻止の闘い、人権と平和を確立するための取り組みの強化が求められています。
 私たちは、「部落差別解消推進法」制定の成果をふまえ、部落差別撤廃と、国内人権委員会の設置を中心にした人権侵害被害救済制度の確立、狭山再審闘争の勝利、天皇制の強化に反対する闘いなど、反差別共同闘争の力を総結集して闘います。
 本年は、部落民自身の自主解放をめざした全国水平社の創立から百年の大きな節目の年です。部落解放−人間解放をめざした多くの先達たちの苦闘に想いを重ね、闘いの勝利にむけてともに奮闘しましょう。


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