ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2020年7月25日号・5面 国民運動

広範な国民連合・神奈川
地位協定改定へ知事要請


米軍コロナ感染公表を
思いやり予算廃止せよ

 自主・平和・民主のための広範な国民連合・神奈川や厚木基地爆音防止期成同盟、第五次厚木基地爆音訴訟原告団、原子力空母の母港問題を考える横須賀市民の会の四団体は七月二十日、思いやり予算の廃止と日米地位協定の抜本改定を神奈川県の黒岩祐治知事に対し要請した。要請行動には日下景子、野田はるみ両県議会議員も同席した。
 渉外知事会を前にした行動。地位協定の抜本改定を求める知事要請は二〇一七年から毎年継続して取り組まれ、今年は四回目。
 これまでは前段に大衆的集会を開いて県民の意思と力を一つにし、その年の主な課題をまとめてきた。昨年は、東京五輪に向け羽田国際便の増便にともなう都心上空を通る新飛行ルート問題が浮上(今年四月から開始)、一都九県の広大な空域(横田ラプコン)の存在こそ問題の根源と告発、空域の主権を取り戻すため撤廃すべきと訴えた。
 今年は日米安保条約が改定されて六十年、地位協定締結後六十年の節目の年(行政協定からは六十九年!)で、新型コロナウイルス感染のパンデミック(世界的流行)の中、そして米中「新冷戦」が激しさを増す中、わが国のおよそ独立国とはいえない実際があぶり出され、地位協定の抜本改定は待ったなしの課題となっている。
 四団体を代表して冒頭の発言を行った国民連合・神奈川の原田章弘代表世話人は、あらためて一昨年七月、全国知事会が日米地位協定の抜本的改定を求める提言を採択したことにふれ、「戦後長期に続いてきた屈辱的現状の打開を求める国民の願いを実現しようとする画期的な政治行動だった」と評価、その進捗状況をただした。さらに、それを主導した故翁長沖縄県知事の「遺言」的告発…「日本国憲法の上に地位協定があり、国会の上に日米合同委員会がある」を紹介し、「地位協定を抜本的に改定し、在日米軍の治外法権を撤廃し国内法を適用することは独立国として最低限の要求だ」と指摘した。
  *   *   *
 具体的には、以下の六項目を要請した。
(1)「思いやり予算」の増額交渉には応ぜず、廃止するよう、渉外知事会として国に求めること。
(2)米軍、米兵を国内法で規制できるように、二〇一八年全国知事会の提言を実現するために渉外知事会として今年も国に要請に行くこと。
(3)横田ラプコンの撤廃を、渉外知事会として国に求めること。
(4)県民、国民の健康、安全、基本的人権を守るために、米軍基地内の新型コロナウイルスの感染状況や沖縄の泡消火剤の慰労問題などの情報を公開するよう、国が米軍に対して強い態度で迫り、国はその情報を徹底公開するとことを、渉外知事会として国に求めること。
(5)沖縄県の努力を支持し、日米地位協定の抜本的見直しが日本国民全体の問題として受け止められるように、基礎的情報や同協定が抱える問題点、見直しの必要性の理解を国民全体に広げるよう、渉外知事会として取り組むこと。
(6)沖縄県知事のように県民世論喚起と運動の先頭に立ち、国に強力に働きかけること。
  *   *   *
 続いて要請団体と参加者は、神奈川の現場で何が起こっているか、その厳しい現実を直視して、実効ある対応の切実さを訴えた。「七月から学校が再開されたが、厚木基地周辺の学校では、密にならないために窓を開放しなければならないが、爆音は続いている。そんな状況でちゃんとした教育ができるのか」「地元市長との面会で厚木基地司令官は『感染者は基地の一%未満の小人数』というが、そもそも基地内の米軍人などの人数さえ公表されない」「感染状況が公表されないまま、米兵たちが横須賀基地の外を自由に歩いていて、とても不安だ」「韓国では米軍の感染状況についてホームページで公表している。どうして日本ではできないのか」など、急速に拡大している米軍のコロナ感染状況について、米側に弱腰な日本政府の態度を批判した。
 すでに米軍の感染者は爆発的に増え、二万人を超えて拡大中だ。沖縄では米軍関係の感染者は二十一日現在、百四十八人にもなる。米軍の「公表」でも県内では横須賀基地八人、厚木基地二人、キャンプ座間一人が感染している。沖縄では県議会を含め市町村議会では「米軍の感染情報の全面開示を求める」意見書が相次いで採択され、玉木県知事は上京し、政府と米大使館に協力に申し入れを行った。超党派の野党議員でつくる沖縄等米軍基地議員懇談会」も、茂木外相に米側に強く要請するよう申し入れた。そうした沖縄を先頭とする全国の動きと連動して、今回の要請は神奈川県に対して強く迫るものとなった。
 県側からは、三森基地対策部長以下三人が対応、「いただいた貴重な意見を知事に伝え、国に働きかけたい」と述べた。
 また、喫緊の課題である米軍のコロナ感染公表問題については、昨日、全国知事会のコロナ緊急の対策本部会議が開かれ、「米軍が感染者の情報を公表」「入国の手続きの不備について改める」「沖縄の基地の日本人従業員の検査等をしっかりやる」などの緊急提言がまとめられた。
  *   *   *
 今年の要請のもう一つの柱とした「思いやり予算の増額交渉に応ぜず、廃止せよ」との要求に対しては、「渉外知事会の枠を超える国政問題」として国への要請行動すらとらない態度を示した。
 在日米軍に対する、いわゆる「思いやり予算」の「更新」を来年三月に控える。トランプ大統領は日本に対し、現状の約四・五倍に当たる年約八十億ドル(約八千六百四十億円)への増額を要求したとのボルトン前補佐官による暴露もあった。
 そもそも「思いやり予算」は、日米地位協定によっても、日本側には支払い義務のないものだ。地位協定では「米軍基地を維持することに伴うすべての経費」は、米国側が支出すると規定している。ところが、一九七八年度からいわゆる「おもいやり予算」と称して公然と拡大解釈にもとづく日本側の経費負担が続けられてきた。米軍が負担すべき駐留経費の七割にも上り、二〇一九年度は千九百七十四億円、一九七八年から一八年度までの累計は七兆二千六百八十五億円に上る。これをさらに四・五倍にするというのだ。地位協定の取り決めの枠すら超えて法外な財政負担を強いる米国に対して、きっぱりとした態度で臨むべきで、渉外知事会がその先頭に立って国に要請することは当然すぎる要求であるはずだ。
 参加者からは他に、「神奈川では女性への米兵の暴力が取り扱われず不起訴になっている。沖縄に比べても起訴率が低いが、どうなっているのか」と質した。
 今回の要請行動は、新型コロナのパンデミック、安保六十年という節目にふさわしい意義あるものとなった。
 コロナウイルスのパンデミックは、誰の目にもわかりやすい形で、わが国の独立国とはいい難い実相をあぶり出した。政府は今、国民には出入国に厳重な制限を設け、海外からの入国にも制限を設けている。周知のように米国は感染者数、死者数が世界最多でなお蔓延拡大中の国、入国拒否の対象国だ。しかし米軍人は日米地位協定によって入国拒否の対象外となっている。米軍人は米軍基地になんの制約もなく、防疫もせず、自由に出入りできる特権を持っている。しかも、日本政府はその米軍人の名前はおろか、人数さえ把握できていない。二万人を超えて感染者数が激増している米軍人、それが自由に出入りできる在日米軍基地は、まさに日本におけるもっとも危険な感染の巣窟、クラスターの震源になっている。これに対して日本政府は感染情報すらまともに要求していない。コロナ禍は、地位協定の「運用改善」という政府の決まり文句ではもはや国民の健康と命すら守れない現実を浮き彫りにした。
 国民を感染症から命を守るためにも、沖縄県が提起しているように、「運用改善」ではなく、抜本改定こそが本土のわれわれ国民にとっても待ったなしの課題であることは明白だ。そしてそれを本当に実現しようとするのであれば、今回の要請の六項目目にあるように「沖縄県知事のように県民世論喚起と運動の先頭に立ち」、国に強力に働きかけることが決定的に必要となっている。
 そのために、要請の四団体は県内での運動の先頭に立つことを誓い、この要請文を全国知事会と、沖縄県をはじめとする渉外知事会の全国十五都道府県知事に送ることを確認した。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2020