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労働新聞 2020年4月5日号・5面 国民運動

ルポ/横浜・カジノ阻止へ!

闘いはここから、
闘いは今から

 三月二十四日午後六時半、「起立多数と認め、よって原案通り可決されました」。
 「議場の混乱の責任は市長のカジノ予算だ」「自民党は梅沢健治先輩の忠告を聞け」の傍聴席からの抗議をさえぎるように、横山議長はカジノ推進予算四億円を含む一兆七千四百億円の新年度一般会計予算の可決を宣言した。
 「議長、動議! 採決は許さない」「市民はカジノ予算を認めない」「市長と市議会は、市民の声を聞け」など怒号が本会議場に響きわたる。議長は五人の「退場」を命じるも、「十八行政区カジノ反対有志の会」の佐藤さんが座り込む。議場は騒然となり「暫時休憩」に。採決されたのは二時間半にわたる議事中断の後だった。
 横浜市会第一回定例会の最終日、カジノ予算は自民党・無所属の会、公明党の賛成多数で可決された。これまで「市長与党」の一角を占めてきた「立憲・国民フォーラム」は、会派として反対の態度に転じた。共産党、無所属議員も反対した。ただ「立憲・国民フォーラム」の国民民主党の小粥、坂本議員、立憲民主党の谷田部議員は賛成に回った。
 確かに四億円のカジノ予算は市会で通ったが、傍聴席を埋め尽くした市民には敗北感はなかった。むしろ逆の反応を示した。「丁寧に説明する」と言いながら、新型コロナ感染の影響を理由に六区で「市民説明会」を延期にしたまま議決に持ち込み、しかも肝心なコロナ対策では感染者の実態さえまともに即答できないいい加減さ。市民の命など眼中にないとばかりに、しゃにむにカジノ推進に突き進む林市長の異常な姿を目の当たりにして、怒りは沸点に達し、新たな闘志が掻き立てられるばかりであった。二月十三日、本会議に予算案が提案されて以来四十日間、「市長と市会は市民の声を聞け!」「四億円のカジノ予算を止めよう!」と六回もの市会に向けた行動を積み重ねる中で、市民はたくましくなっていた。
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 闘いの中心を担ってきた「有志の会」の闘いを振り返る。「有志の会」ははじめから影響力ある政党や著名な指導者によって呼びかけられたものではない。むしろ反対に、昨年八月の林市長による突然の「カジノ誘致」表明に怒り、としても「横浜に賭博場はつくらせない」と自発的に行動に起ちあがった素朴な市民の集団と言った方が実態を表している。
 元をたどれば、昨年十二月四日の中区から始まった市長によるカジノを含む統合型リゾート( IR )についての「市民説明会」に対する抗議行動から始まった。以来、二月まで十二区で開かれた市民説明会では、毎回のように数字のトリックを使って印象操作する市のやり方を会場内外で批判する活動を重視して取り組んできた。また、各グループや「区民の会」として、住民投票やリコールの署名サポーターを募る街頭行動も展開してきた。
 「有志の会」という形で初めて登場するのが、年明けの一月十三日、横浜アリーナで開かれた成人式に参加する若者への宣伝活動だ。その時、メーリングリストをつくり、呼びかけた大塚さんが世話役として、以降の取り組みを提案する一人となった。二十九〜三十日には、ラスベガス・サンズやメルコなど横浜進出をねらうカジノ業者が公然とカジノをPRする「IR産業展」に対するカウンター行動を呼びかけた。横浜市と横浜商工会議所を中心とする推進協が、大手建設業者や地元業者を取り込み、市民にカジノの幻想を振りまくイベント会場前で、「横浜市民はカジノに反対」とアピールした。
 そして、最大の力を結集して取り組んだのが、今市会に向けた闘いだ。四億円のカジノ推進予算案が通れば、カジノ事業者の公募、選定、国に申請する区域整備計画の策定など、一挙にカジノ推進の流れが本格化する。そうなれば誘致の是非を問う住民投票や市長リコールにも不利となる。
 何としても市会でカジノ予算を阻止しなければならない。こうした認識の下、「有志の会」はカジノをめぐる攻防戦の当面する決定的な闘いと位置付け、多くの市民に呼びかけた。二月十三日を皮切りに二十一日、二十六日、三月十九日、二十三日、二十四日と六回の連続した市会棟前の街頭宣伝と傍聴活動を取り組んだ。雨の日もあり、日ごとに新型コロナウイルス感染の脅威が高まるなか、「市長と市会は市民の声を聞け」と訴え続けた。
 その甲斐あってか、議会最終日の二十四日に行った集会にはこれまでになく多くの人が集まり、「カジノを許さない市民連絡会」などと連動して、市民への効果的なアピールを行うことができた。
 集会で起案した「有志の会」の田崎さんは「林市長に対する公開質問状の回答は、全体として回答になっていないが、港運協会に対する強制代執行はやらないとの回答を引き出したことは成果だ」と報告された。山下ふ頭売却、貸与に関するオンブズマンの監査請求棄却について市民の報告があった。また四月から署名活動を開始すると発表した「カジノの是非を決める市民の会」の受任者・女性代表、非正規労働者の佐々木さんから記者会見の模様が報告された。若者代表の関東学院大学学生からも「横浜の未来は若者が決める」と決意が表明された。
 注目すべきは、「有志の会」の今回の呼びかけが、市民各界の人びとに広く共感を呼び、連帯の動きが始まったことである。「有志の会」として、他の市民団体、また労働組合をできるだけ訪問し、参加を呼びかけた。各界から応援、連帯のメッセージが届けられたが、なかでも緑区連合自治会会長、霧が丘連合自治会会長の塚田さんからの「あの時私は反対だったではなく、今反対の声をあげるべき」との檄は参加者を激励した。また横浜の都市計画に参画してきた「横浜の未来コンソーシアム」の柳澤・関東学院大学准教授、NPO法人「アイラブつづき理事長」の岩室氏からのメールも紹介された。
 その後、「市民の会」共同代表の藤田さんからもアピールを受け、闘いの場である傍聴に臨んだ。本会議での傍聴戦の顛末については、述べた通りである。
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 カジノ攻防戦の当面する決定的闘いとして取り組んだ予算阻止の闘いは、市民の意思を一顧だにしない林市長と、それに追随する自民・公明など多数与党に押し切られた。
 闘いは、新たな局面に移った。二十四日から始まる住民投票の実施を求める署名活動に重点が移るが、その闘いを大きく発展させるためにも、「有志の会」の闘いの経験を振り返る必要がある。
 闘いの中で代表として押し出されてきた「有志の会」の大塚さんは、ともに闘ってきた仲間に次のようなメッセージを送っている。「皆さんの熱い思いが結集して、これからに続く、広がりのある、中身の濃い、熱量の高い運動が展望できている。『神奈川新聞』の記事によってもこの『有志の会』は市民権を得た。今後のカジノ反対運動のなかで重要な役割を果すかも知れない。少なくとも、運動の一翼を担う、地に足の着いた、現場を第一に考えて行動に移す、そういう姿勢を貫いていこう。理・利はわれらにあり。痴・恥・稚の推進派に負けるわけにはいかない」と。闘い抜いたものだけが口にできる確信である。
 にわかづくりの小さな隊伍で、最初の会戦を終えたばかりだが、来年八月の市長選も視野に入れたカジノ阻止の闘いを展望する時、この間の闘いから「成果」と経験を学ぶことはきわめて重要ではないだろうか。
 何よりも、「四億円のカジノを止めよう!」と市会に向けた取り組みを最優先して市民の怒りの声を数次にわたる大衆的行動として展開したことで、当面する闘いの目標を具体的に明示し、反対勢力が一定程度主導性を発揮できた。
 「熱量のある高い運動」は、議場に立って答弁する市長と、自信のなさをごまかすかのように強気に発言する自公与党議員を緊張させたに違いない。反対派の議員からは、「背後に多数の市民がついている」と、この上なく激励されたと感謝された。当初会派の分裂さえうわさされていた「立憲・国民フォーラム」が会派として反対に転じたことがそれを示している。あきらかに市議会のあり様に一定の影響を与えた。
 『神奈川新聞』は社説で「予算案の採決では傍聴席から『市民の声を聞け』などの怒号が飛び交った。再三の注意を聞かなかったとして議長が退場を命じたものの従わず、議場は一時騒然、約二時間半にわたり議事が中断された……最終的に賛成多数で可決したが、IRに対する市民の懸念がいまだ根強いことをうかがわせた」と、闘いの「成果」を評した。
 これは、議会外の闘いが先行し、議会内の闘いと結びついて大きな世論と運動を高めてきた、沖縄県民の闘いのいわば「横浜版」の始まりではないか。まだ小さな一歩だが、この道を通るなら、カジノを阻止して市民が勝利するとの展望が見えてきたのではないかと思える。
 また、闘いを通じて、林市政の一握りの大企業の利を図る驚くべき市政運営、例えば現市庁舎の超安値賃貸契約、世界水準の大劇場建設、上瀬谷通信基地跡地の再開発などの実態を知る機会となった。「あとは野となれ」とばかりに、そこで暮らす市民をここまでないがしろにする市長はこれまでに見たことがない。市民は、傍聴活動を通じて、市政の正体と一部議員を除く市会議員の議論の低劣さに「教育」を受けた。
 これらの「副産物」を含め「有志の会」の闘いの成果と経験が大きな可能性を秘めているに違いない。
 現在、闘いは新たな局面を迎えている。「有志の会」は、住民投票を準備しながら、「都市封鎖」さえ発令されるほどに深刻化する情勢が迫るなか、「今こそコロナ対策に全力を集中せよ、カジノスケジュールは中止せよ」との緊急要請を行い、林市政を追い詰める幅広い世論と運動を準備している。
 闘いはここから、闘いは今から。(N)


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