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労働新聞 2019年7月25日号・5面

映画紹介/
『太陽がほしい 劇場版』

戦時性暴力被害者の叫びに光

 一九九二年に東京で開催された「日本の戦後補償に関する国際公聴会」で、中国人女性として初めて公の場で元「慰安婦」として自らの被害経験を語った万愛花さんだが、「私は慰安婦ではない」と繰り返し参加者を驚かせ、さらに証言中に卒倒し救急搬送される。彼女が伝えようとした事実や思いはとは?
 『ガイサンシーとその姉妹たち』など「慰安婦」問題をテーマにしたドキュメンタリー作品の制作や被害者支援活動に取り組んできた班忠義監督。その原点は万愛花さんの証言に衝撃を受けたことだという。
 本作は、以来二十年あまりにわたって調査・支援活動を続けてきた班氏の集大成ともいえる。
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 中国や韓国の被害者や日本の加害者から幅広く聞き取り調査を重ねてきた班氏だが、本作は万愛花さんをはじめ中国・山西省の被害者からの証言と彼女らの活動が柱となっている。
 日中戦争時、山西省の山村では侵攻してきた日本軍とそれをゲリラ戦で迎え撃つ中国共産党・八路軍との戦闘が続いていた。そうしたなか、共産党員だった万愛花さんは日本軍に捕らえられ、「党員名簿を渡せ」と壮絶な拷問と性暴力を受ける。別の女性は、日本軍の拠点に長期監禁され日本兵や中国人協力者から強姦され続ける。昼間は農作業をし夜になると家を訪れた日本兵に強姦され続けた女性もいる。
 いずれの被害者も、日本軍の「慰安所」に強制連行され性奴隷とされた朝鮮半島出身女性と状況は違う。東南アジア各地の被害者とも違う。共通するのは日本軍の侵攻戦争に伴う戦時性暴力の被害者であるということ。語られるのは、万愛花さんが強調するように、「慰安婦」という言葉の印象からは想像できない凄惨な経験ばかり。本作に登場する加害者側である元日本軍兵士が言うように「戦争の一部で、切り離せないもの」であり、戦場の数だけ異なる性暴力の被害があったという事実が浮き彫りにされる。
 班氏が証言を集め始めた九〇年代、山西省の被害者たちは半世紀を経ても過去と地続きの過酷な状況を強いられていた。日本兵から受けた心身への深刻な傷に加え、地域では「汚された者」として差別的な扱いも受ける。貧困、病気、孤立。現地を訪ねた班氏はインタビューと同時に医療支援に迫られることも。このように、被害者の生活にも寄り添いながら、心からの声を集める。時が進むと、日本政府に賠償を求める法廷闘争も支援しながら、その思いを映像に収める。
 二〇〇〇年代になると被害者たちは晩年を迎えるが、日本政府は謝罪も補償もしない。日本国内では誤った歴史認識も広がりを見せる。被害者たちは無念の思いを抱えながら次々と鬼籍に入る。班氏は「託された」その声を本作としてまとめ上げた。
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 現在、「慰安婦」論争を扱った映画『主戦場』をめぐり、出演者が上映禁止や損害賠償を求めて提訴するなどし、この問題に社会の注目が集まっている。
 気がかりなのが、この論争が日本軍による戦時性暴力の実態への正しい理解につながるのかどうかだ。「慰安婦」問題はこれまでも幾度となく日韓間で政治問題化してきたが、問題は韓国との間だけにあるわけではないし、「慰安所」だけで起こったわけでもない。班氏は、問題を切り縮めず日本軍が行った侵略と戦争を包括的に理解することを呼び掛けている。そしてその先に、これほどまでに人間を残虐・非人道的に変えてしまう戦争というものの本質を問い掛けることにも期待を寄せている。
 本作の題名は、暗く土ぼこりに満ちた日本軍宿舎に長く監禁されて暴行を受け、便所に行くわずかな時間だけ太陽の光を浴びることを生き甲斐に凄惨な日々を生き抜いた被害者の言葉を借りたものだが、もちろん「被害者の声を白日の下にさらしたい」という願いも込められているはず。班氏はそれを自らの「責任」と受け止めるが、真にその責任を負うべきは当然日本の私たちだ。(I)

2018年、班忠義・監督
8月3日より東京・愛知・大阪など全国で順次公開
公式サイトでは劇場イベント情報も!


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