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労働新聞 2019年3月15日号 投稿・通信

訪問看護師という仕事

東京・原 峰子

 私は訪問看護師をしています。今の事業所での勤務時間は、基本的に九時から十八時です。しかし、緊急の呼び出しがかかることもあります。
 昨日は珍しく友達と夕食の約束をしていたのですが、十七時過ぎに呼び出しがかかって訪問することになり、最低二時間はかかるので、予定を急遽(きゅうきょ)変更せざるを得なくなりました。「昼間落ち着かなかった利用者さんがいたよ」と他の訪問看護師から申し送りがあって気にかかっていたところ、案の定その方から「処置をお願いします」と事務所に連絡が入り、当番を受け持つ私が訪問したのです。トイレのお世話、排泄(はいせつ)介助です。こういう飛び込みの依頼がときどきあります。
 この正月に一人、その二週間後にもう一人の方を看取りました。その方たちは、もう治療は望まないということが決まっていたので、お宅に訪問をしていたのです。お亡くなりになる前というのは血圧が低くなったり、呼吸が浅くなったり、意識のレベルが下がって朦朧(もうろう)としたりするので、心配したご家族が慌てずに、看取りまで悔いなく介護できるようにお手伝いするのも私たちの仕事です。
 例えば、看取る前にはこんなこともあります。今まで自分でトイレに行けていたけど急に動けなくなって、家族はどうしたらいいか分からないといったことがよく起こります。そんな場合は、オムツの当て方とかタイミング、食事・水分の与え方などを家族に教えます。そして、お亡くなりになる前の段階をイメージできるように話して、こういう状況になったら連絡してくださいとお願いしておくのです。
 亡くなられたら、死亡確認は医師にしかできないので、必要な連絡をいくつかした後で、体をきれいにしてあげたいというご家族に、清拭(せいしき)というのですが、やり方を教えていっしょにします。

病棟勤務から地域へと
 私が訪問看護を始めて十六年になります。その前の病棟勤務は四年でした。
 看護師になろうと決めたのは、人とじかに関わる仕事がしたい、資格をもって働いたほうが生活も安定するだろうと思ったからです。
 看護学校を卒業して、その学校の付属病院に四年間勤めました。勉強になったし、やりがいもあったのですが、病棟勤務はともかく忙しいのです。仕事に追われて患者さんと話す暇もないくらいで、人とじかに関われる仕事をという私の志望とは様子が違いました。夜勤もあるし、休日も勉強会や後輩の指導のために病棟に行っていたような感じで、長くは働き続けられないなと正直思っていました。
 そんなころ、介護保険導入の前でしたが、これからは病院でなく地域で患者さんを診る在宅医療が主流になり、訪問看護というのもあるという話を聞きました。病棟勤務のときに入退院を繰り返す患者さんがいて、この人は家でどんなふうに過ごしているのだろうかと疑問に思ったことも訪問看護師になった理由の一つです。
 訪問看護師になって長いのですが、いろいろな仕事が増えてきています。例えば在宅で一人の患者さんを診る場合、看護師とヘルパーとかいくつかの部門が関わってチームを組んで当たります。痰(たん)の吸引や胃瘻(いろう)という経管栄養などはヘルパーでもできるようになったのですが、看護師の指導の下でするとかチェックするとかといった指導的な仕事が増えて、前よりは忙しくなってきました。さらに患者さんの高齢化が進んで重症化しているので、多方面の技術が求められるようになっているのですが、それができるヘルパーが少なくて、人材不足でアップアップしている状態です。
 また、高齢化だけでなく、以前は病院でしていたことが在宅医療に移ってきました。最初はお年寄りが主流だった訪問看護ですが、今は小児科の患者もある程度症状が安定したら在宅に移っています。小児医療専門の往診医もより必要とされるようになってきています。
 在宅化の流れの背景には、病院もビジネスですから、ベッドの回転数を上げないと採算が取れないといった事情もあります。またこれには医療費を削減したい国の意図も関係しているようです。

オンコールの重圧にめげず
 冒頭に書いたような緊急呼び出しをオンコールと言います。私のように在宅医療の現場では、利用者さんの要請があれば二十四時間いつでも対応ができる態勢をとっています。いつでも電話すれば相談可能というのがウリでもあるのですが、これが大変です。緊急携帯当番をこれまでは三人で担当していたのですが、一人が病気で欠けて今は二人です。そんなにしょっちゅう携帯が鳴ることはないのですが、看取りが近い患者さんを抱えていると、いつ呼ばれるか分からず落ち着きません。友達と会ったりする機会も減りますし、もちろんお酒も控えなければなりません。当番を二人で回していると、月の半分は落ち着けず、半ば仕事中のような感じで家に帰るので、疲れは取れませんね。夜中に連絡があるかもしれないし、明け方にあるかもしれません。
 当番の数を増やすことができれば、仮に倍の人数になれば疲れは半減するのですが、これが難しいのです。訪問看護の仕事は時間の融通が利くので、子育て中の女性も働いているのです。でも彼女たちは、「夜は子供から手が離せない」からというので、当然ですが当番を外さざるを得ないのです。スタッフの数はいてもコールを持てる人は限られています。最近話題になっている残業過多の医師の世界と似ていますね。
 疲れでモチベーションを低下させることがないよう心がけてはいますが、訪問看護をしている「労働新聞」の読者がいらしたら、こうした問題にどう対処されているか伺ってみたいものです。投稿を待ちながら、私も続編を書けるようがんばります。


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