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労働新聞 2019年7月5日号

障がい者の就労支援に従事して

 「人はいろいろ」が前提の社会に

神奈川県・松田 和道

 私は、障がい者の就労移行支援事業所で週二日程度、非常勤職員として働いています。障がい者といっしょに作業したり、施設外作業の実習に同伴したり、就労に向けた準備活動としてビジネスマナーやコミュニケーションを学ぶグループワークを実施したりしています。また、履歴書や職務経歴書の書き方を考えたり、ハローワークに同伴して求人票の検索、窓口への相談に同伴したりもしています。定年を過ぎてから随分経ちますので、精神的にも肉体的にも働くことが厳しくなってきています。
 少し前の話ですが、障がい者の障害福祉サービスをめぐる状況が、二〇〇五年に障害者自立支援法(一二年から障害者総合支援法)となりましたが、それまでと比較して大きく変化しました。
 それまで障害福祉サービスを担ってきたのは自治体や社会福祉法人や社会福祉協議会などの関連団体が中心でした。現在は、NPO法人の事業所も少し増えましたが、何と言っても民間資本・株式会社の進出がすさまじいものがあります。なかでも就労移行支援事業所では株式会社設立の事業所が過半数を超える勢いで伸びています。
 株式会社が参入してきた背景は、障害者総合支援法に基づく保険給付という安定した収入の基盤があり、十分採算の見通しが立ったからだと思います。各事業体がさまざまな営業を行っていますが、宣伝・広告などのノウハウを持ち、プロの営業マンを配置して事業を進める株式会社は、この業界に本格的な弱肉強食を持ち込んでいると思っています。
 障がい者支援をしている立場の私たちは、介護保険制度の導入時も「本来は行政責任として果たさなければならないことも民間に丸投げしている」と批判をしてきましたが、障害福祉サービスの分野でも行政責任で行わなければならない業務を民間に丸投げしているように思われてなりません。
 最近、障がい者の就労に向けた準備をサポートするなかで感じることがあります。
 政府や経団連などは、「少子高齢化」時代のなかで、特に労働人口の大幅な減少という非常事態の中で、いろいろな方法で補おうとしています。その一つが「働き方改革」と称して出入国管理法を改正して外国人労働者を大幅に受け入れ、人手不足に対処していることです。次に定年延長や年金支給年齢の引き下げなどに見られるように、「高齢者には七十歳まで、いやそれ以上も働ける人は働きましょう。そして女性の方にも保育園の整備や少しばかりの環境整備で、パートや非常勤など安い給料で働きましょう」と言っているように思えます。
 同じように障がい者に対しても、障害者雇用促進法の改変から見えてきたものがあります。一三年には法定雇用率の引き上げ(民間企業二・〇%、官公庁二・三%)で、一五年には障害者雇用納付金制度の対象は百人を超える事業主に拡大し、一八年には精神障害者の雇用を義務化しました。二〇年四月には、官公庁に障害者雇用推進者と障害者職業生活相談員の選任、特定短時間労働者(十時間以上二十時間未満)を雇用する事業主に障害者雇用納付金を財源とする特例給付金の創設などが行われます。「働こうと思えば週に十時間からでも働けますよ」と言わんばかりの制度改変です。
 障害者を支援する立場からすると、いろいろな配慮の中で整備されることは良いことだと思いますが、特に精神障害者に対しての差別・偏見は根強いものがあって、就職しても短期間で辞めてしまうケースは少なくありません。障害特性の理解にはまだまだ時間が必要だと思います。
 働くのは当たり前という思想・価値観が根強い風潮のなかで、働けない/働かない人を人間として存在価値がないように判断してしまう価値観が多く存在しています。障害者で働いているのはごく一部であることには変わりはなく「働かざる者、食うべからず」という思想には、人間はいろいろでさまざまな生き方があることを押さえておかないといけないと思います。
 また、労働社会で評価される能力だけで人間の価値を計るような見方は、さまざまな生き方や生命の尊厳を否定し、社会的排除を拡大してしまいます。相模原障害者殺傷事件のようなヘイトクライムは、そうした価値観が世間に蓄積したことによって生まれたことを忘れてはならないと思います。
 息苦しい世の中になってきていますが、周囲の人たちと心を通わせて細く長く繋がっていければいいなあと考える今日この頃です。


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